PAGE TOP ▲

法廷の棋士


385126_373438906066333_1831526574_n最近,中学生プロ棋士の藤井聡太四段が連勝を伸ばしたり,また,映画「3月のライオン」が話題になるなど,将棋ブームが到来しています。

私も,ちっとも上達しないものの,長年,将棋を趣味の一つにしています。

今から15年ほど前,大阪法務局で訟務検事をしていたときに,局内の雑誌に将棋をテーマにしたエッセイを載せてもらったことがありました。

古いデータを整理していると,当時の原稿を発見しましたので,せっかくなので,このブログに再録します。

 

「     法廷の棋士

第1 将棋と訴訟の共通点
 

私は,最近,将棋にはまっています。

どうしてかというと,実は,趣味である将棋と仕事である訴訟活動とが,大変よく似ているからです

このように言うと,「えっ?そうかなあー。」と思われるかもしれませんが,私はあえて断言させていただきます。「似ているのです!!」

以下,その根拠について述べたいと思います。

ここで,将棋をよく知らない人のために簡単に説明します。

 将棋とは,2人で対戦するゲームで,王将や,飛車,角行,金将,銀将等といった駒を持ちあいます。

そして,これらの駒をうまく動かして,自分の王将を取られないように注意しながら,相手の陣地を攻撃し,敵の王将をスリリングに追いつめていくところが,将棋のおもしろさです。
 

さて,ここで話を元に戻して,将棋と訴訟の共通点です。

①戦略・戦術の選択
    

将棋も訴訟も,自分と相手は対等の立場で戦いますので,実際に指す人(訴訟活動を行う指定代理人)の手腕が,勝負を決めるに当たり,かなりのウェイトを占めます。 
    

それはすなわち,相手に勝つために,一番効果的な戦略・戦術を選択しなければならないということです。

つまり,国が勝つために,どのような法律的な主張を組み立てるか。例えば一番説得力のある主張に絞ってがっちりと組み立てるのか,それとも思いつく限りのいろいろな主張を派手に行うのか。

ある事実を立証するためにどのような証拠を用いてどのような方法で立証していくか。例えば書証だけで固く守るのか,証人を探し出して積極的に攻めるのか等等・・・。

難しい事件になればなるほど,以上のような選択肢はたくさんあり,訴訟の行く末については,指定代理人の腕の見せ所が増えていきます。
    

これは,あたかも将棋の場合における,矢倉や穴熊戦法でがっちり固めるか,棒銀で軽快に攻めるか,終盤で綺麗に詰ませるか,堅く必死をかけるか,渋い受けの手を指すか等という戦略・戦術の選択にとてもよく似ています。

② パズル的要素
       

また,将棋で強くなるためには,王将を詰ませる訓練として詰将棋(よく新聞等に載っているパズルのようなもの)をたくさん解く必要があります。
       

常日頃,私は,色々な事件について,どうすれば最も効果的に裁判所を説得できるか考えつつ準備書面を起案しているとき,これは難解な詰将棋を苦労して解くことと似ているなあと思っております。

③勝ち負け
       

また,将棋も訴訟も結果に勝ち負けがあり,国の正当な主張が裁判所に受け入れられて勝訴したときには,やはり,将棋に勝ったときと同じようにうれしいものです。

以上の共通点から,私は,将棋で勝つコツを訴訟に応用できるのではないかと考えています。

将棋には,「格言」というものがあって,指し手に困ったときの道しるべの役割を果たします。

例えば,将棋では,「桂馬の高跳び,歩のえじき」という格言があり,これは,桂馬という駒は後ろに戻れないので,前に出すぎてしまうと,歩という一番弱い駒に取られてしまうというものです。

これを訴訟に応用すると,「主張の高跳び,相手のえじき」となります。
     

これは,つまり訴訟でいったんした主張は,場合によっては「自白」となってしまい,なかなか後で撤回することが難しいため,よく考えずに調子に乗って主張をしてしまうと,相手にそこをつかれてピンチに陥るということです。
    

それから,将棋の「金底(きんぞこ)の歩(ふ),岩より堅し」→訴訟では「国の主張,岩より堅し」。これは,国が主張する以上は,岩よりも堅い主張を慎重に行う必要があるということ。
  

