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Archive for 11月, 2017

刑事訴訟法改正について②

水曜日, 11月 8th, 2017

 弁護士の荒木誠です。

 前回に引き続き,改正刑訴法の解説をいたします。

 改正刑訴法においては,「捜査・公判協力型協議・合意制度」(いわゆる司法取引)と「刑事免責制度」が導入されることとなっており,平成30年6月までの施行が予定されています。

(1)捜査・公判協力型協議・合意制度(いわゆる司法取引)

 これは,被疑者・被告人が,検察官との間で,共犯者などの犯罪について協力をする代わりに,自らの処分に関して恩恵を受けることを協議・合意する制度です(350条の2以下)。

 例えば,ある犯罪の補助的な立場の人物が,主犯格の人物の行った犯罪の内容について供述したり,証拠を提供する代わりに,起訴猶予処分を受けるというような場合です。

 ただ,これは,どのような犯罪でも利用できるわけでなく,一定の財政・経済関係犯罪や薬物銃器犯罪などに対象犯罪が限定されています

 例えば,贈収賄,詐欺,恐喝,横領,租税に関する法律違反,覚せい剤取締法違反などの犯罪です。

 他方,生命・身体に対する犯罪や性犯罪などについては,刑の減免を認めるのは正義に反するので,対象犯罪から除外されました。

 協議を行う際には,弁護人が関与することが必須とされており,最終的に合意をする場面でも弁護人の同意が必要されています。

 

2)刑事免責制度

 証人には自己の刑事責任につながる事項については証言拒絶権があります。

 刑事免責制度は,証言を証人への不利益な証拠として使わない代わりに,上記の証言拒絶権を失わせて,証言を強制させるという制度です(157条の2以下)。

 協議・合意制度との違いは,対象犯罪の限定がなく,合意が必要でないなどの点です。

 手続としては,検察官が,得ようとする証言の重要性,関係する犯罪の軽重などを考慮した上で,刑事免責による証人尋問を請求します。

 裁判所は,原則としてこの請求を認めなければなりません。

 仮に,刑事免責が決定されたにもかかわらず,供述を拒否した場合には,証言拒絶罪として,1年以下の懲役又は30万円以下の罰金となります。

 

(3)まとめ

 これらの制度については,他方で,この制度は,自らが有利な処分を受けようとして,虚偽供述を誘発するという危険性があると指摘されています。

 そのため,えん罪の温床となることのないよう適正な運用が求められるところで,我々弁護士も十分注意する必要があると考えています。

 

刑事訴訟法改正について①

火曜日, 11月 7th, 2017

写真(弁護士荒木) 弁護士の荒木誠です。

 昨年刑事訴訟法の一部が改正されましたので,本ブログにて,その解説をします。

  1 はじめに

えん罪」―近年,この言葉をテレビや新聞などで耳にする機会も多いのではないでしょうか。

 刑事手続における鉄則として,「10人の真犯人を逃すとも,1人の無辜を罰するなかれ」というものがあります。

 これは,たとえ10人の真犯人を逃したとしても,1人も無実の罪で罰せられること(えん罪)があってはならないという意味です。

 えん罪被害を防ぐためには,広く取調べを可視化し,手続の適正化を図ることが強く要望されるに至っています。

 

2 改正刑事訴訟法の成立

 平成28年5月24日,時代に即した新たな刑事司法制度の構築をするため,「刑事訴訟法等の一部を改正する法律が成立し,同年6月3日に公布されました。

 本改正の主要な内容としては,

 ① 取調べの全過程における録音・録画制度の導入

 ② 証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度(いわ ゆる「司法取引制度」)等の導入

 ③ 通信傍受の合理化・効率化

 ④ 裁量保釈の判断に当たっての考慮事由の明確化

などがあげられます。

なお,これらの改正は,現時点で既に施行されているものもありますが(④など),まだ施行されていないものもあります。

 例えば,①取調べの全過程における録音・録画制度の導入は,公布日から3年以内,②司法取引の導入については,公布日から2年以内の施行が予定されています。

 ここでは,上記改正点のうち,①取調べの全過程における録音・録画制度の導入について解説をします。

 

3 取調べにおける問題点

 取調べの目的は,被疑者から事件に関する事情を聞き取りなどし,起訴・不起訴を判断することにあります。

 自白は,事件の全体像を把握し,動機等の主観面を立証するために重要な証拠であるため,取調べで自白を獲得することが重視されてきました。

 他方で,取調べ室が密室であり,その中で取調官と長時間を過ごすなどの性質があるため,自白の強要がなされたり,被疑者が取調官に迎合するなど虚偽自白が生じやすい状況があります。

 そこで,今回の刑訴法改正では,取調べへの過度の依存からの脱却が目的とされ,取調べの録音・録画制度が導入されることになりました。

 

4 取調べの全過程における録音・録画制度の導入

(1)制度の概要

 捜査機関は,逮捕・勾留中の被疑者に対しての「対象事件」について,取調べをするときには,原則,取調べの全過程の録音・録画が義務付けられることになりました(刑訴法301条の2第4項)。

(2)制度の対象者及び対象事件

 しかし,本改正では,全ての事件について,録音・録画が義務付けられたわけではありません。

 まず,逮捕・勾留中の被疑者に限定されており,在宅の被疑者については義務がありません。

 そして,対象事件は,いわゆる「裁判員裁判対象事件」と「検察独自捜査事件」の2類型に限定されています。

 ここでいう「裁判員裁判対象事件」とは,死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件などの裁判員裁判の対象となる重大事件をいいます。

 「検察独自捜査事件」とは,いわゆる特捜部が単独で捜査を行う事件などをいいます。

(3)例外事由

  録音・録画義務が免除される例外事由も規定されています。

 例えば,

 ① 機器の故障などで記録ができないとき

 ② 被疑者が記録を拒んだことなどにより,被疑者が十分な供述をすることができない場合

 ③ 暴力団構成員による犯罪である場合

などです。

(4)まとめ

  取調べの録音・録画制度が導入されることになったものの,全ての事件に適用があるわけではない点には留意が必要です。

 また,実際の運用については,現時点では不透明な部分も多いため,動向を注視していく必要があるといえます。