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書評(体系租税法)


体系租税法2015年12月30日に水野忠恒教授の「体系租税法」が発行されました。

これは,マイナンバー制度などのトピックにも言及されており,最新の教科書といえます。

水野忠恒教授は,日本を代表する租税法学者で,この教科書は索引を含めて935頁にもなる大部なものです。

租税法の教科書といえば,金子宏教授の「租税法」が著名です。

しかし,水野教授の「体系租税法」は,それとは,また違った特徴のある本で,大変参考になります。

特に裁判例について事案や判旨について詳しい記述がなされています。

また,国際課税アメリカ合衆国などの外国の法制度の記述も詳細です。

租税法を学ぼうとする法律家にとって,座右に置くべき書籍といえるでしょう。

また,はずれ馬券裁判についても,他の教科書よりも詳しい記述がなされています。

ただ,水野教授は,最高裁判例とは反対の立場です。

同書では,「競馬を見るわけでもなく,儲けのためだけに馬券を買っている場合であれば,なおさら,収入と経費との関係を吟味すべきであり,外れ馬券が勝馬投票馬券に関連したものではなく,必要経費とみるべきではないと思われる。」と述べておられます(同所244,245ページ)。

その前提として,水野教授は,この裁判例について,馬券購入行為に所得源泉性を認め,特殊な投資行為としたものと理解されています。

確かに一審の大阪地裁判決は,被告人の馬券購入行為についてFX取引等と類似する一種の投資活動と理解し,所得源泉性が認められるという理由付けをしていました。

しかし,その後の大阪高裁及び最高裁の判決では,投資活動と評価したものではありません。

これらの判決は,一連の馬券購入行為を,端的に文理に照らして「営利を目的とする継続的活動」であるとしたものです。

その上で,雑所得に該当するとし,外れ馬券も含めた全馬券の購入金額が必要経費に該当するとしたものです。

ですから,水野教授の批判は,最高裁判決,高裁判決に対するものとしては,的を射ていないように思われます

また,諸外国の法制度で,このような馬券の払戻金についての課税がどうなっているのかについても(はずれ馬券も経費となるアメリカや,的中馬券に課税のかからないフランス以外の例えばドイツやイギリスなどの制度ではどうなっているのか),是非,言及してほしかったところです

ただ,先日の東京地裁判決では,外れ馬券を必要経費と認めない判断が下されたこともあり,今後,競輪,競艇などでも同様の問題が生ずる可能性もあるので,この論点についての議論はこれからも深めていく必要があるといえるでしょう。