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司法解剖について


180419_108522749224618_7049493_n検事在職中は,よく司法解剖に立ち会いました。詳しい件数は覚えていませんが,二桁は確実です。なお,写真は検事時代の私です。よく見ていただくくと,バッジが弁護士のそれとは異なります。

ある地方の検察庁に勤務しているとき,元旦の早朝に自宅に電話がかかってきたことがありました。

前日は大晦日ですから夜更かしをしていたので,眠い目をこすりながら電話に出ると,当直の事務官から,「あっ,中村検事ですね。おはようございます。本日午前4時ころに,〇〇駅前でけんかの事案があり,1人,死亡しました。今日のお昼から〇〇大学病院で司法解剖がありますので,お越しください。」とのことです。

さすがに,このときは,正直「元旦からきついな~。」と思っていやいや大学病院まで行きました。

しかし,到着すると,法医学教室の教授はじめ助手らメンバー4名ほど,警察本部の警察官十数名ほどが勢揃いして,当たり前かもしれませんが,誰も文句一つ言わず,黙々と解剖の準備を進めていました。解剖台の上には,当時十代後半の男性の遺体が寝かされていました。ほとんど外傷はなく,綺麗な状態でした。

私も,当初の面倒だというような気持ちは吹っ飛び,「本当であれば,お正月は家族とのんびり過ごせたであろうに,こんな所に,こんな状態で・・・。」と思うと,怒りと悲しみを押えることができませんでした。

それから,数時間にわたる解剖の結果,その少年は,顔面,頭部を強い力で固い物で殴打されたことにより,脳の血管が損傷したことによって死亡したことがわかりました。

私は,解剖に立会しながら,担当教授から詳しく傷の状態,予想される凶器などを聞き取り,捜査担当の刑事らとも捜査の方針を確認し,帰宅したときには夜になっていました。解剖に立会した検事は,そのまま事件の担当になることが多いので,このときは完全に仕事モードになって,事件の捜査のための方策をあれこれ考えていました。

数日後,被疑者らが逮捕され,2人がかりで殴打したこと,うち1名は特殊警棒で顔面を殴打し,それが死因となったことが明らかになりました。

解剖に検事が立会する意味は,客観的な証拠に直接触れて,事件の問題点を早期に把握することにあります。また,法医学の教授は往々にして多忙のため,解剖をしている横で詳しく話を聞くのが,効率的ともいえます。

検事退官後は,このように解剖に立会することはなくなりました。ただ,法医学の本を読むだけでは分からない勉強ができたこと直接証拠を見て検証することが大切であることを実感したことは,貴重な経験であり,今も生きていると思います。