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法曹と俳句


321209000181私は,「雲の峰」という結社に所属し,朝妻力先生の指導を受けて,俳句を学んでいます。

俳句は,季節の風物,行事などの勉強になりますし,何よりも,限られた語数で伝えたいことをいかに伝えるかということで,日本語の訓練になります。

私も,打合せのときには,できるだけ,長々と説明はせずに,「要するに,こういうことです。」,「端的に,こうなります。」というように,いかに短く,わかりやすく説明するかに,心を砕いています。

俳句の勉強も,こういう面では,仕事の役になっているかもしれません。

まだまだ未熟なため,いい句はなかなかできませんが,仕事に関連して私が作った俳句をいくつかご紹介します。

 

(春~夏)

独立の決意揺るがず初燕

水色のロゴに決まりて夏に入る

コメント:事務所独立のときの句で,少し前のことですが,思い出深いです。

(秋~冬)

厄年を開所祝の新走り

独立もはや一か月新生姜

尋問の資料揃ふる今朝の秋

難しき依頼のありて虫時雨

刑法の本かたづけておでん食ぶ

激論の合間のホットミルクかな

三日はや六法全書開きをり

 

仕事や法律のことでも,巧拙はともかくとして,このように見れば,それなりに俳句になっているようです。

詩にしてしまうと,自分を客観視しますので,ストレスが軽減されているような気がします。

今後も,続けていきたい趣味の一つです。

 

 

 

 

 

 

 

杉田宗久裁判官のこと(追悼)


25995153_1昨年12月25日に,元裁判官の杉田宗久さん(同志社大学法科大学院教授)が永眠されました(享年57歳)。

私は,49期の司法修習生として,平成7年~8年に大阪で実務修習をしていましたが,そのときの,刑事裁判の指導官が杉田裁判官でした。

当時からエネルギッシュ,指導熱心で,刑事裁判のことで,何を聞いても知らぬことはない本当に優秀な方でした。

杉田さんは修習生時代に,「条解刑事訴訟法」と「条解民事訴訟法」を読破した(実務家が辞書代わりに使う分厚い注釈書で,普通通読できるものではありません。)という伝説があったほどです。

また,刑事実務に関連する多数の論文を集めたファイルが執務室の本棚を埋め尽くしており,「杉田ファイル」と呼ばれていましたが,自宅には,それを上回る民事版「杉田ファイル」があるらしいとも言われていました。

当時,杉田さんは,40歳前後で,まだ部長ではなく,右陪席裁判官でしたが,裁判所の中でも群を抜いて優秀な方で,誰も知らない人はいませんでした。

それでいて,大変気さくで話も面白く若い修習生と酒を酌み交わすことが大好きな方で,修習生からはお兄さん的存在として慕われていました。

また,私が検事に任官し,大阪地検公判部に勤務していたときに,何度か杉田裁判官の法廷(「杉田コート」,と呼ばれていました。)の立会いをしたことがあります。

そのときには部長として合議を主宰し,また,執行猶予を付した被告人と握手をすることで,世間的にも有名になっておられました。

杉田さんの訴訟指揮は,検察官に対しても,弁護人に対しても,ともに厳しくいい加減な立証や妥協は決して許しませんでしたので,刑事に携わる法曹にとって,これほど勉強になる法廷はありませんでした。

当時の実務では,求刑8割といって,検察官の求刑の8割程度の判決がなされることが常識でした。しかしが,杉田コートでは,時には検察官の求刑の半分以下の軽い判決をし,時には検察官の求刑を上回る重い判決をするなど,検察の判断に全く縛られない,確固たる自信に基づく判断がなされていました。

また,杉田さんは,「対質」といって,同じ事柄について,その場で,2人の証人,あるいは証人と被告人同時に尋問するという形式をよくとられていました。これは,非常に珍しいやり方で,他にされる裁判官はほとんどおられません。

私の経験した事件では,傷害事件の共犯者と,被告人がそれぞれ言い分が違う場合に,「今〇〇さんは,こう言いましたが,この点,どうですか。」などと尋ね,その場で真実を追及し,心証をとっている様子がありありとわかりました。

