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Archive for 10月 3rd, 2013

理不尽な要求への対処法

木曜日, 10月 3rd, 2013

64_1暴力団など反社会的勢力や,悪質なクレーマー,粗暴な人(関西弁でいうところの「ヤカラ」)から,理不尽な不当要求を受ける被害に遭っている人は,決して少なくありません。

そのような場合に,自分だけで対応しようとすると,大変なストレスを抱え込みますし,時には暴力を振るわれるなど身に危険が生ずることあります。こういうときは,専門家の助力が不可欠です。

実際には,そのような相手方は,依頼者のことを「弱い人」だ,「脅せば言うことを聞く。たいしたことない。」と思っているから,何度も電話してきたり,色々脅しを言ってきたりするわけです。ですから,そのような手段が全く通じないということが分かれば,一切,連絡してこなくなります。

私の経験上,弁護士が代理人として相手方に対して,不当な要求について抗議し,要求を拒絶することを明示し,やまないようであれば警察へ告訴などの法的手段も講ずる可能性があることを内容証明郵便によって通知すれば,それだけで,ぴたっと要求がやむという事例がたくさんあります。依頼者にとっては,「えっ,こんなにあっさりと?」と意外に思われる方も多いです。

特に暴力団関係者などは,不当な要求行為をビジネス,つまり金儲けの手段として行っているにすぎないので,弁護士が代理人に就任したり,裁判などの法的な手続を取られた時点で,そのビジネスは終了するばかりか,逮捕などのリスクを考えて,おとなしくなるのです。「弁護士をつけたり,警察に言ったりしたら,復讐されるのではないか。」との心配は,杞憂にすぎません。

しかしながら,稀に,弁護士から警告をしても,不当要求がやまない事案もあります。これは,親戚同士や男女関係のもつれなど,個人的な恨みが強い場合や,相手方に犯罪者的な傾向が特にに強い場合に見受けられます。

そのような場合には,警察に被害の申告をし,保護を要請するほか,裁判所に面談強要禁止の仮処分を申立てることができます。

裁判所から出される命令は,例としては,以下のとおりです。なお,債務者が不当要求をしている人で,債権者が被害を受けている人です。

1 債務者は,債権者に対し,債権者の自宅又は勤務先を訪問し,電話をかけ,ファクシミリを送信し,メールを送信し,又は手紙を出すなどの方法により,債権者と直接面談を強要してはならない。

2 債務者は,債権者に対し,債権者の自宅・勤務先及びその近隣を徘徊し,債権者の身辺につきまとったり,待ち伏せしたりしてはならない。

このような処分は,ある程度の証拠があれば,裁判所が迅速に出してくれます。

相手方からのFAX,手紙などの文書,電話の録音,こっちに来たときの様子を録画した映像などが証拠になりますので,これらを集めておく必要があります。また,このような場合,相手方の承諾なく録音をすることは決して違法ではありません。

不当要求の実態を目の当たりにしている現場の弁護士としては,このような被害を防止し,また少なくすることで,安心して暮らせる社会になることを切実に望んでいます。

なお,引用画像は,全国的に活躍している民暴弁護士による論文集です。私と一緒に今年度の大阪弁護士会民暴委員会の副委員長を務めている同期の田中一郎弁護士も寄稿しています。好著ですので,ご紹介しておきます。

 

 

司法解剖について

木曜日, 10月 3rd, 2013

180419_108522749224618_7049493_n検事在職中は,よく司法解剖に立ち会いました。詳しい件数は覚えていませんが,二桁は確実です。なお,写真は検事時代の私です。よく見ていただくくと,バッジが弁護士のそれとは異なります。

ある地方の検察庁に勤務しているとき,元旦の早朝に自宅に電話がかかってきたことがありました。

前日は大晦日ですから夜更かしをしていたので,眠い目をこすりながら電話に出ると,当直の事務官から,「あっ,中村検事ですね。おはようございます。本日午前4時ころに,〇〇駅前でけんかの事案があり,1人,死亡しました。今日のお昼から〇〇大学病院で司法解剖がありますので,お越しください。」とのことです。

さすがに,このときは,正直「元旦からきついな~。」と思っていやいや大学病院まで行きました。

しかし,到着すると,法医学教室の教授はじめ助手らメンバー4名ほど,警察本部の警察官十数名ほどが勢揃いして,当たり前かもしれませんが,誰も文句一つ言わず,黙々と解剖の準備を進めていました。解剖台の上には,当時十代後半の男性の遺体が寝かされていました。ほとんど外傷はなく,綺麗な状態でした。

私も,当初の面倒だというような気持ちは吹っ飛び,「本当であれば,お正月は家族とのんびり過ごせたであろうに,こんな所に,こんな状態で・・・。」と思うと,怒りと悲しみを押えることができませんでした。

それから,数時間にわたる解剖の結果,その少年は,顔面,頭部を強い力で固い物で殴打されたことにより,脳の血管が損傷したことによって死亡したことがわかりました。

私は,解剖に立会しながら,担当教授から詳しく傷の状態,予想される凶器などを聞き取り,捜査担当の刑事らとも捜査の方針を確認し,帰宅したときには夜になっていました。解剖に立会した検事は,そのまま事件の担当になることが多いので,このときは完全に仕事モードになって,事件の捜査のための方策をあれこれ考えていました。

数日後,被疑者らが逮捕され,2人がかりで殴打したこと,うち1名は特殊警棒で顔面を殴打し,それが死因となったことが明らかになりました。

解剖に検事が立会する意味は,客観的な証拠に直接触れて,事件の問題点を早期に把握することにあります。また,法医学の教授は往々にして多忙のため,解剖をしている横で詳しく話を聞くのが,効率的ともいえます。

検事退官後は,このように解剖に立会することはなくなりました。ただ,法医学の本を読むだけでは分からない勉強ができたこと直接証拠を見て検証することが大切であることを実感したことは,貴重な経験であり,今も生きていると思います。