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脱税事件の査察調査


money_zeikin1 査察調査と普通の税務調査の違い

 脱税とは,「偽りその他不正の行為」によって税を免れる行為です。

 脱税は犯罪であり,懲役刑や罰金刑が科されます.

例えば、所得税法違反の場合、10年以下の懲役,1000万円以下の罰金となります。

ただし,ほ脱税額が1000万円を超える場合には罰金額の上限はほ脱した所得税に相当する金額以下です。

 「偽りその他不正の行為」とは,帳簿への虚偽記入や二重帳簿の作成等が典型例ですが,最高裁の判例では,虚偽の過少申告を行うこと自体も,不正の行為に当たるとされています。

 脱税の手口を大きく分けると,①売上を除外する方法と,②架空経費を計上する方法があり,両方を組み合わせる場合もあります。

  そして,脱税の嫌疑がある場合に調査を行う手続を租税犯則調査といい,各国税局の査察部所属の査察官によって行われ,「査察調査」とも呼ばれます。

 一般の税務調査は,あくまで任意の調査です(ただし,調査に対して拒否をした場合には罰則があるため,間接的な強制力は存在します。)。

 これに対して,査察調査は,任意の調査のほかに,強制調査が認められています。

 例えば査察官は,裁判所の令状を得て,強制的に犯則嫌疑者の事務所や住所など関係箇所に立ち入ったり(臨検),書類や所持品を捜索・差押することができるのです。

2 査察調査のその後の手続きの流れ

(1)検察庁への告発

 査察調査の結果,脱税の嫌疑が認められた場合には,検察庁に対して告発がなされます。

 令和元年度の統計によれば,査察調査を行った中で告発にまで至った率は,81%です

 約2割の事件が告発に至っていませんが,これは査察調査の結果、証拠が不十分であったか,脱税金額が大きくなく,告発基準に満たなかったことによると思われます。

 告発の基準は公にされていませんが,実務の運用として,法人税や所得税については,一般的には1億円以上の所得を脱税したことが,告発の条件とされているようです。

 ただ,脱税した所得金額が1億円に満たないものであっても,告発に至る場合があります。

 例えばほ脱率(実際の税額に占める脱税額の割合)が高い,つまり,実際の儲けに比較して,ほとんど税金を納めていないようなケースです。

 ほかには,架空外注費を計上したり,税理士などが脱税指南役を務めるなど手段が悪質な場合には,告発に至っている場合もあります。

 逆に脱税額が高額でも,たくさん税金を納めていて,ほ脱率が低いケースは告発に至りません。

 大企業が「数億円課税逃れ」という報道を見ることがありますが,刑事告発になっていないのは,会社の規模が大きいので,もっと多くの税金を納めているからです。

 検察官が告発を受けた場合は,ほぼ100%が起訴されます。

 告発の前には,検察官と国税局との間で会議(告発要否勘案協議会)が設けられ、そこで告発を受理することが認められた事件だけが,実際に告発に至っているという実情があるからです。

 なお、告発の対象は3年間に限定されていることが多いです。

 一般に課税処分については5年前まで,偽りその他不正の行為によって税を免れるなどした場合には7年前まで,さかのぼって課税処分がなされます。

 しかし,刑事裁判の立証は,厳格な証拠による必要があるため,通常の税務調査以上の詳細な調査と証拠の作成が必要となり,刑事罰が科されるのは,原則として3年間に限定されているのです。

 ただ,その場合でも課税は5~7年にさかのぼってされることになります。

(2)脱税事件の量刑

 告発後、検察官が起訴することにより、刑事裁判となります。

 判決の量刑については,脱税額が合計3億円を超える場合には,全額納税していたとしても懲役刑の実刑判決となる場合が多いといわれています。

 また懲役刑以外にも罰金刑が科されますが、罰金額は概ねほ脱税額の20%から40%程度ですが,経験上は,30%程度のことが多いです。

3 査察調査の注意点

(1)事情聴取について

 査察調査は,一般の税務調査と違って,当事者には事前の連絡がなく,突然,裁判所の令状に基づいて,多数の査察官がいきなり関係箇所に対して,捜索・差押えのために訪れます。