将棋の「寄せは俗手で」→訴訟では「反対尋問は俗手で」。これは,証人に対する反対尋問というものは,格好よく決めようとするよりは,むしろ,具体的な事実を俗っぽくネチネチと聞いた方が意外と効果的ということ。
     

この他,将棋の「攻めるは守るなり」,「うますぎるときは注意せよ」,「助からないと思っても助かっている(by私の尊敬する大山康晴15世名人)」という格言は,そのまま訴訟に応用できそうです。

 

第2 結論 

以上のように将棋と訴訟には多数の共通点があります。
  

そして,将棋に強くなるためには,数々の定跡・手筋を覚えるという努力,接戦で最も有利になる一手を見つけだすという思考力,終盤の苦しい場面でも勝ちを信じてねばり強く考え抜くという忍耐力を身につければなりません。

これらの努力,思考力,忍耐力は,訴訟活動を行う指定代理人に即して言えば,数々の法律・判例を勉強する努力法律上・事実上の問題について最も適切な主張・立証方法を見つけだす思考力敗訴が濃厚となっても勝訴を信じてねばり抜く忍耐力に当たります。
     

そのような能力を身につけた指定代理人を,私は「法廷の棋士」と,心密かに呼んでいます。
    

 私は,まだまだ法律家として未熟ですが,この「法廷の棋士」になるべく,日夜,将棋を学んでいます(アレ?)。
    

ですから,私が,昼休みに同僚と将棋をしていても,出張途中の新幹線で将棋の本ばかり読んでいても,それは,決して遊んでいるのではなく,全て訟務の仕事のため,ひいては国のためにやっていることだと(特に〇〇訟務部長ほか幹部の皆々様方に)ぜひご理解いただきたいと思う次第です。」
 

 

 

スクールロイヤーとは


私(中村)は,一昨年,地元の公立小学校のPTA会長を務めさせていただきました。

それまで授業参観や運動会の見学に行ったことがあるくらいで,学校のことは何も知りませんでした。

しかし,PTA会長として校長先生や教頭先生とも直接話をする機会も多くなり,先生方がどんなことで苦労をされているのか,いわば学校の裏側を知ることができました。

おかげで,弁護士としても貴重な知識・経験を得たと思っています。

さて,一般的に,学校においては,実は色々な法的な問題が関係します。

いじめなど子供同士の関係,近隣住民や保護者からの苦情やクレームへの対応,教員の子供への体罰など問題のある言動,教員間でのパワハラやセクハラ学校内での事故などです。

それらが実際に発生した場合への対処だけでなく,どう予防するかという問題もあります。

学校の先生方は,多忙な中,上記のような色々な問題への対応に追われていますが,専門家からの適切なサポートを得られていないというのが実際のところです。

そこで,学校に対して継続的に法的なアドバイスを行う弁護士が必要だと言われています。

これを「スクール・ロイヤー」といいます。

例えば,保護者からの不当なクレームを例に挙げます。

一般企業であれば,不当なクレームには毅然とした対応をすればよい,一切応じる必要がないというアドバイスをすれば足りる場合がほとんどです。

しかし,学校の場合は,子供の教育を継続的に行っていく関係上,保護者との信頼関係の醸成が不可欠です。

そこで,子供にとって最善の利益となることを一番に念頭に置きつつ,保護者との継続的な信頼関係に努めなければなりませんが,かといって,学校側,特に矢面に立つ教員に過大な負担をかけないようにしなければなりません。

それには教育にも理解のある法律の専門家が,法的な観点から第三者の目で学校に協力していく必要があります。

弁護士はこのような役割を期待されています。

また,いじめ,パワハラ,セクハラ,学校事故があった場合の事実調査や法的責任の判断については,法律家の助言は欠かせません。

最近では,LGBTなど性差別への対応も必要となっています。

学校での教育現場を垣間見た経験を,今後の弁護士活動にも生かしていきたいと考えています。

 

 

 

