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Archive for 11月, 2023

組織とコンプライアンス

月曜日, 11月 27th, 2023

会見私(中村和洋)はプレサンス元社長の冤罪事件について国賠訴訟を担当しています。

刑事事件の際に取調べの録音録画を検証したことで、関係者に対して机を叩いたり、長時間怒鳴りつけるなど、特捜部検事が違法な取り調べをしたことがわかりました。

このような強引な取調べがどうして行われたのか。

そこには、検察庁における組織としての風通しの悪さ(上司の意向に逆らえない)と、検事個人のコンプライアンス意識の欠如という問題があったのではないかと感じています。

さて、今年は、中古車販売大手の株式会社ビッグモーターにおける不祥事のほか、日本大学のアメフト部の大麻事件の際の大学の対応や、宝塚歌劇団の劇団員が亡くなった後の組織対応が、注目を集めました。

今、組織におけるコンプライアンスが、大きく問われています。

コンプライアンスとは法令遵守のことをいいますが、単に法律を守ればいいというのではなく、企業倫理に従った行動を取らなければならないというものです。

これは現代の企業を中心とするあらゆる組織で、当然守るべき指針です。

コンプライアンスに違反する行為が公になると、大きく報道され、ネットニュースのコメント欄で激しくたたかれるなどの炎上が生じます。

そして、その記事やコメントが長い間残り続ける(デジタル・タトゥー)という回復しがたい問題も生じます。

また最近では、飲食店でのいたずら行為や、賭け麻雀といった、以前では大きな不祥事とまではいえなかったことまで注目して取り上げられるようになりました。

時代は大きく変わっています。

コンプライアンス違反が生じる原因は大きくは2つあります。

一つは、法律の無知。

もう一つは、社内監視体制が不十分であること。

例えば、オリンピック組織委員会の元理事にコンサルタント料を支払っていたことが贈収賄に当たるとして、東京地検特捜部に起訴されたケースがあります。

関係者の中には、オリンピック組織委員会の幹部がみなし公務員に当たることや、コンサル料名目でも賄賂に当たり得ることについて、十分な認識がなかったのではないか。

つまり、法律の知識が欠けていた人がいたであろうことが窺われます。

しかし、「法律の無知は許さず」という法格言があるとおり、法律の知識がないことは免責事由にはなりません。

次に、社内監視体制が十分でないというのは、風通しが悪いという企業文化を理由とすることがあります。

そのほか、内部通報制度がそもそも備わっていないという制度上の問題もあります。

実際にコンプライアンス違反が発覚した場合には、適切な対処が必要です。

マスコミに報道される、あるいは行政当局や捜査当局からいきなり調査・捜査を受けることがありますが、その場合、社内が混乱して、対応を誤ってしまうことがあります。

まず、行政当局の調査や捜査当局の捜査に対しては、誠実に協力をする必要があります。

万が一にでも、客観的な証拠を隠滅したり、関係者が口裏合わせをしていると疑われるようなことがあってはなりません。

社内で聞き取り調査をすることは、当然のことです。

ただ、弁護士が適正な方法で調査を担当するなどして、口裏合わせをしているとの誤解を防ぐ必要があります。

そのほか、社内調査における留意点は、以下のとおりです。

メンバーの選定に当たっては、まずリーダーは経営陣かそれに近い人、つまりリーダーシップを発揮できる権限のある人である必要があります。

内部調査の段階から、公正さと透明性を高めるため、弁護士を選任するということも有益です。

その上で、関係書類、メール等の客観的証拠を集めて、内容を十分に検討し、関係者から事情聴取を行います。

いずれにせよ、早期の対応が必要です。

また、社内調査とは異なり、第三者的立場の弁護士を中心とした外部調査を行うこともあります。

この場合は、委員長について適した人材を配置(当該組織とは利害関係がなく、また、十分な知見を有する専門家)し、複数の法律事務所の弁護士がメンバーに入ることで、組織に忖度しない調査が行えるようにする必要があります。

宝塚の外部調査については、それが十分でなかったのではないかとの批判がなされています。

検察庁特捜部の上記不祥事については、残念ながら、外部調査どころか、組織内部での事実調査はなされておらず、再発防止策も講じられていません。

山岸さんが国家賠償請求訴訟を起こしたのは、そのような検察の姿勢のままでは冤罪被害がが続いてしまうと考えたからです。

いかに伝統があったり、また成長している組織でも、ひとたびコンプライアンスの重大な違反が生ずれば、組織の存続に関わる重大な事態となります。

万が一にでもそのようなことにならないように、常日頃から、コンプライアンスに関する内部研修等を行う必要があるでしょう。

※写真は、プレサンス元社長冤罪事件の被害者である山岸忍さんとの会見の様子です(朝日新聞デジタル2023年11月7日の記事より引用)。