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Archive for 9月 26th, 2013

経営理念について

木曜日, 9月 26th, 2013

企業には,さまざまな経営理念があります。

下に引用している写真は,時代を感じさせますが,パナソニックの理念です。

私も,独立するに当たって,当事務所の理念をどうするか,かなり時間をかけて考えました。松下幸之助の自伝を読んで,その「水道哲学」(水道をひねれば,安価に水が出てくるように,電化製品を社会の隅々にまで行き渡らせる。)には,感動しました。また,ビジネス書のロングセラー「ヴィジョナリーカンパニー」にも,「理念がしっかりしている企業こそが,成長する。」と指摘されています。私は,事業を営むに当たって,理念の確立こそが正に重要だと考えました。

弁護士の使命は,弁護士法によれば「社会正義の実現と人権擁護」とされています。また,個々の法律事務所によっては,「紛争の解決」や,もっと端的に依頼者のために「勝つこと。」「有利な結論を導くこと。」を理念としている場合もあります。

私は,社会正義や人権というのは究極の目標だとは思いますが,抽象的すぎてピンと来ませんし,正義といっても多面的であって,具体的な行動の指針にならないような気がしました。また,目の前の紛争を解決さえすれば,それで本当に足りるのだろうかとも思いました。

考えて見ると,好き好んで弁護士を訪ねて来られる方はほとんどおられません。多くは,トラブルに巻き込まれて,仕方なく,本当はこんなところに来たくないんだけど,やむを得ず来ておられます。そういう意味では,病院によく似ています。

そのようなトラブルに巻き込まれて悩んでいる方が,一番何を望まれているか。

私は,やはり,「安心」して,元の憂いのない生活に戻ることではないかと思います。紛争の解決自体や,面倒なことを弁護士に頼むことは,すべてそのための手段にすぎません。平穏な日常を取り戻して安心できる生活を将来も継続していく,そのためにこそ弁護士は依頼者の力になるべきだと思います。

そこで,私は,当事務所の経営理念は,「依頼者に安心を」以外にはあり得ないと思いました。

また,理念は単なるお題目ではなく,行動の指針となるべきものです。

そこで,私は,事件の方針の決定や具体的な処理に迷ったとき,どうすることが,長期的視野に立って,依頼者の安心につながるのか,ということを軸にして決めるようにしています。

依頼者への説明の仕方や,事務局スタッフの対応など,すべて「依頼者を安心させるためには,こういう話し方にしよう。こういう態度をとるべきだ。」という考えで統一するように努めています。

そして,私の専門の3つ,刑事,行政・税務,反社会的勢力対応に関係する依頼者は,日常生活や企業活動の中でも,最も重大なピンチに立たされており,不安のまっただ中におられます。そういう時にこそ,専門的な知識・経験を駆使して,依頼者に寄り添い,「安心」を与えること,それが,自分が弁護士であることの意味であり,使命だと思っています。

このように自分のスタンスが固まったことで,どんなに忙しくとも,困難な事件があろうとも,あまりストレスを感じずにすむようになりました。また,判断にもブレがなくなったような気がします。pic_01

理念が固まれば,次は戦略です。事務所の経営戦略だけでなく,刑事弁護の戦略ということもずっと考えてきたことですので,続きは,戦略の話をしていきたいと思っています。

刑事弁護はコモディティ化できるか?

木曜日, 9月 26th, 2013

表題の「コモディティ化」とは,「汎商品化」ともいい,商品の個性がないことを指します。たとえば,自動車のように性能やデザインが問題となる商品と違って,ティッシュペーパーなどは一般的にはあまり商品の個性は問題にならず(厳密には,一部高級品などもありますが),どれもほぼ同じであって,消費者は安い商品を選ぶことになります。

法律事務でいえば,債務整理や過払い請求の事案では,全国展開している法律事務所や司法書士事務所があり,そのようなところでは,多数のスタッフによりマニュアル化された処理がなされているようです。いわば法律事務がコモディティ化しているといえます。

これと同様に,刑事弁護をマニュアル化し,実際に担当する弁護士個人の経験年数にかかわらず,それぞれの事件で類型ごとに同じような処理を行うことは可能でしょうか。

そもそも債務整理や過払い請求についてマニュアル化して,弁護士が実際に依頼者に面談することもなく,スタッフ中心に形式的に大量処理をすること自体にも,私は疑問があります。

目の前の事件を法律に従って形式的に処理することだけが目的ではなく,紛争を解決し,依頼者に最適なアドバイスをすることで,長期的に依頼者に安心を与えることが弁護士の仕事だと思うからです。

債務整理をしなければならない依頼者には,何か原因があるはずです。収入よりも支出が恒常的に多くなっているので,借金が増大しているわけですから,なぜそうなっているのか丁寧に聞き取って,今後,同様の事態が発生しないようにはどうすれば良いか,具体的なアドバイスも求められるはずです。

また,弁護士がきちんと会って面談して,話をすることは,依頼者にとっての重みが全く違うと思います。それが短時間であったとしてもです。いくら,債務整理の事務処理そのものがマニュアル化可能だからといって,大切なことを軽視して,ただ,大量処理することが弁護士のサービス向上になるとは思えません。

しかし,弁護士による個人の債務整理は,実際には,コモディティ化してしまい,初回相談無料,着手金無料などのサービスによる価格競争となっています。

それでは刑事弁護はどうでしょう。

確かに事件の類型,逮捕,勾留といった手続段階でとるべき手段などについて,ある程度,マニュアル化は可能でしょう。

しかし,私は,検事時代を含めると,これまで数千件の刑事事件の捜査や裁判に携わりましたが,どんな事件にも,それぞれ特有の個性があります。

接見に行って,黙秘権があることや供述調書は署名する前によく確認すること,署名する義務はないことは常にアドバイスしますが,それだけでなく,どのように取り調べに応じればいいのかについて具体的なアドバイスは,事件の内容,依頼者の個性などによって違います。また,不服申立ての手段を取るのか,取るとしてどのタイミングでどの手段をとるのか,検察官や警察官と面談して交渉するとして何をどう伝えるのか,意見書は出すのか,出すとしてその内容は,被害者がいるとして示談の交渉をどのようなタイミングでどう行うかなど,その組合わせは複雑であり,とても単純にマニュアル化できるものではありません。

また,捜査中には,弁護人は捜査の記録を見ることはできませんから,経験に基づく推測を前提に活動をしなければいけないという点もあります。

私は,刑事弁護という活動は,弁護士の職務の中でも,非常に高度で難しいものであると感じており,今でも,悩みながら慎重に行っています。

いわば刑事弁護は,経験と研鑽に基づく職人的な仕事であって,マニュアル的な大量処理には最も向かないサービスです。だからこそ,プロとしてはやり甲斐があるという面があるのだと思います。

ですから,刑事弁護はコモディティ化できない,経験のある弁護士が専門的に取り扱うべき分野であるというのが私の答えです。