GPSを利用した捜査について


本日,最高裁大法廷が,令状によらずに対象者の自動車にGPS端末を取付けて,その移動状況を把握するという捜査(GPS捜査)について,違法であるとの判断をしました。

一審の大阪地方裁判所は,令状を取ることなく,このような捜査をすることは違法だと判断していました。

これに対して二審の大阪高等裁判所では,尾行や張り込みと同様の任意捜査だから令状がなくとも適法であるとし,判断がわかれていました。

最高裁は,個人の所在と移動状況を逐一把握するGPS捜査は,個人のプライバシーを侵害するもので,令状がなければ行い得ない強制捜査に当たると判断しました。

その上で,令状にどのように記載をして特定するのか(犯罪と関係のない行動まで把握されてしまうことになる),性質上,令状を提示することができないとしても,それにかわる公正な手続の担保の手段をどうするか,という問題があるので,新たな立法が必要としました。

GPS捜査は全国の警察で行われており,令状が必要かどうか,議論が分かれていましたが,最高裁が決着をさせました。

今後,おそらく法務省は,刑事訴訟法の改正,あるいは特別な立法で,GPSの捜査を可能とする制度の検討に入ると思われます。

窃盗団などの重大犯罪の捜査のためには有益な捜査だと思いますが,濫用されてしまうと,市民生活が警察の監視下に置かれる危険性があります。

盗聴の場合も同じくプライバシーとの関係で議論がありましたが,立法により,一定の組織犯罪の場合に限って許されることになりました。

GPS捜査の場合も,必要と考えられる犯罪類型を限定すること,必要性を慎重に審査することなどで,捜査の必要性と市民の自由との調和が図られる形での立法が望まれます。

 

 

 

無罪事件(暴行罪)のご紹介


 はじめに

甲市議会議員であったXさん(仮名)は,平成23年2月28日に暴行罪により略式命令を受けましたが,平成24年9月26日に無罪判決がなされ,その判決は確定しました。

私(中村和洋)は主任弁護人を務めていましたが,この事件は,警察,検察が捜査を完全に誤ったもので,Xさんはえん罪の被害者であるといえます。

以前の事件ではありますが,二度とこのようなことが起こらないように,Xさんのご了解の下,本ブログで紹介をいたします。

2 起訴された事実

Xさんが,起訴された事実は,以下のようなものでした。

「被告人は,身近で世話をしてその更生のための面倒を見ていたA氏に対して,その態度が悪いなどとして立腹し,

(1)平成22年9月21日午後7時30分ころ,大阪府内の会社事務所内において,同人に対し,その顔面を2回足蹴にする暴行を加え(以下「第1事件」といいます。)

(2)同月22日午前10時頃から同日午後零時ころまでの間,大阪府内の道路を走行又は停止中の自動車内において,同人に対し,平手及び側掌部でその顔面を数回殴打する暴行を加え(以下「第2事件」といいます。)

たものである。」

3 捜査について

本件は,まず,A氏が警察に傷害事件として被害届を提出したことにより,捜査を開始されました。第1事件については,A氏が被害にあったという自らの供述のほか,A氏の両親が目撃したと供述していました。第2事件については,A氏の供述のみが証拠でした。

