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食品偽装について


970202_475080829235473_2033982229_n最近,バナメイエビを芝エビと偽ったホテル・レストランの事例など,食品偽装の問題が,世間を騒がせています。

食品偽装は,場合によっては犯罪として処罰されかねない重大な問題です。

なお,画像は,今年の夏に,私が旅先でいただいた料理を撮影したものです。大変美味しかったもので,もちろん偽装とは関係ありません。

むしろ食品偽装の問題は,真面目な飲食店,料理人の方こそ,憤っておられるのではないでしょうか。

さて,わかりやすいように,アメリカ合衆国産の米を,新潟産のコシヒカリであると偽って表示した場合を例に挙げて説明ます。

この場合,不正競争防止法景表法(不当景品類及び不当表示防止法)に違反し,重い犯罪となります。

不正競争防止法では,その21条2項5号で,「商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に関する書類若しくは通信にその商品の原産地,品質,内容,製造方法,用途若しくは数量又はその役務の質,内容,用途若しくは数量について誤認させるような虚偽の表示をした者」は、5年以下の懲役,500万円以下の罰金に処すると定めています。

また,法人の場合は,3億円以下の罰金刑とされています(22条1項)。

また,景表法では,原産国に関する不当表示とされた場合は,措置命令(違反行為の差止めなどを命令する)の対象となり,その命令に従わない場合,個人は2年以下の懲役,300万円以下の罰金(15条),法人は3億円以下の罰金となります(18条)。

このような食品偽装は,故意で行ったものでない限りは,犯罪とはなりません。

しかし,実際に故意か過失かはすぐには分かりませんので,捜査機関の捜査の対象となり得ますし,今回の騒動から分かるように,世間から強い非難を浴びます。

こうした事実が発覚したときには,以下のような対応が不可欠です。

刑事事件として立件されるか,あるいは起訴されるかどうかは,行為そのものの悪質性が第一に考慮されますが,その後の対応がきちんとできているかも非常に重要な要素です。

初期対応

県などの監督官庁に対して,事実の報告や改善措置の説明を速やかに行う必要があります。

また,購入者に対するお詫びや返金,店頭やホームページでの告知,報道機関への発表,新聞広告の掲載などもスピーディに実施します。

改善措置

外部調査委員会などによる調査,再発防止策の策定と実施,従業員に対する教育措置,内部通報制度の構築,マニュアルの整備などが重要です。

これらの措置については,きちんと文書化・証拠化した上で,監督機関や捜査機関に対して弁護士の意見書とともに提出することになります。実際,このような対応を速やかに行ったことによって,刑事立件を免れたり,不起訴になった事例もあります。

しかしながら,いったん不祥事が発生した場合には,その対応は本当に大変であり,企業にとって多大な損害が生ずる可能性があります。

普段から,コンプライアンスを徹底する姿勢こそが,企業の評判や利益を守るといえるでしょう。

 

 

 

書評(シリーズ捜査実務全書)


41z9XQJS-9L__SS500_あまり一般に知られていないものですが,実務に役立つ刑事関係の書籍を紹介したいと思います。

東京法令出版から出されている「シリーズ捜査実務全書」です。

このシリーズは,すべて検察官の著作で,1~15まであり,

①強行犯罪 ②財産犯罪 ③知能犯罪 ④会社犯罪 ⑤証券・金融犯罪 ⑥不動産犯罪 ⑦暴力団犯罪 ⑧薬物犯罪 ⑨風俗・性犯罪 ⑩環境・医事犯罪 ⑪公務員犯罪 ⑫選挙関係犯罪 ⑬少年・福祉犯罪 ⑭交通犯罪 ⑮国際・外国人犯罪

となっています。

これらは,平成6年に初版が出版されており,最近の改訂はなされていないので,内容的には古いところもあります。

しかし,実務で取り扱われる犯罪をほぼ網羅しています(労働,知的財産,コンピューター関連の犯罪は他の書籍で補う必要がありますが)。

特に,それぞれの犯罪類型ごとに,どんな証拠を集め,そのためにどのような捜査が行われるのか,何に力点を置いて取り調べを行うのか,関係者はどこまでの範囲で何を聞くのかなど,具体的に書かれています。

