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Archive for 3月, 2015

馬券の払戻金に対する課税についての通達の改正

水曜日, 3月 25th, 2015

馬券の払戻金の課税について,通達の改正がなされるようです。

ただ,改正案は,「馬券を自動的に購入するソフトウェアを使用して独自の条件設定と計算式に基づいてインターネットを介して長期間にわたり多数回かつ頻繁に個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入をして当たり馬券の払戻金を得ることにより多額の利益を恒常的に上げ,一連の馬券の購入が一体の経済的活動の実態を有することが客観的に明らかである場合」のみ,雑所得とするつもりのようです・・・。

いくらなんでも,狭すぎるといえるでしょう。

本来なすべき,公平な課税を実現するための抜本的改正は考えられていないようです。

上記の場合が「営利を目的とする継続的行為」に該当することは当然として,営利を目的として,毎週のように馬券を購入し続けているような場合については,広く外れ馬券も経費と解さないと,儲け以上に課税がなされることには変わらず,やはり,不当な課税となってしまいます。

パブリックコメントが募集されていますので,租税法に携わっている方や,競馬ファンの方には,是非,意見を提出いただければとおもいます。

http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=410270009&Mode=0

 

私も,以下のような意見を提出いたしました。

「最高裁判決の趣旨は,決して当該事案に限定するものではない。

行為の期間,回数,頻度その他の態様,利益発生の規模,期間その他の状況等の事情を綜合考慮して『営利を目的とする継続的行為』か否かを判断するとされている。

したがって,予想ソフトやインターネットの利用,利益の恒常的発生といった要件を不可欠のものとすべきではない。
競馬ファンの多くは,払戻金によって利益を得ることを考えて継続的に購入しているのであるから,そのような場合も広く「雑所得」として取り扱うべきである。

改正案では,実際に生じた利益以上に課税されたり,あるいはトータルでは損をしているにもかかわらず,課税が生ずるという著しく不当な結論を何ら回避できない。

アメリカ合衆国は外れ馬券の購入費は的中馬券の払戻金にみつるまではすべて必要経費として控除するものとされており,我が国においても同様に解すべきである。

したがって,公平な課税の実現という観点からは,年間に数レースしか購入せず,たまたま馬券の払戻金を得たという典型的な一時所得に該当する場合以外の継続的な馬券購入については,営利目的が推認されるとして,広く雑所得として取り扱うものとすべきである。」

最高裁判決のご報告(はずれ馬券裁判)

木曜日, 3月 12th, 2015

ecn1503100032-p11 はじめに

はずれ馬券が必要経費となるかが争われていた刑事裁判について,3月10日,最高裁が検察官の上告を棄却しました。

これにより,被告人,弁護人の主張をほぼ全面的に認めたこれまでの地裁,高裁の判決が確定することになりました。

 

2 判決内容について

まず,最高裁は,一時所得と雑所得を区別する「営利を目的とする継続的行為」かどうかを判断するについては,行為の期間,回 数,頻度その他の態様,利益発生の規模,期間その他の事情を総合考慮して判断すべきとしました。

その上で,本件のようにインターネットを介して長期間にわたり多数回かつ頻繁に購入をし,多額の利益を恒常的に上げるなどした事実関係の下では,「営利を目的とする継続的行為」であるから,雑所得に該当する,としました。

検察官は,競馬のようなギャンブルは,本質的に一時所得にしかなり得ないと主張しましたが,最高裁はこれを退けました。

次に最高裁は,はずれ馬券の購入費が経費となるかということについても,本件は,一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有するので,はずれ馬券の購入費もすべて経費に該当するとしました。

なお,大谷剛彦裁判官の意見があり,はずれ馬券は,払戻金とは対応していないので経費にはならないが,本件の特殊性に鑑み,また,巨額に累積した脱税額を被告人に負担させることの当否には検討の余地があり,原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまではいえず,結論としては上告棄却とする,というものでした。

また,同意見では,課税の公平,安定性の観点から,課税の対象を明確にして妥当な税率を課すなどの特例措置をもうけることの提案がされています。

 

3 判決の評価

競馬の払戻金について,いかなる課税がなされるかについて,最高裁が初めて判断を下した画期的な判決です。

結論も,国民の常識に沿ったもので正当といえます。

競馬だけでなく,他の公営ギャンブルによって得た払戻金についても当てはまるので,社会的な影響も大きいでしょう。

大谷裁判官の意見についても,公平でわかりやすい課税のため,特例措置をもうけるべきだと言及したことは高く評価できます。

 

4 今後の影響

本件は刑事裁判の判決ですが,国税庁はこの判決を尊重すると発表しているので,現在大阪高等裁判所にかかっている税務訴訟については控訴が取下げられるなどして,終結するものではないかと思います。

また,国税庁は,本件を例外的なケースとみて,通達の改正によって対応する意向のようです。

しかし,競馬の売上の多くは,国庫に入っていて,払戻金から更に税をとるのは二重課税だという指摘があります。

私は,その指摘は当たっていると思います。

それに,窓口で払戻金を受けた場合との不公平をどうするのか,具体的には雑所得と一時所得との区別についてどこで線を引くのか,という問題もあります。

もともと,競馬でたまたま儲かっても,前の年や翌年には大きく損をすることも考えられ,馬券の払戻金自体に,担税力が強くあるとは思えません。

宝くじと同じく非課税とする選択肢も十分に考えられるでしょう。

仮に課税をするとしても,フランスのように購入時に定率の課税をすることも考えられますし,他には,払戻時に数パーセント程度の源泉分離課税を行なうことも考えられ,むしろ,これらが現実的といえます。

最高裁の判決を真摯に受け止めるのであれば,本件を例外的とみて,単なる通達の改正でお茶を濁すのではなく,抜本的な法改正を行なうべきと考えます。