警察は,このようなA氏やその両親の供述のみを鵜呑みにして,捜査を開始したのです。

しかも,A氏は,第1事件や第2事件で怪我をしたとして,鼻骨骨折の診断書を提出したものですが,実は,それは何年も前のA氏の自傷行為によるものでした。

警察は,怪我の裏付けについて確認すらしないまま,平成23年2月7日に,Xさんを突然逮捕し,その後,20日間にわたって勾留したのです。

その当時,Xさんは,甲市議会への立候補を予定しており,その準備中でした。

取り調べに対して,Xさんは,事実を否定していましたが,警察官から,このままでは外に出られないなどと脅迫されました。

Xさんは,このまだと自分は立候補ができなくなり,周囲の人に大きな迷惑をかけてしまうと思いました。

その結果,嘘の自白調書に署名させられてしまったのです。

事件の送致を受けた検察官は,Xさんが自白をしているとして,A氏の供述の不自然な点などを見過ごしました

そして,検察官は,証拠をきちんと吟味しないまま,安易に略式起訴をしたのです。

4 公判について

その後,Xさんは,略式裁判に対して異議申立をして,裁判で無罪を争いました。

Xさんを取り調べた警察官や,検察官尋問の結果,彼らが証拠の検討を怠ったまま,杜撰な捜査や取り調べを行なっていたことが明らかになりました

また,A氏やその両親を証人尋問した結果でも,彼らの証言内容は,不自然でころころと変遷するようなものでした。

しかも,A氏は以前から薬物の使用による影響から妄想や虚言が多いことも,明らかになりました。

Xさんは,保護司を務めていたこともあり,これまで,そのようなA氏を身近に置いて世話をしていました。

しかし,事件があったとされる当時,A氏の一向に改まらない生活態度をみかねて,実家に帰るように言ったのです。

そのため,A氏には,Xさんを逆恨みして,嘘の被害申告をする動機もありました。

その結果,判決では,A氏やその両親の証言は全く信用できないものとして,Xさんは無罪となったのです。

検察官は,当然,控訴できませんでした

当時,Xさんは,治療薬の副作用による難病に苦しんでおられ,重度の咀嚼機能障害により,肉体的にも大きな苦痛を受けていました。

そのような中で,このような裁判の負担は非常に大きなものでした

5 今後の課題

昨今,取り調べの可視化ということが,大きな話題になっており,平成28年度の刑事訴訟法の改正では,一部例外を除いて,取調べについて録音・録画するという制度が採用されました。

これまでの密室による捜査官の取り調べが多くのえん罪事件を生んできました。

今回の事件のように,基本的な捜査や証拠の検討を警察,検察が怠ることで,誤った起訴がされてしまうこともあります。

今後,このようなことが二度と起こらないように,更なる捜査の近代化が強く望まれます。

新人弁護士紹介(髙田脩平弁護士)


写真(弁護士髙田)本年1月より,髙田脩平弁護士(修習69期)が入所いたしました。

同弁護士は,国税調査官として4年間勤務した経験があり,当事務所としても,貴重な戦力となってくれることを大いに期待しています。

以下,彼による自己紹介です。

どうぞよろしくお願いいたします。

「弁護士 髙田脩平

1 ご挨拶

 はじめまして。
 本年より弊所で勤務している弁護士の髙田脩平と申します。
 みなさまのお役に立てる弁護士となれるよう,努力いたします。
 今後よろしくお願いいたします。

2 経歴

 みなさまに私のことを知っていただきたく,自己紹介をさせていただきます。
 
 私は京都府宇治市出身で,今年で33歳になります。
 

 立命館大学法学部を卒業後,国家公務員(国税調査官)として勤務し,一念発起して大阪大学法科大学院に進学いたしました。

 そして法科大学院修了後の1回目の司法試験において合格し,1年間の司法修習を経て,本年1月1日に弁護士登録をさせていただきました。

 これまで,大学の学部時代のゼミでは租税法,司法試験選択科目としては環境法に力をいれて取り組んで参りました。

 いずれも,学生として机上で本を読むだけでは無味乾燥な分野ではありますが,実社会の中では近年,ますます存在感を高めています。

 学んできた知識を実務で活かせてこそ,弁護士としての価値があるのだと念頭に置きつつ,これからも幅広い分野の知識を吸収し,有能な弁護士となれる精進いたします。
 
3 抱負など

 現在,興味・関心のある法律分野は,「すべて」というのが本音では
ありますが,強いてあげるとするならば,やはり租税法に関する分野です。
弊所は税金事件に強い事務所を標榜しておりますので,私も中村所長に
追いつけ,追い越せの気構えをもって取り組む所存でございます。

 プライベートでは,旅行ランニングを趣味としています。
 少し時間が取れるときには,青春18きっぷ(全国のJR普通列車が
乗り放題となる切符)で目的地を定めることなく,気の向くままに鉄道旅をしたりしてきました。

 近年,地方路線の廃止が相次いでおり,「乗り鉄」としては寂しい限りです。

 ランニングに関しては運動不足を実感したことをきっかけに走り出す
ようになり,かれこれ5年以上になります。

 これまでに大阪マラソンをはじめ,神戸・京都・奈良などのフルマラソンに参加してきました。

 弊所に入所する直前の昨年12月には,ついに,沖縄にまで遠征して
フルマラソンを走ってきました。

 大勢の沿道の応援を受けながら普段,走ることのできない道路の真ん中を走る快感や,ゴールした後の感動は,ことばでは言い表せないものがあります。

 ご覧頂いているみなさまの中で運動不足を感じていらっしゃる方は,ぜひとも,5年前の私のように,重たい最初の一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
 
