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タックス・ヘイブン税制について

火曜日, 10月 16th, 2018

税務判例入門最近,企業の海外進出が目覚ましく,国際課税の問題は避けて通れません。

国際課税についての重要な問題として,平成29年10月,タックス・ヘイブン税制に関し,注目すべき最高裁判例が出されました(いわゆる「デンソー事件」)。

そこで,今回は,タックス・ヘイブン税制と「デンソー事件」について解説します。

 

1.タックス・ヘイブン税制

タックス・ヘイブンとは,税負担が著しく低いまたは税が存在しない国や地域のことを指します(租税回避地の意味で,タックスヘブン=税金天国ではありません)。

タックス・ヘイブンに子会社を設立し,その子会社に所得を移転することによって,グループ全体の税負担を軽減する租税回避が可能です。

そこで,わが国では,このような租税回避を防止するために,タックス・ヘイブンに設立され,一定の要件を満たす外国子会社の所得を,その株主である日本の親会社の所得に合算して課税する制度(タックス・ヘイブン税制)がとられています。

 

2.タックス・ヘイブン税制の適用除外

ただし,子会社を設立することで正常な経済活動を行っている企業に対まで,一律にその子会社の所得を合算して課税を行うと,企業の正常な海外展開による経済活動を阻害します。

そこで,タックス・ヘイブン税制は,次のような「適用除外基準」をもうけています。

これは,外国子会社について,単なる課税逃れ目的ではない,実体を有する必要があるというものです。

①事業基準

外国子会社の主たる事業が,株式の保有等,一定の事業でないこと

②実体基準

外国子会社が,事業を行うのに必要な事務所,店舗,工場などの固有的施設を有すること

③管理支配基準

外国子会社が,その所在地国において事業の管理,支配及び運営を自ら行っていること

④非関連者基準

外国子会社が,卸売業,銀行業,信託業,金融商品取引業,保険業,水運業または航空運送業を営む場合には,その主たる取引の50%超を関連者以外のものと行っていること

⑤所在地国基準

外国子会社が④に定める業種以外の業種に従事しているときは,その事業を主としてその本店所在地国内で行っていること

以上の基準をすべて満たした場合(ただし,④と⑤はいずれか)に,タックス・ヘイブン税制の適用が除外となります。

 

3.デンソー事件最高裁判決

デンソー事件では,適用除外要件のうち,主として,①の事業基準が問題となりました。

事案は,大手自動車部品メーカーの株式会社デンソーが,シンガポールに有していた子会社の所得について,タックス・ヘイブン税制が適用され,デンソーの所得に合算して課税されたというものです。

本件子会社は,ASEAN地域内での集中生産・相互補完体制の円滑化を図るため,地域業務の統括を目的として,ASEAN地域にある子会社及び関連会社の株式を保有していました。

そこで,税務署長は,本件子会社の主たる事業が「株式の保有」であるとして,①の事業基準を満たさないとしたのです。

しかし,最高裁は,以下のように判断し,デンソーを勝訴させました。

「本件子会社は,グループ各社の企画,調達,財務,材料技術,人事,情報システム,物流改善という多岐にわたる地域統括業務を行い,配当以外にも,これら業務の対価としての売上げを多くあげていたことから,主たる業務は「地域統括業務」であり,事業基準を満たす」

 

4.今後の注意点

近年のグローバル経済化の下では,中小企業も海外子会社を設立する場合が多くあると思われます。

その場合に,課税逃れと見られないためには,海外子会社に事業の実体があることが必要であり,業務の内容,施設,人員等の確保が重要です。

最高裁判決でも,実際に地域統括業務を行ってその対価を得ているという実質が重視されています。

なお,平成29年度にタックス・ヘイブン税制の一部改正がなされました。

特に重要な点としては,海外子会社が適用除外基準(改正後は,「経済活動基準」と呼称)を満たすことを明らかにする書類等の提示又は提出がない場合には,その基準を満たさないと推定する旨の規定が創設されたことです。

これは,立証責任を納税者に転換したもので,税務調査が行われた場合には,積極的な資料の提供や説明が必要となりため,注意が必要です。