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Archive for 9月 26th, 2022

取締役の横領と法律・税務上の問題点

月曜日, 9月 26th, 2022

money_ouryou1 はじめに

企業の役員や従業員による横領行為について、相談を受けるケースは多々あります。

「まさか,彼(彼女)がこんなことをするなんて夢にも思わなかった!!」

信頼していた人に裏切られる事例には,これまで何度も見てきました。

横領事案の発生を防ぐためには,どうすればいいでしょうか。

 

同じ人に長期間同一の職務に従事させないようにする

権限の集中を避ける

経理の二重チェックを励行する

研修などを通じて,個々人のコンプライアンス意識を高める

ことが考えられます。

ただ、特に取締役のように高い地位にある者が横領行為を行った場合には、被害が大きくなります。

その場合の法律上・税務上の問題について解説します。

 

 

1.法律上の留意点

(1)刑事告訴

会社のお金を横領する行為は、業務上横領罪となります(10年以下の懲役。刑法253条)。

そのため、横領が発生した場合には、少額の被害であるとか、すぐに被害弁償がなされた場合を除いて、刑事告訴を検討すべきです。

しかし、会社内部の問題であると捉えられたり、警察が繁忙であるといった理由から、すぐに捜査をしてくれない場合があります。

そこで、速やかな捜査処理が行われるように、まずは社内で十分な調査を遂げて証拠を揃え、その上で告訴をする必要があります。

(2)損害賠償請求

取締役の横領行為は善管注意義務に反するものとして、不法行為債務不履行に当たり、会社に対して損害賠償義務を負います(民法415条,709条)。

しかし、横領を行う動機として、借金返済の必要があったり、ギャンブルに費消するということが多く、損害賠償請求をしても回収が困難な事例があります。

また返済をしてもらうとしても、分割払いの合意となることがあります。

その場合には,強制執行が可能となるように、公証役場で公正証書を作成する必要があります。

公正証書の内容は、返済総額、返済期間、分割の金額、遅滞があった場合の期限の利益の喪失、強制執行受諾文言などを定めましょう。

可能であれば、連帯保証人や不動産などに対する担保権を設定します。

2.税務上の問題点

(1)損金算入時期と収益計上時期

取締役が横領したことにより、会社には損失が生じます。

他方で取締役に対する損害賠償請求権(利益)も発生します。

この損失と利益について、会社の経理上、それぞれをいつの時点で計上すべきでしょうか。

昭和43年10月17日の最高裁判例では、損失と利益を同時に計上するという考えが取られています。

しかし、その後の裁判例では判断がわかれています。

現在では、相手方の資力等を考慮して,損害賠償請求権の実現性が客観的に疑わしい場合には,損失の発生のみを計上すればよいという考え方が有力です。

ですから、横領行為が発覚した時点で取締役に対する損害賠償請求権が発生するとしても、その取締役に資力がない場合は、横領された被害額を損金として計上します。

損害賠償金については、後に実際に返還された時や返還の具体的な約束がなされた時に益金として計上すれば足りると考えられます。

(2)横領金と役員給与の関係

近時の裁判例や課税実務においては、会社の実質的支配権を有している代表者が横領を行った場合に、それが役員給与に該当するという考えが趨勢となっています。

役員給与は、あらかじめ定額を決めている場合等に該当しない限り、法人の損金に該当しません

ですから、会社の代表取締役や支配的株主である取締役が横領した場合には、役員給与と認定され損金算入が許されず、法人税の減額にはつながりません。

しかも、給与ということで会社に所得税の源泉徴収義務まで課されるという、踏んだり蹴ったりの状態になってしまいます。

また、課税実務では、代表者以外でも副社長や専務といった肩書があったり,経理担当取締役など一定の権限がある場合についても役員給与と認定される事例があります。

しかし、これについては批判の大きいところです。

もしそのような指摘が税務署からなされた場合には、実際の取締役の権限等に照らし、会社が給与として支払ったものと同視することはできないことを主張・立証する必要があります。

(3)重加算税の問題

取締役が横領を行う際、その発覚を免れるために、売上を除外したり、架空経費を計上するなどの不正を行っている場合があります。

その場合には、会社内部の者による不正であり、隠蔽又は仮装による脱税行為として、会社に対して法人税に加えて重加算税という特別の制裁が課されることがあります。

しかし、横領されたお金は会社のものになっているのではなく、不正を行った個人の所得となっているので、会社が税を免れるために行った隠蔽又は仮装ではないという反論も可能です。

例えば会社として不正が容易に行われないように内部統制の措置を講じていたが、それを巧妙にかいくぐって横領がなされた場合には、会社の行為と同視できないという主張を行って、重加算税の賦課を免れるべく争う必要があります。

(4)まとめ

取締役の横領が行われた場合には、損失や益金の計上時期、役員給与となるか否か、源泉徴収義務や重加算税の有無等、税務上多くの問題点が生じます。

取締役に限らず、従業員による横領を防ぐための具体的な防止策は大変重要です。

万が一横領が発生した場合には、横領を行った者の具体的な地位・権限・資力等について、調査・確認し、証拠にも残すなどして、税務当局に十分に説明できるだけの準備が必要です。