個性があふれ,そして人情味もあるすばらしい裁判官で,心から尊敬していました。

定年を待たずに裁判官を退官された後は,法科大学院の教授として活躍されていましたが,昨年大阪弁護士会でも,裁判員裁判の講義をしていただきました。

そのときは大変お元気な様子で,「実務でもきちんと使える刑法の教科書は,まだありません。それを書くのが,学者になった私の目標です。」と意気軒昂としておられました。

画像は,最近補訂版が出された「裁判員裁判の理論と実践」という書籍で,裁判員裁判の課題を詳しく論じられた最先端の論文集です。

あまりにも急で,そして早すぎる最期については,残念でなりません。

安らなかお眠りを,心からお祈りいたします。

 

軍師と弁護士


C-1-1黒田孝高.aiNHKの大河ドラマの「黒田官兵衛」が新しく始まりました。

画像は,福岡市博物館所蔵の黒田如水(官兵衛のこと。以下,「如水」で統一します。)の肖像です。

私は,小中学生のころから,歴史物が大好きで,横山光輝の漫画「三国志」や,その原作である吉川英治の「三国志」,また,司馬遼太郎の戦国時代・幕末の舞台にした小説を何度も読みました。

その中では,やはり諸葛亮孔明などの軍師にあこがれていました。

黒田如水(官兵衛)も,司馬遼太郎の「播磨灘物語」を読んで以来,一番好きな戦国武将でした。

頭が良すぎて秀吉がひいた。」というキャッチコピーもあるそうですが,今回の大河ドラマにも大いに期待しています。

また,黒田如水は,キリシタン大名として有名ですが,キリスト教が秀吉によって禁教になってからは,表向き信仰は捨てたように見せかけていたそうです。

しかし,「如水(じょすい)」という隠居名は,旧約聖書の登場人物であるモーセの後継者の「ヨシュア」のスペイン語名の「ジョスイ」と一致し,実は信仰を捨てていなかったという説もあるようです。

ヨシュアは,当時のユダヤ人を率いて今のイスラエルの地を攻め落としたことから,城攻めの名人ということもあって,黒田如水が自分にぴったりだと思ったのかもしれません。

名前の付け方からして,こういう人を食ったようなエピソードは,正に策士らしいという感じがします。

さて,弁護士の仕事も,「軍師」,「参謀」の仕事によく似ています。

企業の経営にあたって,法律的観点からアドバイスをしますが,未然にリスクを防ぐために,どのようにすれば売掛金を確実に回収できるか,従業員とのトラブルを防ぐことができるか,また,不当な要求がなされた場合にどのように撃退するか,紛争を有利に解決するためにはどうするかなど,いろいろと知恵を絞ります。

これらは,戦国時代の軍師が,軍資金や兵糧の調達を的確に行い,兵士をうまく管理し,巧みな作戦を立てて敵に勝利するところと,一致していると思います。

優秀な軍師ほど,主君に対して耳の痛い意見を言うので,黒田如水のように時には不遇をかこつこともあったようです。

弁護士の意見は,やれ法律をきちんと守れとか,コンプライアンスが大事だとか,余計なことだと思われる経営者の方もおられるかもしれません。

しかし,堅実に企業を成長させるために,あえて耳の痛いアドバイスをしているのだと理解してもらって,そのような弁護士こそ,軍師としての利用価値があるのではないでしょうか。

 

 

 

取締役の損害賠償責任


US_Supreme_Court_Buildingあけましておめでとうございます。

本年もどうぞよろしくお願いいたします。

さて,年始にあたって,特に企業の経営者の方向けに,コンプライアンスの重要性について,解説します。

会社の取締役が,法令に違反する行為をした場合には,それが刑罰法規に触れるのであれば犯罪になりますが,そうでなくとも,そのことで,取引先や株主に損害を負わせた場合には,取締役個人が民事責任としての損害賠償責任を負わなければならない場合があります。

他方,企業の経営には常にリスクがつきものであって,リスクをとった行為が結果的に失敗に終わったために,常に損害賠償責任を負うということでは,常識に反するといえるでしょう。

この点,いわゆる経営判断の原則という考え方があります。

これは,取締役の経営判断が会社に損害をもたらす結果を生じたとしても,その判断がその誠実性・合理性をある程度確保する一定の要件の下に行われた場合には,裁判所が判断の当否につき事後的に介入し注意義務違反として取締役の責任を直ちに問うべきではないという考え方をいいいます。

