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WIN5で多額の払戻金を得た男性が,所得税法違反により在宅起訴された事件についての弁護人コメント


 先般,報道されましたとおり,WIN5により多額の払戻金を得た地方公務員の男性が,所得税法違反により在宅起訴されました。

 当職ら(中村和洋,荒木誠)は同男性の弁護人に就任していますが,報道(大阪国税局の発表に基づくものと思われます)に一部不正確なところがあり,また,本件起訴には大いに問題があるものと考えています。

 そこで,本ブログ上で,以下のとおり,ご本人のコメントと弁護人のコメントを掲載いたします。

1 ご本人のコメント

 馬券の収入について,所得を申告していなかったことについては反省しています。修正申告については既にすませており,それに先立ち,予納ということで,所得税を全額納税もしています。

 ただ,納税の責任を超えて,刑事処罰まで受けなければならないということは理不尽で,納得がいきません。

2 弁護人コメント

 本件について,刑事告発をし,また,検察官が公判請求することは,著しく違法・不当なもので,誤っていると考えます。以下,大きく3つの理由があります。

①著しく不公平で,正義に反すること

 本件は,平成24年,26年度で,経費を引いた収入は約3億2000万円,所得は一時所得であるためその半額の約1億6000万円であり,免れた税額は約6000万円とされています(内訳は24年が所得約2700万円,税額約800万円,26年が所得約1億3500万円,税額約5100万円)。

 本件以外にも,多額の馬券の払戻金を受けた上で申告をしていなかった事案は,全国に複数存在するところ,本件よりも脱税額が大きいとされる事案について,刑事事件として立件されていません。

 たとえば,北海道の男性の事案は6年間で約5億5000万円以上もの所得を得ており,広島の事例でも多額の利益を得ていたものがあるが,いずれも刑事立件されていません。

 また,以前に大阪で有罪判決となった男性は,5年間で約1億5000万円の利益を得ているが,懲役2か月,執行猶予2年という異例ともいうべき寛刑であって,本来起訴すべき事案ではなかったとも考えられます。

 今回の男性が免れた所得金額は,約1億6000万円であり,他の事例と同等かそれよりも少ないものです。

 しかも,継続的に利益を挙げていたのではなく,WIN5で単発的に偶然利益を挙げたにすぎないのであって,常習性もありません。

 このような彼のみをピックアップして,いわばスケープ・ゴートとして,刑事処分の対象とすることは,著しく不公平で,正義に反します。

 なお,男性が4億円以上の払戻金を得ていたとの報道がなされているが,それは事実と異なります。

 男性は,ネットバンクの口座から,JRAの即PAT口座に入金し,馬券を購入した上で払戻金を得ていたものであるが,馬券を購入しなかった場合にも,週明けにはネットバンクの口座と即PATの口座との間に資金の移動がなされます。

個々のレースの履歴が残っていないため,国税当局は,ネットバンクへの口座に振込まれた金額をすべて払戻金であると推計したものですが,現実には,男性が得た払戻金は多くとも3億円程度です。

②馬券に関する課税政策自体に大いに問題があること

 馬券の売上げの収入の10%は国庫に帰属するので,さらに払戻金にまで税をかけるのは実質的には二重課税であるという批判がなされています。

 また,宝くじやTOTOは非課税とされているということとのバランスの問題もあります。

 そして,最高裁の判決をきっかけに,馬券の払戻金の課税のあり方は議論がなされており,また,全国でも裁判が複数係属中である。さらに,窓口で払戻を受けている者には実質課税がなされておらず,国税庁が有効な対策をしていることもないのであり,馬券の課税の制度は現状問題点が極めて多いといえます。

 公営ギャンブルの課税について,公平な制度を作ったり,納税について十分な説明や広報をすることを国は怠っています。

 このような中,馬券の払戻金について,利益の額だけに形式的に注目して,脱税犯として取り上げ,刑事処罰を求めることは完全に誤っています。

③男性にとって過剰な制裁であること

 男性については納税もすませており,過少申告加算税という制裁もあります。

 禁錮以上の有罪が確定すると,免職になりますが,それは男性の人生に与える影響は大きく,たまたま高額な馬券に当たって,そのことを申告していなかっただけという事案に比較しすれば,あまりにも過剰な制裁です。

3  今後の裁判での予定

  起訴が著しく不公平であり,正義に反することから,公訴権濫用であるとして公訴棄却を求める方針です。また,脱税のすべてが刑事立件されているわけではなく,多くは行政手続で終了していることと比較しても,本件は刑事罰を科すまでの違法性,つまり可罰的違法性がなく,無罪を主張する予定です。

4 報道機関に対する要望

  ご本人は反省しているが,他方で,刑事事件となり,報道もされたことで,精神的なショックを受けています。直接の取材は何卒,控えてください。