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Archive for 4月, 2016

暴力団組長の使用者責任(最近の事例)

金曜日, 4月 1st, 2016

 前回の記事では,暴力団組長に対する使用者責任の最高裁判例をご紹介しました。

 最近でも,六代目山口組の組長に対する使用者責任が認められた大阪高裁の判例があります(大阪高裁平成27年1月29日判決・判例時報2251号53ページ)。

 この事件は,私も,弁護団の一員として関与していました。

 この事案は,暴力団六代目山口組K組I連合組員Aら3名から,Xが2000万円を恐喝されたというものです(なお,実行犯が恐喝罪により逮捕・起訴され,刑事裁判中に実行犯の一部から400万円余りの被害弁償がなされました)。

 その後,Xは,弁護士に損害賠償請求の交渉を依頼して,弁護士がK組組長に損害賠償を求める内容証明郵便を提出しました。

 すると,K組の別の組員が弁護士を介さずに直接Xと接触して,200万円を返還することで和解をするという書面の作成を強要しました。

 そのため,Xは,上位者である山口組六代目組長らを相手に,上記恐喝された金員の他,慰謝料を合わせた計2000万円余りの支払いを求めて提訴しました。

 一審の大阪地裁は,Xの請求を認めたところ,被告らが控訴をしましたが,大阪高裁は,次のとおり判断して控訴を棄却しました。

 まず,暴力団の共通した性格は,「その団体の威力を利用して暴力団員に資金獲得活動を行なわせて利益の獲得を追及する」ものであるとし,「山口組やその下部組織の構成員は,組長を頂点とする包括的な服従統制下に置かれて」いるものとしました。

 その上で,本件についても,山口組組長らは,「実質的には自らの組織又はその下部組織の構成員が山口組の威力を利用して資金獲得活動をすることを容認しており,その収益が山口組組長に取り込まれる体制が採られていた」ものとしました。

 そうして,本件の恐喝行為も,その後の和解の強要についても,いずれも暴力団の威力を利用した資金獲得活動であって,暴力団の事業の執行として行なわれたものであるとして,山口組組長の使用者責任を認めました。

 この判決は,従来どおりの民法715条による使用者責任を肯定したものです。

 私の知る限り,六代目山口組組長に対する判決としては初めてで,先例的価値のあるものです。

 ただ,法律的には,暴力団対策法31条の2が民法715条の特則として設けられたことからすると,本件は,「指定暴力団組員による暴力団の威力を利用した資金獲得行為」として,むしろ,端的に暴力団対策法31条の2を適用すべきであったといえるでしょう。