要するに,取締役の判断については,一定の裁量があり,その裁量を裁判所が尊重しなければいけないという法理です。

これは19世紀以来,アメリカ合衆国の裁判例において発展してきました。なお,画像は,アメリカ合衆国連邦最高裁です(Wikipediaより引用)。

一般に

 ①経営判断の対象に利害関係を有しないこと

 ②経営判断の対象に関して、その状況の下で適切であると合理的に信ずる程度に知っていたこと

 ③経営判断が会社の最善の利益に合致すると相当に信じたこと

という要件を満たした場合には,誠実に経営判断をした取締役には義務違反が認められないとされています
わが国の学説の多くや,裁判例でも,このような経営判断の原則に類似した考え方に立っています。

例えば,東京地裁平成16年9月28日判決では,

「企業の経営に関する判断は不確実かつ流動的で複雑多様な諸要素を対象にした専門的,予測的,政策的な判断能力を必要とする総合的判断であり,また,企業活動は,利益獲得をその目標としていることから,一定のリスクが伴うものである。

このような企業活動の中で取締役が萎縮することなく経営に専念するためには,その権限の範囲で裁量権が認められるべきである。

したがって,取締役の業務についての善管注意義務又は忠実義務違反の有無の判断に当たっては,取締役によって当該行為がなされた当時における会社の状況及び会社を取り巻く社会,経済,文化等の情勢の下において,当該会社の属する業界における通常の経営者の有すべき知見及び経験を基準として,前提としての事実の認識に不注意な誤りがなかったか否か及びその事実に基づく行為の選択決定に不合理がなかったか否かという観点から,当該行為をすることが著しく不合理と評価されるか否かによるべきである。」

と述べ,結論として,取締役の損害賠償責任を否定しました(以上、江頭憲治郎「株式会社法」など参照)。

しかし,このような経営判断の原則があるとしても,取締役の判断について,その当時において合理性があったのかどうかという点は,具体的な根拠や証拠に基づいて,後で説明できるようにしておかなければいけません。

また,例えば食品偽装など明らかに法律に違反するような行為は,いかなる理由があっても,許されるものではありません。

常にコンプライアンスを意識して経営をしていくことが,長期的に企業の成長につながるものと思います。

整理解雇の4要件とは


51RXrEyqbVL__SS500_企業の経営が不振になったり,経営を合理化するために,やむを得ず人員削減をする場合があります。

これを,整理解雇といいます。

今回の記事では,どのような場合に整理解雇ができるのか,解説いたします。

そもそも整理解雇については,労働基準法などに直接の法律の定めはありません。

また,最高裁の判例でも,明確に述べたものはありません。

労働基準法などで労働者の地位は厚く保護されていますので,自由に解雇はできません。理由の十分でない解雇は,解雇権を濫用したものとして無効となる場合があります。

整理解雇についても,下級審の裁判例の集積によって,解雇が認められるためには,以下の4つの要件が必要とされています(菅野和夫「労働法・第10版」566頁など)。

①経営不振など,人員削減の必要性があること

 ②希望退職を募るなど,解雇回避努力義務の履行していること

 ③被解雇者を選ぶに当たって合理的な基準を設定していること

④労働組合や従業員に対する説明を十分に行うなど相当な手続をとっていること

過去の裁判例では,これら4つの要件は,どれもきちんと満たされなければいけないとして厳格に解される傾向がありました(4要件説)。

整理解雇は,労働者にとって経済的・精神的に大きな打撃を与えるものであり,また,労働者に責任がないのに使用者の都合により一方的なされるものであることを重視していたのです。

しかし,バブル崩壊後の長期間かつ深刻な経済変動の下で,近年,工場閉鎖や事業部閉鎖などの部門単位の整理解雇が増えています。

また,アウトソーシングによる事業の効率化や国際競争力強化の要請など,企業にとって多様な面で整理解雇を行う必要性が高まってきました

さらには,グローバル社会の到来により外国資本の増加による労働力の流動化が進んでいる実態もあります。

このような中で,最近の裁判例においては,上記の4つの事項については,必ずしも全部が厳格に満たされなければならないというものではなく,総合的に判断して,やや緩やかに解雇の有効性を判断するという考え方が主流になりつつあります(4要素説。CSFBセキュリティーズ・ジャパン・リミテッド事件・東京高裁平成18年12月26日判決など多数)。

実際,人員削減の必要性には様々な類型のものがあり,使用者側の希望や体制等の関係で,実施できる解雇回避措置にも様々な制約が伴うので,事案に応じたきめ細かい判断を必要とするとの指摘がなされています(白石哲編「労働関係訴訟の実務」319頁など)。