 そして,経営者や従業員,また税理士ら関係者が査察官から事情を聴かれ,質問顛末書という書類が作成されて,その書類への署名・押印が求められます。

 質問顛末書には署名・押印しなければならない義務があるわけではありません。

 しかし,調査を受けた当初,関係者が動揺している場合が多く、署名・押印する義務があるものと思い込んでしまうケースがあります。

 また,話した内容と異なった記載がなされているうのに,十分に確認しないまま署名・押印することもあります。

 質問顛末書の内容は,検察庁へ告発するかどうかの判断資料となります。

 また,刑事裁判でも証拠となり得る重要な書類です。

 よく内容を確認し,もし違ったことが書かれていれば訂正を求め,訂正してもらえない限りは,署名・押印すべきではありません。

(2)税額と専門家への相談について

 告発に至るか否かや,起訴後の量刑については,脱税額が大きく影響します。

 脱税自体には争いがなくとも,事実の有無や,法律的な見解の相違によって,課税側と納税者との間で,本来の税額に争いが生じることもあります。

 納税者としては,自らの主張を具体的な証拠や根拠に基づいて説得的に述べる必要がある場面も考えられます。

 ですから,査察調査を受けた人は,直ちに専門的な弁護士や税理士から適切なアドバイスを受けてください。

(3)報道発表について

 告発がなされると,国税局からは例外なく,ほ脱を行った法人や個人の実名を含めて報道発表がなされるます。

 そのことを予め想定した上で,金融機関や取引先への説明などを行っておく必要もあるでしょう。

(4)刑事裁判での活動

 起訴された場合には,実刑判決や多額の罰金刑を回避する活動が必要です。

 具体的には,

 ①加算税や延滞税、また地方税も含めた納税義務を果たすこと

 ②二重チェックの徹底等経理体制を改善して透明性を高め,新たな税理士と契約するなど外部  の監督が十分に及ぶ制度を構築するなどコンプライアン体制を整えたことを十分に立証することが必要です。 

(文責:中村和洋)

 

企業法務で知っておくべき税務上の問題点100


税務上の問題点100このたび,清文社から,「企業法務で知っておくべき税務上の問題点100」を上梓しました。

この本は,企業法務に特化して,弁護士がクライアントから相談を受けた際,問題となるべき税務問題,論点をピックアップし,その対処法についてまとめたものです。

一見,税務とかけ離れた案件であっても,隠れた税務問題が潜んでおり,それが落とし穴となって最終解決が困難となり,あるいは新たな紛争の火種となることもあります。

そこで,Q&A形式で,企業法務に関連する留意点・対応策を法務面,税務面から,わかりやすく解説することにしました。

事業承継,M&A,組織再編,海外取引,海外子会社管理,外国陣労働者に関する問題,取引先・役員等に対する債権,役員報酬,グループ会社間での取引,企業不祥事,破産・倒産などのテーマを取り上げています。

実務に役立つ,最新の内容であり,企業法務に携わる方や,弁護士・税理士の方々には,是非,参考にしていただきたいと思います。

中村和洋

ファクタリング取引の法律問題


job_bengoshi_man弁護士の荒木誠です。

長い間更新ができておりませんでしたが,今回はファクタリング取引の法律問題について解説します。

 

1 ファクタリング取引とは

 ファクタリング取引は,一般に,売掛債権などを保有する者が,債権買取業者(ファクターといいます。)に対して,その債権を売り渡す(譲渡する)取引であり,その後はファクターが買い取った債権の回収を行います。

 譲渡に際しては,一定の手数料が控除された後の金額が支払われるのが通常です。

 経済的には,売掛債権などを支払期日前に売却することで,早期に資金化できるという機能があります。

 

2 ファクタリング取引と貸金業法

 ファクタリング取引との関係でよく問題になるのは,貸金業法にいう「貸金業」に該当しないかという点です。

 貸金業法3条1項は,「貸金業を営もうとする者は…登録を受けなければならない。」と規定しており,「貸金業」に該当する場合は,登録が必要となります。

 そして,「貸金業」の定義については,「金銭の貸付け又は金銭の貸借の媒介(手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法によってする金銭の交付又は当該方法によってする金銭の授受の媒介を含む…)で業として行うもの」と規定されています(2条1項。ただし例外もあります)。

 カッコ書きにあるように,金銭の貸付けという形式でなくとも,経済的に貸付けと同様の機能を有する契約に基づく金銭の交付であれば,ここに該当することになります。

 ここでいう「業として行う」とは,通常は,①反復継続し,②社会通念上,事業の遂行とみることができる程度のものをいうと考えられています。

 この点について,最高裁判例は,「反覆継続の意思をもって金銭の貸付又は金銭の貸借の媒介をする行為をすれば足り、必ずしもその貸付の相手が不特定多数の者であることを必要としない」という判断を示しています。そのため,反復継続して行う意思があれば,実際に複数回貸付けを行っていることまでは不要であり,また,貸付の相手方が特定の少人数に限られたとしても,貸金業に当たる可能性は否定できないと考えられます。

