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Archive for 10月, 2019

非弁行為について

金曜日, 10月 25th, 2019

 弁護士の中村和洋です。

 近年,賃貸借契約終了時の敷金返還をめぐって,弁護士資格のない業者が交渉に入ったり,退職代行サービスと称して,退職手続を代行する業者が多くみられます。

 しかし,これらの行為は,いわゆる「非弁行為」として,弁護士法に違反し,刑事罰が科されることもあります。

 また,弁護士以外のいわゆる隣接士業として,行政書士,司法書士,税理士などがありますが,これら士業の業務は,法律によって限定されており,それに違反すると,やはり弁護士法違反の問題が生じます。

 弁護士以外の者に法律事務をお願いしてしまうと,依頼した方も,後に警察の捜査に巻き込まれてしまうなど,大変なことになってしまうおそれがあります。

 そこで,今回は「非弁行為」について少し詳しく解説します。 

1.弁護士法の規制

 弁護士法では,非弁行為について,以下のような規制があります。

弁護士法72条

 弁護士又は弁護士法人でない者は,報酬を得る目的で訴訟事件,非訟事件及び審査請求,再調査の請求,再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定,代理,仲裁若しくは和解その他の法律事務を取扱い,又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし,この法律又は他の法律に定めがある場合は,この限りでない。

弁護士法73条

 何人も,他人の権利を譲り受けて,訴訟,調停,和解その他の手段によって,その権利の実行をすることを業とすることができない。

 弁護士法72条がいわゆる「非弁行為」というものです。

 報酬を得る目的で,法的な紛争に関して,他人と交渉をしたり,法律相談に応じることを業とすることはできません。

 これに対する違反については,2年以下の懲役又は300万円以下の罰金という重い罰則があります(弁護士法77条3号)。

 なお,大学の法律サークルによる法律相談や,高齢の父親が所有する土地の用地買収について子供が代わって交渉をするような場合には,それぞれ「報酬を得る目的」がなければ,許されます。

 弁護士法73条は,例えば,他人から債権の譲渡を受けて,その取立てをすることを業とすることを禁止するものです。

 このような行為は,法律上,特別の許可を受けた債権回収会社(サービサー)以外は行うことができません。違反は,同じく,2年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処せられます(弁護士法77条4号)。

 

2.事業として許されない行為

(1)明渡し時の敷金返還交渉

 インターネットで,「敷金 代行」などと検索すると,敷金返還についての示談代行サービス業者が複数表示されます。

 しかし,賃貸借契約解約に伴って返還される敷金の金額等について交渉することは,正に法律事務に他ならず,このような代行業者の多くは非弁行為をするもので,違法です。

 おそらく,建前は原状回復費用の査定を行っているだけで法律事務ではないということなのでしょうが,実際には,貸主に送る書面の起案や,交渉への立会いをしている場合も多いようです。

 このような行為は違法ですから,借主としては利用してはいけませんし(後日,犯罪捜査の対象となって巻き込まれる可能性があります),貸主側としても,代行業者は正式な代理人とは認めず,交渉の相手方としないという毅然とした態度が必要です。

(2)退職代行

 最近,増えてきているのが,退職代行サービスです。

 これも,「退職 代行」で検索しますと,多くの業者がヒットします。

 退職金等の退職条件を交渉することはもちろん,退職の意思表示をすることも法律行為ですから,弁護士以外で,有料でそのような行為を行う業者は,弁護士法に違反する可能性があります。

 ですから,退職代行業者から連絡を受けた使用者としては,本人又は弁護士が相手でないと,正式な退職の申出とは認められないし,話合いはできない旨伝えて,そのような業者とは一切交渉しないということも考えられます。

 敷金返還交渉にせよ,退職代行にせよ,代理人として認めないと言っているにもかかわらず,業者が強引に交渉の場に入ってこようとする場合はどうすればいいでしょうか。

 その場合には,警察等への告発や,大阪弁護士会の72条委員会への通報によって対応することが可能です。

(3)権利実行目的での他人の権利の譲り受け

 例えば,ある会社に債権を有しているところ,その会社が持っている第三者への債権の譲渡を受けて弁済に充てるという場合があります。

 そのようなことを繰り返し行うのでない限り,「業とした」とはいえませんので,適法です。

 ただ,「業」とは,実際に反復,継続するだけではなく,反復,継続する意思で行うだけで足りると解されています。

 ですから,債権譲渡を受けてそれを回収することを事業としようと考えて行った場合には,1回だけであっても,弁護士法に違反してしまいますので,注意が必要です。

 