例えば殺人事件の捜査については,現場観察の留意事項として,

「①犯行日時を推定する資料(時計・ラジオ・テレビ,新聞・牛乳等の定期配達物,電灯・食事・台所等の状況),

犯行場所に関する資料(現場及び付近の状況,遺棄された疑いのあるしたいについては付着物・履き物・足裏の状態等),

犯人の推定に関する資料(遺留品,手掌紋その他の痕跡,血痕・体液等,接待の痕跡,その他),

犯行の動機を推定する資料(物色の痕跡,姦淫の有無,創傷の部位,死体の処置・供物,接待の痕跡など),

犯行方法に関する資料(行動痕跡,死体の位置・状況,血痕の飛沫状況,家具等の移動の有無,凶器その他の遺留品の状  態,風呂場・流し場の状況など,

共犯者の有無に関する資料(2種以上の凶器・創傷の有無,2種以上の指掌紋・足跡等の有無,物の移動は単独で可能かなど),

被害者の特定に関する資料(身元不明の被害者につき,指紋,着衣・所持品,身体的特徴等),

被害金品の確認など」

と具体的に挙げられています(シリーズ捜査実務全書1 強行犯罪」52,53頁)。

捜査経験豊富な検察官の書いたものですからすぐれて実務的で,私は,現職の検事時代は座右の書にし,特に初めての種類の事件の配点を受けたときには,必ずこれらを参照していました。

また,刑事弁護に当たっても,これは非常に役に立ちます。

無罪判決が時々出ますが,その多くは,というかほとんど全部が,捜査にミスがあります。基本的な捜査を行っていないばかりに,証拠の収集や評価に誤りが生じているのです。

弁護士としては,担当した事件について,基本を踏まえたきちんとした捜査が行われているのかどうかを,厳密にチェックしなければなりません。その際に,このような捜査官向けの書籍は,基本を踏まえた捜査とは何かを知る有益な手がかりになるのです。

amazonの書評にもありましたが,本格的なミステリーファンの方が読んでも面白いかもしれません。

刑事事件に携わる実務家には,特にお勧めいたします。

クラシック音楽と法律家②


2011080719435410e前回の記事に続いて,今度は,法律家が聞くにふさわしいクラシック音楽や音楽家という話に進みます。引き続き,軽い気持ちで読んで下さい。

なお引用画像は,ドイツの名指揮者のギュンター・ヴァントの日本公演でのDVDです。カラヤンのような派手さはありませんが,ブルックナーやベートーヴェンの交響曲を得意とする正に頑固一徹の職人といった指揮者でした。

1 法律家にお勧めのクラシック音楽

(1) 裁判官

これはもう,バッハモーツァルトです。私の知っている裁判官は,皆さん上品で折り目正しい方ばかりだからです。

そして,裁判官の仕事には,他人に相談できず,自分だけで結論を決めなければいけないという孤独がつきものです。

モーツァルトの曲は,ご存じのように明るくて親しみやすいものですが,その底には悲しみや孤独が感じられ,正に裁判官の心理を反映するにふさわしいと言えましょう。

具体的な曲名を挙げると,バッハでは「無伴奏チェロ組曲」,モーツァルトでは「交響曲第40番」あたりがピッタリではないでしょうか。

(2)検察官
検察官には,本当は「兄弟船」などのベタな演歌が似合います。しかし,あえてクラシックでいうなら,ベートーヴェンワーグナーでしょう。犯罪という社会悪と闘うには,強いモチベーションと粘りが大事なため,重厚で元気が出る曲が一番です。

ベートーヴェン「交響曲第5番運命」と,ワーグナー「ニュルンベルグのマイスタージンガー前奏曲」を聞いて,気合いを入れたいところです。

(3)訟務検事
行政の円滑な運営を守るという役割を担いながらも,その一方で,あえて行政に苦言を呈することもあり,微妙な立場です。

そこで,挙げたい作曲家は,ドイツ・ロマン派のブルックナーマーラーです。突然曲調が変わるなど矛盾を内包したところや,曲がやたらと長いことが,訟務検事の立場や,国の準備書面が長いところに通じます。