 貸金業の該当性判断についてはケースバイケースとしか言えませんが,上記の見解を前提にすると,貸金業に該当する範囲は,実際には思いのほか広いのではないかと思われます。

 

 これをファクタリング取引との関係で考えると,ファクタリング取引は債権を売り渡す(譲渡する)という売買契約の形式によるため,貸金業法とは関係がないようにも思われるかもしれません。

 しかしながら,ファクタリングの体裁をとりつつも,実際には,譲渡した債権を担保として,金銭の貸付けをしていると評価できるものが少なくありません。

 これは,真正の債権譲渡なのか,実質的には貸付けと評価されるのかという区別の問題です。

 その区別にあたっては,様々な要素を考慮する必要があり,その判断は容易ではありませんが,主としては,ファクターが回収不能のリスクを負担しているか否かという点がポイントになると考えられます。

 なぜならば,真正の債権譲渡であれば,譲受人が回収不能のリスクを負うはずですので,ファクターが回収不能のリスクを負わないならば,債権は実質的には移転しておらず,担保のために譲渡の形式をとったに過ぎないものと考えられるからです。

 ファクターが回収不能のリスクを負わないようにする方法としては,例えば,回収不能となった場合に債権の買い戻し義務を規定したり,回収不能額を譲渡人が負担する旨の規定がなされることがありますので,そのあたりがポイントになります。

 仮に,実質的には貸付けであると評価された場合には,業として行ったときは,貸金業に該当しますので,登録をしないで行えば,貸金業法違反となります。また,ファクターが受け取る手数料は,利息にあたるものとして,利息制限法の問題にもなってきます。

 

3 給与ファクタリングについて

 給与ファクタリングとは,ファクタリングのうち,特に給与債権を譲渡するものですが,貸金業法との関係で問題があると考えられます。

 この点については,令和2年3月5日付で,金融庁から見解が出されています(一般的な法令解釈に係る書面照会手続に対する回答)。

要約しますと,

①給与債権は,譲渡したとしても,直接払いの原則(労働基準法24条1項)があるため,使用者は直接労働者に対し賃金を支払うことになり,債権の譲受人は,常に労働者に対して支払を求めることになる。

②そのため,金銭の交付だけでなく,譲受人による労働者からの資金の回収を含めたシステムが構築されているといえ,経済的に貸付け(金銭の交付と返還の約束が行われているもの)と同様の機能を有しているものと考えられる。

③したがって,これを業として行う場合は,貸金業に該当する。

というものです。

 したがって,貸金業の登録をせずに給与ファクタリングを行った場合には,貸金業法違反となります。

 実際に給与ファクタリングが問題となった裁判例として,東京地判令和2年3月24日がありますが,判決では,上記金融庁と同様の見解をとっています。

 

4 後払い(ツケ払い)現金化について

 給与ファクタリングにも関連する問題として,最近,金融庁などが連名で,後払い(ツケ払い)現金化について,注意喚起を行っています。

 後払い(ツケ払い)現金化とは,形式的には後払いによる商品売買だが,商品代金の支払に先立ち,商品の購入者が金銭を受け取るというものを指す,とされています。

 どのような名目で先に金銭を受け取るのかというと,キャッシュバック,レビュー報酬名目や,提携した買取業者が商品を買い取ることによる場合などが多いとのことです。

 このスキームについても,ファクタリング取引で貸金業法が問題となったように,貸金業に該当しないか,具体的には,商品売買が形式的であって,その実質が金銭の貸付けにあたるかが問題となると考えられます。

 この種の事案で裁判となったものは把握しておりませんが,取引全体を見れば,商品売買は形式的に過ぎないといえる事情は多いのではないか(商品購入後すぐに提携業者が買い取る,商品の価値と購入代金が見合っていないなど)と思われますので,実質としては金銭の貸付けであると判断される可能性が高いと考えています。

 また,後払い(ツケ払い)現金化は,高額な支払を強いられるなどの危険性がありますから,注意が必要です。

                                     以上 

民法学者・我妻栄先生


08092弁護士の渡邉です。

あれ?と気づけば,2021年も既に12分の1が終了。

春の立つ日ももうすぐですが,クリスマスよりもイブにスポットライトがあたりがちなように,立春よりも前日の節分の方がフューチャーされがちです。

そして今年は例年以上に,節分がアツい!