また,平成20年にはリーマン・ショックによる全世界的な不況が生じ,平成23年3月に起こった東北沖地震の影響もあって,現在,企業の置かれている環境は,一層困難なものとなっています。

このような背景から,整理解雇の有効性は,以前の裁判例よりは,やや認められやすくなってはきています。

しかし,それでも,具体的な事案に応じて,解雇を回避するための努力をしたかや,きちんとした説明や協議をしたのかについては,やはり深刻な争いになることが多いです。

解雇を実施しようとする場合には,紛争になる前に,整理解雇の理由があるかを緻密に検討した上で,解雇せざるを得ない理由の裏付けとなる書類を整え,また,労働組合らへの説明の状況を議事録などにするなど,きちんと証拠に残しておく必要があるといえるでしょう。

ギャンブルと税金


L13082競馬に限らず,ギャンブルによる所得を得た場合には,税金はどうなるのでしょうか。

例えば暴力団が,違法なカジノや野球賭博などを主催している場合,その主催者それぞれに税金がかかります。

違法な所得であっても,人の担税力を増加させる利得はすべて所得になるというのが,通説であり,判例でもあります。

賭博の主催者については,利益を得る目的で,反復・継続して賭場を開催しているといえるので,事業所得として課税されます。

過去にも,実際,このような暴力団に対し,事業所得として課税された事例があります。

その場合,賭場を開催するために必要な経費は,必要経費として控除されることになります。

これに対して,として参加した者に対する税金はどうなるでしょうか。

この点,租税法で最も利用されている教科書の著者で,この分野の最大の権威ともいえる金子宏東京大学名誉教授が,その論文中で,指摘をされています。

これは,「テラ銭と所得税-所得の意義,その他所得税法の解釈をめぐって-」(租税法理論の形成と解明・上巻434頁)という論文です。

同論文で,金子名誉教授は,賭博による利得一回的・偶発的なものである場合には一時所得に属し,継続的に発生している場合には雑所得に該当すると指摘されています。

一時所得というのは,営利目的による継続的行為によって得た所得などを除く,偶発的な所得のことを指します。

賭博は,偶然に支配される面が非常に大きいものですが,それでも,常習で賭博を行うような場合には,営利,つまり利益を得ることを目的として,その行為を繰り返していることは明らかですので,一時所得ではなく,「雑所得」に該当するのです。

また,賭博行為は,得をしたり,損をしたりということを繰り返します。

「雑所得」として認められる場合には,その行為に関連する損失(つまり負け金)については,経費として控除されます。

今回,裁判で問題となっている「競馬」は,もちろん違法な賭博ではありません。法律によって認められた適法な娯楽・スポーツです。

馬券を買うこと自体は,道徳的に悪いことでもありません。

違法な賭博によって得た利益ですら,それを継続すると雑所得として損失が控除できるのですから,競馬などの公営ギャンブルについても,異なる解釈をすべきではありません。

また,昭和46年4月23日の参議院大蔵委員会で,当時の吉國二郎国税庁長官は,「ギャンブルの所得は一時所得であるが,常習でやっていれば事業所得になる。」という発言をしています。

さらに,同長官は,「馬券の払戻金を受ける人がいても,一つ当てるために十枚買っていたり,次のレースで負ける人もいるので,どれくらい儲けている人がいるかは分からない。」と,つまり,外れ馬券を所得から差し引くことを前提とする発言もしているのです(国会会議録検索システム参照 http://kokkai.ndl.go.jp/)。

このように,著名な学者の意見や,国税庁のトップの学者の発言からも,一回限りではなく,年間を通して継続的にギャンブルを行っている場合には,トータルの利益に課税するというのが,所得税法の正しい解釈といえるでしょう。

 

 

 

フランスにおける馬券に対する課税について


前回はアメリカ合衆国における馬券の払戻金に対する課税について説明しました。

今回は,フランス共和国における馬券に関する税について,どのようになっているのか紹介します。

凱旋門の画像を引用しましたが(Wikipedia),パリ郊外のロンシャン競馬場で開催される凱旋門賞は,636px-Paris_July_2011-30日本でも有名ですね。

さて,フランスの競馬では,馬券購入時に,購入価格の3.8%について,一律に税金がかかります。これは,日本の印紙税のようなものです。

フランス語ではありますが,以下のフランス政府のサイトに解説が載せられています。

http://legifrance.gouv.fr/affichCodeArticle.do?cidTexte=LEGITEXT000006069577&idArticle=LEGIARTI000006311071