具体的には,ブルックナーの曲で一,二を争う美しさの「交響曲第7番」と代表作「交響曲第8番」,それから映画「ヴェニスに死す」でも使われたアダージェットで有名なマーラー「交響曲第5番」。どれも大変良い曲なので,ぜひ聴いて頂きたいです(ちなみに,私が一番好きな作曲家はブルックナーです)。

(4) 弁護士
やはりオーケストラは似合わないように思うので,ピアノ曲などはいかがでしょうか。

法廷で激しく反対尋問をしているときにはショパンの「革命」,誰からも親しみやすい(弁護士の理想ですね)という意味でチャイコフスキーの「ピアノ協奏曲第1番」などを聴いて頂きたいところです。

私は仕事で疲れ切ったときなどは,良くチャイコフスキーの音楽を聴きます。甘い砂糖菓子のようなイメージで疲れがとれるような気がするからです。

2 尊敬する音楽家と目指す法律家像
私が尊敬する音楽家の話をします。

まずは1人目ですが,私は過去3回「1万人の第九」というイベントで,ベートーヴェンの交響曲第9番の合唱に参加しました。そのときの指揮者が,佐渡裕(ゆたか)さんでした。

佐渡さんは,パリ・コンセール・ラムルー管弦楽団の首席指揮者であり,兵庫県の芸術監督にも就任されている方ですが,その指揮する姿は,それはそれは情熱的です。「1万人の第九」においても,素人の集まりである我々合唱団に熱心にリハーサルをして下さるのですが,音楽のことを分かりやすく,かつ情熱的に語るその姿に,合唱団全員が感化されて,どんどん一体となります。そしてリハーサルが進むにつれて,歌がびっくりするほど良くなっていく様子に,心から感激しました。

次に,日本人指揮者として一番有名な小澤征爾さんを挙げますが,その音楽は流麗そのもので,まばゆいばかりの美しさがあります。

ウィーン国立歌劇場の音楽監督という,クラシック音楽界のトップの地位に就いたこともありながら,その人柄はとても気さくで謙虚な方のようです(一度,テレビでアイドルグループの「ZONE」にまで,丁寧にお辞儀をして愛想を振りまいていた姿を見て,驚いたことがあります)。

そして,私が最も尊敬している音楽家は,2001年に亡くなられた指揮者の朝比奈隆さんです。

その1年前にザ・シンフォニーホールで聞いた大阪フィルハーモニー管弦楽団とのベートーヴェン「交響曲第3番英雄」は,まるで作曲者の霊が降りてきたかのような名演奏で,余りの感動に心が震えました。

「1回でも多く舞台に立つ」が彼のモットーで,93歳(!!)で亡くなられるまで本当の意味で現役の指揮者として活躍され,ベートーヴェンやブルックナーの音楽において素晴らしい演奏を残されました。

このような一流の音楽家と比べて,私自身の普段の仕事に対する姿勢をかえるみると,身が引き締まります。打合せの席で,佐渡さんのように誰にでも分かりやすい話し方をしているだろうか,小澤さんのように謙虚な態度を取っているだろうか,仕事に対して,朝比奈さんのように愚直に情熱を燃やしているだろうか……。

これからは,少しでも良い演奏(仕事)をして,聴衆を感動させるために(社会正義の実現),尊敬する音楽家の素晴らしいところを真似していきたいと,心から思っています。

クラシック音楽と法律家


chorus私は,小学生の頃からクラシック音楽が好きで,今でも,事務所で交響曲などのCDをよく聞きます。

写真は,大阪フィルハーモニー管弦楽団のホームページからコンサートの画像を引用いたしました。首席指揮者であった故・朝比奈隆さんの指揮するベートーヴェンやブルックナーは,本当にスケールが大きく,すばらしいものでした。

さて,訟務検事をしていた際,法務局内で回覧される冊子に,法律家とオーケストラとで似ている点について,軽いエッセイを書いたことがあります。その後,「法曹」という雑誌にも転載していただきました。

