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Archive for 8月, 2021

ファクタリング取引の法律問題

水曜日, 8月 18th, 2021

job_bengoshi_man弁護士の荒木誠です。

長い間更新ができておりませんでしたが,今回はファクタリング取引の法律問題について解説します。

 

1 ファクタリング取引とは

 ファクタリング取引は,一般に,売掛債権などを保有する者が,債権買取業者(ファクターといいます。)に対して,その債権を売り渡す(譲渡する)取引であり,その後はファクターが買い取った債権の回収を行います。

 譲渡に際しては,一定の手数料が控除された後の金額が支払われるのが通常です。

 経済的には,売掛債権などを支払期日前に売却することで,早期に資金化できるという機能があります。

 

2 ファクタリング取引と貸金業法

 ファクタリング取引との関係でよく問題になるのは,貸金業法にいう「貸金業」に該当しないかという点です。

 貸金業法3条1項は,「貸金業を営もうとする者は…登録を受けなければならない。」と規定しており,「貸金業」に該当する場合は,登録が必要となります。

 そして,「貸金業」の定義については,「金銭の貸付け又は金銭の貸借の媒介(手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法によってする金銭の交付又は当該方法によってする金銭の授受の媒介を含む…)で業として行うもの」と規定されています(2条1項。ただし例外もあります)。

 カッコ書きにあるように,金銭の貸付けという形式でなくとも,経済的に貸付けと同様の機能を有する契約に基づく金銭の交付であれば,ここに該当することになります。

 ここでいう「業として行う」とは,通常は,①反復継続し,②社会通念上,事業の遂行とみることができる程度のものをいうと考えられています。

 この点について,最高裁判例は,「反覆継続の意思をもって金銭の貸付又は金銭の貸借の媒介をする行為をすれば足り、必ずしもその貸付の相手が不特定多数の者であることを必要としない」という判断を示しています。そのため,反復継続して行う意思があれば,実際に複数回貸付けを行っていることまでは不要であり,また,貸付の相手方が特定の少人数に限られたとしても,貸金業に当たる可能性は否定できないと考えられます。

 貸金業の該当性判断についてはケースバイケースとしか言えませんが,上記の見解を前提にすると,貸金業に該当する範囲は,実際には思いのほか広いのではないかと思われます。

 

 これをファクタリング取引との関係で考えると,ファクタリング取引は債権を売り渡す(譲渡する)という売買契約の形式によるため,貸金業法とは関係がないようにも思われるかもしれません。

 しかしながら,ファクタリングの体裁をとりつつも,実際には,譲渡した債権を担保として,金銭の貸付けをしていると評価できるものが少なくありません。

 これは,真正の債権譲渡なのか,実質的には貸付けと評価されるのかという区別の問題です。

 その区別にあたっては,様々な要素を考慮する必要があり,その判断は容易ではありませんが,主としては,ファクターが回収不能のリスクを負担しているか否かという点がポイントになると考えられます。

 なぜならば,真正の債権譲渡であれば,譲受人が回収不能のリスクを負うはずですので,ファクターが回収不能のリスクを負わないならば,債権は実質的には移転しておらず,担保のために譲渡の形式をとったに過ぎないものと考えられるからです。

 ファクターが回収不能のリスクを負わないようにする方法としては,例えば,回収不能となった場合に債権の買い戻し義務を規定したり,回収不能額を譲渡人が負担する旨の規定がなされることがありますので,そのあたりがポイントになります。

 仮に,実質的には貸付けであると評価された場合には,業として行ったときは,貸金業に該当しますので,登録をしないで行えば,貸金業法違反となります。また,ファクターが受け取る手数料は,利息にあたるものとして,利息制限法の問題にもなってきます。

 

3 給与ファクタリングについて

 給与ファクタリングとは,ファクタリングのうち,特に給与債権を譲渡するものですが,貸金業法との関係で問題があると考えられます。

 この点については,令和2年3月5日付で,金融庁から見解が出されています(一般的な法令解釈に係る書面照会手続に対する回答)。

要約しますと,

①給与債権は,譲渡したとしても,直接払いの原則(労働基準法24条1項)があるため,使用者は直接労働者に対し賃金を支払うことになり,債権の譲受人は,常に労働者に対して支払を求めることになる。

②そのため,金銭の交付だけでなく,譲受人による労働者からの資金の回収を含めたシステムが構築されているといえ,経済的に貸付け(金銭の交付と返還の約束が行われているもの)と同様の機能を有しているものと考えられる。

③したがって,これを業として行う場合は,貸金業に該当する。

というものです。

 したがって,貸金業の登録をせずに給与ファクタリングを行った場合には,貸金業法違反となります。

 実際に給与ファクタリングが問題となった裁判例として,東京地判令和2年3月24日がありますが,判決では,上記金融庁と同様の見解をとっています。

 

4 後払い(ツケ払い)現金化について

 給与ファクタリングにも関連する問題として,最近,金融庁などが連名で,後払い(ツケ払い)現金化について,注意喚起を行っています。

 後払い(ツケ払い)現金化とは,形式的には後払いによる商品売買だが,商品代金の支払に先立ち,商品の購入者が金銭を受け取るというものを指す,とされています。

 どのような名目で先に金銭を受け取るのかというと,キャッシュバック,レビュー報酬名目や,提携した買取業者が商品を買い取ることによる場合などが多いとのことです。

 このスキームについても,ファクタリング取引で貸金業法が問題となったように,貸金業に該当しないか,具体的には,商品売買が形式的であって,その実質が金銭の貸付けにあたるかが問題となると考えられます。

 この種の事案で裁判となったものは把握しておりませんが,取引全体を見れば,商品売買は形式的に過ぎないといえる事情は多いのではないか(商品購入後すぐに提携業者が買い取る,商品の価値と購入代金が見合っていないなど)と思われますので,実質としては金銭の貸付けであると判断される可能性が高いと考えています。

 また,後払い(ツケ払い)現金化は,高額な支払を強いられるなどの危険性がありますから,注意が必要です。

                                     以上