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民事裁判の迅速化


弁護士の髙田脩平です。

民事裁判についてどのような印象をお持ちですか。

 

そもそも,多くの人にとって裁判とは縁遠いものです(実際,筆者髙田もプライベートで裁判の当事者となったことはありません)。また,いわゆる「弁護士モノ」のドラマや小説でも,その多くは刑事事件を扱ったものですから,民事裁判となると尚更,イメージが湧きにくいですよね。

 

これまでに触れる機会がなかった方にとっては,「なんだかよくわからないけども,いざとなったら利用するしかない」というのが民事裁判です。そんな民事裁判についてやはり気になるのは,裁判所は自分の主張をきちんと認めてくれるのか,弁護士費用として幾ら要するのか,といったことに加えて,解決に至るまでの時間はどれだけかかるのか,ということではないでしょうか。

 

今年の7月に最高裁が公表した「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第8回)」(http://www.courts.go.jp/vcms_lf/20505102.pdf)によると,民事訴訟1件あたりの平均審理期間は9.0(平成30年の速報値)となっています。これは,昭和48年の平均17.3月に比べると大幅に短くなっているものの,ここ10年では再び長期化傾向にあります。

NHKの生活笑百科などをみていると,どんな揉め事でもズバッと一挙に解決できそうに思えてくるのに,なぜ,民事裁判の審理には平均して9か月もかかるのでしょう。

 

実際の民事裁判では,当事者双方が定められたルールに従って主張・立証を尽くす中で,裁判官が心証を形成することにより判決へと導かれます。ですから,当事者の主張はあらかじめ書面にまとめなければいけませんし,相手方から提出された主張に反論する書面を用意するのにも十分な準備期間が設定されます。

そして,当事者が準備した主張は,概ね1~2か月の間に1回程度,法廷で開かれる口頭弁論期日,または裁判所内の一室で開かれる非公開の弁論準備手続期日において繰り広げられます(といっても,主張自体は事前に提出する書面の中で現れています)。

 

現在の実務では,裁判の終結時期があらかじめ定められていないこともあって,限度はあるものの,当事者双方が自由に(場合によっては五月雨式に),主張と証拠の提出を続けることから争点がなかなか絞られず,結果的に審理期間も長引いている,という問題が指摘されてきました。

ですから,当事者双方が本当に必要な主張と証拠を厳選し,まとめて提出するように意識すれば,裁判所としても争点を早期に絞りやすく,効率的な訴訟運営となって審理期間も自ずと短くなるはずです。

 

このような問題意識は弁護士や裁判所が共有しながらも,なかなか抜本的な対策が講じられてこなかったのですが,最近,最高裁や法務省などが参加する研究会では民事裁判の審理期間を半年以内に終える新制度の導入を検討しているそうです(令和元年9月4日付日経新聞記事より)。

新制度では,終結時期をあらかじめ定めることで早期に争点を絞り取り調べる証拠の量も減らすことが柱となり,その前提として,訴状や準備書面をウェブ上で裁判所に提出することや書面の数に制限をかけることなども議論されています(なお,今後は法制審議会での議論などを経て立法化される見通しです)。

 

手続きの利便性が向上することは大歓迎です。もっとも,迅速な裁判実現のためには,弁護士として一段と高度な専門知識と豊富なノウハウを身につけなければなりませんから,身の引き締まる思いです。