PAGE TOP ▲

Archive for 11月, 2013

食品偽装について

水曜日, 11月 27th, 2013

970202_475080829235473_2033982229_n最近,バナメイエビを芝エビと偽ったホテル・レストランの事例など,食品偽装の問題が,世間を騒がせています。

食品偽装は,場合によっては犯罪として処罰されかねない重大な問題です。

なお,画像は,今年の夏に,私が旅先でいただいた料理を撮影したものです。大変美味しかったもので,もちろん偽装とは関係ありません。

むしろ食品偽装の問題は,真面目な飲食店,料理人の方こそ,憤っておられるのではないでしょうか。

さて,わかりやすいように,アメリカ合衆国産の米を,新潟産のコシヒカリであると偽って表示した場合を例に挙げて説明ます。

この場合,不正競争防止法景表法(不当景品類及び不当表示防止法)に違反し,重い犯罪となります。

不正競争防止法では,その21条2項5号で,「商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に関する書類若しくは通信にその商品の原産地,品質,内容,製造方法,用途若しくは数量又はその役務の質,内容,用途若しくは数量について誤認させるような虚偽の表示をした者」は、5年以下の懲役,500万円以下の罰金に処すると定めています。

また,法人の場合は,3億円以下の罰金刑とされています(22条1項)。

また,景表法では,原産国に関する不当表示とされた場合は,措置命令(違反行為の差止めなどを命令する)の対象となり,その命令に従わない場合,個人は2年以下の懲役,300万円以下の罰金(15条),法人は3億円以下の罰金となります(18条)。

このような食品偽装は,故意で行ったものでない限りは,犯罪とはなりません。

しかし,実際に故意か過失かはすぐには分かりませんので,捜査機関の捜査の対象となり得ますし,今回の騒動から分かるように,世間から強い非難を浴びます。

こうした事実が発覚したときには,以下のような対応が不可欠です。

刑事事件として立件されるか,あるいは起訴されるかどうかは,行為そのものの悪質性が第一に考慮されますが,その後の対応がきちんとできているかも非常に重要な要素です。

初期対応

県などの監督官庁に対して,事実の報告や改善措置の説明を速やかに行う必要があります。

また,購入者に対するお詫びや返金,店頭やホームページでの告知,報道機関への発表,新聞広告の掲載などもスピーディに実施します。

改善措置

外部調査委員会などによる調査,再発防止策の策定と実施,従業員に対する教育措置,内部通報制度の構築,マニュアルの整備などが重要です。

これらの措置については,きちんと文書化・証拠化した上で,監督機関や捜査機関に対して弁護士の意見書とともに提出することになります。実際,このような対応を速やかに行ったことによって,刑事立件を免れたり,不起訴になった事例もあります。

しかしながら,いったん不祥事が発生した場合には,その対応は本当に大変であり,企業にとって多大な損害が生ずる可能性があります。

普段から,コンプライアンスを徹底する姿勢こそが,企業の評判や利益を守るといえるでしょう。

 

 

 

共同事務所と個人事務所の強みと弱み

水曜日, 11月 20th, 2013

 

一般に,弁護士が複数所属している事務所を共同事務所,弁護士1~2名くらいで運営している事務所を個人事務所といいます。

共同事務所には,弁護士3~5名くらいの比較的小規模なものから,東京の大事務所のように数百名の弁護士を擁する大企業のような事務所もあります。

私が以前に所属していた事務所は弁護士が二十数名いましたので,大阪では比較的大きな共同事務所でした。今は独立して,弁護士は私1人ですから,典型的な個人事務所です。写真は,私の事務所のある「西天満大治ロイヤービル」ですが,このビルには他にもいくつか法律事務所がありますが,いずれも個人事務所です。IMG_1453

さて,それら共同事務所,個人事務所双方の特徴について考えてみたいと思います。

①共同事務所の強み

・専門分野の異なる弁護士が集まることで,事務所全体として総合化できる(ただし,事務所ごとの得意分野,カラーというものはあるので,すべてをカヴァーすることは実際には難しい)。

・大型の破産や民事再生事件にも対応できる。

②共同事務所の弱み

・顧問先,依頼者の数が増大するので,利益が相反するとして事件を受任できない場合がある。

・マネジメントについて会議制となるので,決断に時間がかかる。

③個人事務所の強み

・利害相反のおそれが少ない。

・大規模な案件をチームで抱えているということがないので,フットワークが軽く,依頼者のニーズに迅速に対応しやすい。

・マネジメントの決断が迅速。

個人事務所の弱み

・当たり前ではあるが,弁護士が1人しかいないので,マン・パワーに限りがある。

・専門分野が限られる(ただし,これは専門分野に注力するということで,メリットにもなり得る)。

他にも色々あるでしょうが,こんなところでしょうか。両方を経験した私としては,依頼者のニーズによって,使い分けていただくことが大事かと思っています。医者と同じで,普段の診療は身近で相談しやすい,かかりつけ医に頼み,そこでは対応できない大きな病気になったら綜合病院を紹介してもらう,というように。