 今後,みなさまから信頼していただける弁護士を目指して真摯に取り組みますので,どうぞよろしくお願いいたします。」

憲法について

Nihon_Kenpo02

新年あけましておめでとうございます。

本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

さて,近年,憲法9条を中心に憲法改正の是非が問われています。

そこで,新年最初の記事として,憲法のことについて取り上げてみました。

1 はじめに

憲法は国の基本法であり,法学部生のほとんどが最初に履修する重要な法律です。

憲法は国のあり方を定めた法ということだけでなく,私たち国民の権利を守る「人権の砦」です。

憲法改正論については,色々な意見があると思いますが,雰囲気に流されるのではなく,基本にかえって憲法とはどういうものかをとらえることが大事です。

そこで,まずは憲法の歴史,特に「立憲主義」と言われる考え方について解説します。

 

2 立憲主義とは

そもそも憲法は,何のためにあるのでしょうか。

その答えは,「国の権力濫用を阻止し,国民の権利を守るためにある。」とされています。

これを理解するには,憲法の歴史を辿る必要があります。

まず,「王や権力者も,(憲)法に従わなければならない。」という考え方を「古典的立憲主義」と言います。

この考え方は,古代ギリシャや,ローマ,また日本の十七条憲法にもありますが,イギリスのマグナ・カルタ(1215年)が有名です。これは,議会の同意がない限り,王が勝手に貴族諸侯の権利を奪うことができないというルールです。

きっかけは,ジョン王という王様が,フランスにあったイギリスの領土の大半を失ったため,貴族達からの支持を回復するために彼らの権利を認めたものです。余談ですが,このためジョン王は,「欠地王」という不名誉な名前で呼ばれるようになりました。

この古典的立憲主義は,王の専制を防止するものですが,まだ貴族や一部の市民の権利を守るものにすぎませんでした。

次に,アメリカ独立宣言(1776年)や,フランスの「人及び市民の権利宣言」(1789年)といった市民革命によって,「近代的立憲主義」が生まれました。

その特徴は,①自由主義,②民主主義,③権力の分立にあります。

自由主義は,「天賦人権説」ともいい,人はみな平等な権利を与えられているという考え方です。これは,西洋の思想を支えるキリスト教倫理(神は人を平等に愛している),近代啓蒙主義思想(中世の古い迷信を排除)に基づいています。

また,民主主義は,古代ギリシャ,ローマ以来の西洋の思想です。

権力の分立は,自由主義を守るための仕組みです。

具体的には,直接民主主義の弊害(少数者の抑圧)を招かないための間接民主制(議会制)や,議会の活動を抑制すること(違憲立法審査権,首相の議院解散権)で,国民の権利を保護する制度です。

以上のように,立憲主義は,憲法によって一人一人の権利を権力者から守る,そのために権力をルールによって制限するということに特徴があります。

 

3 日本国憲法について

立憲主義の考え方からすると,日本国憲法で最も重要な条文はどれでしょうか。

その答えは,憲法13条です。

憲法13条は,「すべての国民は,個人として尊重される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする。」と定めています。

ここで重要なのは,「人」ではなく,「個人」とされていることです。

例えば馬や犬について,動物愛護の観点から尊重することは可能ですが,「個馬」,「個犬」という言い方はありません。

「個人」というのは,一人一人の人間の個性が大切であるということを意味しています。

また,「公共の福祉」とは,人権の衝突・矛盾を調整するという意味と,社会福祉を実現するために,ある程度経済活動を制約するという意味を指します。要するに,他の人権との関係で制約があるというもので,国や社会全体のために犠牲を強いるというものではありません。

「個人主義」というと,一般にはワガママをイメージされるかもしれません。

しかし,憲法に定める「個人主義」はそれとは異なり,個人は,何かのための手段とされるのではなく,一人一人が尊いというメッセージが込められています。

 

