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Archive for 9月, 2013

検察官のタイプ別攻略法

金曜日, 9月 27th, 2013

41j3CyhdblL__SL500_AA300_刑事弁護活動には,基本的な方針をどうやって決めるかという戦略の問題と,具体的にその戦略目的をどう実現するかという戦術の問題があります。

戦略とは,大きく言えば,事実を認めるのか争うのか,情状を主張するとしてどのようなことを主張するのかなどを決めることです。

戦術は,勾留などの処分に不服申立てをするか,検察官といつ,どのように交渉するか,意見書の作成の仕方,提出のタイミングなどです。

今回は導入ということで,戦術の問題として,まず軽いタッチで,検察官のタイプ別にどう対処すればいいかという話をします。

弁護士の中には,よく「あの検事は,あんな処分しやがって。」とか,「検事の態度が横柄で許せん。」などと怒っている方がおられます。しかし,怒っても何の解決にもなりません。

もともと検察官は相手方であり,弁護人の思うようになるものではありません。しかも,検察官は逮捕や事件の立件を警察に指示したり,起訴する権限があり,強大な権力を有しています。

ですから,効果的な刑事弁護をするためには,まず「敵」である検察官を知らなければなりません。孫子の兵法にも,「敵を知り,己を知れば百戦危うからず」と書かれています。

そこで,私の知識・経験から,弁護人としてはちょっと苦手なタイプの検察官を以下の4つに分けてみました。そして,タイプ別の攻略法にも名前をつけて解説します。なお,いずれも,私の独自のネーミングであり,刑事弁護の世界で,一般にこういう言葉が使われている訳ではありません。

① 虚勢型

若い検察官で,弁護人や被告人に対して,不必要に偉そうな態度や,言葉の使い方をする人がたまにいます。実は,これは経験不足のため自信がないので,虚勢を張っているにすぎません。そのため,このタイプの検察官は,上司の決裁で方針がひっくり返ってしまうことがよくあり,なかなか事件の処分方針を決めてくれませんし(というか,決められない),弁護人にも教えてくれません。

虚勢型への対処法は,「透明ガラス法」が最適です。これは,当該検察官は透明なガラスだと思って,その奥にいる真の判断権者である上司を意識して弁護活動をします。といっても,担当の検事をすっ飛ばして,上司と折衝するのではありません。事件について,早期の段階から,弁護人の主張や方針を明らかにし,書面で提出して,更に直接検察官に,「弁護人は,このように考えております。検察庁の方でもよくご検討いただけませんでしょうか。」と伝えて,はやい段階で上司に相談に行ってもらい,依頼者に有利な処分をしてもらうように努めます。

傲慢型

ある程度経験年数のある検察官にまま見られます。自信過剰で,弁護人の意見を聞こうとしません。また,「忙しいから。」などと言って,なかなか弁護人と会おうとすらしない場合もあります。応対していると,こっちも感情的になってしまいそうになります。

傲慢型への対処法は,「能面法」が最適です。感情を押し殺して,能面のような顔になったつもりで(本当になる必要はありませんが),淡々と,しかし粘り強く,しつこく,こちらの意見を通すための行動を取るのがよいでしょう。

慇懃無礼型

これは,若手の優秀な検察官(たとえば法務省経験者など)に見られるときがあります。弁護人への応対は礼儀正しく,丁寧で,時には,「先生には,いつもお世話になっております。先日は,大変勉強になりました。」などとお追従を言ってきます。ただ,実は態度と内心の気持ちは裏腹で,弁護人を信用していません。

慇懃無礼型への対処法は,「ミラー法」がいいでしょう。こっちも,鏡のようにまねをして,「いえいえ,今回の件もお忙しいところ,色々とお世話になります。」などと言いながらも,実際は,やるべき手続,言うべき主張は遠慮せずどんどん出していきます。もともと優秀な検察官ですから,是々非々でもきちんと対応してくれるでしょう。

余裕型

経験豊富なベテランの検察官で,自然体で弁護人に対応します。これが一番手強いです。弁護人に会ったり,意見を聞くことは厭いませんし,検察官が判断して,問題ないと思われる情報は弁護人に提供してくれます。

しかし,これは「すべての証拠,選択肢は自分が握っている。」という絶大な自信を背景にしています。

対処法は,正攻法しかなく,「がっぷり四つ法」でいきましょう。基本を重視した弁護活動として,検察官とシビアに交渉しつつ,また,必要な情報を得て,依頼者と綿密に打合せをし,最適な手段をとっていく。当たり前のことを,一つ一つ,きちんとこなしていくしかありません。

以上の分類は,もちろん,いつも当てはまる訳ではありません。実はこの分析は,検察官時代の自分を振り返って,①→②→③→④という風になっていったように思うので,その反省でもあります。ただ,割と一般化できる面もあるので,こういう考え方をしてみることで,検察官の対応に腹を立てたり,ストレスを感じることが少なくなり,弁護活動をうまくやっていけるような気がしています。

 

 

 

 

 

 

