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民事執行法の改正について

火曜日, 3月 31st, 2020

弁護士の荒木誠です。

現在,新型コロナウイルスにより日本中が深刻な影響を受けている状況にありますが,4月1日から改正民法が施行されます。

また,4月1日は,改正民事執行法の施行日でもあります(一部例外はあります)。

今回の民事執行法の改正は,債務者の財産調査について大きな影響がありますので,ご紹介します。

 

1 強制執行と財産調査

次のような事案で検討してみます。

①Aさんが,Bさんに対し,100万円を貸した。

Bさんに返済を求めても,「待ってほしい」と言って応じてくれない。

③やむなくBさんに対して裁判を起こしたが,Bさんは裁判に欠席した。

 

このようなケースでは,通常,そのままAさんの請求を認める判決が出されます。

しかし,判決が出ても,裁判所がお金を払ってくれるわけではありませんので,次に,強制的にお金を取り立てる手続の申立てをしなければなりません。

これが強制執行の手続です。

 

そして,強制執行では,Bさんの特定の財産を差し押えて取り立てることになるため,Bさん名義の預貯金,不動産などがどこにあるかを知っている必要があります。しかも,預貯金の場合には,支店名の情報も必要になります。

 

しかし,通常,債務者は,債権者に財産情報を教えることはありませんので,Aさんが自力でBさんの財産を調査することは難しいといえます。

 

そのため,これまでは弁護士が依頼を受けて,弁護士会を通じた照会を行って預金口座などの情報を取得することが多かったかと思います。しかし,制度上,十分な情報が得られない場合もありました。

 

2 第三者からの情報取得手続の新設

そこで,今回の改正により,第三者から債務者の財産情報を取得する手続が新たに3つ新設されます。

なお,いずれの手続も強制執行開始のための要件が備わっていることが前提になりますので注意が必要です。

 

①預貯金に関する情報の取得

これは,銀行等の金融機関から情報を取得する手続です。

取得できる情報には,預貯金の残高のほか,店舗名も含まれていますので,どの支店に口座を持っているかも把握することができます。

②不動産に関する情報の取得

これは,登記所から情報を取得する手続です。

これにより,債務者が所有者となっている土地や建物に関する情報を取得できます。

なお,後述の債務者の財産開示手続を先行させる必要があります。

③給与債権に関する情報の取得

これは,債務者の給与の支払先から情報の提供を受けている市町村などの公的機関から情報を取得する手続です。

これにより,債務者がどこに勤務しているかがわかりますので,給与債権を差押えることができます。

ただし,勤務先情報は高度なプライバシー情報であるため,養育費を請求する権利や,交通事故の損害賠償請求権などといった限られた請求権についてのみ申立てが認められています。

また,この手続についても,後述の債務者の財産開示手続を先行させる必要があります。

 

3 財産開示手続の見直し

民事執行法には,従来から債務者の財産開示手続という制度がありました。

これは,債務者を裁判の場に呼び出して,財産内容を自ら申告させて情報を得るという制度です。

 

しかし,債務者が裁判に出頭しなかったり,虚偽の陳述をしたとしても,罰則が30万円以下の過料に留まっていたため,あまり利用されていませんでした。

そこで,不出頭等があった場合には,6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金という刑事罰を科すなどの改正がなされ,強制力を担保しようとしています。

 

4 まとめ

以上述べたように,今回の民事執行法改正により,債務者の情報取得手続の選択肢が増えることになりました。

実際に制度が動いてみないとわからないところは多いですが,依頼者の権利実現のために,積極的な利用を検討したいところです。