タレントの闇営業問題にみる企業の不祥事対応について
最近話題となっている,反社会的勢力に対する闇営業の問題について,吉本興業の対応は,企業の不祥事対応として,問題が多々あるものでした。
失敗例,反面教師として非常に参考になりますので,弁護士の観点から見た問題点を指摘しておきます。
発端は,吉本興業に所属している芸人が,反社会的勢力の集まりに会社を通さないで営業で参加していたというものです。
それに対する吉本興業の対応は,①不祥事発生の予防,②不祥事が発生した場合の事実調査,③不祥事に対する内部的対応,④不祥事に対する外部的対応,のいずれにおいても,以下のような問題がありました。
①予防
タレントとの間で契約書も作成していないとのことであり,複数の,しかも有力なタレントの行動を把握できていなかったという点において,予防策が極めて不十分であったといわざるをえません。
②事実調査
タレントが嘘をついたことが問題となっていますが,そもそも社内調査として,誰が,どういう手法で調査をしたのかが不明です。
営業に行ったがお金をもらっていないということは,福祉施設などへのボランティアならともかく,通常あり得ません。
当初の発表自体が,事実調査不足です。
③対応(内部)
反社会的勢力の集まりに営業に行き,金銭を受け取った事実は,コンプライアンス違反です。
相手方が反社会的勢力であると推察できたのかどうかはよくわかりませんが,どのような団体か,よく確認しなかったのではないか,また,会社を通さない正式の営業ではなく,しかも高額な出演料であったことからすると,タレント側に過失があった可能性があります。
しかしながら,無期限謹慎の処分は,芸能人としての活動の自由と,生活権を完全に奪うもので,明らかに過剰なものです。
また,タレントは従業員でなく就業規則の適用はないはずであり,契約書も存在しないのであれば,処分の法的根拠もありません。
また,社長によるパワーハラスメントは問題外です。
社長とタレントの会話に際して,弁護士に席をはずさせたという話ですが,顧問弁護士にせよ,社内弁護士にせよ(弁護士としての責務は同じ),パワハラが行われないように防止する責任はあるので,もし事実であれば,弁護士の対応も問題ではないでしょうか。
④対応(外部)
組織としての記者会見が遅きに失するもので,速やかな事実調査と公表が不可欠でした。
くわえて,記者会見の目的は,事実の報告,謝罪にあるのであれば,趣旨を明確にし,質疑応答も必要な範囲で十分です。
長時間すればいいというものではありません。
また,社長が会見するにしても,顧問弁護士など法務スタッフも同席して,仕切りをすべきだったのではないでしょうか。
以上のとおり,今回の問題は,企業版「失敗の本質」といってもいいほど,大変勉強になるケースで,企業のコンプライアンスの教科書に載せてもよい事例といえるでしょう。