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LGBTの法律問題


lgbt_rainbow_flag近年,LGBTなどのセクシャル・マイノリティについて報道されることが多くなり,皆さんも目にしたことがあると思います。

数年前に,著名なお笑いタレントが,30年以上前に人気のあった,男性同性愛者を揶揄したようなキャラクターをテレビの企画で演じ,大きな批判を浴びたということがありました。

このようにLGBTに対する社会の意識は大きく変化しつつありますが,差別がなくなったわけではありません。

また,現代社会では,企業としても十分な配慮が必要です。 

なお,画像のイラストは,レインボーフラッグといって,LGBTの社会運動を象徴する旗です。

1 LGBTとは

LGBTとは,セクシュアル・マイノリティを表す言葉で,レズビアン(女性同性愛者),ゲイ(男性同性愛者),バイセクシュアル(女性も男性も性的対象となる人),トランスジェンダー(性的越境者)の頭文字をとったものです。

また,これら以外にも,性のあり方は多種多様です。

インターセックス・性分化疾患(産まれたときに身体的特徴だけでは男女判別ができない人たち),クエスチョニング(性自認や性的嗜好を確定しない,あるいはできない人たち),アセクシュアル(性的欲求のない人たち),Xジェンダー(性自認が男女二分になじまない人たち)などがあります。

「異性同士が好きになるのが正しい性のあり方である」という考え方は,現代の社会では一方的な見方にすぎません。

人間には,多種多様な性のあり方が存在しており,そこには善も悪も,本来的なものも非本来的なものもないのです。

2.企業に求められる配慮 ~ セクハラについて

ただ,セクシャルマイノリティである場合,世間一般から偏見の目で見られることをおそれ,自らのことを公にする(カミングアウト)ことを避けていることが多くあります。

そのため,例えば,職場で冗談めかして,「どうして結婚しないの。」,「ひょっとしてレズ?」などと発言することがあると,それはLGBTに対するセクシュアル・ハラスメントに当たります。

場合によっては企業に損害賠償義務が生じるのです。

諸説ありますが,日本では13人に1人がLGBTであるとの報告があります。

ですから,社内には,LGBTの人がいるかもしれないことを常に考えて,言動に気を付ける必要があります。

3.企業に求められる配慮 ~ セクハラ以外

日本では,同性間の結婚がまだ認められていません。

ですから,LGBTの人たちにパートナーがいる場合でも,法律上の配偶者にはなっていません

しかしながら,法律上の結婚をしていないとしてもパートナーとの共同生活は,その人にとってかけがいのないもので,男女間の結婚と何ら変わるものではありません。

したがって,配置転換を決める際にも,同性パートナーの存在を配偶者と同等に考慮する必要があります。

ですから,たとえば同性パートナーが病気で看護をする必要があるとの申出があるにもかかわらず,そのことを一切考慮に入れずに遠方への転勤を命じる配置転換命令をした場合には,それが裁量を逸脱した違法なものとなるおそれがあります

また,採用した男性従業員から,性同一性障害の診断書が提出され,「自分は女性なので,名前,制服,トイレ・更衣室の使用など,すべて女性として取り扱って欲しい。」と言われることも考えられます。

企業としては,他の従業員の抵抗があるのではないかと考えて,このような申出には困惑するかもしれません。

しかし,職場の実情に応じて可能な範囲で,従業員の性自認に配慮した職場環境や労働条件を整えることが必要です。

たとえば,名前や制服などは本人の性自認に直接かかわるものであり,企業に不利益を生ずるものとはいえません。

ですから,原則として本人の希望に従った対応が必要でしょう。

トイレや更衣室のように他の従業員と調整が必要な事項については,どうでしょうか。

すぐには実現できないとしても,職場全体の環境改善の問題として,本人の話もよく聞きながら,周囲の理解を得るよう努め,時間をかけてでも対応をしていく必要があります。

この点,性同一性障害の男性労働者に対して,本人の希望する女性の容姿,名前での就労を禁止した上で,それに逆らった当該労働者を懲戒解雇した事例について,懲戒解雇が無効と判断された裁判例があります(東京地方裁判所平成14年6月20日決定)。

4.同性パートナー間の法律問題

同姓パートナーと生活している人が,老後の問題を心配したり,相手に財産を遺したいというような場合があります。

法律上の結婚ができないため,養子縁組をしているケースがありますが,実はそれにはリスクがあります。

養子縁組は,「親子関係」を築くための制度ですので,同性カップルの場合には,果たして法律上の養子縁組の意思があるといっていいのか,問題となる可能性があるからです。

しかも,養子の場合は相続権が100%となりますので,実際に相続が発生した場合に,兄弟や親など他の相続人となり得る人から,養子縁組の無効が主張されて,争いになるリスクがあるのです。

そこで,公正証書遺言や,任意後見契約を活用して,トラブルを未然に防ぐことが大切ですが,現行法上では限界もあります。

例えば,アメリカ合衆国や,イギリス,ドイツ,オランダなど欧州諸国,またアジアでも台湾で,同性婚が認められています。

日本でも,東京都渋谷区を始めとして,大阪市でも同性パートナーを公的に証明する制度が採用されています。

私見としては,同性間であっても結婚を認めるべきだと考えていますので,日本でも制度の改正が望まれるところです

文責:弁護士中村和洋