4 憲法の改正について

憲法の改正論議では,特に憲法9条が取り上げられています。

テロへの脅威などから集団的安全保障の必要性が主張されたり,また,それとは反対に日本が戦争に巻き込まれることへの懸念が示されたりしています。

おそらく憲法9条改正論,改正反対論,いずれの立場も,ほとんどの方は,平和への願いや,将来の日本を思う気持ちに変わりはないと思います。

私自身は,憲法9条を直ちに改正しなければならないとは思っていませんが,仮に9条を改正して,国を守る必要を認めるとしても,軍備は自衛のための最小限でなければならないこと,世界平和の理想に到達することを目標として,将来の縮小・廃止を目指すことを明文化するなど,平和へのメッセージの込められたものになればよいと考えています。

引用画像はWikipediaからのもので日本国憲法の原本です。

今年はアメリカでトランプ氏が大統領に就任するなど予測困難な年になりそうです。

世界中でテロや戦争が起こっていますが,改めて戦争と平和の問題について,深く考えていきたいと思います。   

 

新刊(著書)紹介~事例に学ぶ企業と従業員の犯罪 予防・対応チェックポイント

企業と従業員の犯罪_書籍カバー今月20日に,経済産業調査会より,「事例に学ぶ企業と従業員の犯罪 予防・対応チェックポイント」が出版されます。

本書は,企業や従業員にかかわる犯罪について,解説したものですが,以下のような特徴があります。

① 実務上,よくある具体的な事例とそれに対する端的な回答

② 論点をチェックポイントにまとめて,わかりやすく整理

③従業員に対する処分のあり方や,予想される刑事処分の内容についてまで踏み込んだ解説

また,刑訴法改正(司法取引)など,最新のトピックや実務の紹介など興味深いコラムを差し挟み,ユニークな内容となりまいた。

企業の経営者・従業員といったビジネスマンだけでなく,刑事法を学んでいる大学生,法科大学院生,司法修習生,実務の緒に就いたばかりの法律家にも,広く役立てていただけるのではないでしょうか。

また,経済犯罪やコンピューター犯罪など高度な内容にもさりげなく触れていますので,中堅,ベテランの法律家にとっても,参考になる部分が多いものと自負しています。

興味がある方は,是非お読みください(以下のURLからamazonのページにつながります)。

http://www.amazon.co.jp/dp/4806529885

WIN5で多額の払戻金を得た男性が,所得税法違反により在宅起訴された事件についての弁護人コメント


 先般,報道されましたとおり,WIN5により多額の払戻金を得た地方公務員の男性が,所得税法違反により在宅起訴されました。

 当職ら(中村和洋,荒木誠)は同男性の弁護人に就任していますが,報道(大阪国税局の発表に基づくものと思われます)に一部不正確なところがあり,また,本件起訴には大いに問題があるものと考えています。

 そこで,本ブログ上で,以下のとおり,ご本人のコメントと弁護人のコメントを掲載いたします。

1 ご本人のコメント

 馬券の収入について,所得を申告していなかったことについては反省しています。修正申告については既にすませており,それに先立ち,予納ということで,所得税を全額納税もしています。

 ただ,納税の責任を超えて,刑事処罰まで受けなければならないということは理不尽で,納得がいきません。

2 弁護人コメント

 本件について,刑事告発をし,また,検察官が公判請求することは,著しく違法・不当なもので,誤っていると考えます。以下,大きく3つの理由があります。

①著しく不公平で,正義に反すること

 本件は,平成24年,26年度で,経費を引いた収入は約3億2000万円,所得は一時所得であるためその半額の約1億6000万円であり,免れた税額は約6000万円とされています(内訳は24年が所得約2700万円,税額約800万円,26年が所得約1億3500万円,税額約5100万円)。

 本件以外にも,多額の馬券の払戻金を受けた上で申告をしていなかった事案は,全国に複数存在するところ,本件よりも脱税額が大きいとされる事案について,刑事事件として立件されていません。

 たとえば,北海道の男性の事案は6年間で約5億5000万円以上もの所得を得ており,広島の事例でも多額の利益を得ていたものがあるが,いずれも刑事立件されていません。

 また,以前に大阪で有罪判決となった男性は,5年間で約1億5000万円の利益を得ているが,懲役2か月,執行猶予2年という異例ともいうべき寛刑であって,本来起訴すべき事案ではなかったとも考えられます。