これ以外には,フランスの場合,一定の富裕層に対して,富裕税(総資産から総負債を差し引いた純資産に課税する税金)が課される場合があります。

馬券の払戻金において,一定の富裕層に純資産が増加した場合には,この富裕税の対象になる場合があります。ただ,これは純資産が増加していることが前提ですので,トータルで競馬で損をしているのであれば,払戻金について税がかかるということにはなりません。

在日フランス大使館に問い合わせたところでも,フランスの場合,これら以外には馬券の払戻金に対する課税はないとのことでした

要するに,フランスにおいても,外れ馬券の購入費を度外視して,払戻金と当たり馬券の購入費との差額だけを取り出して,そこに所得税を課すというような仕組みにはなっていません。日本の国税当局が主張しているような,競馬でトータルの成績では損をしているのに,外れ馬券の購入費を度外視して多額の所得税をかけるという考え方は,国際的にも非常識なものです。

フランスの競馬は凱旋門賞で有名ですが,イギリスやアメリカと並んで競馬の本場ともいえる国です。

また,担税力(税金を支払うに足りる能力)がある場合に限って税を課すという考え方は,近代の租税法では常識です。

このようなフランスでの制度は,日本における競馬の払戻金に対する課税を考えるにあたっても,十分参考になるといえるでしょう。

 

 

 

 

アメリカにおける馬券に対する課税について


121102馬券の払戻金に対して過大な課税がされた裁判の件は,現在,高等裁判所の刑事裁判でも,地方裁判所の税務訴訟でも,互いの書面の提出が続いている段階で,まだ,結審の見通しは立っていません。

さて,今回の裁判をきっかけに,競馬の払戻金について諸外国の法制度がどうなっているのかを調べてみました。

アメリカ合衆国については,きちんと制度が整っており,以下のような課税になっているようです。

まず,アメリカでは内国歳入法という法律で,所得税が定められています。

そして,競馬などギャンブルで得た利益(gambling winnings)については,「その他の所得(other income)」として,所得に算入されることになっています。これは,カジノで得られた利益のほか,宝くじ,競馬の払戻金などが含まれます。

この場合,その年度に被ったギャンブルの損失額(gambling losses)は,その年度のギャンブルで得た利益を限度に損失として控除することができます(伊藤公哉「アメリカ連邦税法・第4版」86頁,298頁参照)。

要するに,外れ馬券の購入費も,払戻金の額を超えるまでは,すべて経費として認められているのです。

また,アメリカの判例によれば,賭博で生計を立てていることを立証した場合,賭博の損失は事業経費として控除できるとされています(同書101頁)。

このようなアメリカの取扱いは,実態に即した合理的なもので,日本でも本来このように考えられるべきでしょう。

日本の所得税法は,第二次大戦後の昭和25年,アメリカ合衆国より派遣されたシャウプ博士によるシャウプ勧告によって形成されたものです。そして,アメリカ内国歳入法にいう「その他の所得」とは,いわば我が国の「雑所得」ないしは「一時所得」に類するものです。

そうすると国税当局が主張しているところの,外れ馬券は必要経費とならないという見解は,このような比較法や,所得税法の沿革的な見地からも,疑問といえるのではないでしょうか。

 

さて,12月22日(日)は,いよいよ有馬記念です。凱旋門賞で惜しくも2着であったオルフェーブルが,有終の美を飾ることができるか,注目ですね。なお,画像は,JRAのホームページから引用させていただきました。

過大な税金が課せられるような取扱いが一日も早く改められ,競馬ファンが安心して競馬を楽しめるようになることを,心から望んでいます。

 

                                                      

 

賃貸借トラブルの予防策


8173jlcLWoL__AA1500_賃貸借に関する紛争は,今でも多くあります。

さて,引用画像は,名人と謳われた落語家の桂文楽師匠のDVD全集で,私の宝物の一つです。

このDVDには残念ながら収録されていないのですが,文楽師の十八番に「寝床」という落語がありました。

これは,義太夫好き(ただしものすごく下手)な家主が,無理矢理店子に義太夫を聴かせようとしますが,店子はそれをいやがります。

そうすると,家主は,「わかりました(怒)。私の義太夫が聴けないというのであれば,明日の昼までに,皆さん,長屋を明け渡してください。」という無茶を言い出すというものです。

