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プロフェッショナルを目指す人の税務判例入門


税務判例入門今年1月に,経済産業調査会から,「プロフェッショナルを目指す人の税務判例入門」を上梓しました。

税務のプロフェッショナルを目指す人達のために,重要な税務判例を取り上げ,ポイントを解説しました。

若手の公認会計士,税理士,税務を担当する弁護士,企業法務担当者,金融機関関係者にとって役立つ内容になっています。

税法のあらましや判例解説の合間には,「賭博と課税」,「暴力団と課税」,「司法試験と税法」,「国税職員と税法」などの読みやすいコラムも挿入しました。

税に少しでも関心のあるビジネスマンや経営者,大学等で税法を学んでいる学生の方にもおススメですので,書店で見かけられましたら,是非手に取って下さい。

 

 

永田眞三郎先生のこと(追悼)


nagata今年11月10日,関西大学元教授の永田眞三郎先生がご逝去され,本日お別れの会がありました。

永田先生は京都大学大学院卒業後,関西大学で民法の研究・教育に携わられ,2000年から2003年までは学長を務められました。

私は学生時代,永田ゼミに所属していました。

温厚でありながら時に厳しく,学生思いの教育熱心な先生でした。

私は,司法試験の勉強をしていましたが,4回生のとき,そのまま就職せずに受験勉強を続けるべきかどうか,非常に悩んでいました。

私は父親が40歳のときに産まれた子でしたので,当時,既に父親は会社を退職し,収入がありませんでした。

そのため,私が就職もせずに受験勉強を続けることは,家族に大変な迷惑をかけてしまうのではないかと思っていたのです。

ある日,私の両親が永田教授に面談をする機会をいただきました。

そのときに,永田先生から「私はたくさんの学生を見てきているが,中村君はきっと司法試験にパスする。」と言ってくださいました。

それを聞いて私は心から嬉しく,必死で勉強をがんばろうと思いましたし,また,両親も私が就職活動をせずに勉強を続けることを許してくれました。

今でもご恩に感謝しています。

私の父親は旧制中学卒,母親は定時制高校卒でしたので,大学教授のような偉い人に会ったことがなく,大変緊張していたそうです。

しかし,面談から,帰ってくるなり,「大学教授ってどれくらい固くて怖い人かと思ってたけど,すごく紳士で,優しくて話しやすい方で安心した。」と言っていました。

私がその後,検事,弁護士となってからも,永田先生の還暦や古稀のお祝いなどでお会いし,近況を報告していました。

学長をされているときは大変お忙しそうでしたが,数年前には再びゼミ生を教えることになったと言われ,嬉しそうにされている様子から,「先生は,本当に学生が好きなんだな。」と思いました。

大変わかりやすい授業で,書かれた教科書(有斐閣Sシリーズ「民法Ⅲ」,「エッセンシャル民法2,3」など)も読みやすく,かみくだいた内容で非常にありがたかったことを覚えています。

晩年まで病気を抱えつつも常務理事として関西大学の運営に協力されており,無理をされたのではないかなと思います。

享年74歳でした。ご冥福をお祈りいたします。

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刑事訴訟法改正について②


 弁護士の荒木誠です。

 前回に引き続き,改正刑訴法の解説をいたします。

 改正刑訴法においては,「捜査・公判協力型協議・合意制度」(いわゆる司法取引)と「刑事免責制度」が導入されることとなっており,平成30年6月までの施行が予定されています。

(1)捜査・公判協力型協議・合意制度(いわゆる司法取引)

 これは,被疑者・被告人が,検察官との間で,共犯者などの犯罪について協力をする代わりに,自らの処分に関して恩恵を受けることを協議・合意する制度です(350条の2以下)。

 例えば,ある犯罪の補助的な立場の人物が,主犯格の人物の行った犯罪の内容について供述したり,証拠を提供する代わりに,起訴猶予処分を受けるというような場合です。

 ただ,これは,どのような犯罪でも利用できるわけでなく,一定の財政・経済関係犯罪や薬物銃器犯罪などに対象犯罪が限定されています

 例えば,贈収賄,詐欺,恐喝,横領,租税に関する法律違反,覚せい剤取締法違反などの犯罪です。

 他方,生命・身体に対する犯罪や性犯罪などについては,刑の減免を認めるのは正義に反するので,対象犯罪から除外されました。

 協議を行う際には,弁護人が関与することが必須とされており,最終的に合意をする場面でも弁護人の同意が必要されています。

 

