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離見の見~刑事弁護にことよせて


200708000448今年は,能楽の開祖である観阿弥生誕680年,世阿弥生誕650年とのことで,それを記念した本の出版や,薪能も行われるようです。

世阿弥が記した「風姿花伝」は,能楽師のバイブルというべき書物で,役者としての心構えが書かれています。

ただ,それにとどまらず,一つの芸を追及する姿勢について深く考察されており,現代のビジネスにも参考になりそうな記述がたくさんあります。

その中に,「離見の見」という言葉があります。

これは,自分に対して,遠くから離れたところより客観的に見る別の目を持たなくてはならないということです。

すぐれた役者は,自分の舞台での姿がどのように見えているかを常に具体的にイメージしています。

画像は,「世阿弥の再来」と言われた名能楽師の観世寿夫さんの著書です。

若くして亡くなられたので(1978年逝去。享年53歳),実際の舞台に接することはできませんでしたが,映像では,彼が能を舞っている姿を見ることができます。

その中で,「井筒」という作品のDVDを持っていますが,夫の在原業平を思ってその妻の亡霊が舞っているときの迫力は,映像を通してでも真に迫っており,非常に感動しました。

さて,最近,パソコン遠隔操作の事件で,それまでえん罪だとして無罪主張をしていた被告人が,一転,自分が真犯人であると告白したということがありました。

真実は神様と当事者にしかわかりませんので,弁護人としては,基本的には依頼者を信じて弁護活動を行うことは当然です。

ただ,視点を依頼者に近づけすぎることは危険です。

依頼者によりそって同じ目線に立ちつつも,もう一つ,別の目を持って,主張や証拠が第三者(特に裁判所)からどのように見えているのかを常に検証しながら活動する必要があります。

これが,刑事弁護における「離見の見」だと思っており,常に座右の銘としていきたいと思っています。