 今回の男性が免れた所得金額は,約1億6000万円であり,他の事例と同等かそれよりも少ないものです。

 しかも,継続的に利益を挙げていたのではなく,WIN5で単発的に偶然利益を挙げたにすぎないのであって,常習性もありません。

 このような彼のみをピックアップして,いわばスケープ・ゴートとして,刑事処分の対象とすることは,著しく不公平で,正義に反します。

 なお,男性が4億円以上の払戻金を得ていたとの報道がなされているが,それは事実と異なります。

 男性は,ネットバンクの口座から,JRAの即PAT口座に入金し,馬券を購入した上で払戻金を得ていたものであるが,馬券を購入しなかった場合にも,週明けにはネットバンクの口座と即PATの口座との間に資金の移動がなされます。

個々のレースの履歴が残っていないため,国税当局は,ネットバンクへの口座に振込まれた金額をすべて払戻金であると推計したものですが,現実には,男性が得た払戻金は多くとも3億円程度です。

②馬券に関する課税政策自体に大いに問題があること

 馬券の売上げの収入の10%は国庫に帰属するので,さらに払戻金にまで税をかけるのは実質的には二重課税であるという批判がなされています。

 また,宝くじやTOTOは非課税とされているということとのバランスの問題もあります。

 そして,最高裁の判決をきっかけに,馬券の払戻金の課税のあり方は議論がなされており,また,全国でも裁判が複数係属中である。さらに,窓口で払戻を受けている者には実質課税がなされておらず,国税庁が有効な対策をしていることもないのであり,馬券の課税の制度は現状問題点が極めて多いといえます。

 公営ギャンブルの課税について,公平な制度を作ったり,納税について十分な説明や広報をすることを国は怠っています。

 このような中,馬券の払戻金について,利益の額だけに形式的に注目して,脱税犯として取り上げ,刑事処罰を求めることは完全に誤っています。

③男性にとって過剰な制裁であること

 男性については納税もすませており,過少申告加算税という制裁もあります。

 禁錮以上の有罪が確定すると,免職になりますが,それは男性の人生に与える影響は大きく,たまたま高額な馬券に当たって,そのことを申告していなかっただけという事案に比較しすれば,あまりにも過剰な制裁です。

3  今後の裁判での予定

  起訴が著しく不公平であり,正義に反することから,公訴権濫用であるとして公訴棄却を求める方針です。また,脱税のすべてが刑事立件されているわけではなく,多くは行政手続で終了していることと比較しても,本件は刑事罰を科すまでの違法性,つまり可罰的違法性がなく,無罪を主張する予定です。

4 報道機関に対する要望

  ご本人は反省しているが,他方で,刑事事件となり,報道もされたことで,精神的なショックを受けています。直接の取材は何卒,控えてください。

 

新人弁護士紹介(荒木誠弁護士)


写真(弁護士荒木)本年1月より,荒木誠弁護士(修習68期)が勤務するようになりました。

まだ27歳という若さですが,着実に仕事をこなしてくれていて,弊所の貴重な戦力となっております。

経歴についてはホームページの弁護士紹介に掲載していますが,ブログでは,彼の自己紹介をもって,もう少し詳しく紹介します。

皆様,よろしくお願いいたします。

 

弁護士 荒木 誠(あらき まこと)

1 これまでの経歴

私は,平成元年に京都府舞鶴市で生まれました。

舞鶴市は,日本海に面しているところで,幼いころ,たまに海釣りに行ったことを覚えています。

地元の公立高校に進学しましたが,このころから,おぼろげにではありますが,将来弁護士になりたいと考えるようになっていました。

というのは,テレビドラマなどを見て,カッコいいイメージがありましたし,人の役にも立てるのではないかという気持ちもあったからです。

高校卒業後は,立命館大学法学部に進学し,京都市内に引っ越しました。

そして,弁護士を目指していたことから,進学当初から,法律相談サークルに所属しました。

このサークルでは,主に休日に,一般市民の方々から無料法律相談を受ける活動を行なっていました。

このような活動を通じて,将来,弁護士になって,困っている人の役に立ちたいという気持ちがより明確になっていきました。

その後,いよいよ本腰を入れて勉強しようと考え,立命館大学法科大学院に進学しました。

大学院では,法学既習者は2年間勉強することになるのですが,絶対に一発で司法試験に合格しようと考えて,必死に朝から晩まで勉強しました。

そのおかげもあって,立命館大学法科大学院を卒業した年に,司法試験に合格できました。

そして,大阪での1年間の司法修習を経て,無事弁護士となることができました。

 