2)刑事免責制度

 証人には自己の刑事責任につながる事項については証言拒絶権があります。

 刑事免責制度は,証言を証人への不利益な証拠として使わない代わりに,上記の証言拒絶権を失わせて,証言を強制させるという制度です(157条の2以下)。

 協議・合意制度との違いは,対象犯罪の限定がなく,合意が必要でないなどの点です。

 手続としては,検察官が,得ようとする証言の重要性,関係する犯罪の軽重などを考慮した上で,刑事免責による証人尋問を請求します。

 裁判所は,原則としてこの請求を認めなければなりません。

 仮に,刑事免責が決定されたにもかかわらず,供述を拒否した場合には,証言拒絶罪として,1年以下の懲役又は30万円以下の罰金となります。

 

(3)まとめ

 これらの制度については,他方で,この制度は,自らが有利な処分を受けようとして,虚偽供述を誘発するという危険性があると指摘されています。

 そのため,えん罪の温床となることのないよう適正な運用が求められるところで,我々弁護士も十分注意する必要があると考えています。

 

刑事訴訟法改正について①


写真(弁護士荒木) 弁護士の荒木誠です。

 昨年刑事訴訟法の一部が改正されましたので,本ブログにて,その解説をします。

  1 はじめに

えん罪」―近年,この言葉をテレビや新聞などで耳にする機会も多いのではないでしょうか。

 刑事手続における鉄則として,「10人の真犯人を逃すとも,1人の無辜を罰するなかれ」というものがあります。

 これは,たとえ10人の真犯人を逃したとしても,1人も無実の罪で罰せられること(えん罪)があってはならないという意味です。

 えん罪被害を防ぐためには,広く取調べを可視化し,手続の適正化を図ることが強く要望されるに至っています。

 

2 改正刑事訴訟法の成立

 平成28年5月24日,時代に即した新たな刑事司法制度の構築をするため,「刑事訴訟法等の一部を改正する法律が成立し,同年6月3日に公布されました。

 本改正の主要な内容としては,

 ① 取調べの全過程における録音・録画制度の導入

 ② 証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度(いわ ゆる「司法取引制度」)等の導入

 ③ 通信傍受の合理化・効率化

 ④ 裁量保釈の判断に当たっての考慮事由の明確化

などがあげられます。

なお,これらの改正は,現時点で既に施行されているものもありますが(④など),まだ施行されていないものもあります。

 例えば,①取調べの全過程における録音・録画制度の導入は,公布日から3年以内,②司法取引の導入については,公布日から2年以内の施行が予定されています。

 ここでは,上記改正点のうち,①取調べの全過程における録音・録画制度の導入について解説をします。

 

3 取調べにおける問題点

 取調べの目的は,被疑者から事件に関する事情を聞き取りなどし,起訴・不起訴を判断することにあります。

 自白は,事件の全体像を把握し,動機等の主観面を立証するために重要な証拠であるため,取調べで自白を獲得することが重視されてきました。

 他方で,取調べ室が密室であり,その中で取調官と長時間を過ごすなどの性質があるため,自白の強要がなされたり,被疑者が取調官に迎合するなど虚偽自白が生じやすい状況があります。

 そこで,今回の刑訴法改正では,取調べへの過度の依存からの脱却が目的とされ,取調べの録音・録画制度が導入されることになりました。

 

4 取調べの全過程における録音・録画制度の導入

(1)制度の概要

 捜査機関は,逮捕・勾留中の被疑者に対しての「対象事件」について,取調べをするときには,原則,取調べの全過程の録音・録画が義務付けられることになりました(刑訴法301条の2第4項)。

(2)制度の対象者及び対象事件

 しかし,本改正では,全ての事件について,録音・録画が義務付けられたわけではありません。

 まず,逮捕・勾留中の被疑者に限定されており,在宅の被疑者については義務がありません。

 そして,対象事件は,いわゆる「裁判員裁判対象事件」と「検察独自捜査事件」の2類型に限定されています。

 ここでいう「裁判員裁判対象事件」とは,死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件などの裁判員裁判の対象となる重大事件をいいます。

