PAGE TOP ▲

取締役の損害賠償責任


US_Supreme_Court_Buildingあけましておめでとうございます。

本年もどうぞよろしくお願いいたします。

さて,年始にあたって,特に企業の経営者の方向けに,コンプライアンスの重要性について,解説します。

会社の取締役が,法令に違反する行為をした場合には,それが刑罰法規に触れるのであれば犯罪になりますが,そうでなくとも,そのことで,取引先や株主に損害を負わせた場合には,取締役個人が民事責任としての損害賠償責任を負わなければならない場合があります。

他方,企業の経営には常にリスクがつきものであって,リスクをとった行為が結果的に失敗に終わったために,常に損害賠償責任を負うということでは,常識に反するといえるでしょう。

この点,いわゆる経営判断の原則という考え方があります。

これは,取締役の経営判断が会社に損害をもたらす結果を生じたとしても,その判断がその誠実性・合理性をある程度確保する一定の要件の下に行われた場合には,裁判所が判断の当否につき事後的に介入し注意義務違反として取締役の責任を直ちに問うべきではないという考え方をいいいます。

要するに,取締役の判断については,一定の裁量があり,その裁量を裁判所が尊重しなければいけないという法理です。

これは19世紀以来,アメリカ合衆国の裁判例において発展してきました。なお,画像は,アメリカ合衆国連邦最高裁です(Wikipediaより引用)。

一般に

 ①経営判断の対象に利害関係を有しないこと

 ②経営判断の対象に関して、その状況の下で適切であると合理的に信ずる程度に知っていたこと

 ③経営判断が会社の最善の利益に合致すると相当に信じたこと

という要件を満たした場合には,誠実に経営判断をした取締役には義務違反が認められないとされています
わが国の学説の多くや,裁判例でも,このような経営判断の原則に類似した考え方に立っています。

例えば,東京地裁平成16年9月28日判決では,

「企業の経営に関する判断は不確実かつ流動的で複雑多様な諸要素を対象にした専門的,予測的,政策的な判断能力を必要とする総合的判断であり,また,企業活動は,利益獲得をその目標としていることから,一定のリスクが伴うものである。

このような企業活動の中で取締役が萎縮することなく経営に専念するためには,その権限の範囲で裁量権が認められるべきである。

したがって,取締役の業務についての善管注意義務又は忠実義務違反の有無の判断に当たっては,取締役によって当該行為がなされた当時における会社の状況及び会社を取り巻く社会,経済,文化等の情勢の下において,当該会社の属する業界における通常の経営者の有すべき知見及び経験を基準として,前提としての事実の認識に不注意な誤りがなかったか否か及びその事実に基づく行為の選択決定に不合理がなかったか否かという観点から,当該行為をすることが著しく不合理と評価されるか否かによるべきである。」

と述べ,結論として,取締役の損害賠償責任を否定しました(以上、江頭憲治郎「株式会社法」など参照)。

しかし,このような経営判断の原則があるとしても,取締役の判断について,その当時において合理性があったのかどうかという点は,具体的な根拠や証拠に基づいて,後で説明できるようにしておかなければいけません。

また,例えば食品偽装など明らかに法律に違反するような行為は,いかなる理由があっても,許されるものではありません。

常にコンプライアンスを意識して経営をしていくことが,長期的に企業の成長につながるものと思います。