この35年間ずっと,2月3日を自分の居所として定めていた節分ですが,今年は何と2月2日にお引っ越し。

124年ぶり,2月2日の節分です(※ちなみに36年前は,2月4日が節分でした)。

(なお,節分が2月2日にずれるということは,当然,節分の翌日の立春の日取りもずれるわけで,実は今年は立春もアツい!のです。)

 

124年前といえば,ずばり,我妻栄(わがつま・さかえ)先生という,法学界に燦然と輝く金字塔・伝説の大民法学者のお誕生年。

「いやいや1世紀以上前の法律学者でしょ?この前120年ぶりに民法も大改正されたし,さすがにもう単なる伝説でしょ?」と思われた方は是非一度,honto(※amazonでもよいのですが,レモンジュースを飲みながら梶井基次郎気分を味わいたいならhontoがおススメです)にて,「我妻栄」のお名前でご検索ください。

なんと本年3月,民法大改正にも対応した我妻先生の最新刊「我妻・有泉コンメンタール民法 第7版 総則・物権・債権」(最新の民法条文の解説本)が発売予定です。

*画像は,現在販売中の第6版のものです。

 

もちろん我妻先生は,50年ほど前に鬼籍に入られています。

では何故,最新刊の著者なのか。

 

法律とは,実は条文だけで完結しているのではなく,氷山のように底部には深い世界が広がっており,これが法律の条文を支え,時には逆に条文を変えていきます。

この背後の世界を開拓し,整地をし,不要な部分を削り取り,そうこうしている内に一部が自然崩落し,整地し直し,さらに別の場所を開拓し,岩盤にぶつかり…というのが法学の終わらない営みです。そして現在目にすることができる法律の世界の景色の多くは,この営みの中でなされた偉大なる先人の開拓によっています。

 

上記の我妻先生のご著書には,共著者がいらっしゃいます(有泉亨先生・清水誠先生・田山輝明先生。なお,有泉先生と清水先生も鬼籍に入られています)。

すなわち,最新版で記載内容を時代の最先端にあわせてアップデートされた方のみならず,その以前の版を書かれた開拓者たちのお名前が著者として挙げられており,その先陣を切られたのが我妻先生なのです。

(※なお,以上は渡邉の個人的見解で,出版社である日本評論社の公式見解ではありません)。

 

というわけで,今年の節分は,翌月に届くコンメンタールを楽しみにつつ,事務所から福まきとして配られる(予定の)恵方巻きを頬張ってがっつり福を呼び込む予定でおります。

皆様もどうか良い節分を。福は内!

新刊紹介・新実務家のための税務相談(民法編)第2版


61D+C4GZy1Lこのたび,有斐閣から「新・実務家のための税務相談(民法編)第2版」が刊行されました。

このシリーズは,民法の個別のテーマ(時効や保証など)に沿って,民法と,税法それぞれに生じる問題点をコンパクトにまとめ好著です。

中村も,執筆者の一人に加わっています。

債権法や相続法で,大きな法改正がありましたので,それを受けて最新の内容になっています。

弁護士,税理士にとどまらず,企業の法務・会計担当者など,税に携わる実務家にとって,非常に参考になる本ですので,お勧めいたします。

薬物依存症について

drug_yakubutsu_mayaku_ranyou弁護士の髙田です。

今回は,薬物依存症についてお話します。

私は,プロボノ活動の一環として,毎年,数件の国選弁護事件を担当してきました。

国選弁護人として選任される事件は原則として,弁護士が内容をみてから選べるものではないので,必然的にさまざまな種類の事件を扱うことになります。

大阪で国選弁護を担当しているとどうしても再犯率の高い薬物事件を割り当てられる機会が多くなってしまいます(令和2年版警察白書によると,令和元年中に薬物事犯で1万3364人が検挙されています)。

 ここで改めて説明するまでもなく,覚醒剤などの違法薬物は仕事や身近な人の信頼など,有形・無形を問わず多くのものを失います。

薬物事犯で逮捕された人に警察署で接見すると,「前に捕まった後,もうやめようと思っていた」,「やめられたと思っていたのに,生活がうまくいかなくなって,つい手を出してしまった」などと後悔の気もちを伝えられる一方で,半ば諦めの言葉を口にする人も少なくありません。

「なんとか違法薬物から脱却して,今度こそは安定した生活を送ってもらいたい」と願っている弁護士としては,なんとも忸怩たる思いがする瞬間です。

そうした中で,「今度こそ薬をやめたいので,社会復帰した後には支援団体のお世話になりたい」という前向きな希望を伝えてくる人もいます。

もちろん,裁判で有利にみられたい,という動機による場合もありますが,本人がそうした希望をもっているのであればその気持ちに賭けてみたい,とも思うのです。

そうした場合,本人の話をよく聞いて特に意思が固そうであれば,弁護人として薬物依存症脱却支援団体に相談をお願いすることがあります。

 先日も大阪で活動されている支援団体を訪問して,相談に応じていただきました。

そちらではまず,「薬物依存症が病気であり,もはや自分自身の努力だけでは脱却することができない」ということを十分に理解させてから,薬物依存からの脱却を願う同じ境遇の仲間とともにグループカウンセリングなどのプログラムを地道に続けてもらっている,のだそうです。

