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賭け麻雀と税金について

木曜日, 5月 28th, 2020

 税務判例入門つい先日,東京高検の黒川弘務検事長が,緊急事態宣言で外出自粛要請がなされている中,賭け麻雀を行っていたことが発覚し,辞職に追い込まれるという出来事がありました。

 賭け麻雀は,賭博罪に該当しますが,勝ったお金についての税金はどうなるでしょうか。

 違法なことを理由とする所得であっても,現に収入が存在する以上は,所得税の対象となります。

 所得税法では,事業所得,給与所得,一時所得,雑所得など,所得の種類によって,必要経費の範囲など課税のあり方が異なります。

 賭け麻雀による所得については,事業所得,一時所得,雑所得が問題となります。

 麻雀にはプロがいますが,彼らは別に賭け麻雀を行っているのではなく,大会の出場費や賞金,レッスン料,麻雀雑誌の原稿料等で収入を得ているものと思われます。

 それらによる収入は事業所得と考えられます。

 プロ雀士とは異なり,昔の博徒のように,賭け麻雀を職業としている人はどうでしょうか。

 「事業所得」という考え方もあるでしょうが,判例では,事業とは,社会通念上の職業といえるものでなければならないとされています。

 賭け麻雀で収入を得る職業が,果たして社会的認知を受けているか,また実際にそんな人が多くいるとは思えないのではないか,ということからすると,「事業所得」とは認められない可能性が高いでしょう

   なお,例えば暴力団が,賭場を設営して,継続的に人を集めて賭け麻雀を行わせ,そこから寺銭を取っていたような場合には,賭博開帳図利罪が成立しますが,その場合の設営者の所得は,「事業所得」となる可能性が高いといえます。

 さて,一般的には,賭博による収入は,偶然に得た棚ぼた的なものであるとして,「一時所得」に該当します。

 一時所得は50万円までは非課税で,50万円を超える額については,その2分の1が所得税の対象となります。

 一時所得の場合は,その都度,単発で得た所得が問題になりますので,年間のトータルの所得が問題になるのではありません。

 賭け麻雀の場合は,通常は,一日に半荘を何回か行って,最後にトータルの収支で,金銭のやり取りをすることが多いと思われます。

 ですから,私見では,その日の最後のゲームが終わって,受け取った金額が一時所得に該当するものと考えます。

 もし,一回一回の半荘ごとに金銭をやりとりしているのであれば,その都度,一時所得になるでしょう。

 一時所得の必要経費は,その所得を得るのに直接必要な支出に限られますので,賭け麻雀の場合はせいぜい,雀荘に支払ったゲーム代くらいかと思います。

自宅で行っている場合には,ほとんど必要経費は認められないでしょう

 また,別の機会に負けてしまって,支払ったお金は,以前に勝って得たお金と結びつくものではありませんので,必要経費にはなりません。

 ですから,年間トータルでは損をしていても,収支がプラスであった日があれば,それらのプラスだけが合算されて所得になりますので,合計が50万円を超えていれば,課税の対象になります。

 負け金は必要経費にはならないのです

 では,しょっちゅう賭け麻雀をやっていて,ほとんどプラスであるという人の場合も,「一時所得」と考えてよいでしょうか。

 この点,馬券の払戻金についてはずれ馬券の購入費を必要経費と認めた最高裁判例が参考になります。

 同判例によれば,「行為の期間,回数,頻度その他の態様,利益発生の規模,期間その他の状況等の事情を総合考慮して,営利を目的とする継続的行為から生じた所得」であれば,雑所得として,年間のトータルに課税する,すなわちはずれ馬券の購入費を必要経費として認めるとされています(最高裁平成27年3月10日判決)。

 賭け麻雀の場合も,ほとんど職業に近い形で,毎日のように繰り返し行い,プロ雀士にも匹敵するほどの技量があって,収支もほとんどプラスなどの事情があれば,「雑所得」に該当する可能性があります。

 その場合には,負け金も必要経費となり得ますが,普通の人で,上記の条件を満たす人はほとんどいないのではないでしょうか。

 さて,件の検事長は,新聞記者から取材を受ける立場で,接待麻雀としてわざと勝たしてもらっていた可能性もあります。

 その場合は,偶然によって得た所得ではないので,一時所得には該当しません。

 取材を受ける対価,もっと進んで情報提供の対価ということであれば,収賄罪や,国家公務員法違反(秘密漏洩)が成立する可能性もありますが,所得税との関係では,「雑所得」に該当するでしょう。

 以上のように,賭け麻雀によって得たお金にも,税金がかかります。

 ただ,そもそも賭博は違法な犯罪で,勤務先における懲戒の対象になるだけでなく,時には逮捕,起訴されることもあり得ます。

 「学生時代にはよくやった。」,「みんな,やっている。」などの安易な気持ちで行うことは禁物といえるでしょう。

文責:中村和洋