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Archive for 4月, 2014

競馬裁判(控訴審)における検察官の主張と,弁護人の主張について

水曜日, 4月 16th, 2014

5月9日(金)午後1時30分から,馬券の払戻金により得た所得について単純無申告犯に問われている刑事事件について,大阪高等裁判所において,控訴審の判決があります。

控訴審における争点や,検察官・弁護人の主張,立証について,まとめさせていただきました。

1 争点(一審と同じ)

①被告人が馬券の払戻金により得た所得は,一時所得に該当するか,雑所得に該当するか。すなわち,被告人の行為が,井 一時所得から除外される「営利の目的による継続的な行為」に該当するか。

②被告人が購入した外れ馬券の購入費は,所得から控除され必要経費に該当するか否か。

 

2 控訴審で新たに強調された検察官の主な主張と,弁護人の反論

①被告人は,本来納税のために留保すべきお金を馬券の購入費に充てたにすぎないので,担税力に問題はない。

←(弁護人の反論)

被告人は,極めて多数,多種類の馬券を購入することでトータルで利益を得ていた。外れ馬券購入費を除いた当たり馬券の払戻金だけを抽出して留保することは不可能であった。

②競馬の本質は賭博であり,競走の結果は偶然に支配されるものであるから,一時所得に該当する。

←(弁護人の反論)

所得税法の法文上,一時所得について,賭博や偶然性の高い性質のものは除くとなっていない。競馬に関連する騎手や調教師の収入にも偶然性が影響するはずであるし,囲碁,将棋,ゴルフのプロも同様である。賭博による行為であっても,それが営利目的で継続的な行為に該当する場合には,一時所得にならないことは,法律解釈として当然である。

③個々の馬券購入行為は独立した行為であり,相互に影響を与えないから,いかに馬券購入行為の回数が多くとも,その性質に変化はない。

←(弁護人の反論)

個々の馬券の購入は最終的な行為にすぎず,問題とされるべきは,データの分析や予想システムの構築,それに基づく馬券の自動注文という一連の行為であり,これを全体的にみると「営利を目的とする継続的行為」に該当する。検察官の言うように個別の単発的な行為だけを問題にすべきではない。

④競馬予想ソフトを使用し,インターネット取引を利用した競馬愛好家は多数存在するのであり,被告人の買い方は一般の競馬愛好家と異なるような特殊なものではない。

←(弁護人の反論)

データ分析の内容の緻密さ,システムの複雑さ,馬券購入の規模,回数,金額,実際の成績という面で,一般の競馬愛好家のレベルを遙かに超えているので,通常の馬券購入によって得た所得とは,所得としての性質が変化しているといえる。また,独自の予想をして継続して馬券を購入している点で他の愛好家と変わりがないというのであれば,むしろ,それら愛好家の行為についても,「営利目的による継続的行為」と認められるべきである。

⑤被告人の成績については,赤字の月もあれば,数か月間赤字が続いている場合もあり,収支は安定しておらず,恒常的に所得を生じさせるものではない。

←(弁護人の反論)

被告人は長期的視野に立って,統計的見地から,トータルで利益を挙げることを目的としていたのであり,その間の一定の時期に利益が上がらないときがあったとしても,問題にはならない。

⑥競馬の本質が娯楽である以上,資産の運用とはなり得ず,資産の譲渡としての性質も有するFXや先物取引と類似するものではない。

←(弁護人の反論)

FXや先物取引も偶然性が強い取引である。FX取引や先物取引については,証拠金によるレバレッジ取引による差金決済が行われ,実際の商品の授受はなく,投機的な性格が強いのであって,本件の被告人の行為とその性質において差はない。また,趣味,娯楽であっても,囲碁,将棋,ゴルフの例のように継続的に利益を挙げた場合には,雑所得や事業所得になり得る。

 

3 立証

①検察官の立証

所得税法の解釈について,検察官の主張を支持する学者(水野忠恒・明治大学教授)の意見書等を書証として提出しました。

②弁護人の立証

一審判決の採用した見解を支持する学者や実務家(酒井克彦・中央大学教授,池本征男・税理士・元税務大学校教授・元東京国税不服審判所横浜支所長,末崎衛・沖縄国際大学法学部教授,長島弘税理士・当時自由が丘産能短期大学専任講師,現立正大学法学部准教授)の論文や,金子宏・東大名誉教授の論文(常習的な賭博により利益を得た場合は雑所得に該当することを指摘)等を書証として提出しました。