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Archive for 1月, 2014

法曹と俳句

火曜日, 1月 21st, 2014

321209000181私は,「雲の峰」という結社に所属し,朝妻力先生の指導を受けて,俳句を学んでいます。

俳句は,季節の風物,行事などの勉強になりますし,何よりも,限られた語数で伝えたいことをいかに伝えるかということで,日本語の訓練になります。

私も,打合せのときには,できるだけ,長々と説明はせずに,「要するに,こういうことです。」,「端的に,こうなります。」というように,いかに短く,わかりやすく説明するかに,心を砕いています。

俳句の勉強も,こういう面では,仕事の役になっているかもしれません。

まだまだ未熟なため,いい句はなかなかできませんが,仕事に関連して私が作った俳句をいくつかご紹介します。

 

(春~夏)

独立の決意揺るがず初燕

水色のロゴに決まりて夏に入る

コメント:事務所独立のときの句で,少し前のことですが,思い出深いです。

(秋~冬)

厄年を開所祝の新走り

独立もはや一か月新生姜

尋問の資料揃ふる今朝の秋

難しき依頼のありて虫時雨

刑法の本かたづけておでん食ぶ

激論の合間のホットミルクかな

三日はや六法全書開きをり

 

仕事や法律のことでも,巧拙はともかくとして,このように見れば,それなりに俳句になっているようです。

詩にしてしまうと,自分を客観視しますので,ストレスが軽減されているような気がします。

今後も,続けていきたい趣味の一つです。

 

 

 

 

 

 

 

杉田宗久裁判官のこと(追悼)

月曜日, 1月 20th, 2014

25995153_1昨年12月25日に,元裁判官の杉田宗久さん(同志社大学法科大学院教授)が永眠されました(享年57歳)。

私は,49期の司法修習生として,平成7年~8年に大阪で実務修習をしていましたが,そのときの,刑事裁判の指導官が杉田裁判官でした。

当時からエネルギッシュ,指導熱心で,刑事裁判のことで,何を聞いても知らぬことはない本当に優秀な方でした。

杉田さんは修習生時代に,「条解刑事訴訟法」と「条解民事訴訟法」を読破した(実務家が辞書代わりに使う分厚い注釈書で,普通通読できるものではありません。)という伝説があったほどです。

また,刑事実務に関連する多数の論文を集めたファイルが執務室の本棚を埋め尽くしており,「杉田ファイル」と呼ばれていましたが,自宅には,それを上回る民事版「杉田ファイル」があるらしいとも言われていました。

当時,杉田さんは,40歳前後で,まだ部長ではなく,右陪席裁判官でしたが,裁判所の中でも群を抜いて優秀な方で,誰も知らない人はいませんでした。

それでいて,大変気さくで話も面白く若い修習生と酒を酌み交わすことが大好きな方で,修習生からはお兄さん的存在として慕われていました。

また,私が検事に任官し,大阪地検公判部に勤務していたときに,何度か杉田裁判官の法廷(「杉田コート」,と呼ばれていました。)の立会いをしたことがあります。

そのときには部長として合議を主宰し,また,執行猶予を付した被告人と握手をすることで,世間的にも有名になっておられました。

杉田さんの訴訟指揮は,検察官に対しても,弁護人に対しても,ともに厳しくいい加減な立証や妥協は決して許しませんでしたので,刑事に携わる法曹にとって,これほど勉強になる法廷はありませんでした。

当時の実務では,求刑8割といって,検察官の求刑の8割程度の判決がなされることが常識でした。しかしが,杉田コートでは,時には検察官の求刑の半分以下の軽い判決をし,時には検察官の求刑を上回る重い判決をするなど,検察の判断に全く縛られない,確固たる自信に基づく判断がなされていました。

また,杉田さんは,「対質」といって,同じ事柄について,その場で,2人の証人,あるいは証人と被告人同時に尋問するという形式をよくとられていました。これは,非常に珍しいやり方で,他にされる裁判官はほとんどおられません。

私の経験した事件では,傷害事件の共犯者と,被告人がそれぞれ言い分が違う場合に,「今〇〇さんは,こう言いましたが,この点,どうですか。」などと尋ね,その場で真実を追及し,心証をとっている様子がありありとわかりました。

個性があふれ,そして人情味もあるすばらしい裁判官で,心から尊敬していました。

定年を待たずに裁判官を退官された後は,法科大学院の教授として活躍されていましたが,昨年大阪弁護士会でも,裁判員裁判の講義をしていただきました。

そのときは大変お元気な様子で,「実務でもきちんと使える刑法の教科書は,まだありません。それを書くのが,学者になった私の目標です。」と意気軒昂としておられました。

画像は,最近補訂版が出された「裁判員裁判の理論と実践」という書籍で,裁判員裁判の課題を詳しく論じられた最先端の論文集です。

あまりにも急で,そして早すぎる最期については,残念でなりません。

安らなかお眠りを,心からお祈りいたします。

 

