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刑事弁護へのよくある疑問とその回答


41qLrVfbJ8L刑事弁護を専門にしていると言うと,「悪い人の弁護なんて,何でするの?」と率直に言われるときがあります。

これは,刑事弁護に対する世間のよくある疑問といえます。

この疑問に対する私の答えは3つあります。

1 本当に悪いことをしたかどうかは,わからないこと

罪を犯したとして逮捕,勾留されたからといって,その人が本当に疑われていることをしたかどうかは,わかりません。その段階では,飽くまで捜査側の見立てにすぎないのです。実際にはそもそもやっていなかったということもありますし,そうでなくても,逮捕事実と実際の事実とが異なることは,よくあります。

そのときに犯罪を疑われている人の味方として,活動できるのは弁護人だけです。本当に罪を犯したかどうか,また,実際にやったこと以上の疑いがかけられていないかをきちんと明らかにするために,刑事弁護は不可欠です。

引用の画像は,周防監督の「ぞれでもボクはやってない」という痴漢えん罪をテーマにした映画です。綿密な取材に基づいており,我々プロの目から見てもリアリティがありました。なお,最近話題になった連ドラ「あまちゃん」で主人公のお父さん役をしていた尾美としのりさんが,公判検事役をしていて,これがまた妙にクールで「ある,ある」といった感じでした。

2 人は誰しも過ちを犯すこと

新聞などで犯罪が報道されたとき,善良な市民の反応は,「悪い奴だ。許せない。自分なら,こんなことはしない。きちんと処罰を受けて欲しい。」というものです。

実は私も,検事になった当初は,犯罪をするような人間は自分とは全く別の人種だと思っていました。確かに犯罪行為は悪いことです。しかし,私がたくさんの被疑者,被告人と会って感じることは,どれもみな自分と同じ人間だということです。欲望に負けてしまったり,怒りで自制できないこと自体は,程度の差こそあれ,誰にでもあり得ることです。

同じ人間である以上,行動にはそれなりの理由があるし,また,心から反省をすれば,やり直すこともできるはずです。一方的に悪い面だけを見て処罰するのではなく,守ってあげるべき点は守り,社会に復帰する手助けをすることが,刑事弁護の役割でもあります。

3 納得して刑に服すことで,再犯を防止できること

「盗人にも三分の理」というように,たとえ事実を認めているとしても,それでも,やはり言い分というものがあります。弁護人が手を抜いて,それを十分に主張,立証しないまま判決を受けるとどうなるでしょうか。

「弁護人がきちんとやってくれないから,自分はこんなに重い刑になってしまった。」と思ってしまい,真摯に判決を受け止めることができないのではないでしょうか。

弁護人が,誠心誠意彼の言い分を主張,立証してあげる。しかし,それでも厳しい判決が出てしまった。そういう過程を経ることで,「自分の事情を色々裁判所に伝えてもらった上で,この判決なのだ。自分のやったことは,それだけ悪かったということか。」と思って,納得して刑に服することができるのではないかと思います。

きちんと納得して処罰を受けることで再犯を防止する,これが社会にとっても,その人にとっても,一番大切です。

充実した刑事弁護をすることで,刑事裁判を単なる儀式ではなく,意義あるものにすることが大事なのです。