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物権法の改正について(1)

水曜日, 3月 22nd, 2023

 

所有者不明土地1 はじめに

令和3年に、所有者不明土地の解消に向けた民法等の一部が改正され、相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律が制定されています。

 今回の記事では、民法の物権法の改正のうち、「共有物の利用促進に関する改正」について取り上げます。

この改正法については、令和5年4月1日から施行されています。

2 共有物の変更・管理

(1)旧民法及び改正民法の内容

 旧民法では、各共有者は他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができないと定められていました。

 他方で、共有物の管理行為は持分価格の過半数の同意により可能であるとし、保存行為は他の共有者の同意は不要であるとしていました。

 しかし、「変更」と「管理」の区別は解釈上曖昧です。

 そこで改正民法は、共有者間の利害を調整しながら、共有物の有効な管理を実現するため、次のように規定を整理しました。

①共有物の保存行為は他の共有者の同意が不要(改正民法252条5項)。

②共有物の管理行為のほか、形状及び効用の著しい変更を伴わない変更(軽微な変更)については、持分価格の過半数の同意により可能(改正民法251条1項、252条1項)。

③軽微な変更を除く共有物の変更については、共有者全員の同意が必要(改正民法251条1項)。

 「形状の変更」とはその外観、構造等を変更することをいい、「効用の変更」とはその機能や用途を変更することをいうとされています。

 例えば、砂利道のアスファルト舗装や、建物の外壁・屋上防水等の大規模修繕工事は、基本的に共有物の形状又は効用の著しい変更を伴わないものに当たるので、共有持分価格の過半数の同意により可能です。

(2)過半数の同意と「特別の影響」

 共有物の管理や軽微な変更であっても、共有物を使用する共有者に「特別の影響」を及ぼすべきときは、その承諾を得なければなりません(改正民法252条1項)。

「特別の影響」を及ぼすとは、

①共有物の利用方法を変更する必要性及び合理性と

②その変更によって共有物を使用する共有者に生ずる不利益とを比較して

③共有物を使用する共有者が受忍すべき程度を超える不利益を受けると認められる場合

をいいます。

 具体的には、

①共有物の「使用者の変更」

②使用期間の短縮等「使用条件の変更」

③建物の使用目的を店舗から住居に変更するなどの「使用目的の変更」

が、特別の影響を及ぼすときに該当します。

3 所在等が不明な共有者がいる場合

(1)所在等が不明な共有者がいる場合の取り扱い

 改正民法251条2項は、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、当該他の共有者以外の他の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判ができると定めています。

 旧民法ではこれに該当する規定はなく、不在者財産管理制度(民法25条以下)を利用するほかありませんでした。

 しかし、例えば相続等が繰り返されて、そもそも共有者が誰かわからない場合や、共有者の協力が得られない場合など、同制度では対応しにくい場合がありました。

 改正民法は、共有者の請求により、

①共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときのほか

②共有者が他の共有者に対して相当の期間を定めて共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべき旨を催告した場合

において、当該他の共有者がその期間内に賛否を明らかにしないときは、当該他の共有者以外の共有者の持分価格の過半数により、共有物の管理に関する事項を決することができる旨の裁判をすることができるとしました(改正民法252条2項)。

(2)所在不明の調査について

 改正民法251条2項、252条2項1号にいう、「共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき」とは、必要な調査を尽くしても、共有者の氏名・名称又はその所在を知ることができないことをいいます。

 その調査方法としては、少なくとも、登記簿上又は住民票上の住所において、当該共有者が所在又は居住していないことを調査する必要があるとされています。

 具体的には、民事訴訟において公示送達(民事訴訟法110条)が認められる場合と同様の調査、すなわち、当該共有者宛に郵便物を送付してもそれが配達されずに返送されることを確認した上で、当該住所に直接赴いて表札を確認したり呼び鈴を押したり、また、可能な範囲で近隣の者に事情を聞くなどして当該共有者の居住の事実の有無を確認する必要があると考えます(私見)。

(3)共有物の変更・管理に関する非訟手続

 共有物の変更・管理が円滑に実施することができるようにするため、上記のとおり改正民法は、共有者の請求によって共有物の変更・管理に関する裁判ができることを定めましたが、これに伴い、新しい非訟手続が創設されました(改正非訟事件手続法85条等)。

 同手続における申立人は共有物の共有者であり、管轄は、共有物の所在地を管轄する地方裁判所です(改正非訟事件手続法85条1項)。

 そして、裁判所は、申し立てられた裁判の内容、当該所在不明等の共有者において異議がある場合には一定期間(1か月以上の期間)内に届け出ること、届出がない場合には申立てに基づく裁判がなされることを公告します(改正非訟事件手続法85条2項)。

 その上で期間内に異議の届出がないときは、裁判所は、共有物の変更・管理に係る決定を行います(改正非訟事件手続法85条2項3号、3項3号)。

 なお、決定については、所在不明等の共有者に告知することは必要とされず、申立人や所在不明等の共有者を含む他の共有者は、申立人が決定の告知を受けた日から2週間内に即時抗告をすることができます(改正非訟事件手続法85条6項、非訟事件手続法66条1項、2項、67条3項)。

このほか、短期賃借権等の設定、共有物の管理者についても改正がなされていますが、これらの点については、別の記事にてご紹介いたします。

 

※参考文献:月刊税理2022年4月臨時増刊号「所有者不明土地解消の法務と税務」