 「検察独自捜査事件」とは,いわゆる特捜部が単独で捜査を行う事件などをいいます。

(3)例外事由

  録音・録画義務が免除される例外事由も規定されています。

 例えば,

 ① 機器の故障などで記録ができないとき

 ② 被疑者が記録を拒んだことなどにより,被疑者が十分な供述をすることができない場合

 ③ 暴力団構成員による犯罪である場合

などです。

(4)まとめ

  取調べの録音・録画制度が導入されることになったものの,全ての事件に適用があるわけではない点には留意が必要です。

 また,実際の運用については,現時点では不透明な部分も多いため,動向を注視していく必要があるといえます。

 

 

5周年記念講演会&懇親会


IMG_02919月8日(金)に,ホテル阪急インターナショナルで,顧問先企業の方々をお招きして,講演会を開催いたしました。

約30名の方にお集まりいただき,コンプライアンス契約書作成の注意点等の講演を行いました。

また,その後の懇親会では,顧問先企業相互の貴重な交流の機会となり,喜んでいただくことができました。

山あり谷あり,日々勉強を続けている中での,あっという間の5年間でしたが,これからも精進し続けます。

今後とも,よろしくお願いいたします。

 

 

 

新刊(著書)紹介~新実務家のための税務相談(民法編)


51hsTKFfkYL先月22日に,私(中村和洋)も執筆者として参加した「新実務家のための税務相談(民法編)」が有斐閣から上梓されました。

この本の前身となった「実務家のための税務相談・民法編」は,目からウロコが落ちるほど新鮮な切り口で面白く,私も,以前から座右の書としていました。

今回内容を一新し,よりわかりやすく幅広いテーマに触れられています。

今回,監修者の三木義一教授から,執筆者の一人として声を掛けていただき,大変嬉しく思っています。

さて,この本は,民法の体系に沿って,法律の説明をするとともに,税法の分野ではどうなっているかを解説したもので,他に類書のない,非常に興味深い内容となっています。

税理士・公認会計士が民法の基本的理解を確認し,また,弁護士が様々な法律問題においてどのような税務問題が生じるかを押さえておくには,うってつけの書籍といえます。

最近一部改正された民法の内容にも対応しており,また,税法を学び始めた大学生司法修習生,また,税に関心のあるビジネスマンにとっても有益な内容ですので,お薦めいたします。

 

法廷の棋士


385126_373438906066333_1831526574_n最近,中学生プロ棋士の藤井聡太四段が連勝を伸ばしたり,また,映画「3月のライオン」が話題になるなど,将棋ブームが到来しています。

私も,ちっとも上達しないものの,長年,将棋を趣味の一つにしています。

今から15年ほど前,大阪法務局で訟務検事をしていたときに,局内の雑誌に将棋をテーマにしたエッセイを載せてもらったことがありました。

古いデータを整理していると,当時の原稿を発見しましたので,せっかくなので,このブログに再録します。

 

「     法廷の棋士

第1 将棋と訴訟の共通点
 

私は,最近,将棋にはまっています。

どうしてかというと,実は,趣味である将棋と仕事である訴訟活動とが,大変よく似ているからです

このように言うと,「えっ?そうかなあー。」と思われるかもしれませんが,私はあえて断言させていただきます。「似ているのです!!」

以下,その根拠について述べたいと思います。

ここで,将棋をよく知らない人のために簡単に説明します。

 将棋とは,2人で対戦するゲームで,王将や,飛車,角行,金将,銀将等といった駒を持ちあいます。

そして,これらの駒をうまく動かして,自分の王将を取られないように注意しながら,相手の陣地を攻撃し,敵の王将をスリリングに追いつめていくところが,将棋のおもしろさです。
 

