はずれ馬券訴訟(最高裁判決について)
はずれ馬券訴訟の刑事事件について,最高裁から,判決期日指定の連絡がありました。
本年3月10日午後3時に判決の言い渡しがなされるとのことです。
判決までに特に弁論の指定はありませんでしたので,一般的には控訴審の判断が維持され,上告棄却の可能性が高いものと予想されます。
はずれ馬券訴訟の刑事事件について,最高裁から,判決期日指定の連絡がありました。
本年3月10日午後3時に判決の言い渡しがなされるとのことです。
判決までに特に弁論の指定はありませんでしたので,一般的には控訴審の判断が維持され,上告棄却の可能性が高いものと予想されます。
本年9月に,共著として「カルテル規制とリニエンシー-課徴金減免制度の考察と活用」を三協法規出版より,上梓しました。
カルテルとは,価格カルテルなどのように,複数の企業が独占禁止法に違反して協定を結ぶことですが,その事実について,公正取引委員会に申告(いわば自首)することで,多額の課徴金の減免を受けたり,刑事訴追を免れる場合があります。これをリニエンシーといいます。
リニエンシー制度を解説した書籍はいくつかありますが,今回出版された上記書籍は,最新の情報が記載されている上,非常に実務的でわかりやすくなっています。
私が執筆を担当した部分は,
①カルテルは,どのようにして発覚するか(89~95頁)
②社内調査を行なうときの具体的な留意点(115~127頁)
③刑事事件となった場合,あるいは刑事告発されないための対応策や,行政処分への対応について(194~296頁)
です。
特に,①では,どういう段階で弁護士に相談すべきか,また,②では,証拠の集め方や関係者からの事情聴取の仕方といった具体的ノウハウ,③では,刑事弁護人としてどんな働き方をすべきか,ということについて踏み込んで解説しました。
企業の経営者や監査役,法務担当者の方,あるいは,独占禁止法に興味をもっておられる大学生,ロースクール生,司法修習生の方に大いにご参考になるものと思っています。
競馬の払戻金で得た所得に関する事件の税務訴訟について,本日,大阪地方裁判所が判決を言い渡しました。
この裁判は,既に大阪地裁,大阪高裁で判決がなされている刑事事件(現在,検察官が上告受理申立てし,最高裁に係属中)とは異なり,税務署が行った課税処分の取消しを求めている行政裁判です。
大阪地裁第7民事部は,原告(納税者)側の主張をほぼ全面的に認め,はずれ馬券を必要経費と認めなかった課税処分の大部分を取り消しました。
これは,刑事裁判の判決の内容と同様であり,これで,国の主張は,3回連続で裁判所によって排斥されたことになります。
今回の判決でも,本件の馬券の購入行為は,広く回収率を高めることを目的として,競馬予想ソフトを利用して独自の手法に基づき,多数のレースを対象に継続的に多数回にわたって広く馬券を購入することによって払戻金を得ていたものであるから,「営利を目的とした継続的行為から生じた所得」であり,「雑所得」に該当するものとし,はずれ馬券の購入費も「必要経費」として控除されるものとされました。
刑事事件については最高裁に係属していますが,もはや,誰が考えても,これまでの国の主張が非常識で,誤ったものであることは明らかです。
これ以上,競馬ファンの混乱を招かないためにも,国はメンツにこだわって結論を先延ばしにすることをやめ,一日もはやく,この事件を収束させ,払戻金を非課税にしたり,あるいは一定の低率な税を課して源泉徴収を行うなど,合理的で分かりやすい課税制度を構築して,その内容を国民に知らしめるべきではないでしょうか。
馬券の払戻しによる所得について多額の課税がされている件については,先日,大阪高裁で判決が言い渡された刑事事件とは別に,国を被告として,課税処分の取消しを求めている税務訴訟が大阪地裁に係属しています。
この税務訴訟については,本年6月10日弁論終結となり,判決期日が,10月2日(木)午後1時10分と指定されました。
争点は,
① 本件における馬券の払戻しによる所得が,「雑所得」か「一時所得」か
② はずれ馬券の購入費も「必要経費」に該当するか
③ ①,②で原告の主張が認められれば,本件課税処分は実際の所得の何倍もの著しく過大な課税処分をしたものとなる。その場合,「課税の根幹に関わる重大な違法」があるとして全部無効となって全部取消の判決がなされるのか,それとも,実際の所得に対応する課税の部分に関しては適法なものとして,一部取消判決にとどまるのか。
④ ①,②で原告の主張が認められ,かつ,③で一部取消判決にとどまるならば,原告は所得税について一定の納税をする義務があることになる。それに加えて,原告は,無申告加算税も負わなければならないか。すなわち,国税当局が誤った法解釈をしていた状況や馬券による所得については事実上ほとんど課税がなされていなかった状況に鑑み,原告が確定申告をしなかったことについて,「正当な理由」が認められるか否か