このブログでも,その文章の内容を簡単にご紹介いたします。現職時代に書いた内容を踏襲していますので,ちょっと検察官や訟務検事について,ひいき目になっております。

(1)裁判官について

裁判官をオーケストラでたとえるのであれば,「指揮者」でしょう。特に民事事件において,裁判官は,対立する当事者双方の主張を整理し,争点を明確にし,必要な立証を促すことにより,その事案にとって最も適切な解決を目指すという積極的な役割を担います。その姿は,オーケストラに楽曲の解釈を伝え,テンポや音の強弱を指示して,美しい音楽を作り出すという指揮者の姿に似ています。

指揮者が素晴らしければ,音楽は魅力的なものとなり,聴衆によるブラヴォーの嵐やスタンディング・オベーションによる賞賛,更には新聞や音楽雑誌による高い評価が得られます。同じように裁判官が優秀であれば,その判決理由には敗れた当事者ですら納得し,専門家は「素晴らしい判旨だ!!」と唸り,判例評釈でも貴重な裁判例として取り上げられます(ちょっと地味かな……)。

(2)検察官

検察官は,犯罪捜査と公判活動によって犯人の適正な処罰を求めるという役割を担います。その姿勢は常に攻めであり,また同僚の検察官,検察事務官のほか警察官とも協力しあって,組織的なプレーを行うという性格を持っています。

これは,オーケストラでたとえるならば,「コンサート・マスター」です。コンサート・マスターは,通常第1ヴァイオリンの首席奏者が務め,アンサンブルを揃えるなど,オーケストラ全体をまとめる役割を担っています。実際に音楽を奏でるのはオーケストラですから,いくら優秀な指揮者がいても,オーケストラがきちんと鳴らない限り,良い音楽は生まれません。

つまり,コンサート・マスター(検察官)は,(捜査・公判という)舞台で,オーケストラ(警察官など)をまとめて,良い音楽を奏で(適正な処罰を実現し),聴衆に感動(国民に安心)を与えるのです。

(3)訟務検事

訟務検事については,なかなかピタッと当てはまる役がありません。

組織の一員として,訟務官や行政庁と協力しあっているという点ではソリストではなく,オーケストラの一員でしょうが,コンサート・マスターほどの強い権限はないようです。また,本来の仕事の内容は国の正当な利益の擁護ですが,行政側の代理人という性格から,一部マスコミからは悪役のように言われることもあり,その立場はなかなか複雑です。

ここは,地味だけど音楽に深みをつくるためには不可欠な役割を持つ,第2ヴァイオリン又はヴィオラの首席奏者ということにしたいと思います(シブいっ!!)。

(4)弁護士

弁護士は,原則として組織に属さない一匹狼です。だから,オーケストラのメンバーではなく,ソリストに当たります。

中でも,1台ですべての音域をカヴァーできるピアノの演奏者「ピアニスト」がピッタリです。

たまに連弾やピアノ協奏曲のように弁護団を形成することもありますが,基本的には法廷という舞台にたった1人で登場し,時には,コンサートの成功・不成功(事件の勝敗)まで自分の腕1本にかかってくることがあるのも,弁護士とピアニストの共通点といえるでしょう。

参考:茂木大輔「オーケストラ楽器別人間学」新潮文庫

 

法律相談コーナー①(遺言について教えて)


3-001私は俳句,謡,将棋を趣味にしており,また,ほんのわずかですが地域のボランティアの活動もしておりますので,普段から高齢者の方と接する機会が多いです。

そこで,このブログでも,主に高齢者の方向けに,ごくごく入門的な法律相談としてQ&Aコーナーを連載することにいたしました。

なお,画像は私がよく利用させていただく梅田公証役場の地図です(法務省のホームページから引用)。ヨドバシカメラから徒歩数分の便利な場所にあります。

 

Q 私には長男と長女がいます。長女は遠方に嫁いでおり,私は夫に先立たれたので,現在,長男と2人暮らしです。

私が亡くなった後のことですが,長女にはこれまで生前贈与をしていることもあり,自宅の不動産は,長男だけに遺したいのですが,どうすればいいですか(相談者・八重さん〈仮名〉80歳)。

 

