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Archive for 3月, 2016

暴力団組長に対する使用者責任追及

火曜日, 3月 29th, 2016

51LC1VlXXWL1 暴力団からの被害を回復する 

 最近,日本最大の暴力団である六代目山口組から,神戸山口組が独立したことで,両組織の対立抗争があると報道されています。

 組織的暴力は,市民の生活を脅かすものであり,市民の権利を守るために,私たち弁護士も活動しています。

 そして,暴力団に対する民事的な対抗措置としては,暴力団組長に対する使用者責任(民法715条)を根拠とする損害賠償請求が有効です。 

 実際,末端の実行犯には財産がないことが多いので,このような使用者責任を認めることで,被害回復が可能になります。

 また,組長の民事責任を問うことで,組員の違法行為や抗争を制限することができ,将来の被害の抑止にもつながるのです。

 

2 山口組組長の損害賠償責任を認めた最高裁判決

(1)事案について

 暴力団組長の使用者責任を認めた有名な最高裁判決があります。

 これは,平成7年8月,暴力団五代目山口組系の組と暴力団四代目会津小鉄系の組との対立抗争中のできごとです。

 会津小鉄系暴力団事務所を警戒警備中だった京都府警下鴨警察署のA巡査部長(44歳。殉職後警部に昇進)が,山口組系組員に会津小鉄系組員と誤認され射殺されました。

 実行犯である山口組系組員は,翌日に出頭し逮捕され,実刑判決を受けました。

 しかし,上位者は直属の組長を含めて逮捕されることなく,被害弁償は一切なかったのです。

 そこで,平成10年8月,Aの遺族が当時の渡辺芳則山口組組長らを被告として,京都地方裁判所に総額1億6000万円余りの損害賠償を求めて提訴しました。

 この訴訟は,一審の京都地裁では使用者責任が否定され,控訴審の大阪高裁では逆に肯定されるという,地裁,高裁の判断が分かれる結果となりました。

 そこで,決着が最高裁に持ち込まれたのです。

(2)最高裁判決(第二小法廷平成16年11月12日)

  最高裁は,以下のように,暴力団組長の使用者責任を認める画期的な判決を下しました。

すなわち,

①山口組組長は,下部組織の構成員を,その直接間接の指揮監督の下,山口組の威力を利用しての資金獲得活動に従事させていたということができるから,組長と山口組の下部組織の構成員との間には,事業につき,使用者と被用者の関係が成立していた。

②山口組の下部組織における対立抗争においてその構成員がした殺傷行為は,山口組の威力を利用しての資金獲得活動に係る事業の執行と密接に関連する行為というべきであり,山口組の下部組織の構成員がした殺傷行為について,山口組組長は,民法715条1項による使用者責任を負うものと解する。

  

3 暴力団対策法31条の2について

(1)上記の最高裁判決を踏まえて,平成20年に暴力団対策法が改正され,組長に対する使用者責任の追及が容易になりました。

 新設された暴力団対策法31条の2は,被害者側の立証責任の負担を軽減しました。

 暴力団内部のことは外からは分かりませんので,組長と組員との使用関係や,暴力団がどのような事業を行なっているかを立証することは大変です。

そこで,改正法では,

① 指定暴力団員によって不法行為が行なわれたものであること

② 不法行為が威力を利用した資金獲得行為を行なうについて行なわれたものであること

③ 損害が不法行為により生じたものであること

を立証しさえすれば,損害賠償請求が認められるとしたものです。

 ここにいう「威力を利用」したとは,例えば,相手方に暴力団の威力を利用して恐喝する行為や,みかじめ料の要求に応じない者に報復目的で傷害を負わせる行為などが典型的な例とされています。

 ただ,たとえ直接被害者に威力を示していなくても,暴力団の構成員が組織を背景に違法な行為を行なっていること自体が,正に暴力団の威力を利用することに他なりません。

 したがって,暴力団組織からの被害を回復するという法の趣旨から,広く暴力団組員が組織を背景に不法行為を行なった場合一般を含むとする考え方もあります。

 

4 今後の展望

 暴力団に対する厳しい取り締まりの中,最近では,暴力団組織は背後に隠れ,ヤミ金融や,特殊詐欺,株価操縦などの経済犯罪に軸足を置くようになりました。

 平成19年版警察白書でも,企業活動を仮装・悪用する資金獲得活動が顕著であると既に報告されています。

 しかし,それらの暴力団の活動についても,正に暴力団特有の組織的な活動や,威力を背景にした服従統制下で行なわれたものです。

 どうである以上,「威力を利用した資金獲得活動」に他ならず,上位の組長に対する使用者責任の追及が可能ではないかと,私は考えています。