賃貸借トラブルの予防策
さて,引用画像は,名人と謳われた落語家の桂文楽師匠のDVD全集で,私の宝物の一つです。
このDVDには残念ながら収録されていないのですが,文楽師の十八番に「寝床」という落語がありました。
これは,義太夫好き(ただしものすごく下手)な家主が,無理矢理店子に義太夫を聴かせようとしますが,店子はそれをいやがります。
そうすると,家主は,「わかりました(怒)。私の義太夫が聴けないというのであれば,明日の昼までに,皆さん,長屋を明け渡してください。」という無茶を言い出すというものです。
昔は,それくらい家主が強かったのでしょう。
さて,現代では,借地借家法や消費者契約法により,賃借人が強く保護されている関係上,家主の立場から,紛争を予防するためには,それら法律を踏まえた上で,きちんとした契約書を作成する必要があります。
たとえば,賃貸借契約でも,任意に定められるものがあります。家屋の修繕費(必要費)や,造作を取り付けたときの費用(造作買取請求権や有益費償還請求)については,民法や借地借家法では,原則として家主が負担することとなっておりますが,契約書で別途の定めをしておけば,賃借人の負担となります。
逆に強行法規(任意の契約によっては排除できない。)として定められている規定に反する契約書の記載は無効です。
例えば,正当の事由がなくとも賃貸人からの解約を自由に許す規定や,賃料不払いがあったときに強制的に鍵を交換して閉め出す規定をもうけても,それらは無効なものです。
期間の満了によって,賃貸借を終了させるためには,「定期賃貸借契約」を締結する必要があります。
これは,①契約書において一定の期間を定めること,②契約書のほかに,家主の書面による説明,③更新しない特約を明記する,という要件によって認められます。また,④期間が終了する1年から6か月前までに,その旨を賃借人に通知する必要もあります。
しかし,定期賃貸借契約を結んでも,期間終了後,そのまま特に異議なく占有を認め,賃料を受領していると,新たな賃貸借契約が成立したものと認められる可能性があります。
その場合は,本来の賃貸借契約に戻り,正当の事由がない限り,解除が認められなくなってしまうおそれがあります。
解除が認められる「正当の事由」とは,家主がそこに住まなければならない事情が存したなどの特別の事情があるという場合などがありますが,実際には,立ち退き料を支払うことによって認められるというケースが多いといえます。
以上をまとめますと,
①賃貸借契約において,家主側に有利な記載をしておきたい場合には,民法や借地借家法を踏まえて,許されている範囲においてする必要がある
②当初定めた期間に確実に賃貸借契約を終了させるためには,定期賃貸借契約を締結しなければならない
ということになりますので,賃貸物件のオーナーの皆さんは,是非ご承知おきください。