社会復帰した後に,自ら,自由が制限される環境に飛び込むのですから,プログラムを継続することは利用者にとってとても厳しいものでしょう。

それでも真面目にプログラムを続けた人に関しては再犯率がとても低いとのことでしたので,私としても希望を抱くことができました。

 逮捕・勾留から裁判までの短い弁護活動の中で国選弁護人としてできることは限られます。

そうした中で本人に依存症脱却の決意をさせるためにも,できるだけ身内の方と連絡をとり,法廷で情状証人として語りかけてもらうようにしています。

「今度こそは立ち直ってもらいたい」と強く願っている人のためにも,薬物依存症の方には二度と同じ過ちをしないという決意を大切にして努力を続けてほしいものです。

フリー素材と利用規約


saiban_small_no_gavel弁護士の荒木誠 です。

最近,当ブログでもイラストを使用しようと考え,色々なフリー素材を探していたところ,やはり「いらすとや」のフリー素材は種類も多く,見た目的にも使いやすいかなと思っています。

法律関係では,裁判のイラスト(冒頭のイラスト)や弁護士のイラストなどは,色々な場面で使えそうです。

ところで,素材を使用するに当たって,サイトの利用規約を確認したのですが,利用者としては,いくつか注意すべき点があるなと感じました。

そこで,今回は,その利用規約も確認しながら,フリー素材の利用規約について考えてみます。

 

1 フリー素材と著作権との関係

一口にフリー素材といっても,単に無料で使える(ロイヤリティフリー)という意味で言っている場合もあれば,著作権フリーという意味で言っている場合もあるかと思います。

 つまり,フリー素材だったとしても,必ずしも著作者が著作権を放棄しているとは限りません。そのため,著作権が認められる素材については,利用方法によっては,著作権法違反となる可能性があります。

 「いらすとや」においても,素材は無料で利用できるものの,著作権は放棄していない旨記載されています。

 

2 利用規約とは

 フリー素材の作成者としては,多くの方に利用してもらいたいと考えるはずですが,想定外の使われ方をされては困るので,予め利用規約を定めて,利用方法を限定した上で利用を認めることが一般的かと思います。

 この点については,著作権法63条において,著作権者は,他人に対し,その著作物の利用を許諾することができるとし,許諾を得た者は,その許諾に係る利用方法及び条件の範囲内に於いて著作物を利用できる,と規定されています。

 ここで規定されているように,あくまでも,許諾された方法や条件の範囲内においてのみ利用が許されているに過ぎませんので,その範囲を超えた利用については,著作権法違反となる可能性がありますから,注意が必要です。

 

余談ですが,利用者に利用規約を確認させる方法としては,いろいろなパターンが考えられます。

例えば,①サイトのフッターに利用規約へのリンクを設置するパターン,②サービス利用の申込画面に利用規約を表示し,同意のボタンをクリックさせるパターンなど様々です。

サイトの運営側としては,きちんと利用規約を確認して利用してほしいと考えるのが通常かと思いますが,あまり手間が増えると利用者にとっては不便になりうるので,そのバランスが難しいところかと思います。

 

3 利用方法について

 利用方法としては,大きく分けて,個人が私的に利用する場合,商用利用をする場合が考えられます。

 どのような場合が商用利用に当たるかについては,サイトごとに考え方は様々あるようですが,大まかにいうと,利益を得る目的で使用される場合が想定されていると思われます。

 そして,商用利用については,サイトによっては別途費用がかかる場合もありますので,事前に利用規約を確認することが重要です。

 

例えば,「いやすとや」では,商用利用に関しては,無償で利用できる点数に制限を設けており,「書籍・チラシ・パンフレット・ウェブ・テレビ・パッケージ・電子書籍・動画・ソフトウェア・パワーポイントでのプレゼン・卒業アルバム・名刺など、媒体を問わず1つの制作物につき20点(重複はまとめて1点)まで商用利用をすることができます。」(よくあるご質問)と記載されています。