昔は,それくらい家主が強かったのでしょう。

さて,現代では,借地借家法消費者契約法により,賃借人が強く保護されている関係上,家主の立場から,紛争を予防するためには,それら法律を踏まえた上で,きちんとした契約書を作成する必要があります。

たとえば,賃貸借契約でも,任意に定められるものがあります。家屋の修繕費(必要費)や,造作を取り付けたときの費用(造作買取請求権や有益費償還請求)については,民法や借地借家法では,原則として家主が負担することとなっておりますが,契約書で別途の定めをしておけば,賃借人の負担となります。

逆に強行法規(任意の契約によっては排除できない。)として定められている規定に反する契約書の記載は無効です。

例えば,正当の事由がなくとも賃貸人からの解約を自由に許す規定や,賃料不払いがあったときに強制的に鍵を交換して閉め出す規定をもうけても,それらは無効なものです。

期間の満了によって,賃貸借を終了させるためには,「定期賃貸借契約」を締結する必要があります。

これは,①契約書において一定の期間を定めること,②契約書のほかに,家主の書面による説明,③更新しない特約を明記する,という要件によって認められます。また,④期間が終了する1年から6か月前までに,その旨を賃借人に通知する必要もあります。

しかし,定期賃貸借契約を結んでも,期間終了後,そのまま特に異議なく占有を認め,賃料を受領していると,新たな賃貸借契約が成立したものと認められる可能性があります。

その場合は,本来の賃貸借契約に戻り,正当の事由がない限り,解除が認められなくなってしまうおそれがあります。

解除が認められる「正当の事由」とは,家主がそこに住まなければならない事情が存したなどの特別の事情があるという場合などがありますが,実際には,立ち退き料を支払うことによって認められるというケースが多いといえます。

以上をまとめますと,

①賃貸借契約において,家主側に有利な記載をしておきたい場合には,民法や借地借家法を踏まえて,許されている範囲においてする必要がある

②当初定めた期間に確実に賃貸借契約を終了させるためには,定期賃貸借契約を締結しなければならない

ということになりますので,賃貸物件のオーナーの皆さんは,是非ご承知おきください。

 

 

 

講演と落語


DSC00005弁護士業務の中で,講演をする機会はたくさんあります。

多いのは,顧問先などに向けた法律のセミナーや,暴追センターでの不当要求の講演などですが,他にもロースクール生に向けた講演をしたり,先日は,大阪弁護士会で弁護士や事務員さんらを対象に,業務妨害の対策についての講演を行いました。

もともと人前で話をすることをそれほど得意としていたわけではありませんが,さすがに,たくさん数をこなすと慣れてきて,今では,それほど緊張しません。

ただ,ときどき,中学生や高校生相手に,少年法や労働法,あるいは法律の一般的なことを授業で話す機会がありますが,これが一番難しいです

たいていは午後の授業の時間帯であるということ,弁護士が身近な存在ではないのであまり興味がない子が大勢いること,話の内容が難しくなりがちであること,また,大人と違って子供はつまらないと思ったら寝てしまうことに躊躇がないことから,最初のころは,半分くらいの生徒が居眠りをしてしまうということもありました。

その後,色々工夫をして,検事や弁護士としての体験談を興味を持ってもらえるように話をしたり,途中でクイズを挟んだりするようになって,だんだん聞いてくれるようになりました。

しかし,50分の授業をずっと集中力を持って聞いてもらうことは至難の業です。

普段の講演を通して,「自分は少しは話がうまくなったかな。」と思ってしまいますが,その後,学生さんの前で話をして,「まだまだだ。」と反省をする繰り返しです。

そんなとき,私が参考にするのは,「落語」です。

落語は,着物を着た人が座布団の上に座って,一人で話し続ける,という一見地味な芸です。しかし,話し方,表現の仕方があまりに巧みなので,聴いていてもまったく退屈しません。ちなみに,私は,桂米朝師匠の落語が一番好きです。

私の講演でも,最初に「まくら」を持ってきて短いエピソードで演題に興味を持ってもらい,本題に入ってから,途中で,登場人物(賃貸人と賃借人など)が会話している様子を挟むなどして変化をつけるようにしています。

落語家のようにテンポ良く,しかも,笑いまでとってというわけにはいきませんが,「弁護士」という以上は,「弁」ずるのが仕事ですから,表現力を磨く修行はずっと続けて行こうと思っています。