さて,ここで話を元に戻して,将棋と訴訟の共通点です。

①戦略・戦術の選択
    

将棋も訴訟も,自分と相手は対等の立場で戦いますので,実際に指す人(訴訟活動を行う指定代理人)の手腕が,勝負を決めるに当たり,かなりのウェイトを占めます。 
    

それはすなわち,相手に勝つために,一番効果的な戦略・戦術を選択しなければならないということです。

つまり,国が勝つために,どのような法律的な主張を組み立てるか。例えば一番説得力のある主張に絞ってがっちりと組み立てるのか,それとも思いつく限りのいろいろな主張を派手に行うのか。

ある事実を立証するためにどのような証拠を用いてどのような方法で立証していくか。例えば書証だけで固く守るのか,証人を探し出して積極的に攻めるのか等等・・・。

難しい事件になればなるほど,以上のような選択肢はたくさんあり,訴訟の行く末については,指定代理人の腕の見せ所が増えていきます。
    

これは,あたかも将棋の場合における,矢倉や穴熊戦法でがっちり固めるか,棒銀で軽快に攻めるか,終盤で綺麗に詰ませるか,堅く必死をかけるか,渋い受けの手を指すか等という戦略・戦術の選択にとてもよく似ています。

② パズル的要素
       

また,将棋で強くなるためには,王将を詰ませる訓練として詰将棋(よく新聞等に載っているパズルのようなもの)をたくさん解く必要があります。
       

常日頃,私は,色々な事件について,どうすれば最も効果的に裁判所を説得できるか考えつつ準備書面を起案しているとき,これは難解な詰将棋を苦労して解くことと似ているなあと思っております。

③勝ち負け
       

また,将棋も訴訟も結果に勝ち負けがあり,国の正当な主張が裁判所に受け入れられて勝訴したときには,やはり,将棋に勝ったときと同じようにうれしいものです。

以上の共通点から,私は,将棋で勝つコツを訴訟に応用できるのではないかと考えています。

将棋には,「格言」というものがあって,指し手に困ったときの道しるべの役割を果たします。

例えば,将棋では,「桂馬の高跳び,歩のえじき」という格言があり,これは,桂馬という駒は後ろに戻れないので,前に出すぎてしまうと,歩という一番弱い駒に取られてしまうというものです。

これを訴訟に応用すると,「主張の高跳び,相手のえじき」となります。
     

これは,つまり訴訟でいったんした主張は,場合によっては「自白」となってしまい,なかなか後で撤回することが難しいため,よく考えずに調子に乗って主張をしてしまうと,相手にそこをつかれてピンチに陥るということです。
    

それから,将棋の「金底(きんぞこ)の歩(ふ),岩より堅し」→訴訟では「国の主張,岩より堅し」。これは,国が主張する以上は,岩よりも堅い主張を慎重に行う必要があるということ。
  

将棋の「寄せは俗手で」→訴訟では「反対尋問は俗手で」。これは,証人に対する反対尋問というものは,格好よく決めようとするよりは,むしろ,具体的な事実を俗っぽくネチネチと聞いた方が意外と効果的ということ。
     

この他,将棋の「攻めるは守るなり」,「うますぎるときは注意せよ」,「助からないと思っても助かっている(by私の尊敬する大山康晴15世名人)」という格言は,そのまま訴訟に応用できそうです。

 

第2 結論 

以上のように将棋と訴訟には多数の共通点があります。
  

そして,将棋に強くなるためには,数々の定跡・手筋を覚えるという努力,接戦で最も有利になる一手を見つけだすという思考力,終盤の苦しい場面でも勝ちを信じてねばり強く考え抜くという忍耐力を身につければなりません。

これらの努力,思考力,忍耐力は,訴訟活動を行う指定代理人に即して言えば,数々の法律・判例を勉強する努力法律上・事実上の問題について最も適切な主張・立証方法を見つけだす思考力敗訴が濃厚となっても勝訴を信じてねばり抜く忍耐力に当たります。
     

そのような能力を身につけた指定代理人を,私は「法廷の棋士」と,心密かに呼んでいます。
    

 私は,まだまだ法律家として未熟ですが,この「法廷の棋士」になるべく,日夜,将棋を学んでいます(アレ?)。
    

ですから,私が,昼休みに同僚と将棋をしていても,出張途中の新幹線で将棋の本ばかり読んでいても,それは,決して遊んでいるのではなく,全て訟務の仕事のため,ひいては国のためにやっていることだと(特に〇〇訟務部長ほか幹部の皆々様方に)ぜひご理解いただきたいと思う次第です。」
 

