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勾留理由開示について


弁護士の荒木誠です。

最近,京都の放火殺人事件の関係で話題になりましたが,今回は,勾留理由開示に関する手続について解説します。

 

1.勾留とその要件

まず,勾留とは,被疑者や被告人の身柄を拘束する処分のことをいいます。

 

これは,裁判になる前の捜査段階における「被疑者勾留」,起訴された後になされる「被告人勾留」に分類できます(以下,簡略化のため区別なく論じます)。

 

どのような場合に勾留が認められるかという要件については,刑事訴訟法(以下「法」といいます。)60条1項に規定があります。

 

これによると,罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で,次の①から③の各号いずれか一つに当たるときは勾留ができる,とされています。

 

①定まった住居を有しないとき

②罪証隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき

③逃亡し,逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき

 

②の罪証隠滅や③の逃亡については,判例上,単なる抽象的なおそれではなく,現実的な可能性を検討することが要求されているのがポイントです。

 

また,そのほか,「勾留の必要性」も要件になると考えられています。

 

実際の勾留状には,例えば,暴行罪であれば「被疑者(被告人)は,●年●月●日ころ,××において,被害者に対し,▲▲などの暴行を加えたものである。」などといった嫌疑内容のほか,法60条1項何号の事由に当たるという結論しか書いてありませんので,具体的な理由の中身までは分かりません。

 

しかも,捜査段階では,弁護側は,捜査側が持っている証拠を見る手段がありませんので,どの証拠をどのように隠滅することが想定されているのか,正確に把握することは困難です。

 

弁護人が勾留の効力を争う場合には,勾留の理由が認められないことなどを主張するのですが,勾留の理由自体明らかではないため,依頼者の話を参考に,経験に照らして収集されている証拠内容を予想しつつ,主張を組み立てているというのが実際のところです。

 

そこで,勾留理由開示手続によって勾留理由を明らかにできないか,ということが問題となります。

 

2.勾留理由開示の根拠と手続

憲法34条後段には,

「何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。」

と規定されています。

つまり,勾留理由開示は,憲法に根拠があるということです。

 

そして,被疑者(被告人),弁護人だけでなく,配偶者や親族等の利害関係者も,裁判所に対し,勾留理由の開示を請求することができます。

ただし,1回の勾留につき,1度の請求しか認められていませんので,タイミングの判断が重要になります。

 

なお,法律上,原則として,被疑者(被告人)と弁護人が裁判に出頭することが義務付けられていますが,病気その他やむを得ない事由で出頭できず,被告人にも異議がないときには,例外的に被告人は出頭しなくてもよいことになっています。

 

具体的な開示の手続としては,まず,法廷において,裁判所から勾留理由の開示があります。

これに対し,弁護人が,その内容についてさらに詳しい説明を求めます(求釈明)。

その後,被疑者(被告人),弁護人,その他請求者が,勾留の理由等について意見陳述をします。

意見陳述の時間は,規則により1人10分以内と規定されています。

 

3.開示すべき理由の程度

裁判所がどの程度の理由を開示すべきかについて,明確な規定がありません。

弁護人としては,どのような証拠につき,どのような方法・理由で罪証隠滅がされると考えているのか具体的に説明してほしいところです。

しかしながら,実務では,捜査に支障を来たすなどを理由にして,具体的な理由が述べられることは少ないです。

そのため,開示手続が利用されることはあまりないのが現状です。

 

4.そのほか期待できる効果

意見陳述の内容は,裁判所の調書に記載されます。そのため,被疑者(被告人)の主張や,取り調べの状況等を供述させることで,そのときの供述内容を証拠化することができます。

また,事実上の効果というべきものですが,開示手続は公開の法廷で行われますので,面会が制限されているご家族などが傍聴に来ていただければ,顔をあわすことができます。