です。
大阪高裁の刑事判決は,税務訴訟でも証拠として提出しています。
税務訴訟でも,大阪地裁で適正な判断がなされることを期待しています。
今年は,能楽の開祖である観阿弥生誕680年,世阿弥生誕650年とのことで,それを記念した本の出版や,薪能も行われるようです。
世阿弥が記した「風姿花伝」は,能楽師のバイブルというべき書物で,役者としての心構えが書かれています。
ただ,それにとどまらず,一つの芸を追及する姿勢について深く考察されており,現代のビジネスにも参考になりそうな記述がたくさんあります。
その中に,「離見の見」という言葉があります。
これは,自分に対して,遠くから離れたところより客観的に見る別の目を持たなくてはならないということです。
すぐれた役者は,自分の舞台での姿がどのように見えているかを常に具体的にイメージしています。
画像は,「世阿弥の再来」と言われた名能楽師の観世寿夫さんの著書です。
若くして亡くなられたので(1978年逝去。享年53歳),実際の舞台に接することはできませんでしたが,映像では,彼が能を舞っている姿を見ることができます。
その中で,「井筒」という作品のDVDを持っていますが,夫の在原業平を思ってその妻の亡霊が舞っているときの迫力は,映像を通してでも真に迫っており,非常に感動しました。
さて,最近,パソコン遠隔操作の事件で,それまでえん罪だとして無罪主張をしていた被告人が,一転,自分が真犯人であると告白したということがありました。
真実は神様と当事者にしかわかりませんので,弁護人としては,基本的には依頼者を信じて弁護活動を行うことは当然です。
ただ,視点を依頼者に近づけすぎることは危険です。
依頼者によりそって同じ目線に立ちつつも,もう一つ,別の目を持って,主張や証拠が第三者(特に裁判所)からどのように見えているのかを常に検証しながら活動する必要があります。
これが,刑事弁護における「離見の見」だと思っており,常に座右の銘としていきたいと思っています。
本日,大阪高裁の判決に対して,検察官が,最高裁判所に上告しました(引用画像は最高裁判所の建物〔裁判所HP〕)。
大阪地裁,大阪高裁の判決は,いずれも,本件の被告人の一連の馬券購入は,「営利を目的とする継続的行為」に該当し,雑所得になることから,はずれ馬券を含めた馬券の購入費全額が必要経費に該当するとして,被告人側の主張を認めたものです。
弁護人としては,所得税法の解釈としても,常識に従った判断であるという点からも,正当なものと評価しています。
判決の内容が非常に説得力があることからしても,上告審で覆る可能性は極めて低いのではないかと考えています。
それにもかかわらず,検察官が上告した理由を推測すると,以下のことが考えられます。
今回の上告については,当然,検察庁と国税庁とで協議したものと推測されます。
本件の控訴審判決を真摯に受け止めるのであれば,国税庁は,馬券の払戻金の課税について明確な制度設計をする必要があります。
そして,被告人以外の場合の,一般に継続してPAT取引を行っている競馬愛好家について,どの程度に至れば「雑所得」となるのか,具体的な線引きをする必要があります。
しかしながら,国税当局は,これを自ら考えることなく,最高裁に丸投げをしました。
また,実際に考え得る制度としては,PAT取引以外の購入者との公平性や,競馬の売上の約1割が国庫に納付されていることを考えると,
① 馬券の払戻金を非課税にする,
② 馬券購入時か払戻時に一定の割合の税を徴収する(ただし,国庫に納付されている分以外に重ねて納税を求めることからすれば,数%程度の低率なものとすべき。)
ことが,バランスの取れた妥当なものだと思います。
本来は,国税庁が自ら,国民の納得の得られるような合理的で公平な制度設計をすべきですが,今回の上告は,その責任を放棄し,結論を先送りしたものであって,誠に残念というほかありません。
本年5月9日,大阪高等裁判所で,馬券の払戻金について,はずれ馬券の購入費をを必要経費と認める判決の言い渡しがなされました。
判決の内容について,主に一審判決との違いや検察官の主張を排斥した部分を中心に,紹介,解説いたします。
1 雑所得と一時所得の区別
一審判決は,所得の発生の基板となる一定の源泉から繰り返し収得される所得か否かという「所得源泉性」を問題にしましたが,控訴審は,そのような「所得源泉性」は問題ではなく,端的に,行為の態様,規模その他の具体的状況に照らして,「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」に該当すれば,一時所得ではないと判断しました。