 

 

スクールロイヤーとは


私(中村)は,一昨年,地元の公立小学校のPTA会長を務めさせていただきました。

それまで授業参観や運動会の見学に行ったことがあるくらいで,学校のことは何も知りませんでした。

しかし,PTA会長として校長先生や教頭先生とも直接話をする機会も多くなり,先生方がどんなことで苦労をされているのか,いわば学校の裏側を知ることができました。

おかげで,弁護士としても貴重な知識・経験を得たと思っています。

さて,一般的に,学校においては,実は色々な法的な問題が関係します。

いじめなど子供同士の関係,近隣住民や保護者からの苦情やクレームへの対応,教員の子供への体罰など問題のある言動,教員間でのパワハラやセクハラ学校内での事故などです。

それらが実際に発生した場合への対処だけでなく,どう予防するかという問題もあります。

学校の先生方は,多忙な中,上記のような色々な問題への対応に追われていますが,専門家からの適切なサポートを得られていないというのが実際のところです。

そこで,学校に対して継続的に法的なアドバイスを行う弁護士が必要だと言われています。

これを「スクール・ロイヤー」といいます。

例えば,保護者からの不当なクレームを例に挙げます。

一般企業であれば,不当なクレームには毅然とした対応をすればよい,一切応じる必要がないというアドバイスをすれば足りる場合がほとんどです。

しかし,学校の場合は,子供の教育を継続的に行っていく関係上,保護者との信頼関係の醸成が不可欠です。

そこで,子供にとって最善の利益となることを一番に念頭に置きつつ,保護者との継続的な信頼関係に努めなければなりませんが,かといって,学校側,特に矢面に立つ教員に過大な負担をかけないようにしなければなりません。

それには教育にも理解のある法律の専門家が,法的な観点から第三者の目で学校に協力していく必要があります。

弁護士はこのような役割を期待されています。

また,いじめ,パワハラ,セクハラ,学校事故があった場合の事実調査や法的責任の判断については,法律家の助言は欠かせません。

最近では,LGBTなど性差別への対応も必要となっています。

学校での教育現場を垣間見た経験を,今後の弁護士活動にも生かしていきたいと考えています。

 

 

 

GPSを利用した捜査について


本日,最高裁大法廷が,令状によらずに対象者の自動車にGPS端末を取付けて,その移動状況を把握するという捜査(GPS捜査)について,違法であるとの判断をしました。

一審の大阪地方裁判所は,令状を取ることなく,このような捜査をすることは違法だと判断していました。

これに対して二審の大阪高等裁判所では,尾行や張り込みと同様の任意捜査だから令状がなくとも適法であるとし,判断がわかれていました。

最高裁は,個人の所在と移動状況を逐一把握するGPS捜査は,個人のプライバシーを侵害するもので,令状がなければ行い得ない強制捜査に当たると判断しました。

その上で,令状にどのように記載をして特定するのか(犯罪と関係のない行動まで把握されてしまうことになる),性質上,令状を提示することができないとしても,それにかわる公正な手続の担保の手段をどうするか,という問題があるので,新たな立法が必要としました。

GPS捜査は全国の警察で行われており,令状が必要かどうか,議論が分かれていましたが,最高裁が決着をさせました。

今後,おそらく法務省は,刑事訴訟法の改正,あるいは特別な立法で,GPSの捜査を可能とする制度の検討に入ると思われます。

窃盗団などの重大犯罪の捜査のためには有益な捜査だと思いますが,濫用されてしまうと,市民生活が警察の監視下に置かれる危険性があります。

盗聴の場合も同じくプライバシーとの関係で議論がありましたが,立法により,一定の組織犯罪の場合に限って許されることになりました。

GPS捜査の場合も,必要と考えられる犯罪類型を限定すること,必要性を慎重に審査することなどで,捜査の必要性と市民の自由との調和が図られる形での立法が望まれます。

 

 

 