私も実際,海外がからむ複雑な案件のご相談を受けたときには,東京の大手法律事務所をご紹介したことがありました。海外のロー・ファームにも提携先があるような大きな法律事務所とのつながりは不可欠です。

なお,実際には一般的な案件では,共同事務所であっても事件を担当する弁護士は1~2名ですので,個人事務所とサービスの内容に大きな差はないように思います。結局は,弁護士個人の能力と,依頼者の方との相性が大きいといえるでしょう。

当事務所では,普段から個人事務所の特性を生かした上で,弁護士以外のスタッフの人員,能力を充実させること(現在,事務局スタッフは3名。うち1名は裁判所書記官出身者)や,IPADやメールを有効に活用することで連絡に遺漏がないようにすることを心がけています。それに,専門分野を拡大するための研鑽は不可欠です。

さらに,近い将来,当事務所でも,弁護士を複数にして一層サービスを充実させる予定です。

その上で,やはり身軽な事務所という特性を生かして,依頼者の身近に寄り添った姿勢で,お役に立ち続けたいと思っています。

 

書評(シリーズ捜査実務全書)

木曜日, 11月 14th, 2013

41z9XQJS-9L__SS500_あまり一般に知られていないものですが,実務に役立つ刑事関係の書籍を紹介したいと思います。

東京法令出版から出されている「シリーズ捜査実務全書」です。

このシリーズは,すべて検察官の著作で,1~15まであり,

①強行犯罪 ②財産犯罪 ③知能犯罪 ④会社犯罪 ⑤証券・金融犯罪 ⑥不動産犯罪 ⑦暴力団犯罪 ⑧薬物犯罪 ⑨風俗・性犯罪 ⑩環境・医事犯罪 ⑪公務員犯罪 ⑫選挙関係犯罪 ⑬少年・福祉犯罪 ⑭交通犯罪 ⑮国際・外国人犯罪

となっています。

これらは,平成6年に初版が出版されており,最近の改訂はなされていないので,内容的には古いところもあります。

しかし,実務で取り扱われる犯罪をほぼ網羅しています(労働,知的財産,コンピューター関連の犯罪は他の書籍で補う必要がありますが)。

特に,それぞれの犯罪類型ごとに,どんな証拠を集め,そのためにどのような捜査が行われるのか,何に力点を置いて取り調べを行うのか,関係者はどこまでの範囲で何を聞くのかなど,具体的に書かれています。

例えば殺人事件の捜査については,現場観察の留意事項として,

「①犯行日時を推定する資料(時計・ラジオ・テレビ,新聞・牛乳等の定期配達物,電灯・食事・台所等の状況),

犯行場所に関する資料(現場及び付近の状況,遺棄された疑いのあるしたいについては付着物・履き物・足裏の状態等),

犯人の推定に関する資料(遺留品,手掌紋その他の痕跡,血痕・体液等,接待の痕跡,その他),

犯行の動機を推定する資料(物色の痕跡,姦淫の有無,創傷の部位,死体の処置・供物,接待の痕跡など),

犯行方法に関する資料(行動痕跡,死体の位置・状況,血痕の飛沫状況,家具等の移動の有無,凶器その他の遺留品の状  態,風呂場・流し場の状況など,

共犯者の有無に関する資料(2種以上の凶器・創傷の有無,2種以上の指掌紋・足跡等の有無,物の移動は単独で可能かなど),

被害者の特定に関する資料(身元不明の被害者につき,指紋,着衣・所持品,身体的特徴等),

被害金品の確認など」

と具体的に挙げられています(シリーズ捜査実務全書1 強行犯罪」52,53頁)。

捜査経験豊富な検察官の書いたものですからすぐれて実務的で,私は,現職の検事時代は座右の書にし,特に初めての種類の事件の配点を受けたときには,必ずこれらを参照していました。

また,刑事弁護に当たっても,これは非常に役に立ちます。

無罪判決が時々出ますが,その多くは,というかほとんど全部が,捜査にミスがあります。基本的な捜査を行っていないばかりに,証拠の収集や評価に誤りが生じているのです。

弁護士としては,担当した事件について,基本を踏まえたきちんとした捜査が行われているのかどうかを,厳密にチェックしなければなりません。その際に,このような捜査官向けの書籍は,基本を踏まえた捜査とは何かを知る有益な手がかりになるのです。

amazonの書評にもありましたが,本格的なミステリーファンの方が読んでも面白いかもしれません。

刑事事件に携わる実務家には,特にお勧めいたします。

クラシック音楽と法律家②

金曜日, 11月 8th, 2013

2011080719435410e前回の記事に続いて,今度は,法律家が聞くにふさわしいクラシック音楽や音楽家という話に進みます。引き続き,軽い気持ちで読んで下さい。

なお引用画像は,ドイツの名指揮者のギュンター・ヴァントの日本公演でのDVDです。カラヤンのような派手さはありませんが,ブルックナーやベートーヴェンの交響曲を得意とする正に頑固一徹の職人といった指揮者でした。

