消費税の軽減税率について
弁護士の渡邉です。
本日10月1日より,消費税率がアップ。そして我が国初の軽減税率が導入されました。
なじみのない新ルールに世の中は大騒ぎ。
とはいえルールの内容はいたってシンプル。
①原則として消費税率10%
②例外的に,飲食料品と新聞は8%。
(理由:生活必需品なので,低所得者に配慮して税率を低く抑えています)
③ただし、飲食料品のうち,酒類と外食は10%。
(理由:これらは,飲食料品とはいえ,生活必需品ではなく嗜好品であり,税率を低く抑える必要が高くないからです)
具体例で見てまいりましょう。
シンプルなルールを適用するだけ,答えもシンプル(のはず)!
Q1.石鹸
A1.ルール①により10%
Q2.野菜お肉
A2.飲食料品なので,ルール②により,8%
Q3.塩こしょう
A3.当然,ルール②により,8%
Q4.みりん
A4.日本の食卓に欠かせない調味料です,もちろんルール②により8%!
……かと思いきや10%。みりんは「酒類」です。ルール③が適用されます。
いやいや何故,調味料の代表格のみりんが,嗜好品「酒類」なのでしょう?
何が「酒類」で,何が「酒類でない」のか。
基準はずばり,アルコール度数が1%以上かどうか(酒税法2条1項に定める「酒類」にあたるか)。冷徹な数字による判断です。
したがって,
Q5. 北新地の屋台で,ウイスキーの水割りを購入した場合
A5. アルコール度数1%以上なら消費税率10%,アルコール度数1%未満であれば消費税率8%となるはずです(そもそもアルコール度数1%未満の水割りウイスキーを注文する客がいるかどうかは甚だ疑問ですが)。
肌感覚からすると,
みりん=生活必需品だから②
アルコール度数1%未満の限りなく薄い水割りウイスキー=嗜好品だから③
になりそうな気がするのですが……。
まあともかく,更に見てまいりましょう。
Q6.ケータリング
A6.飲食料品のみならず「お客さんの自宅等で行う調理・取り分けサービス」も合わせて売っているので,「飲食料品(の譲渡)」(ルール②)にはあたりません。ルール①で10%
Q7.そば屋の出前
A7.ルール②により8%
(出典:国税等の消費税軽減税率制度に関するQ&A
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/03.pdf)
うーん,このルール,本当にシンプルと言えるのでしょうか?
租税の原則の一つに「簡素(税制度はできるだけ簡素なものにすべし)」が挙げられます。
「簡素」が原則とされる理由は,第一に,税制度が複雑になればなるほど税を徴収するコストが高くなってしまうので,これを抑えるため。第二に,国民が容易に理解できる税制度にすることで,納税の負担を軽減するためです。
軽減税率の導入で,事業者が納付する税額の計算方法も請求書の保存のルールも複雑になりました。ルールも,「誰でもすぐにわかる」というものではないようです。納税者も,そして納税者の税額が正しいかどうかをチェックする税務署も,負担は重くなります。つまり,軽減税率は「簡素」という原則には反しています。
もちろん,「簡素」という原則に反したから直ぐに「問題のある制度」とは言い切れません。租税の原則には「負担の公平」「経済の中立」といった原則もあり,「簡素」という原則は,これら他の原則とのバランスの中で尊重されるべきであるとされているからです。常にすべての原則を満たすことは不可能である以上,「『簡素』は犠牲にして『公平』を重視した制度設計にしよう」という選択も(合理的理由があれば)可能なのです。
では,改めての疑問です。この「簡素」ではない制度,果たして「良い制度」なのでしょうか?
―――疑問に対する答えは,これからの税務実務の現場に立ち現れてくるはずです。