書評(シリーズ捜査実務全書)
- 2013年11月14日
- 刑事弁護
あまり一般に知られていないものですが,実務に役立つ刑事関係の書籍を紹介したいと思います。
東京法令出版から出されている「シリーズ捜査実務全書」です。
このシリーズは,すべて検察官の著作で,1~15まであり,
①強行犯罪 ②財産犯罪 ③知能犯罪 ④会社犯罪 ⑤証券・金融犯罪 ⑥不動産犯罪 ⑦暴力団犯罪 ⑧薬物犯罪 ⑨風俗・性犯罪 ⑩環境・医事犯罪 ⑪公務員犯罪 ⑫選挙関係犯罪 ⑬少年・福祉犯罪 ⑭交通犯罪 ⑮国際・外国人犯罪
となっています。
これらは,平成6年に初版が出版されており,最近の改訂はなされていないので,内容的には古いところもあります。
しかし,実務で取り扱われる犯罪をほぼ網羅しています(労働,知的財産,コンピューター関連の犯罪は他の書籍で補う必要がありますが)。
特に,それぞれの犯罪類型ごとに,どんな証拠を集め,そのためにどのような捜査が行われるのか,何に力点を置いて取り調べを行うのか,関係者はどこまでの範囲で何を聞くのかなど,具体的に書かれています。
例えば殺人事件の捜査については,現場観察の留意事項として,
「①犯行日時を推定する資料(時計・ラジオ・テレビ,新聞・牛乳等の定期配達物,電灯・食事・台所等の状況),
②犯行場所に関する資料(現場及び付近の状況,遺棄された疑いのあるしたいについては付着物・履き物・足裏の状態等),
③犯人の推定に関する資料(遺留品,手掌紋その他の痕跡,血痕・体液等,接待の痕跡,その他),
④犯行の動機を推定する資料(物色の痕跡,姦淫の有無,創傷の部位,死体の処置・供物,接待の痕跡など),
⑤犯行方法に関する資料(行動痕跡,死体の位置・状況,血痕の飛沫状況,家具等の移動の有無,凶器その他の遺留品の状 態,風呂場・流し場の状況など,
⑥共犯者の有無に関する資料(2種以上の凶器・創傷の有無,2種以上の指掌紋・足跡等の有無,物の移動は単独で可能かなど),
⑦被害者の特定に関する資料(身元不明の被害者につき,指紋,着衣・所持品,身体的特徴等),
⑧被害金品の確認など」
と具体的に挙げられています(シリーズ捜査実務全書1 強行犯罪」52,53頁)。
捜査経験豊富な検察官の書いたものですからすぐれて実務的で,私は,現職の検事時代は座右の書にし,特に初めての種類の事件の配点を受けたときには,必ずこれらを参照していました。
また,刑事弁護に当たっても,これは非常に役に立ちます。
無罪判決が時々出ますが,その多くは,というかほとんど全部が,捜査にミスがあります。基本的な捜査を行っていないばかりに,証拠の収集や評価に誤りが生じているのです。
弁護士としては,担当した事件について,基本を踏まえたきちんとした捜査が行われているのかどうかを,厳密にチェックしなければなりません。その際に,このような捜査官向けの書籍は,基本を踏まえた捜査とは何かを知る有益な手がかりになるのです。
amazonの書評にもありましたが,本格的なミステリーファンの方が読んでも面白いかもしれません。
刑事事件に携わる実務家には,特にお勧めいたします。