1 法律家にお勧めのクラシック音楽

(1) 裁判官

これはもう,バッハモーツァルトです。私の知っている裁判官は,皆さん上品で折り目正しい方ばかりだからです。

そして,裁判官の仕事には,他人に相談できず,自分だけで結論を決めなければいけないという孤独がつきものです。

モーツァルトの曲は,ご存じのように明るくて親しみやすいものですが,その底には悲しみや孤独が感じられ,正に裁判官の心理を反映するにふさわしいと言えましょう。

具体的な曲名を挙げると,バッハでは「無伴奏チェロ組曲」,モーツァルトでは「交響曲第40番」あたりがピッタリではないでしょうか。

(2)検察官
検察官には,本当は「兄弟船」などのベタな演歌が似合います。しかし,あえてクラシックでいうなら,ベートーヴェンワーグナーでしょう。犯罪という社会悪と闘うには,強いモチベーションと粘りが大事なため,重厚で元気が出る曲が一番です。

ベートーヴェン「交響曲第5番運命」と,ワーグナー「ニュルンベルグのマイスタージンガー前奏曲」を聞いて,気合いを入れたいところです。

(3)訟務検事
行政の円滑な運営を守るという役割を担いながらも,その一方で,あえて行政に苦言を呈することもあり,微妙な立場です。

そこで,挙げたい作曲家は,ドイツ・ロマン派のブルックナーマーラーです。突然曲調が変わるなど矛盾を内包したところや,曲がやたらと長いことが,訟務検事の立場や,国の準備書面が長いところに通じます。

具体的には,ブルックナーの曲で一,二を争う美しさの「交響曲第7番」と代表作「交響曲第8番」,それから映画「ヴェニスに死す」でも使われたアダージェットで有名なマーラー「交響曲第5番」。どれも大変良い曲なので,ぜひ聴いて頂きたいです(ちなみに,私が一番好きな作曲家はブルックナーです)。

(4) 弁護士
やはりオーケストラは似合わないように思うので,ピアノ曲などはいかがでしょうか。

法廷で激しく反対尋問をしているときにはショパンの「革命」,誰からも親しみやすい(弁護士の理想ですね)という意味でチャイコフスキーの「ピアノ協奏曲第1番」などを聴いて頂きたいところです。

私は仕事で疲れ切ったときなどは,良くチャイコフスキーの音楽を聴きます。甘い砂糖菓子のようなイメージで疲れがとれるような気がするからです。

2 尊敬する音楽家と目指す法律家像
私が尊敬する音楽家の話をします。

まずは1人目ですが,私は過去3回「1万人の第九」というイベントで,ベートーヴェンの交響曲第9番の合唱に参加しました。そのときの指揮者が,佐渡裕(ゆたか)さんでした。

佐渡さんは,パリ・コンセール・ラムルー管弦楽団の首席指揮者であり,兵庫県の芸術監督にも就任されている方ですが,その指揮する姿は,それはそれは情熱的です。「1万人の第九」においても,素人の集まりである我々合唱団に熱心にリハーサルをして下さるのですが,音楽のことを分かりやすく,かつ情熱的に語るその姿に,合唱団全員が感化されて,どんどん一体となります。そしてリハーサルが進むにつれて,歌がびっくりするほど良くなっていく様子に,心から感激しました。

次に,日本人指揮者として一番有名な小澤征爾さんを挙げますが,その音楽は流麗そのもので,まばゆいばかりの美しさがあります。

ウィーン国立歌劇場の音楽監督という,クラシック音楽界のトップの地位に就いたこともありながら,その人柄はとても気さくで謙虚な方のようです(一度,テレビでアイドルグループの「ZONE」にまで,丁寧にお辞儀をして愛想を振りまいていた姿を見て,驚いたことがあります)。

そして,私が最も尊敬している音楽家は,2001年に亡くなられた指揮者の朝比奈隆さんです。

その1年前にザ・シンフォニーホールで聞いた大阪フィルハーモニー管弦楽団とのベートーヴェン「交響曲第3番英雄」は,まるで作曲者の霊が降りてきたかのような名演奏で,余りの感動に心が震えました。

「1回でも多く舞台に立つ」が彼のモットーで,93歳(!!)で亡くなられるまで本当の意味で現役の指揮者として活躍され,ベートーヴェンやブルックナーの音楽において素晴らしい演奏を残されました。

このような一流の音楽家と比べて,私自身の普段の仕事に対する姿勢をかえるみると,身が引き締まります。打合せの席で,佐渡さんのように誰にでも分かりやすい話し方をしているだろうか,小澤さんのように謙虚な態度を取っているだろうか,仕事に対して,朝比奈さんのように愚直に情熱を燃やしているだろうか……。

これからは,少しでも良い演奏(仕事)をして,聴衆を感動させるために(社会正義の実現),尊敬する音楽家の素晴らしいところを真似していきたいと,心から思っています。