顧客サービスと弁護士

木曜日, 1月 16th, 2014

 

昨日,東京ディズニー・ランドに勤務していたことのある加賀屋克美さんの講演を聴きました。

「お客様を本当に思いやることは,どういうことか?」という観点から,さまざまな実例をもとにわかりやすく解説されました。

たとえば,

・サービスの内容をあえてマニュアルで詳細に決めずに,「お客様がもし,自分の一番大切な身内だったら,どうするか。」という観点で各自が工夫していること

・案内板を置かないことで,スタッフが声をかけやすくしている(ディズニーランドでは,スタッフのことを,キャスト〔役者〕と呼んでいるそうです。)

・風船をほしがっている子どもがいても,飛行機に乗って帰るということであれば,持ち込みができないことを教えて,あえて売らずに,その変わりにたくさんの風船を持たせて記念写真を撮ってあげるなど,マニュアル的な処理を行うのではなく,その場でサービスの内容について適切な判断をする

ということなど,大変参考になりました。

私の体験でも,次のようなことがありました。

子どもがまだ生後5か月くらいのときに,東京ディズニーランドを訪れました。

観光シーズンでしたので,非常に混雑していましたが,子どものはいていた,本当に小さな小さな靴下を1足落としてしまいました。あちこち歩いたので,どこで落としたのかもわかりません。

さすがにこれは出てこないだろうと半分あきらめましたが,お気に入りの靴下でしたので,念のためインフォメーションで問い合わせたところ,何と掃除のスタッフの方が拾って届けてくれていたとのことで,しかも,簡単な特徴を言っただけなのに,すぐにその靴下を出してくれました

私も妻も大喜びでしたが,インフォメーションの窓口の方も,自分のことのように一緒に喜んでくれました

靴下をなくしただけなら,残念な思い出になるところでしたが,スタッフの方のすばらしい対応のおかげで,逆に忘れられない良い思い出になったということがありました。

ディズニー・ランドを訪れる人は,そこに行くことを楽しみにして,わくわくしながら期待を高めています。期待以上のサービスが受けられることで幸せになって,また訪れようと思うことで,リピーターがたくさん増えているそうです。

これに対して,法律事務所の場合は,トラブルにまきこまれてしまったなどの事情から,やむを得ず弁護士を訪れているというのが大半だと思われます。

その点,ディズニー・ランドとは全く違います。

しかし,人を幸せにするという点には,2つ意味があると思います。

一つは,楽しいことや,嬉しいことを与えること。

もう一つは,しんどいことや,辛いことをなくしたり,軽減すること。

弁護士は,2つ目の意味においては,訪れた方に幸せを与える職業であることに変わりがないと思っています。

弁護士の職責としては,法律の正しい解釈をアドバイスしたり,書面を作成したり,手続をサポートするということですが,これは,飲食店が食事を提供したり,物を売るお店が商品を提供したりするのと同様,最低限のサービスです。

それにとどまらないように,依頼者の目線に立ったサービスが必要と感じています。

例えば,

・難しいことでも,できるだけかみ砕いて,わかりやすい説明をすること

・直接聞かれていないことであっても,時には,相談している方の立場を考えて,ほかに想定される事態について踏み込んだアドバイスを行うこと

・弁護士も,スタッフも,トラブルに巻き込まれている方の心情に配慮して,報告をこまめに行うとともに,丁寧な言葉遣いを心がける

・依頼をしようとされている内容についても,それが最善ではないと判断される場合には,あえて違う方策をアドバイスすること

などです。

簡単なようですが,これらを完璧に行おうとすると難しいところもあります。

しかし,まず私自身が,常にその心がけを忘れず,率先して行いたいと考えています。

軍師と弁護士

金曜日, 1月 10th, 2014

C-1-1黒田孝高.aiNHKの大河ドラマの「黒田官兵衛」が新しく始まりました。

画像は,福岡市博物館所蔵の黒田如水(官兵衛のこと。以下,「如水」で統一します。)の肖像です。

私は,小中学生のころから,歴史物が大好きで,横山光輝の漫画「三国志」や,その原作である吉川英治の「三国志」,また,司馬遼太郎の戦国時代・幕末の舞台にした小説を何度も読みました。

その中では,やはり諸葛亮孔明などの軍師にあこがれていました。

黒田如水(官兵衛)も,司馬遼太郎の「播磨灘物語」を読んで以来,一番好きな戦国武将でした。

頭が良すぎて秀吉がひいた。」というキャッチコピーもあるそうですが,今回の大河ドラマにも大いに期待しています。

また,黒田如水は,キリシタン大名として有名ですが,キリスト教が秀吉によって禁教になってからは,表向き信仰は捨てたように見せかけていたそうです。

しかし,「如水(じょすい)」という隠居名は,旧約聖書の登場人物であるモーセの後継者の「ヨシュア」のスペイン語名の「ジョスイ」と一致し,実は信仰を捨てていなかったという説もあるようです。

