刑事訴訟法改正について①
- 2017年11月7日
- 刑事弁護
昨年刑事訴訟法の一部が改正されましたので,本ブログにて,その解説をします。
1 はじめに
「えん罪」―近年,この言葉をテレビや新聞などで耳にする機会も多いのではないでしょうか。
刑事手続における鉄則として,「10人の真犯人を逃すとも,1人の無辜を罰するなかれ」というものがあります。
これは,たとえ10人の真犯人を逃したとしても,1人も無実の罪で罰せられること(えん罪)があってはならないという意味です。
えん罪被害を防ぐためには,広く取調べを可視化し,手続の適正化を図ることが強く要望されるに至っています。
2 改正刑事訴訟法の成立
平成28年5月24日,時代に即した新たな刑事司法制度の構築をするため,「刑事訴訟法等の一部を改正する法律が成立し,同年6月3日に公布されました。
本改正の主要な内容としては,
① 取調べの全過程における録音・録画制度の導入
② 証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度(いわ ゆる「司法取引制度」)等の導入
③ 通信傍受の合理化・効率化
④ 裁量保釈の判断に当たっての考慮事由の明確化
などがあげられます。
なお,これらの改正は,現時点で既に施行されているものもありますが(④など),まだ施行されていないものもあります。
例えば,①取調べの全過程における録音・録画制度の導入は,公布日から3年以内,②司法取引の導入については,公布日から2年以内の施行が予定されています。
ここでは,上記改正点のうち,①取調べの全過程における録音・録画制度の導入について解説をします。
3 取調べにおける問題点
取調べの目的は,被疑者から事件に関する事情を聞き取りなどし,起訴・不起訴を判断することにあります。
自白は,事件の全体像を把握し,動機等の主観面を立証するために重要な証拠であるため,取調べで自白を獲得することが重視されてきました。
他方で,取調べ室が密室であり,その中で取調官と長時間を過ごすなどの性質があるため,自白の強要がなされたり,被疑者が取調官に迎合するなど虚偽自白が生じやすい状況があります。
そこで,今回の刑訴法改正では,取調べへの過度の依存からの脱却が目的とされ,取調べの録音・録画制度が導入されることになりました。
4 取調べの全過程における録音・録画制度の導入
(1)制度の概要
捜査機関は,逮捕・勾留中の被疑者に対しての「対象事件」について,取調べをするときには,原則,取調べの全過程の録音・録画が義務付けられることになりました(刑訴法301条の2第4項)。
(2)制度の対象者及び対象事件
しかし,本改正では,全ての事件について,録音・録画が義務付けられたわけではありません。
まず,逮捕・勾留中の被疑者に限定されており,在宅の被疑者については義務がありません。
そして,対象事件は,いわゆる「裁判員裁判対象事件」と「検察独自捜査事件」の2類型に限定されています。
ここでいう「裁判員裁判対象事件」とは,死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件などの裁判員裁判の対象となる重大事件をいいます。
「検察独自捜査事件」とは,いわゆる特捜部が単独で捜査を行う事件などをいいます。
(3)例外事由
録音・録画義務が免除される例外事由も規定されています。
例えば,
① 機器の故障などで記録ができないとき
② 被疑者が記録を拒んだことなどにより,被疑者が十分な供述をすることができない場合
③ 暴力団構成員による犯罪である場合
などです。
(4)まとめ
取調べの録音・録画制度が導入されることになったものの,全ての事件に適用があるわけではない点には留意が必要です。
また,実際の運用については,現時点では不透明な部分も多いため,動向を注視していく必要があるといえます。