また,ここでいう制作物の個数をどう考えるかという点については,「一般的な企業のホームページや情報をまとめたサイトのように制作後に大きな変化のないサイトについては1サイトにつき20点までとなっております。商用のサイトであっても、宣伝以外のユーザーにとって有益なオリジナルのコンテンツが追加され続けるサイトの場合は、1記事ごとに20点までご利用いただけます。ただし無料で閲覧できるオープンなサイトに限ります。」(よくあるご質問)と記載されています。

そうすると,当ブログの記事のようなコンテンツについては,1記事が1つの制作物であると考えて,その1記事ごとに20点まで利用できると考えてよさそうです。

 

そのほか,リンクやクレジット表記の要否,加工の可否といった利用方法についても,サイトごとに異なりますので,事前に利用規約を確認する必要があります。

 

4 まとめ

 ネット上のフリー素材を利用するときも,事前に利用規約をきちんと確認して,正しく利用するように注意してください。

 なお,ネット上でフリー素材だとして表示されているものであっても,実際にはフリー素材ではない可能性もありますので,ちゃんと素材を提供する元のサイトを確認してから利用するようにしましょう。

 

 

 [l1]冒頭のイラストデータ

https://www.irasutoya.com/2013/07/blog-post_1377.html

LGBTの法律問題


lgbt_rainbow_flag近年,LGBTなどのセクシャル・マイノリティについて報道されることが多くなり,皆さんも目にしたことがあると思います。

数年前に,著名なお笑いタレントが,30年以上前に人気のあった,男性同性愛者を揶揄したようなキャラクターをテレビの企画で演じ,大きな批判を浴びたということがありました。

このようにLGBTに対する社会の意識は大きく変化しつつありますが,差別がなくなったわけではありません。

また,現代社会では,企業としても十分な配慮が必要です。 

なお,画像のイラストは,レインボーフラッグといって,LGBTの社会運動を象徴する旗です。

1 LGBTとは

LGBTとは,セクシュアル・マイノリティを表す言葉で,レズビアン(女性同性愛者),ゲイ(男性同性愛者),バイセクシュアル(女性も男性も性的対象となる人),トランスジェンダー(性的越境者)の頭文字をとったものです。

また,これら以外にも,性のあり方は多種多様です。

インターセックス・性分化疾患(産まれたときに身体的特徴だけでは男女判別ができない人たち),クエスチョニング(性自認や性的嗜好を確定しない,あるいはできない人たち),アセクシュアル(性的欲求のない人たち),Xジェンダー(性自認が男女二分になじまない人たち)などがあります。

「異性同士が好きになるのが正しい性のあり方である」という考え方は,現代の社会では一方的な見方にすぎません。

人間には,多種多様な性のあり方が存在しており,そこには善も悪も,本来的なものも非本来的なものもないのです。

2.企業に求められる配慮 ~ セクハラについて

ただ,セクシャルマイノリティである場合,世間一般から偏見の目で見られることをおそれ,自らのことを公にする(カミングアウト)ことを避けていることが多くあります。

そのため,例えば,職場で冗談めかして,「どうして結婚しないの。」,「ひょっとしてレズ?」などと発言することがあると,それはLGBTに対するセクシュアル・ハラスメントに当たります。

場合によっては企業に損害賠償義務が生じるのです。

諸説ありますが,日本では13人に1人がLGBTであるとの報告があります。

ですから,社内には,LGBTの人がいるかもしれないことを常に考えて,言動に気を付ける必要があります。

3.企業に求められる配慮 ~ セクハラ以外

日本では,同性間の結婚がまだ認められていません。

ですから,LGBTの人たちにパートナーがいる場合でも,法律上の配偶者にはなっていません

しかしながら,法律上の結婚をしていないとしてもパートナーとの共同生活は,その人にとってかけがいのないもので,男女間の結婚と何ら変わるものではありません。

したがって,配置転換を決める際にも,同性パートナーの存在を配偶者と同等に考慮する必要があります。

ですから,たとえば同性パートナーが病気で看護をする必要があるとの申出があるにもかかわらず,そのことを一切考慮に入れずに遠方への転勤を命じる配置転換命令をした場合には,それが裁量を逸脱した違法なものとなるおそれがあります

また,採用した男性従業員から,性同一性障害の診断書が提出され,「自分は女性なので,名前,制服,トイレ・更衣室の使用など,すべて女性として取り扱って欲しい。」と言われることも考えられます。