その上で,被告人は,競馬予想ソフトを用いてデータを分析し,回収率に着目して,自動購入する設定により,馬券を機械的,網羅的に大量購入することを反復継続するもので,5年間にわたり,全競馬場の全レース(新馬戦と障害レースを除く)について,1日について数百万円から数千万円を購入し,3年間の合計で28億円以上の馬券を購入し,38億円以上の払戻金を得たというもので,その購入及び履歴は記録化されており客観的にも明らかであるから,「営利を目的とする継続的行為から得た所得」に当たり,一時所得ではなく,雑所得であるとしました。
2 競馬の賭博性について
検察官は,競馬の本質は賭博であり,勝敗は偶然の事情であり,各競走は独立したものだから,いくら繰り返されても,継続的行為とはならないと主張しました。
それに対して,控訴審判決は,賭博であって射倖性を有することは,営利性や継続性といった要件を否定するものではないと判断しました。
3 一般的な馬券購入との区別について
検察官は,現在の競馬の実情として,インターネット取引が主流で,一般の競馬愛好家の多くが予想ソフトやデータを利用しているから,被告人と大差がなく,一時所得とされるべき一般の競馬愛好家の所得と質的な差異はないと主張しました。
それに対して,控訴審判決は,被告人以外の場合であっても,払戻金を得た者の馬券購入行為が,被告人と同様客観的に認められる態様や規模に照らして「営利を目的とする継続的行為」に当たれば,雑所得になると判断しました。
これは,一審の判決の判断を一歩進めたものです。
4 先物取引,FX取引との類似性
一審判決は,被告人の行為は,FX取引等と類似した資産運用の一種であるとして,雑所得であると認めました。
しかし,控訴審判決は,FX取引等は「資産の譲渡の対価」であって,本件との類似性を問題にならないとしました。
この点も,必ずしも「資産運用」あるいはFX取引等と類似するものといえなくとも雑所得になり得るとしたもので,一審判決を一歩進めたものと評価できます。
5 必要経費性について
控訴審判決は,はずれ馬券を含む馬券の購入がなければこのような払戻金を得ることができなかったのであるから,はずれ馬券の購入費も払戻金を得るために「直接要した費用」(所得税法37条1項)に当たるとしました。
一審判決は,これと異なり,「その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」に該当するとしていましたので,控訴審判決は,一審判決よりも積極的に経費性を肯定したものです。
6 弁護人のコメント
控訴審判決の内容は,所得税法の解釈としても,常識に合致した判断ということからも,正当なものです。
今後の課題としては,被告人以外の実際の馬券購入について,どの程度に至れば雑所得となるのか具体的な区分をどうするかという問題があり,また,窓口で馬券を購入して所得が捕捉されにくい人との不公平の問題もあります。
国税当局は,このような判決内容を真摯に受け止め,国民の理解を得るため,明確な制度設計(たとえば,馬券の払戻金を非課税にする,または低率の源泉分離課税を導入する)を行うことが望まれます。
5月9日(金)午後1時30分から,馬券の払戻金により得た所得について単純無申告犯に問われている刑事事件について,大阪高等裁判所において,控訴審の判決があります。
控訴審における争点や,検察官・弁護人の主張,立証について,まとめさせていただきました。
1 争点(一審と同じ)
①被告人が馬券の払戻金により得た所得は,一時所得に該当するか,雑所得に該当するか。すなわち,被告人の行為が,井 一時所得から除外される「営利の目的による継続的な行為」に該当するか。
②被告人が購入した外れ馬券の購入費は,所得から控除され必要経費に該当するか否か。
2 控訴審で新たに強調された検察官の主な主張と,弁護人の反論
①被告人は,本来納税のために留保すべきお金を馬券の購入費に充てたにすぎないので,担税力に問題はない。
←(弁護人の反論)
被告人は,極めて多数,多種類の馬券を購入することでトータルで利益を得ていた。外れ馬券購入費を除いた当たり馬券の払戻金だけを抽出して留保することは不可能であった。
②競馬の本質は賭博であり,競走の結果は偶然に支配されるものであるから,一時所得に該当する。
←(弁護人の反論)
所得税法の法文上,一時所得について,賭博や偶然性の高い性質のものは除くとなっていない。競馬に関連する騎手や調教師の収入にも偶然性が影響するはずであるし,囲碁,将棋,ゴルフのプロも同様である。賭博による行為であっても,それが営利目的で継続的な行為に該当する場合には,一時所得にならないことは,法律解釈として当然である。
③個々の馬券購入行為は独立した行為であり,相互に影響を与えないから,いかに馬券購入行為の回数が多くとも,その性質に変化はない。
←(弁護人の反論)
