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Archive for 9月, 2020

LGBTの法律問題

月曜日, 9月 28th, 2020

lgbt_rainbow_flag近年,LGBTなどのセクシャル・マイノリティについて報道されることが多くなり,皆さんも目にしたことがあると思います。

数年前に,著名なお笑いタレントが,30年以上前に人気のあった,男性同性愛者を揶揄したようなキャラクターをテレビの企画で演じ,大きな批判を浴びたということがありました。

このようにLGBTに対する社会の意識は大きく変化しつつありますが,差別がなくなったわけではありません。

また,現代社会では,企業としても十分な配慮が必要です。 

なお,画像のイラストは,レインボーフラッグといって,LGBTの社会運動を象徴する旗です。

1 LGBTとは

LGBTとは,セクシュアル・マイノリティを表す言葉で,レズビアン(女性同性愛者),ゲイ(男性同性愛者),バイセクシュアル(女性も男性も性的対象となる人),トランスジェンダー(性的越境者)の頭文字をとったものです。

また,これら以外にも,性のあり方は多種多様です。

インターセックス・性分化疾患(産まれたときに身体的特徴だけでは男女判別ができない人たち),クエスチョニング(性自認や性的嗜好を確定しない,あるいはできない人たち),アセクシュアル(性的欲求のない人たち),Xジェンダー(性自認が男女二分になじまない人たち)などがあります。

「異性同士が好きになるのが正しい性のあり方である」という考え方は,現代の社会では一方的な見方にすぎません。

人間には,多種多様な性のあり方が存在しており,そこには善も悪も,本来的なものも非本来的なものもないのです。

2.企業に求められる配慮 ~ セクハラについて

ただ,セクシャルマイノリティである場合,世間一般から偏見の目で見られることをおそれ,自らのことを公にする(カミングアウト)ことを避けていることが多くあります。

そのため,例えば,職場で冗談めかして,「どうして結婚しないの。」,「ひょっとしてレズ?」などと発言することがあると,それはLGBTに対するセクシュアル・ハラスメントに当たります。

場合によっては企業に損害賠償義務が生じるのです。

諸説ありますが,日本では13人に1人がLGBTであるとの報告があります。

ですから,社内には,LGBTの人がいるかもしれないことを常に考えて,言動に気を付ける必要があります。

3.企業に求められる配慮 ~ セクハラ以外

日本では,同性間の結婚がまだ認められていません。

ですから,LGBTの人たちにパートナーがいる場合でも,法律上の配偶者にはなっていません

しかしながら,法律上の結婚をしていないとしてもパートナーとの共同生活は,その人にとってかけがいのないもので,男女間の結婚と何ら変わるものではありません。

したがって,配置転換を決める際にも,同性パートナーの存在を配偶者と同等に考慮する必要があります。

ですから,たとえば同性パートナーが病気で看護をする必要があるとの申出があるにもかかわらず,そのことを一切考慮に入れずに遠方への転勤を命じる配置転換命令をした場合には,それが裁量を逸脱した違法なものとなるおそれがあります

また,採用した男性従業員から,性同一性障害の診断書が提出され,「自分は女性なので,名前,制服,トイレ・更衣室の使用など,すべて女性として取り扱って欲しい。」と言われることも考えられます。

企業としては,他の従業員の抵抗があるのではないかと考えて,このような申出には困惑するかもしれません。

しかし,職場の実情に応じて可能な範囲で,従業員の性自認に配慮した職場環境や労働条件を整えることが必要です。

たとえば,名前や制服などは本人の性自認に直接かかわるものであり,企業に不利益を生ずるものとはいえません。

ですから,原則として本人の希望に従った対応が必要でしょう。

トイレや更衣室のように他の従業員と調整が必要な事項については,どうでしょうか。

すぐには実現できないとしても,職場全体の環境改善の問題として,本人の話もよく聞きながら,周囲の理解を得るよう努め,時間をかけてでも対応をしていく必要があります。

この点,性同一性障害の男性労働者に対して,本人の希望する女性の容姿,名前での就労を禁止した上で,それに逆らった当該労働者を懲戒解雇した事例について,懲戒解雇が無効と判断された裁判例があります(東京地方裁判所平成14年6月20日決定)。

4.同性パートナー間の法律問題

同姓パートナーと生活している人が,老後の問題を心配したり,相手に財産を遺したいというような場合があります。

法律上の結婚ができないため,養子縁組をしているケースがありますが,実はそれにはリスクがあります。

養子縁組は,「親子関係」を築くための制度ですので,同性カップルの場合には,果たして法律上の養子縁組の意思があるといっていいのか,問題となる可能性があるからです。

しかも,養子の場合は相続権が100%となりますので,実際に相続が発生した場合に,兄弟や親など他の相続人となり得る人から,養子縁組の無効が主張されて,争いになるリスクがあるのです。