企業としては,他の従業員の抵抗があるのではないかと考えて,このような申出には困惑するかもしれません。

しかし,職場の実情に応じて可能な範囲で,従業員の性自認に配慮した職場環境や労働条件を整えることが必要です。

たとえば,名前や制服などは本人の性自認に直接かかわるものであり,企業に不利益を生ずるものとはいえません。

ですから,原則として本人の希望に従った対応が必要でしょう。

トイレや更衣室のように他の従業員と調整が必要な事項については,どうでしょうか。

すぐには実現できないとしても,職場全体の環境改善の問題として,本人の話もよく聞きながら,周囲の理解を得るよう努め,時間をかけてでも対応をしていく必要があります。

この点,性同一性障害の男性労働者に対して,本人の希望する女性の容姿,名前での就労を禁止した上で,それに逆らった当該労働者を懲戒解雇した事例について,懲戒解雇が無効と判断された裁判例があります(東京地方裁判所平成14年6月20日決定)。

4.同性パートナー間の法律問題

同姓パートナーと生活している人が,老後の問題を心配したり,相手に財産を遺したいというような場合があります。

法律上の結婚ができないため,養子縁組をしているケースがありますが,実はそれにはリスクがあります。

養子縁組は,「親子関係」を築くための制度ですので,同性カップルの場合には,果たして法律上の養子縁組の意思があるといっていいのか,問題となる可能性があるからです。

しかも,養子の場合は相続権が100%となりますので,実際に相続が発生した場合に,兄弟や親など他の相続人となり得る人から,養子縁組の無効が主張されて,争いになるリスクがあるのです。

そこで,公正証書遺言や,任意後見契約を活用して,トラブルを未然に防ぐことが大切ですが,現行法上では限界もあります。

例えば,アメリカ合衆国や,イギリス,ドイツ,オランダなど欧州諸国,またアジアでも台湾で,同性婚が認められています。

日本でも,東京都渋谷区を始めとして,大阪市でも同性パートナーを公的に証明する制度が採用されています。

私見としては,同性間であっても結婚を認めるべきだと考えていますので,日本でも制度の改正が望まれるところです

文責:弁護士中村和洋

法律の中の幽霊


お化け弁護士の渡邉春菜です。

8月が過ぎ去り,9月が到来しました。

体温より高い外気温にとろけそうな日々もようやく終盤。

とはいえ,週間予報を眺めれば,予想最高気温は35度前後にべったり張り付き,秋の姿は未だ見えず。

せめてウェブ空間の中だけでもひんやりとした涼を演出すべく,本日は「幽霊」のお話です。

 

なお,当業界(法曹界),実にさまざまな紛争を扱いますため,「幽霊よりも人間の方が怖い」というご発言をされる方が大変多いのですが,幽霊よりも恐ろしい人間のお話は,涼しさを通り越して凍り付きそうになりますので,本ブログでは省略させていただきます。

 古今東西,幽霊の存在は,多くの人により信じられ,語られ,研究されてきました。しかし,現在においてもその存在は証明されていません。

現代の日本の法律でも,幽霊なるものは存在しないことになっています。

「幽霊」という文言が載っている法律は,寡聞にして存じません。

はりめぐらされた法の網も,幽霊には及んでいません。

民法には3条1項に「私権の享有は出生に始まる」という大変格調の高い条文があります。

これは要するに「人は生まれながらにして,私法(民法等)で認められた諸権利(人格権・財産権等)を有しうる」という意味なのですが,同時に「人は亡くなったらこれらの諸権利を有する資格を失う」ということを意味します。

つまり,幽霊に「権利」はありません

刑法では,主に「者」(≓人)に対する処罰を定めていますが,亡くなった方はこれに含まれません。つまり,幽霊は処罰されません。

 

現在の法律は基本的に「幽霊は存在しない」という前提で作られ,運用されています。しかし,法律の話をしている際に「幽霊」が一切登場しないかというと,実は登場シーンがないではないのです。

いわゆる「事故物件」,例えば,居住用マンションの一室で居住者が亡くなり,その後その部屋には「幽霊が出る」という噂が絶えず次々に入居者が変わっていたものの,そうとは知らずにこれを購入してしまった方がいるとします。後からこの事実を知った購入者は,(一定の条件を満たせば)民法に基づき,売買契約を解除したり売主に損害賠償請求等をすることが出来ます。 

 

今年4月に改正される前の民法(改正前民法)では,「売り物に『瑕疵』(読み方:かし,意味:キズ)があった場合,一定の条件を満たせば,購入者は売主に対して売買契約の解除や損害賠償請求ができる」となっていました(改正前民法570条)。