3.他士業ができる範囲

 行政書士は,行政への提出文書や権利義務・事実証明に関する文書の作成だけが許されています(行政書士法1条の2)。

 ですから,相手方と交渉したりすることはもちろん,どのような内容や条件で契約をするかなど,法律相談に応じることもできません。

 司法書士は,簡易裁判所の管轄に属する民事紛争については代理権があります(司法書士法3条6号,7号)。

 簡易裁判所で取り扱う事件は訴訟の目的の価額が140万円までとされていますので(裁判所法33条1項1号),その金額を超えるような案件については,司法書士は,代理はもちろん,法律相談にも応じることはできません。

 税理士は,経営者にとって最も身近な士業の一つです。常日頃の経営相談や,相続対策の相談をすることもよくあると思います。

 しかし,例えば債権回収について法律相談に応じたり,契約書や内容証明文書を起案したりすることはできません。また,遺産分割の交渉をすることや,相続税の申告書に添付する必要がある場合を除き遺産分割協議書の起案をすることも,税理士の権限外になります。

 

消費税の軽減税率について

火曜日, 10月 1st, 2019

弁護士の渡邉です。

本日10月1日より,消費税率がアップ。そして我が国初の軽減税率が導入されました。

 

なじみのない新ルールに世の中は大騒ぎ。

とはいえルールの内容はいたってシンプル。

①原則として消費税率10%

②例外的に,飲食料品と新聞は8%。

 (理由:生活必需品なので,低所得者に配慮して税率を低く抑えています)

③ただし、飲食料品のうち,酒類と外食は10%。

(理由:これらは,飲食料品とはいえ,生活必需品ではなく嗜好品であり,税率を低く抑える必要が高くないからです)

 

具体例で見てまいりましょう。

シンプルなルールを適用するだけ,答えもシンプル(のはず)!

 

Q1.石鹸

A1.ルール①により10%

 

Q2.野菜お肉

A2.飲食料品なので,ルール②により,8%

 

Q3.塩こしょう

A3.当然,ルール②により,8%

 

Q4.みりん

A4.日本の食卓に欠かせない調味料です,もちろんルール②により8%!

  ……かと思いきや10%。みりんは「酒類」です。ルール③が適用されます。

 

いやいや何故,調味料の代表格のみりんが,嗜好品「酒類」なのでしょう?

何が「酒類」で,何が「酒類でない」のか。

基準はずばり,アルコール度数が1%以上かどうか(酒税法2条1項に定める「酒類」にあたるか)。冷徹な数字による判断です。

 

したがって,

Q5. 北新地の屋台で,ウイスキーの水割りを購入した場合

A5. アルコール度数1%以上なら消費税率10%,アルコール度数1%未満であれば消費税率8%となるはずです(そもそもアルコール度数1%未満の水割りウイスキーを注文する客がいるかどうかは甚だ疑問ですが)。

 

肌感覚からすると,

みりん=生活必需品だから②

アルコール度数1%未満の限りなく薄い水割りウイスキー=嗜好品だから③

になりそうな気がするのですが……。

まあともかく,更に見てまいりましょう。

 

Q6.ケータリング

A6.飲食料品のみならず「お客さんの自宅等で行う調理・取り分けサービス」も合わせて売っているので,「飲食料品(の譲渡)」(ルール②)にはあたりません。ルール①で10%

 

Q7.そば屋の出前

A7.ルール②により8%

 

(出典:国税等の消費税軽減税率制度に関するQ&A

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/03.pdf)

 

うーん,このルール,本当にシンプルと言えるのでしょうか?

 

租税の原則の一つに「簡素(税制度はできるだけ簡素なものにすべし)」が挙げられます。

「簡素」が原則とされる理由は,第一に,税制度が複雑になればなるほど税を徴収するコストが高くなってしまうので,これを抑えるため。第二に,国民が容易に理解できる税制度にすることで,納税の負担を軽減するためです。

軽減税率の導入で,事業者が納付する税額の計算方法も請求書の保存のルールも複雑になりました。ルールも,「誰でもすぐにわかる」というものではないようです。納税者も,そして納税者の税額が正しいかどうかをチェックする税務署も,負担は重くなります。つまり,軽減税率は「簡素」という原則には反しています。

もちろん,「簡素」という原則に反したから直ぐに「問題のある制度」とは言い切れません。租税の原則には「負担の公平」「経済の中立」といった原則もあり,「簡素」という原則は,これら他の原則とのバランスの中で尊重されるべきであるとされているからです。常にすべての原則を満たすことは不可能である以上,「『簡素』は犠牲にして『公平』を重視した制度設計にしよう」という選択も(合理的理由があれば)可能なのです。

 では,改めての疑問です。この「簡素」ではない制度,果たして「良い制度」なのでしょうか?

 ―――疑問に対する答えは,これからの税務実務の現場に立ち現れてくるはずです。