ヨシュアは,当時のユダヤ人を率いて今のイスラエルの地を攻め落としたことから,城攻めの名人ということもあって,黒田如水が自分にぴったりだと思ったのかもしれません。

名前の付け方からして,こういう人を食ったようなエピソードは,正に策士らしいという感じがします。

さて,弁護士の仕事も,「軍師」,「参謀」の仕事によく似ています。

企業の経営にあたって,法律的観点からアドバイスをしますが,未然にリスクを防ぐために,どのようにすれば売掛金を確実に回収できるか,従業員とのトラブルを防ぐことができるか,また,不当な要求がなされた場合にどのように撃退するか,紛争を有利に解決するためにはどうするかなど,いろいろと知恵を絞ります。

これらは,戦国時代の軍師が,軍資金や兵糧の調達を的確に行い,兵士をうまく管理し,巧みな作戦を立てて敵に勝利するところと,一致していると思います。

優秀な軍師ほど,主君に対して耳の痛い意見を言うので,黒田如水のように時には不遇をかこつこともあったようです。

弁護士の意見は,やれ法律をきちんと守れとか,コンプライアンスが大事だとか,余計なことだと思われる経営者の方もおられるかもしれません。

しかし,堅実に企業を成長させるために,あえて耳の痛いアドバイスをしているのだと理解してもらって,そのような弁護士こそ,軍師としての利用価値があるのではないでしょうか。

 

 

 

取締役の損害賠償責任

月曜日, 1月 6th, 2014

US_Supreme_Court_Buildingあけましておめでとうございます。

本年もどうぞよろしくお願いいたします。

さて,年始にあたって,特に企業の経営者の方向けに,コンプライアンスの重要性について,解説します。

会社の取締役が,法令に違反する行為をした場合には,それが刑罰法規に触れるのであれば犯罪になりますが,そうでなくとも,そのことで,取引先や株主に損害を負わせた場合には,取締役個人が民事責任としての損害賠償責任を負わなければならない場合があります。

他方,企業の経営には常にリスクがつきものであって,リスクをとった行為が結果的に失敗に終わったために,常に損害賠償責任を負うということでは,常識に反するといえるでしょう。

この点,いわゆる経営判断の原則という考え方があります。

これは,取締役の経営判断が会社に損害をもたらす結果を生じたとしても,その判断がその誠実性・合理性をある程度確保する一定の要件の下に行われた場合には,裁判所が判断の当否につき事後的に介入し注意義務違反として取締役の責任を直ちに問うべきではないという考え方をいいいます。

要するに,取締役の判断については,一定の裁量があり,その裁量を裁判所が尊重しなければいけないという法理です。

これは19世紀以来,アメリカ合衆国の裁判例において発展してきました。なお,画像は,アメリカ合衆国連邦最高裁です(Wikipediaより引用)。

一般に

 ①経営判断の対象に利害関係を有しないこと

 ②経営判断の対象に関して、その状況の下で適切であると合理的に信ずる程度に知っていたこと

 ③経営判断が会社の最善の利益に合致すると相当に信じたこと

という要件を満たした場合には,誠実に経営判断をした取締役には義務違反が認められないとされています
わが国の学説の多くや,裁判例でも,このような経営判断の原則に類似した考え方に立っています。

例えば,東京地裁平成16年9月28日判決では,

「企業の経営に関する判断は不確実かつ流動的で複雑多様な諸要素を対象にした専門的,予測的,政策的な判断能力を必要とする総合的判断であり,また,企業活動は,利益獲得をその目標としていることから,一定のリスクが伴うものである。

このような企業活動の中で取締役が萎縮することなく経営に専念するためには,その権限の範囲で裁量権が認められるべきである。

したがって,取締役の業務についての善管注意義務又は忠実義務違反の有無の判断に当たっては,取締役によって当該行為がなされた当時における会社の状況及び会社を取り巻く社会,経済,文化等の情勢の下において,当該会社の属する業界における通常の経営者の有すべき知見及び経験を基準として,前提としての事実の認識に不注意な誤りがなかったか否か及びその事実に基づく行為の選択決定に不合理がなかったか否かという観点から,当該行為をすることが著しく不合理と評価されるか否かによるべきである。」

と述べ,結論として,取締役の損害賠償責任を否定しました(以上、江頭憲治郎「株式会社法」など参照)。

しかし,このような経営判断の原則があるとしても,取締役の判断について,その当時において合理性があったのかどうかという点は,具体的な根拠や証拠に基づいて,後で説明できるようにしておかなければいけません。

また,例えば食品偽装など明らかに法律に違反するような行為は,いかなる理由があっても,許されるものではありません。

常にコンプライアンスを意識して経営をしていくことが,長期的に企業の成長につながるものと思います。