薬物依存症について
今回は,薬物依存症についてお話します。
私は,プロボノ活動の一環として,毎年,数件の国選弁護事件を担当してきました。
国選弁護人として選任される事件は原則として,弁護士が内容をみてから選べるものではないので,必然的にさまざまな種類の事件を扱うことになります。
大阪で国選弁護を担当しているとどうしても再犯率の高い薬物事件を割り当てられる機会が多くなってしまいます(令和2年版警察白書によると,令和元年中に薬物事犯で1万3364人が検挙されています)。
ここで改めて説明するまでもなく,覚醒剤などの違法薬物は仕事や身近な人の信頼など,有形・無形を問わず多くのものを失います。
薬物事犯で逮捕された人に警察署で接見すると,「前に捕まった後,もうやめようと思っていた」,「やめられたと思っていたのに,生活がうまくいかなくなって,つい手を出してしまった」などと後悔の気もちを伝えられる一方で,半ば諦めの言葉を口にする人も少なくありません。
「なんとか違法薬物から脱却して,今度こそは安定した生活を送ってもらいたい」と願っている弁護士としては,なんとも忸怩たる思いがする瞬間です。
そうした中で,「今度こそ薬をやめたいので,社会復帰した後には支援団体のお世話になりたい」という前向きな希望を伝えてくる人もいます。
もちろん,裁判で有利にみられたい,という動機による場合もありますが,本人がそうした希望をもっているのであればその気持ちに賭けてみたい,とも思うのです。
そうした場合,本人の話をよく聞いて特に意思が固そうであれば,弁護人として薬物依存症脱却支援団体に相談をお願いすることがあります。
先日も大阪で活動されている支援団体を訪問して,相談に応じていただきました。
そちらではまず,「薬物依存症が病気であり,もはや自分自身の努力だけでは脱却することができない」ということを十分に理解させてから,薬物依存からの脱却を願う同じ境遇の仲間とともにグループカウンセリングなどのプログラムを地道に続けてもらっている,のだそうです。
社会復帰した後に,自ら,自由が制限される環境に飛び込むのですから,プログラムを継続することは利用者にとってとても厳しいものでしょう。
それでも真面目にプログラムを続けた人に関しては再犯率がとても低いとのことでしたので,私としても希望を抱くことができました。
逮捕・勾留から裁判までの短い弁護活動の中で国選弁護人としてできることは限られます。
そうした中で本人に依存症脱却の決意をさせるためにも,できるだけ身内の方と連絡をとり,法廷で情状証人として語りかけてもらうようにしています。
「今度こそは立ち直ってもらいたい」と強く願っている人のためにも,薬物依存症の方には二度と同じ過ちをしないという決意を大切にして努力を続けてほしいものです。