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脱税事件の査察調査


money_zeikin1 査察調査と普通の税務調査の違い

 脱税とは,「偽りその他不正の行為」によって税を免れる行為です。

 脱税は犯罪であり,懲役刑や罰金刑が科されます.

例えば、所得税法違反の場合、10年以下の懲役,1000万円以下の罰金となります。

ただし,ほ脱税額が1000万円を超える場合には罰金額の上限はほ脱した所得税に相当する金額以下です。

 「偽りその他不正の行為」とは,帳簿への虚偽記入や二重帳簿の作成等が典型例ですが,最高裁の判例では,虚偽の過少申告を行うこと自体も,不正の行為に当たるとされています。

 脱税の手口を大きく分けると,①売上を除外する方法と,②架空経費を計上する方法があり,両方を組み合わせる場合もあります。

  そして,脱税の嫌疑がある場合に調査を行う手続を租税犯則調査といい,各国税局の査察部所属の査察官によって行われ,「査察調査」とも呼ばれます。

 一般の税務調査は,あくまで任意の調査です(ただし,調査に対して拒否をした場合には罰則があるため,間接的な強制力は存在します。)。

 これに対して,査察調査は,任意の調査のほかに,強制調査が認められています。

 例えば査察官は,裁判所の令状を得て,強制的に犯則嫌疑者の事務所や住所など関係箇所に立ち入ったり(臨検),書類や所持品を捜索・差押することができるのです。

2 査察調査のその後の手続きの流れ

(1)検察庁への告発

 査察調査の結果,脱税の嫌疑が認められた場合には,検察庁に対して告発がなされます。

 令和元年度の統計によれば,査察調査を行った中で告発にまで至った率は,81%です

 約2割の事件が告発に至っていませんが,これは査察調査の結果、証拠が不十分であったか,脱税金額が大きくなく,告発基準に満たなかったことによると思われます。

 告発の基準は公にされていませんが,実務の運用として,法人税や所得税については,一般的には1億円以上の所得を脱税したことが,告発の条件とされているようです。

 ただ,脱税した所得金額が1億円に満たないものであっても,告発に至る場合があります。

 例えばほ脱率(実際の税額に占める脱税額の割合)が高い,つまり,実際の儲けに比較して,ほとんど税金を納めていないようなケースです。

 ほかには,架空外注費を計上したり,税理士などが脱税指南役を務めるなど手段が悪質な場合には,告発に至っている場合もあります。

 逆に脱税額が高額でも,たくさん税金を納めていて,ほ脱率が低いケースは告発に至りません。

 大企業が「数億円課税逃れ」という報道を見ることがありますが,刑事告発になっていないのは,会社の規模が大きいので,もっと多くの税金を納めているからです。

 検察官が告発を受けた場合は,ほぼ100%が起訴されます。

 告発の前には,検察官と国税局との間で会議(告発要否勘案協議会)が設けられ、そこで告発を受理することが認められた事件だけが,実際に告発に至っているという実情があるからです。

 なお、告発の対象は3年間に限定されていることが多いです。

 一般に課税処分については5年前まで,偽りその他不正の行為によって税を免れるなどした場合には7年前まで,さかのぼって課税処分がなされます。

 しかし,刑事裁判の立証は,厳格な証拠による必要があるため,通常の税務調査以上の詳細な調査と証拠の作成が必要となり,刑事罰が科されるのは,原則として3年間に限定されているのです。

 ただ,その場合でも課税は5~7年にさかのぼってされることになります。

(2)脱税事件の量刑

 告発後、検察官が起訴することにより、刑事裁判となります。

 判決の量刑については,脱税額が合計3億円を超える場合には,全額納税していたとしても懲役刑の実刑判決となる場合が多いといわれています。

 また懲役刑以外にも罰金刑が科されますが、罰金額は概ねほ脱税額の20%から40%程度ですが,経験上は,30%程度のことが多いです。

3 査察調査の注意点

(1)事情聴取について

 査察調査は,一般の税務調査と違って,当事者には事前の連絡がなく,突然,裁判所の令状に基づいて,多数の査察官がいきなり関係箇所に対して,捜索・差押えのために訪れます。

 そして,経営者や従業員,また税理士ら関係者が査察官から事情を聴かれ,質問顛末書という書類が作成されて,その書類への署名・押印が求められます。

 質問顛末書には署名・押印しなければならない義務があるわけではありません。

 しかし,調査を受けた当初,関係者が動揺している場合が多く、署名・押印する義務があるものと思い込んでしまうケースがあります。

 また,話した内容と異なった記載がなされているうのに,十分に確認しないまま署名・押印することもあります。

 質問顛末書の内容は,検察庁へ告発するかどうかの判断資料となります。

 また,刑事裁判でも証拠となり得る重要な書類です。

 よく内容を確認し,もし違ったことが書かれていれば訂正を求め,訂正してもらえない限りは,署名・押印すべきではありません。

(2)税額と専門家への相談について

 告発に至るか否かや,起訴後の量刑については,脱税額が大きく影響します。

 脱税自体には争いがなくとも,事実の有無や,法律的な見解の相違によって,課税側と納税者との間で,本来の税額に争いが生じることもあります。

 納税者としては,自らの主張を具体的な証拠や根拠に基づいて説得的に述べる必要がある場面も考えられます。

 ですから,査察調査を受けた人は,直ちに専門的な弁護士や税理士から適切なアドバイスを受けてください。

(3)報道発表について

 告発がなされると,国税局からは例外なく,ほ脱を行った法人や個人の実名を含めて報道発表がなされるます。

 そのことを予め想定した上で,金融機関や取引先への説明などを行っておく必要もあるでしょう。

(4)刑事裁判での活動

 起訴された場合には,実刑判決や多額の罰金刑を回避する活動が必要です。

 具体的には,

 ①加算税や延滞税、また地方税も含めた納税義務を果たすこと

 ②二重チェックの徹底等経理体制を改善して透明性を高め,新たな税理士と契約するなど外部  の監督が十分に及ぶ制度を構築するなどコンプライアン体制を整えたことを十分に立証することが必要です。 

(文責:中村和洋)