経営理念について

木曜日, 9月 26th, 2013

企業には,さまざまな経営理念があります。

下に引用している写真は,時代を感じさせますが,パナソニックの理念です。

私も,独立するに当たって,当事務所の理念をどうするか,かなり時間をかけて考えました。松下幸之助の自伝を読んで,その「水道哲学」(水道をひねれば,安価に水が出てくるように,電化製品を社会の隅々にまで行き渡らせる。)には,感動しました。また,ビジネス書のロングセラー「ヴィジョナリーカンパニー」にも,「理念がしっかりしている企業こそが,成長する。」と指摘されています。私は,事業を営むに当たって,理念の確立こそが正に重要だと考えました。

弁護士の使命は,弁護士法によれば「社会正義の実現と人権擁護」とされています。また,個々の法律事務所によっては,「紛争の解決」や,もっと端的に依頼者のために「勝つこと。」「有利な結論を導くこと。」を理念としている場合もあります。

私は,社会正義や人権というのは究極の目標だとは思いますが,抽象的すぎてピンと来ませんし,正義といっても多面的であって,具体的な行動の指針にならないような気がしました。また,目の前の紛争を解決さえすれば,それで本当に足りるのだろうかとも思いました。

考えて見ると,好き好んで弁護士を訪ねて来られる方はほとんどおられません。多くは,トラブルに巻き込まれて,仕方なく,本当はこんなところに来たくないんだけど,やむを得ず来ておられます。そういう意味では,病院によく似ています。

そのようなトラブルに巻き込まれて悩んでいる方が,一番何を望まれているか。

私は,やはり,「安心」して,元の憂いのない生活に戻ることではないかと思います。紛争の解決自体や,面倒なことを弁護士に頼むことは,すべてそのための手段にすぎません。平穏な日常を取り戻して安心できる生活を将来も継続していく,そのためにこそ弁護士は依頼者の力になるべきだと思います。

そこで,私は,当事務所の経営理念は,「依頼者に安心を」以外にはあり得ないと思いました。

また,理念は単なるお題目ではなく,行動の指針となるべきものです。

そこで,私は,事件の方針の決定や具体的な処理に迷ったとき,どうすることが,長期的視野に立って,依頼者の安心につながるのか,ということを軸にして決めるようにしています。

依頼者への説明の仕方や,事務局スタッフの対応など,すべて「依頼者を安心させるためには,こういう話し方にしよう。こういう態度をとるべきだ。」という考えで統一するように努めています。

そして,私の専門の3つ,刑事,行政・税務,反社会的勢力対応に関係する依頼者は,日常生活や企業活動の中でも,最も重大なピンチに立たされており,不安のまっただ中におられます。そういう時にこそ,専門的な知識・経験を駆使して,依頼者に寄り添い,「安心」を与えること,それが,自分が弁護士であることの意味であり,使命だと思っています。

このように自分のスタンスが固まったことで,どんなに忙しくとも,困難な事件があろうとも,あまりストレスを感じずにすむようになりました。また,判断にもブレがなくなったような気がします。pic_01

理念が固まれば,次は戦略です。事務所の経営戦略だけでなく,刑事弁護の戦略ということもずっと考えてきたことですので,続きは,戦略の話をしていきたいと思っています。

刑事弁護はコモディティ化できるか?

木曜日, 9月 26th, 2013

表題の「コモディティ化」とは,「汎商品化」ともいい,商品の個性がないことを指します。たとえば,自動車のように性能やデザインが問題となる商品と違って,ティッシュペーパーなどは一般的にはあまり商品の個性は問題にならず(厳密には,一部高級品などもありますが),どれもほぼ同じであって,消費者は安い商品を選ぶことになります。

法律事務でいえば,債務整理や過払い請求の事案では,全国展開している法律事務所や司法書士事務所があり,そのようなところでは,多数のスタッフによりマニュアル化された処理がなされているようです。いわば法律事務がコモディティ化しているといえます。

これと同様に,刑事弁護をマニュアル化し,実際に担当する弁護士個人の経験年数にかかわらず,それぞれの事件で類型ごとに同じような処理を行うことは可能でしょうか。

そもそも債務整理や過払い請求についてマニュアル化して,弁護士が実際に依頼者に面談することもなく,スタッフ中心に形式的に大量処理をすること自体にも,私は疑問があります。

目の前の事件を法律に従って形式的に処理することだけが目的ではなく,紛争を解決し,依頼者に最適なアドバイスをすることで,長期的に依頼者に安心を与えることが弁護士の仕事だと思うからです。

債務整理をしなければならない依頼者には,何か原因があるはずです。収入よりも支出が恒常的に多くなっているので,借金が増大しているわけですから,なぜそうなっているのか丁寧に聞き取って,今後,同様の事態が発生しないようにはどうすれば良いか,具体的なアドバイスも求められるはずです。

また,弁護士がきちんと会って面談して,話をすることは,依頼者にとっての重みが全く違うと思います。それが短時間であったとしてもです。いくら,債務整理の事務処理そのものがマニュアル化可能だからといって,大切なことを軽視して,ただ,大量処理することが弁護士のサービス向上になるとは思えません。