 八重さんの相続人は,長男と長女の2人です。相続分はそれぞれ2分の1ですから,八重さんが亡くなった場合,自宅の不動産は,長男と長女とで,それぞれ2分の1ずつの共有になります。そこで,長男だけに相続させたいのであれば,遺言書を作成する必要があります。

遺言書には,いくつか種類があります。例えば自筆証書遺言は,自分1人で書けるので簡単ですが,本人の自筆かどうかの確認や保管の問題,裁判所の検認が必要であるなど面倒な点もあります。

将来の争いを防ぐためには,公証役場で公証人に作成し,保管してもらう公正証書遺言が最適です。

手続は,公証役場に行って事前に申し込みをし,戸籍や印鑑証明など必要な書類を準備すれば,意外と簡単に作成できます。公証人に支払う費用は,例えば財産が5000万円の場合は2万9000円です。

その他,2名の証人が必要ですが,心当たりがない場合でも,公証役場で紹介してくれるので大丈夫です。

ただ,遺言書を作成した場合でも,長女には自らの相続分の更に2分の1について遺留分という権利があり,八重さんが亡くなった後に長女がその権利を行使すれば,自宅不動産の4分の1を相続することができます。

しかし,長女が生前に住宅資金など生計のために贈与を受けていれば,それは先に相続をしたものとして扱われますので,その場合には,必ずしも不動産について遺留分があるとは限りません。

また,遺留分による争いを事実上防ぐために,遺言に「付記事項」として,長男だけに自宅不動産を遺すことの意味(先祖伝来の土地を守るためなど)を書いておくのも良いでしょう。

刑事弁護へのよくある疑問とその回答


41qLrVfbJ8L刑事弁護を専門にしていると言うと,「悪い人の弁護なんて,何でするの?」と率直に言われるときがあります。

これは,刑事弁護に対する世間のよくある疑問といえます。

この疑問に対する私の答えは3つあります。

1 本当に悪いことをしたかどうかは,わからないこと

罪を犯したとして逮捕,勾留されたからといって,その人が本当に疑われていることをしたかどうかは,わかりません。その段階では,飽くまで捜査側の見立てにすぎないのです。実際にはそもそもやっていなかったということもありますし,そうでなくても,逮捕事実と実際の事実とが異なることは,よくあります。

そのときに犯罪を疑われている人の味方として,活動できるのは弁護人だけです。本当に罪を犯したかどうか,また,実際にやったこと以上の疑いがかけられていないかをきちんと明らかにするために,刑事弁護は不可欠です。

引用の画像は,周防監督の「ぞれでもボクはやってない」という痴漢えん罪をテーマにした映画です。綿密な取材に基づいており,我々プロの目から見てもリアリティがありました。なお,最近話題になった連ドラ「あまちゃん」で主人公のお父さん役をしていた尾美としのりさんが,公判検事役をしていて,これがまた妙にクールで「ある,ある」といった感じでした。

2 人は誰しも過ちを犯すこと

新聞などで犯罪が報道されたとき,善良な市民の反応は,「悪い奴だ。許せない。自分なら,こんなことはしない。きちんと処罰を受けて欲しい。」というものです。

実は私も,検事になった当初は,犯罪をするような人間は自分とは全く別の人種だと思っていました。確かに犯罪行為は悪いことです。しかし,私がたくさんの被疑者,被告人と会って感じることは,どれもみな自分と同じ人間だということです。欲望に負けてしまったり,怒りで自制できないこと自体は,程度の差こそあれ,誰にでもあり得ることです。

同じ人間である以上,行動にはそれなりの理由があるし,また,心から反省をすれば,やり直すこともできるはずです。一方的に悪い面だけを見て処罰するのではなく,守ってあげるべき点は守り,社会に復帰する手助けをすることが,刑事弁護の役割でもあります。

3 納得して刑に服すことで,再犯を防止できること

「盗人にも三分の理」というように,たとえ事実を認めているとしても,それでも,やはり言い分というものがあります。弁護人が手を抜いて,それを十分に主張,立証しないまま判決を受けるとどうなるでしょうか。

