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Archive for 2月, 2018

カジノ推進法について

金曜日, 2月 23rd, 2018

2017_0916_31 はじめに

 日本に「カジノ」ができるかもしれない,という話題で賛否両論が持ち上がっています。

 大阪弁護士会でも,「カジノ解禁推進法対策プロジェクトチーム」が立ち上げられ,私(中村)も,委員に就任しています。

 カジノについては,観光の目玉になる,地方の経済発展を促すなどの賛成論もあるものの,他方で,深刻なギャンブル依存症を生み出す,反社会的勢力の参入を防ぐことができず治安の悪化につながるなどの反対論もあります。

 カジノ推進法は,正式名称を「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」といい,別名では,「IR推進法」とも呼ばれます。

 IRとは,統合型リゾート(Integrated Resort)の略称で,例えば,カジノを併設する国際会議場,ホテル,商業施設,レストラン,劇場,映画館,温浴施設などの複合的施設です。

 日本では,まだカジノは合法的なものではありませんが,カジノが観光や地域経済の発展に寄与し財政の改善にも資するとして,政府は積極的に推進する方針を示しています。

 そのような方針に基づいて,平成28年にカジノ推進法が定められたのです

 確かにお小遣いの範囲で健全に遊ぶ分には,カジノで楽しむポーカーやブラックジャックといったゲームは,紳士・淑女のたしなみという面もあると思います。

 現に,競馬はイギリスでは伝統的に上流階級の娯楽として発展してきました。

 しかし,「利用者は楽しいし,施設運営者も儲かるから良い」という単純なものではなく,カジノには深刻な問題もあります。

 

2 カジノを合法的な賭博としてよいか? 

 刑法では賭博が禁止されていますが,その趣旨は,最高裁の判例によれば,健全な経済・勤労生活の堕落を防ぎ,賭博に付随して生じる財産犯などの犯罪の発生を防止するためだといわれています。

 他方で,競馬,競輪,競艇,オートレースといった公営ギャンブルが国(正確には国が出資する特殊法人であるJRA)や地方自治体によって営まれています。

 また,宝くじやTOTOも人気ですし,パチンコは庶民の娯楽の代表格といえるでしょう。

 そのため,賭博が違法だという国民の意識は実はそれほど高いとはいえず,近年でも,有名球団のプロ野球選手が野球賭博に関与していたり,オリンピック出場候補となったバドミントンの選手が違法カジノに出入りしていたことが報道されています。

 ただ,今日本で行われている公営ギャンブルやそれに近い娯楽と,カジノとでは質的な違いがあります。

 パチンコは多くても一日数万円くらいの出費で,一度に何百万円も負けるということはありません。

 また,競馬や競輪は特定の開催日に,限られたレースだけが行われているものであり,着順の予想という面倒な手順を伴うので,実際に賭けるまでにある程度の時間と労力が必要です。

 これに対してカジノでは,例えばルーレットやバカラのように一度に大金(それこそ何億円)のチップを掛けることができ,また,外界と隔絶されて昼も夜もわからないという特殊な環境下で冷静さを失ってしまうおそれがあります。ギャンブル依存症や自己破産の可能性は,今ある公営ギャンブル等に比較して格段に高いものといえ,その対策をどうするのかという深刻な問題があります。

3 反社会的勢力の跳梁

 私の大好きな映画に「ゴッド・ファーザー」がありますが,その映画で,マフィアがラスベガスのカジノを巡って抗争をくり広げるストーリーがありました。

 日本のヤクザも,もともと「博徒」と「テキヤ」から発展してきたものと言われており,賭博と暴力団とは切っても切れない関係です。

 韓国やアメリカにもカジノがありますが,それらの国には犯罪的結社を結成すること自体を犯罪とする,いわゆる「結社罪」が設けられ,組織犯罪には厳しい態度を取っています。

 昨年,私は,韓国の税法学者や税理士と懇談をする機会がありましたが,その際,日本の暴力団について説明を求められ,解説をしました。

 そうすると,暴力団対策法に基づく暴力団の指定について,「政府が正面から犯罪集団を認めているのは,おかしいのではないか」との指摘を受け,非常にとまどってしまいました。

 近年,暴力団は背後に隠れ,いわゆる「経済ヤクザ」として,暴力団フロント企業等を利用して,巧妙に資金を獲得していますので,反社会的勢力のカジノへの関与を防止することは事実上困難です。

 カジノを利用することでの経済発展を検討するのであれば,その前提として,結社罪も視野に入れたより一層の反社会的勢力の駆逐に向けた対策が必要だと考えます。

 

4 まとめ

 以上のような問題があるほか,カジノで得たお金に対する課税をどうするのか(チップを交換したときに所得とするのか,損をどこまで経費とみるのか)といった問題は,一切議論されていません。

 私としては,カジノに力を入れるよりも,寺社仏閣やお城などの観光施設の整備や,能・文楽・歌舞伎などの日本独自の伝統芸能のアピールに力を入れることが,観光の目玉として本筋だと思っています。

 ですから,日本にはカジノはいらない,という意見ですが,皆さんはどうお考えでしょうか。