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Archive for 5月 20th, 2014

「はずれ馬券裁判」の控訴審判決の解説

火曜日, 5月 20th, 2014

s_0_vc2_img-01_vc2_img-01_0_vc2_img-01本年5月9日,大阪高等裁判所で,馬券の払戻金について,はずれ馬券の購入費をを必要経費と認める判決の言い渡しがなされました。

判決の内容について,主に一審判決との違いや検察官の主張を排斥した部分を中心に,紹介,解説いたします。

 

1 雑所得と一時所得の区別

一審判決は,所得の発生の基板となる一定の源泉から繰り返し収得される所得か否かという「所得源泉性」を問題にしましたが,控訴審は,そのような「所得源泉性」は問題ではなく,端的に,行為の態様,規模その他の具体的状況に照らして,「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」に該当すれば,一時所得ではないと判断しました。

その上で,被告人は,競馬予想ソフトを用いてデータを分析し,回収率に着目して,自動購入する設定により,馬券を機械的,網羅的に大量購入することを反復継続するもので,5年間にわたり,全競馬場の全レース(新馬戦と障害レースを除く)について,1日について数百万円から数千万円を購入し,3年間の合計で28億円以上の馬券を購入し,38億円以上の払戻金を得たというもので,その購入及び履歴は記録化されており客観的にも明らかであるから,「営利を目的とする継続的行為から得た所得」に当たり,一時所得ではなく,雑所得であるとしました。

 

2 競馬の賭博性について

検察官は,競馬の本質は賭博であり,勝敗は偶然の事情であり,各競走は独立したものだから,いくら繰り返されても,継続的行為とはならないと主張しました。

それに対して,控訴審判決は,賭博であって射倖性を有することは,営利性や継続性といった要件を否定するものではないと判断しました。

 

3 一般的な馬券購入との区別について

検察官は,現在の競馬の実情として,インターネット取引が主流で,一般の競馬愛好家の多くが予想ソフトやデータを利用しているから,被告人と大差がなく,一時所得とされるべき一般の競馬愛好家の所得と質的な差異はないと主張しました。

それに対して,控訴審判決は,被告人以外の場合であっても,払戻金を得た者の馬券購入行為が,被告人と同様客観的に認められる態様や規模に照らして「営利を目的とする継続的行為」に当たれば,雑所得になると判断しました。

これは,一審の判決の判断を一歩進めたものです。

 

4 先物取引,FX取引との類似性

一審判決は,被告人の行為は,FX取引等と類似した資産運用の一種であるとして,雑所得であると認めました。

しかし,控訴審判決は,FX取引等は「資産の譲渡の対価」であって,本件との類似性を問題にならないとしました。

この点も,必ずしも「資産運用」あるいはFX取引等と類似するものといえなくとも雑所得になり得るとしたもので,一審判決を一歩進めたものと評価できます。

 

5 必要経費性について

控訴審判決は,はずれ馬券を含む馬券の購入がなければこのような払戻金を得ることができなかったのであるから,はずれ馬券の購入費も払戻金を得るために「直接要した費用」(所得税法37条1項)に当たるとしました。

一審判決は,これと異なり,「その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」に該当するとしていましたので,控訴審判決は,一審判決よりも積極的に経費性を肯定したものです。

 

6 弁護人のコメント

控訴審判決の内容は,所得税法の解釈としても,常識に合致した判断ということからも,正当なものです。

今後の課題としては,被告人以外の実際の馬券購入について,どの程度に至れば雑所得となるのか具体的な区分をどうするかという問題があり,また,窓口で馬券を購入して所得が捕捉されにくい人との不公平の問題もあります。

国税当局は,このような判決内容を真摯に受け止め,国民の理解を得るため,明確な制度設計(たとえば,馬券の払戻金を非課税にする,または低率の源泉分離課税を導入する)を行うことが望まれます。