個々の馬券の購入は最終的な行為にすぎず,問題とされるべきは,データの分析や予想システムの構築,それに基づく馬券の自動注文という一連の行為であり,これを全体的にみると「営利を目的とする継続的行為」に該当する。検察官の言うように個別の単発的な行為だけを問題にすべきではない。
④競馬予想ソフトを使用し,インターネット取引を利用した競馬愛好家は多数存在するのであり,被告人の買い方は一般の競馬愛好家と異なるような特殊なものではない。
←(弁護人の反論)
データ分析の内容の緻密さ,システムの複雑さ,馬券購入の規模,回数,金額,実際の成績という面で,一般の競馬愛好家のレベルを遙かに超えているので,通常の馬券購入によって得た所得とは,所得としての性質が変化しているといえる。また,独自の予想をして継続して馬券を購入している点で他の愛好家と変わりがないというのであれば,むしろ,それら愛好家の行為についても,「営利目的による継続的行為」と認められるべきである。
⑤被告人の成績については,赤字の月もあれば,数か月間赤字が続いている場合もあり,収支は安定しておらず,恒常的に所得を生じさせるものではない。
←(弁護人の反論)
被告人は長期的視野に立って,統計的見地から,トータルで利益を挙げることを目的としていたのであり,その間の一定の時期に利益が上がらないときがあったとしても,問題にはならない。
⑥競馬の本質が娯楽である以上,資産の運用とはなり得ず,資産の譲渡としての性質も有するFXや先物取引と類似するものではない。
←(弁護人の反論)
FXや先物取引も偶然性が強い取引である。FX取引や先物取引については,証拠金によるレバレッジ取引による差金決済が行われ,実際の商品の授受はなく,投機的な性格が強いのであって,本件の被告人の行為とその性質において差はない。また,趣味,娯楽であっても,囲碁,将棋,ゴルフの例のように継続的に利益を挙げた場合には,雑所得や事業所得になり得る。
3 立証
①検察官の立証
所得税法の解釈について,検察官の主張を支持する学者(水野忠恒・明治大学教授)の意見書等を書証として提出しました。
②弁護人の立証
一審判決の採用した見解を支持する学者や実務家(酒井克彦・中央大学教授,池本征男・税理士・元税務大学校教授・元東京国税不服審判所横浜支所長,末崎衛・沖縄国際大学法学部教授,長島弘税理士・当時自由が丘産能短期大学専任講師,現立正大学法学部准教授)の論文や,金子宏・東大名誉教授の論文(常習的な賭博により利益を得た場合は雑所得に該当することを指摘)等を書証として提出しました。
馬券の払戻金について多額の課税がなされ,単純無申告犯に問われている案件について,3月12日(水)午前10時30分から,大阪高等裁判所において,第1回控訴審の期日が開催されました。
検察官から控訴趣意書,控訴趣意書補充書が提出され,弁護人が,答弁書,答弁書補充書を提出しました。
また,検察官からは租税法学者の意見書等の書証が,弁護人からは租税法学者の論文等が書証で提出され,取り調べられました。
争点は一審と同じく,被告人が行っていた馬券購入行為により得た払戻金による所得について,
①一時所得に該当するか,雑所得に該当するか。
②外れ馬券の購入費も必要経費に該当するか。
です。
一審の主張とほぼ同じ内容の主張を,検察と,弁護人がそれぞれ行っており,改めて高等裁判所がそれらに対して法律的な判断を行うことになります。
判決は,5月9日(金)13時30分から,大阪高等裁判所201号法廷にて言い渡されます。
他方,大阪地裁に係属中の税務訴訟においては,原告,被告双方の主張,立証がほぼ終了しており,次回期日は6
月10日であり,今後の進行について協議する予定です。
競馬により得た所得に多額の課税がなされた事案について,各方面から,経過のお問い合わせを受けておりますので,このブログで報告いたします。
まず,単純無申告犯に問われている刑事事件については,昨年5月23日に大阪地裁で判決(所得金額について弁護人の主張を認めた上で,懲役2月,執行猶予2年)がなされましたが,その後,検察官が控訴し,現在,大阪高等裁判所に係属しています。
その控訴審の経過については,検察官から平成25年10月18日に,控訴趣意書が提出され,同年12月24日に,弁護人から答弁書を提出いたしました。
平成26年3月12日午前10時30分に,大阪高等裁判所201号法廷で,第1回控訴審の期日が行われます。
証人尋問や被告人質問の予定はなく,検察官,弁護人双方がそれまで提出した書面を陳述します。おそらく,そのまま弁論終結となるものと思われます。
控訴審判決の時期は,未定です。
他方で,大阪地裁に課税処分の取消しを求めて提訴している税務訴訟については,次回は,本年3月7日に期日が開かれ,国側の反論書面が提出される予定です。こちらは,弁論終結の見通しは不明です。
納税者側としましては,一日もはやい解決を望んでおります。