「弁護人がきちんとやってくれないから,自分はこんなに重い刑になってしまった。」と思ってしまい,真摯に判決を受け止めることができないのではないでしょうか。

弁護人が,誠心誠意彼の言い分を主張,立証してあげる。しかし,それでも厳しい判決が出てしまった。そういう過程を経ることで,「自分の事情を色々裁判所に伝えてもらった上で,この判決なのだ。自分のやったことは,それだけ悪かったということか。」と思って,納得して刑に服することができるのではないかと思います。

きちんと納得して処罰を受けることで再犯を防止する,これが社会にとっても,その人にとっても,一番大切です。

充実した刑事弁護をすることで,刑事裁判を単なる儀式ではなく,意義あるものにすることが大事なのです。

退職後の競業禁止について


L11497会社によっては,退職した人に対して,退職後,その会社で行っていたのと同種の仕事に就くことを禁止する規定を置いている場合があります。これを競業禁止の特約といいます。

例えば,特殊な技術を使うメーカーや,特殊な顧客を相手にする会社でその顧客に対する情報が特別の価値を有する場合(糖尿病患者へ健康食品を売っているなど)には,従業員が独立して,これらの情報を不正に利用して同種のビジネスを行ったり,ライバル企業に就職してしまうと,会社の利益が著しく損なわれる可能性があります。

しかし,他方,取り決めさえすれば,禁止できるというものではありません。例えば寿司屋で修行をしていた者について,退職後は寿司屋をしてはいけないというのは,あまりにもおかしいでしょう。これは,憲法に定める職業選択の自由(22条1項)に反するおそれがあります。

私は過去にこの退職後の競業禁止を巡る裁判を担当したことがあり,また相談もよく受けますので,この機会に,退職後の競業禁止についての裁判例での考え方をご紹介します。

退職労働者についての競業禁止の特約は,経済的弱者である労働者から生計の道を奪い,その生存をおびやかすおそれがあると同時に労働者の職業選択の自由を制限し,また競争の制限による不当な独占の発生するおそれなどを伴います。

したがって,その特約締結につき合理的事情の存在することの立証がないときは営業の自由に対する干渉とみなされ,特にその特約が単に競争者の排除,抑制を目的とする場合には公序良俗に違反するものであることが明らかであるとされています(フィセコ・ジャパン・リミテッド事件・奈良地裁昭和45年10月23日判決など)。

また,特に退職後の競業避止義務に関しては,労働者の職業選択の自由(憲法22条1項)を重視し,その有効性を判断するについて特に厳しい態度でのぞんでいて,競業禁止の特約が無効と判断される例も多数あります(東京リーガルマインド事件・東京地裁平成7年10月16日決定,キヨウシステム事件・大阪地裁平成12年6月19日判決,ダイオーズサービシーズ事件・東京地裁平成14年8月30日判決,新日本科学事件・大阪地裁平成15年1月22日判決等)。

そこで,多くの裁判例では,退職後に競業避止義務を課すことの有効性の判断に当たって,

①使用者が労働者の競業を制限する目的,必要性とその程度(使用者に正当な利益があること)

②競業が制限される職種・期間・地域が限定されていること

③労働者の地位

④競業避止義務を課すことの代償措置の内容及びその程度

などの事情が考慮されなければならないとされているのです。

例えば,一定の守られるべき営業秘密があることを前提として,退職後3年間に限り,大阪府下で競業を禁止するというように地域や期間を狭くしておき,また,対象者も,管理職にあった者に限定し,退職時に代替措置として退職金を加算するなどの方法を検討しなければなりません。

退職後の競業避止禁止は,会社の利益・権利を確保するためには非常に有効ですが,一歩間違えると全部が無効になりかねませんので,専門家と相談して,慎重に定めていただく必要があるといえるでしょう。

「強み」と「弱み」を生かすこと


31TH6B87VHL経営学の泰斗であるドラッカーの「経営者の条件」の中に,「成果をあげるには,人の強みを生かさなければならない。」という有名な一節があります。

私は,実際には弁護士として色々な事件を取り扱いますし,できるだけ広い分野を経験したいという思いもあります。

しかし,私は,検事時代に刑事事件や行政事件を多数経験したことが「強み」です。ですから,やはり,これらの事件に集中することこそが,最も成果を上げる,つまり社会に貢献できるのだと理解しています。

他方,ドラッカーは,同著で「弱みからは何も生まれない。」と言っています。でも,果たしてそうでしょうか?