そこで,公正証書遺言や,任意後見契約を活用して,トラブルを未然に防ぐことが大切ですが,現行法上では限界もあります。

例えば,アメリカ合衆国や,イギリス,ドイツ,オランダなど欧州諸国,またアジアでも台湾で,同性婚が認められています。

日本でも,東京都渋谷区を始めとして,大阪市でも同性パートナーを公的に証明する制度が採用されています。

私見としては,同性間であっても結婚を認めるべきだと考えていますので,日本でも制度の改正が望まれるところです

文責:弁護士中村和洋

法律の中の幽霊

水曜日, 9月 2nd, 2020

お化け弁護士の渡邉春菜です。

8月が過ぎ去り,9月が到来しました。

体温より高い外気温にとろけそうな日々もようやく終盤。

とはいえ,週間予報を眺めれば,予想最高気温は35度前後にべったり張り付き,秋の姿は未だ見えず。

せめてウェブ空間の中だけでもひんやりとした涼を演出すべく,本日は「幽霊」のお話です。

 

なお,当業界(法曹界),実にさまざまな紛争を扱いますため,「幽霊よりも人間の方が怖い」というご発言をされる方が大変多いのですが,幽霊よりも恐ろしい人間のお話は,涼しさを通り越して凍り付きそうになりますので,本ブログでは省略させていただきます。

 古今東西,幽霊の存在は,多くの人により信じられ,語られ,研究されてきました。しかし,現在においてもその存在は証明されていません。

現代の日本の法律でも,幽霊なるものは存在しないことになっています。

「幽霊」という文言が載っている法律は,寡聞にして存じません。

はりめぐらされた法の網も,幽霊には及んでいません。

民法には3条1項に「私権の享有は出生に始まる」という大変格調の高い条文があります。

これは要するに「人は生まれながらにして,私法(民法等)で認められた諸権利(人格権・財産権等)を有しうる」という意味なのですが,同時に「人は亡くなったらこれらの諸権利を有する資格を失う」ということを意味します。

つまり,幽霊に「権利」はありません

刑法では,主に「者」(≓人)に対する処罰を定めていますが,亡くなった方はこれに含まれません。つまり,幽霊は処罰されません。

 

現在の法律は基本的に「幽霊は存在しない」という前提で作られ,運用されています。しかし,法律の話をしている際に「幽霊」が一切登場しないかというと,実は登場シーンがないではないのです。

いわゆる「事故物件」,例えば,居住用マンションの一室で居住者が亡くなり,その後その部屋には「幽霊が出る」という噂が絶えず次々に入居者が変わっていたものの,そうとは知らずにこれを購入してしまった方がいるとします。後からこの事実を知った購入者は,(一定の条件を満たせば)民法に基づき,売買契約を解除したり売主に損害賠償請求等をすることが出来ます。 

 

今年4月に改正される前の民法(改正前民法)では,「売り物に『瑕疵』(読み方:かし,意味:キズ)があった場合,一定の条件を満たせば,購入者は売主に対して売買契約の解除や損害賠償請求ができる」となっていました(改正前民法570条)。

売り物にキズ(瑕疵)がある」とは,「この手の売り物には一般的に×××という品質や性能があるけれども,この売り物にはそのような品質や性能がない」という状態です。

例えば,白雪姫がリンゴ売りから買ったリンゴが毒入りの場合,このリンゴには「キズ(瑕疵)」があります。

通常売られているリンゴは食べることができますが,白雪姫が買ったリンゴは毒が入っていて食べることが出来ないものだったからです。

この「キズ(瑕疵)」は,「買ったリンゴに毒が入っている」とか,「買ったマンションが雨漏りする」等の物理的なものに限られません。

心理的瑕疵」,つまり,「売り物の物理的な性能等に問題があるわけではないけれども,購入を考えている人が『そんな事情があるなら買いたくない!』と強い心理的抵抗を感じやすい事情」も含まれます。

以前の居住者がこの部屋で亡くなっていて,以後幽霊が出るという噂が絶えない」というのも,この事情の一つにあたり得ます。 

したがって,このような部屋を買ってしまった場合,(一定の条件を満たせば)契約の解除や損害賠償請求が出来ることになるのです。

 

なお,この4月に改正された民法では,瑕疵に関する売主の責任が定められた旧民法570条(瑕疵担保責任の定め)が削除されました。

しかし,代わりに「契約不適合責任」という条文(改正後民法565条)が新たに出来ました。

そのため,上記のような心理的瑕疵に関する考え方は,基本的に変わらないと思われます。 

ただ,変更点が一つあります。 

第一に,説明の仕方。「この手の売り物は一般的に×××という品質や性能を持っているけれども,この売り物にはそのような品質や性能がないから,この売り物にはキズ(瑕疵)がある」という説明の仕方が,「この手の売り物は一般的に×××という品質や性能を持っているけれども,この売り物にはそのような品質や性能がないから,この売り物は契約不適合(=売買契約に適合した売り物ではない)」という説明に変わります。

第二に,購入者が売主に何を請求できるかです

改正前は①契約解除②損害賠償請求が出来るとなっていましたが,改正後は,これらに加えて,③売買代金減額請求が可能になります。(ごく例外的なケースになるとは思いますが,場合によっては)④代替物の引渡請求(=同じような部屋を引き渡せとの請求)も可能かもしれません。

 

以上,本日は,法律の世界に出てくる幽霊のお話でした。

怪談的ひんやり感を楽しんでくださった方,サムさを感じられた方,いずれも,まだまだ続きそうな暑さに負けないようご自愛ください。

イラスト作画:中村和洋