3 入所のきっかけ

弊所は,税務事件を専門的に取り扱っているという点で特徴があると思います。

私は,大学時代,税法ゼミに所属しており,大学院でも税法を積極的に勉強していたため,税務事件を専門的に仕事にしたいと考えていました。

なぜなら,税法に明るければ,弁護士として,税務関係も含めた適切かつ終局的な法的アドバイスが可能になると考えていたからです。

そして,弊所所長は,馬券事件で有名な弁護士であり,私のゼミの教授とも知り合いであったことから,ご縁を感じ,入所することになりました。

入所してからは,離婚・相続などの一般的な民事事件だけでなく,刑事事件や,税金事件など様々な事件に取り組んでいます。

特に,税金事件は,興味があったこともあり,難しいことばかりではありますが,非常に良い勉強になっています。

4 趣味

基本的にインドア派で,それほど人にいえるような趣味はないのですが,あえて言うならば,音楽です。

音楽は,何でも聞きますが,主に洋楽のロックを聞いていて,毎年1回は野外フェスに行っています。

弁護士になってからも,何とか時間があれば,色々ライブに行けたらいいなと思っています。

また,最近はサボリ気味なのですが,ジムに通ってランニングや筋トレなどもしています。

この仕事は,デスクワークの時間も長いので,運動不足にならないように気をつけたいと思っています。

5 最後に

もとよりまだまだ未熟で,ご迷惑をかけることも多いかとは思いますが,何卒,今後ともご指導ご鞭撻のほど,よろしくお願い申し上げます。」

書評(エクササイズ刑事訴訟法)


413Lzm0XCvL最近発行された「エクササイズ刑事訴訟法」を紹介します。

著者の粟田知穂検事は,平成9年に検事として任官し,東京地検等で実務に携わるほか,最近まで,慶應義塾大学法科大学院教授,司法試験考査委員を務められていました。

実は,粟田検事は,私と修習時代,同期・同クラスで,共に検事に任官したことから,親しい友人です。

任官して数年後に,恩師の検察教官にお会いしたときに,「粟田君は今福岡地検小倉支部にいるが,スマートな事件処理をするということで,東京でも有名だよ。」と言われたことがあります。

確かに粟田検事は非常にスマートなだけでなく,オシャレなイメージで,関西で泥臭い事件処理をしていた私にとって,同期ながら憧れの存在でした。

その粟田検事がこのたび著書を刊行されましたが,装丁も,やはりスッキリとオシャレな感じです。

内容は,一通り刑事訴訟法を学んだロースクール生向けに,「複数の事例問題を検討することを通じて,問題発見能力適切な法規範を導く能力事実を抽出しあてはめる能力などを向上させることを目的」としたものです(同書「はしがき」)。

16問の事例が用意されており,問題編と解説編に分かれています。

どれも実務でもありそうな興味深い事例で,刑事実務における捜査,公判の重要な問題点を取り上げています。

解説は要領よくポイントがおさえられていますので,司法試験受験生はもちろん,若手の検察官も参考になる内容です。

また,私は,かねてから「敵を知り,己を知れば百戦危うからず。」(孫子)という観点から,適切な刑事弁護をするためには,検察官の物の考え方を知っておくことは非常に重要だと思っています。

そういう意味でも,刑事弁護に興味のある若手の弁護士にこそ,是非一読していただきたい内容です。

これだけ褒めれば,粟田検事も今度お会いしたときに,一杯おごってくれるかもしれません(笑)。

冗談はさておき,友人がこういった良書を刊行されたことは私も嬉しく,自分もがんばらなければいけないという思いを新たにしました。