私は,修習生のときに,検察修習で初めて取り調べをしました。被疑者は,覚せい剤の前科が多数ある常習者で,腕に複数の注射痕もあるような人でしたが,「刑務所を出た後は,今回1回だけしか覚せい剤を使っていない。」という不自然な主張をしていました。

しかし,私は,子供のころから引っ込み思案で人とうまく話すのが苦手であり,ましてや厳しく追及することはとてもできず,その不自然な言い訳にも,ただただ一方的に聞き取るだけに終わってしまいました。

一緒に担当して供述調書作成をしてくれた友人の修習生からは,「何にも追及してへんやん。」と苦言を呈されました。

私は,「自分は検事になりたいけど,向いてないのではないか。」と真剣に悩みました。人とうまくコミュニケーションを取ることが苦手,ということが私の「弱み」だったのです。

しかし,私はどうしても刑事事件がやりたい,自分の一生の仕事にしたいと思っていたので,それからは,むさぼるように取り調べや捜査のための参考書や事例集を読んだり,多くの先輩検事に,どうすれば取り調べがうまくできるのか,アドバイスを求めたりしました。自分の「弱み」だと思うからこそ,必死で努力して,それをカヴァーしようとしたのです。

そして,修習生から検事になって,経験を繰り返すうちに,私は,「何もうまく話さなくていい。証拠をくまなく読み込んで,必要な捜査を遂げて,可能な限りのことを調べ,取り調べに臨む。そのときに,相手の態度や話し方をしっかりと観察して,聞くべき事を丁寧に聞いていけばいいんだ。」と思い至り,取り調べが苦手ではなくなりました。

私が,もしもともと社交的で人とのコミュニケーションが得意であれば,努力をしなかったでしょう。しかし,苦手と思ったからこそ,試行錯誤をし,「弱み」を「強み」に変えることができたように思います。

弁護士が行う依頼者や関係者からの聞き取りは,取り調べとは異なりますが,場合によっては話しにくいことも含めて必要な事実を丁寧に聞き出す,という点では共通しています。ですから,検事のときの経験は,今も生きています。

聖書の中の言葉に,「力は弱さの中でこそ十分に発揮できるのだ。」とあります(新共同訳「新訳聖書・コリントの信徒への手紙2・12章9節)。私には「弱み」があったからこそ,逆に力を付けることができるようになったのだと思います。

 

 

理不尽な要求への対処法


64_1暴力団など反社会的勢力や,悪質なクレーマー,粗暴な人(関西弁でいうところの「ヤカラ」)から,理不尽な不当要求を受ける被害に遭っている人は,決して少なくありません。

そのような場合に,自分だけで対応しようとすると,大変なストレスを抱え込みますし,時には暴力を振るわれるなど身に危険が生ずることあります。こういうときは,専門家の助力が不可欠です。

実際には,そのような相手方は,依頼者のことを「弱い人」だ,「脅せば言うことを聞く。たいしたことない。」と思っているから,何度も電話してきたり,色々脅しを言ってきたりするわけです。ですから,そのような手段が全く通じないということが分かれば,一切,連絡してこなくなります。

私の経験上,弁護士が代理人として相手方に対して,不当な要求について抗議し,要求を拒絶することを明示し,やまないようであれば警察へ告訴などの法的手段も講ずる可能性があることを内容証明郵便によって通知すれば,それだけで,ぴたっと要求がやむという事例がたくさんあります。依頼者にとっては,「えっ,こんなにあっさりと?」と意外に思われる方も多いです。

特に暴力団関係者などは,不当な要求行為をビジネス,つまり金儲けの手段として行っているにすぎないので,弁護士が代理人に就任したり,裁判などの法的な手続を取られた時点で,そのビジネスは終了するばかりか,逮捕などのリスクを考えて,おとなしくなるのです。「弁護士をつけたり,警察に言ったりしたら,復讐されるのではないか。」との心配は,杞憂にすぎません。

しかしながら,稀に,弁護士から警告をしても,不当要求がやまない事案もあります。これは,親戚同士や男女関係のもつれなど,個人的な恨みが強い場合や,相手方に犯罪者的な傾向が特にに強い場合に見受けられます。