売り物にキズ(瑕疵)がある」とは,「この手の売り物には一般的に×××という品質や性能があるけれども,この売り物にはそのような品質や性能がない」という状態です。

例えば,白雪姫がリンゴ売りから買ったリンゴが毒入りの場合,このリンゴには「キズ(瑕疵)」があります。

通常売られているリンゴは食べることができますが,白雪姫が買ったリンゴは毒が入っていて食べることが出来ないものだったからです。

この「キズ(瑕疵)」は,「買ったリンゴに毒が入っている」とか,「買ったマンションが雨漏りする」等の物理的なものに限られません。

心理的瑕疵」,つまり,「売り物の物理的な性能等に問題があるわけではないけれども,購入を考えている人が『そんな事情があるなら買いたくない!』と強い心理的抵抗を感じやすい事情」も含まれます。

以前の居住者がこの部屋で亡くなっていて,以後幽霊が出るという噂が絶えない」というのも,この事情の一つにあたり得ます。 

したがって,このような部屋を買ってしまった場合,(一定の条件を満たせば)契約の解除や損害賠償請求が出来ることになるのです。

 

なお,この4月に改正された民法では,瑕疵に関する売主の責任が定められた旧民法570条(瑕疵担保責任の定め)が削除されました。

しかし,代わりに「契約不適合責任」という条文(改正後民法565条)が新たに出来ました。

そのため,上記のような心理的瑕疵に関する考え方は,基本的に変わらないと思われます。 

ただ,変更点が一つあります。 

第一に,説明の仕方。「この手の売り物は一般的に×××という品質や性能を持っているけれども,この売り物にはそのような品質や性能がないから,この売り物にはキズ(瑕疵)がある」という説明の仕方が,「この手の売り物は一般的に×××という品質や性能を持っているけれども,この売り物にはそのような品質や性能がないから,この売り物は契約不適合(=売買契約に適合した売り物ではない)」という説明に変わります。

第二に,購入者が売主に何を請求できるかです

改正前は①契約解除②損害賠償請求が出来るとなっていましたが,改正後は,これらに加えて,③売買代金減額請求が可能になります。(ごく例外的なケースになるとは思いますが,場合によっては)④代替物の引渡請求(=同じような部屋を引き渡せとの請求)も可能かもしれません。

 

以上,本日は,法律の世界に出てくる幽霊のお話でした。

怪談的ひんやり感を楽しんでくださった方,サムさを感じられた方,いずれも,まだまだ続きそうな暑さに負けないようご自愛ください。

イラスト作画:中村和洋

 

個人情報保護について


 みなさんは官報をご覧になったことはありますか。

 官報では,法令の公布が行われるほか,閣議決定事項や叙勲・褒章に関する事項といった国の広報,地方公共団体や裁判所の公告事項などが広く掲載されます。

 実は,行政機関の休日を除いて毎日発行されており,紙媒体のほかにインターネットでも過去30日間分を無料で閲覧することができます。

 司法試験合格者の氏名が掲載された官報などで購入希望者が殺到することもありますが(私も1部入手しました),大半は官公庁や図書館などで定期購読されているだけですから,実際に目にされる機会は多くないかもしれません。

 そんな官報には,破産手続開始決定の公告として,破産者等の個人情報が掲載されます(破産法32条)。

 破産手続は,債権者に多大な負担をかけて債務者の財産関係を清算するものですから,個人情報の公告自体はやむを得ないところですが,当然,その個人情報は本人にとっていつまでも自由に知られてよいという情報ではありません。

 7月29日,国の個人情報保護委員会は,官報から収集された多数の破産者等の個人情報をウェブサイトに掲載している2事業者に対し,個人情報保護法に基づき,当該ウェブサイトを直ちに停止するように命じました

 個人情報保護法は,個人情報の収集に際して本人に対する利用目的の通知・公表を義務づけていて(個人情報保護法18条),個人情報を第三者に提供するには,原則として本人の同意を得なければならないと定めています(同法23条1項)。

 今回,停止を命じられたウェブサイトは,これらに違反しているとして是正勧告を経て停止命令に至りました。

 たしかに,破産者の情報を知りたいという需要が存在することは理解しますが,破産者の個人情報が蔑ろにされてよいということにはなりません。

 (私にはおよそ信じられないのですが,)アイドルやプロ野球選手などの自宅住所が雑誌に公開されていた時代とは異なり,現在は,卒業アルバムですら住所の記載がされなくなるほど個人情報の重要性が浸透しています。

 そうすると,一度は官報に掲載された情報であるといえども,破産者の個人情報も保護されるべきといえます。

 ところで,今回ウェブサイトの停止が命じられた2事業者については,所在不明となっているようです(そのため,公示送達の方法により命令の効力が生じています)。

 インターネット上で個人情報が公開された場合の被害回復の難しさを感じさせられるニュースとなりました。

(文責:弁護士 髙田脩平)