しかし,弁護士による個人の債務整理は,実際には,コモディティ化してしまい,初回相談無料,着手金無料などのサービスによる価格競争となっています。

それでは刑事弁護はどうでしょう。

確かに事件の類型,逮捕,勾留といった手続段階でとるべき手段などについて,ある程度,マニュアル化は可能でしょう。

しかし,私は,検事時代を含めると,これまで数千件の刑事事件の捜査や裁判に携わりましたが,どんな事件にも,それぞれ特有の個性があります。

接見に行って,黙秘権があることや供述調書は署名する前によく確認すること,署名する義務はないことは常にアドバイスしますが,それだけでなく,どのように取り調べに応じればいいのかについて具体的なアドバイスは,事件の内容,依頼者の個性などによって違います。また,不服申立ての手段を取るのか,取るとしてどのタイミングでどの手段をとるのか,検察官や警察官と面談して交渉するとして何をどう伝えるのか,意見書は出すのか,出すとしてその内容は,被害者がいるとして示談の交渉をどのようなタイミングでどう行うかなど,その組合わせは複雑であり,とても単純にマニュアル化できるものではありません。

また,捜査中には,弁護人は捜査の記録を見ることはできませんから,経験に基づく推測を前提に活動をしなければいけないという点もあります。

私は,刑事弁護という活動は,弁護士の職務の中でも,非常に高度で難しいものであると感じており,今でも,悩みながら慎重に行っています。

いわば刑事弁護は,経験と研鑽に基づく職人的な仕事であって,マニュアル的な大量処理には最も向かないサービスです。だからこそ,プロとしてはやり甲斐があるという面があるのだと思います。

ですから,刑事弁護はコモディティ化できない,経験のある弁護士が専門的に取り扱うべき分野であるというのが私の答えです。

 

 

 

競馬の税金事件の現状

水曜日, 9月 25th, 2013

96958A88889DE7E7E6EBE0E1EAE2E0E4E2E7E0E2E3E1E2E2E2E2E2E2-DSXBZO5550698027052013I00001-PN1-32競馬により多額の払戻金を得た方に対して,儲けを大きく上回る所得税の課税がなされ,単純無申告罪として刑事責任を問われた件の続報です。
報道のとおり,今年の5月23日に,有罪判決にはなったものの,はずれ馬券の購入費も全額経費に認められるという実質納税者勝訴といっていい判決が出ました。

その後,検察官が控訴し,現在,大阪高等裁判所に事件が係属中です。検察官からの控訴趣意書がいまだ提出されていないため,期日も決まっておりません。

また,刑事事件とは別に,課税処分の取消しを求めて,大阪地方裁判所に行政訴訟も提起しておりますが,これも,国側と主張のやりとりをしている段階で,まだ結審はしていません。

いずれも,国側が何か月もの準備期間を取っており,「時間稼ぎ?」と思われる面がないではありません。
ひょっとしたら,国税庁内部で競馬の課税についての制度を議論していて,それに時間を要しているのかもしれませんが,よくわかりません。

調べたところでは,アメリカ合衆国では,競馬の配当金については,はずれ馬券も配当金で得た金額を上限に全額経費として認められているようです。

日本では,きちんとした制度設計をしないままでした。そして,従来の素朴な考え方に基づいて課税をしたため,今回の事件のような不合理な処分となっています。

マスコミの取材で何度もお話しましたが,私は,競馬の払戻金については非課税の立法措置を施して欲しいと思っています。それが結局,競馬の売上を上昇させて,国庫の収入増加をもたらすのではないでしょうか。

これ以上,依頼者を不安定な状態におかないように,また高額馬券の配当を受けた人を不安に陥れないように,はやく解決して欲しいと心から望んでいます。

ブログを始めました。

火曜日, 9月 24th, 2013

弁護士の中村和洋です。

ブログを始めることにいたしましたので,よろしくお願いいたします。

このブログでは,私の最も関心のある
1 刑事弁護のこと
2 行政事件や税務事件のこと
3 反社会的勢力対応のこと
について,主に書き連ねる予定です。

私の専門というべき分野は,上記の3つですが,これはいずれも,トラブルの中でも,当事者にとって最もストレスのきつい,大変にしんどいことです。

刑事事件や行政・税務事件は,相手が国家権力など強大である点
反社会的勢力対応は,相手が犯罪的な組織であったり,常識の通用し難い暴力的な人間である点
において,個人や一企業が向かっていくには,相当の気構えが必要です。

こういう一番ややこしいトラブルに巻き込まれてしまったらそれに対処するしかないのですが,防止できるなら防止するに越したことはないと,私は,この仕事を続けていく中で,つくづく思うようになりました。

そこで,最近は,紛争予防の観点から,中小企業のコンプライアンス指導や,労務問題,事業承継問題へのアドバイスに力を入れています。

そういった,大きなリスクを防止するための,中小企業の経営サポート的な話もしていければと思っています。

どうぞ,よろしくお願いします。