そのような場合には,警察に被害の申告をし,保護を要請するほか,裁判所に面談強要禁止の仮処分を申立てることができます。

裁判所から出される命令は,例としては,以下のとおりです。なお,債務者が不当要求をしている人で,債権者が被害を受けている人です。

1 債務者は,債権者に対し,債権者の自宅又は勤務先を訪問し,電話をかけ,ファクシミリを送信し,メールを送信し,又は手紙を出すなどの方法により,債権者と直接面談を強要してはならない。

2 債務者は,債権者に対し,債権者の自宅・勤務先及びその近隣を徘徊し,債権者の身辺につきまとったり,待ち伏せしたりしてはならない。

このような処分は,ある程度の証拠があれば,裁判所が迅速に出してくれます。

相手方からのFAX,手紙などの文書,電話の録音,こっちに来たときの様子を録画した映像などが証拠になりますので,これらを集めておく必要があります。また,このような場合,相手方の承諾なく録音をすることは決して違法ではありません。

不当要求の実態を目の当たりにしている現場の弁護士としては,このような被害を防止し,また少なくすることで,安心して暮らせる社会になることを切実に望んでいます。

なお,引用画像は,全国的に活躍している民暴弁護士による論文集です。私と一緒に今年度の大阪弁護士会民暴委員会の副委員長を務めている同期の田中一郎弁護士も寄稿しています。好著ですので,ご紹介しておきます。

 

 

司法解剖について


180419_108522749224618_7049493_n検事在職中は,よく司法解剖に立ち会いました。詳しい件数は覚えていませんが,二桁は確実です。なお,写真は検事時代の私です。よく見ていただくくと,バッジが弁護士のそれとは異なります。

ある地方の検察庁に勤務しているとき,元旦の早朝に自宅に電話がかかってきたことがありました。

前日は大晦日ですから夜更かしをしていたので,眠い目をこすりながら電話に出ると,当直の事務官から,「あっ,中村検事ですね。おはようございます。本日午前4時ころに,〇〇駅前でけんかの事案があり,1人,死亡しました。今日のお昼から〇〇大学病院で司法解剖がありますので,お越しください。」とのことです。

さすがに,このときは,正直「元旦からきついな~。」と思っていやいや大学病院まで行きました。

しかし,到着すると,法医学教室の教授はじめ助手らメンバー4名ほど,警察本部の警察官十数名ほどが勢揃いして,当たり前かもしれませんが,誰も文句一つ言わず,黙々と解剖の準備を進めていました。解剖台の上には,当時十代後半の男性の遺体が寝かされていました。ほとんど外傷はなく,綺麗な状態でした。

私も,当初の面倒だというような気持ちは吹っ飛び,「本当であれば,お正月は家族とのんびり過ごせたであろうに,こんな所に,こんな状態で・・・。」と思うと,怒りと悲しみを押えることができませんでした。

それから,数時間にわたる解剖の結果,その少年は,顔面,頭部を強い力で固い物で殴打されたことにより,脳の血管が損傷したことによって死亡したことがわかりました。

私は,解剖に立会しながら,担当教授から詳しく傷の状態,予想される凶器などを聞き取り,捜査担当の刑事らとも捜査の方針を確認し,帰宅したときには夜になっていました。解剖に立会した検事は,そのまま事件の担当になることが多いので,このときは完全に仕事モードになって,事件の捜査のための方策をあれこれ考えていました。

数日後,被疑者らが逮捕され,2人がかりで殴打したこと,うち1名は特殊警棒で顔面を殴打し,それが死因となったことが明らかになりました。

解剖に検事が立会する意味は,客観的な証拠に直接触れて,事件の問題点を早期に把握することにあります。また,法医学の教授は往々にして多忙のため,解剖をしている横で詳しく話を聞くのが,効率的ともいえます。

検事退官後は,このように解剖に立会することはなくなりました。ただ,法医学の本を読むだけでは分からない勉強ができたこと直接証拠を見て検証することが大切であることを実感したことは,貴重な経験であり,今も生きていると思います。