無罪事件(暴行罪)のご紹介


 はじめに

甲市議会議員であったXさん(仮名)は,平成23年2月28日に暴行罪により略式命令を受けましたが,平成24年9月26日に無罪判決がなされ,その判決は確定しました。

私(中村和洋)は主任弁護人を務めていましたが,この事件は,警察,検察が捜査を完全に誤ったもので,Xさんはえん罪の被害者であるといえます。

以前の事件ではありますが,二度とこのようなことが起こらないように,Xさんのご了解の下,本ブログで紹介をいたします。

2 起訴された事実

Xさんが,起訴された事実は,以下のようなものでした。

「被告人は,身近で世話をしてその更生のための面倒を見ていたA氏に対して,その態度が悪いなどとして立腹し,

(1)平成22年9月21日午後7時30分ころ,大阪府内の会社事務所内において,同人に対し,その顔面を2回足蹴にする暴行を加え(以下「第1事件」といいます。)

(2)同月22日午前10時頃から同日午後零時ころまでの間,大阪府内の道路を走行又は停止中の自動車内において,同人に対し,平手及び側掌部でその顔面を数回殴打する暴行を加え(以下「第2事件」といいます。)

たものである。」

3 捜査について

本件は,まず,A氏が警察に傷害事件として被害届を提出したことにより,捜査を開始されました。第1事件については,A氏が被害にあったという自らの供述のほか,A氏の両親が目撃したと供述していました。第2事件については,A氏の供述のみが証拠でした。

警察は,このようなA氏やその両親の供述のみを鵜呑みにして,捜査を開始したのです。

しかも,A氏は,第1事件や第2事件で怪我をしたとして,鼻骨骨折の診断書を提出したものですが,実は,それは何年も前のA氏の自傷行為によるものでした。

警察は,怪我の裏付けについて確認すらしないまま,平成23年2月7日に,Xさんを突然逮捕し,その後,20日間にわたって勾留したのです。

その当時,Xさんは,甲市議会への立候補を予定しており,その準備中でした。

取り調べに対して,Xさんは,事実を否定していましたが,警察官から,このままでは外に出られないなどと脅迫されました。

Xさんは,このまだと自分は立候補ができなくなり,周囲の人に大きな迷惑をかけてしまうと思いました。

その結果,嘘の自白調書に署名させられてしまったのです。

事件の送致を受けた検察官は,Xさんが自白をしているとして,A氏の供述の不自然な点などを見過ごしました

そして,検察官は,証拠をきちんと吟味しないまま,安易に略式起訴をしたのです。

4 公判について

その後,Xさんは,略式裁判に対して異議申立をして,裁判で無罪を争いました。

Xさんを取り調べた警察官や,検察官尋問の結果,彼らが証拠の検討を怠ったまま,杜撰な捜査や取り調べを行なっていたことが明らかになりました

また,A氏やその両親を証人尋問した結果でも,彼らの証言内容は,不自然でころころと変遷するようなものでした。

しかも,A氏は以前から薬物の使用による影響から妄想や虚言が多いことも,明らかになりました。

Xさんは,保護司を務めていたこともあり,これまで,そのようなA氏を身近に置いて世話をしていました。

しかし,事件があったとされる当時,A氏の一向に改まらない生活態度をみかねて,実家に帰るように言ったのです。

そのため,A氏には,Xさんを逆恨みして,嘘の被害申告をする動機もありました。

その結果,判決では,A氏やその両親の証言は全く信用できないものとして,Xさんは無罪となったのです。

検察官は,当然,控訴できませんでした

当時,Xさんは,治療薬の副作用による難病に苦しんでおられ,重度の咀嚼機能障害により,肉体的にも大きな苦痛を受けていました。

そのような中で,このような裁判の負担は非常に大きなものでした

5 今後の課題

昨今,取り調べの可視化ということが,大きな話題になっており,平成28年度の刑事訴訟法の改正では,一部例外を除いて,取調べについて録音・録画するという制度が採用されました。

これまでの密室による捜査官の取り調べが多くのえん罪事件を生んできました。

今回の事件のように,基本的な捜査や証拠の検討を警察,検察が怠ることで,誤った起訴がされてしまうこともあります。

今後,このようなことが二度と起こらないように,更なる捜査の近代化が強く望まれます。