加算税と刑事罰について
弁護士の荒木誠です。
先日,有名お笑い芸人が国税局から多額の申告漏れを指摘されたということでニュースになっていたのは記憶に新しいと思います。
報道の中では,無申告加算税のほか,重加算税も課されていたため悪質だと指摘するものもありましたが,これら加算税の違いをご存知の方はそれほど多くないのではないでしょうか。
加算税は,税金の中でも特に馴染みが薄いと思いますので,内容を解説します。また,関連する刑事罰についても概説しようと思います。
1 加算税とは
加算税は,納税者がきちんと申告を行うよう促進するために,申告を怠った場合に課される「附帯税」の一種です。
附帯税とは,所得税などの「本税」とは別に課される税金をいいます。
なお,加算税は「罰金」と言われることもありますが,刑事罰として課される罰金とは異なるものですので,加算税に加えて罰金が課されることもあります。
加算税の種類としては,①過少申告加算税,②無申告加算税,③重加算税などがあります。
計算としては,いずれも支払わなかった本税に対して一定の課税割合を乗じた金額が,加算税の金額になります(その他軽減措置等がありますが今回は割愛)。
①過少申告加算税
申告期限内に申告書を提出したものの,修正申告などで結果的に金額が過小になったときに課される加算税です。
課税割合は,金額によって異なりますが,10%または15%です。
②無申告加算税
申告期限内に申告をせずに,期限後に申告したり,あるいは決定によって税額が確定した場合などに課される加算税です。
課税割合は,15%(50万円超の部分は20%)です。
③重加算税
税額の計算の基礎となる事実について,「仮装」や「隠蔽」がある場合に限って課される加算税です。
これは,より悪質なケースについて,過少申告加算税や無申告加算税に代えて,より割合の高い重加算税を課すというものです。
課税割合は,過少申告加算税に代えて課される場合には35%,無申告加算税に代えて課される場合には40%もの高率になります。
ここでいう事実の隠蔽とは,売上の除外や,証拠書類の廃棄する行為などが該当します。
意図的に一部の所得をつまみ出して過小に申告した場合(いわゆる「つまみ申告」)には,申告した部分以外の所得を隠蔽したことになるので,事案によっては重加算税の対象になりうるものと考えられます。
また,事実の仮装とは,実際には存在しない架空の仕入等の経費が存在するものと見せかけたり,名義を偽るなどの行為をいいます。
なお,期限内に納税していない場合には,加算税のほかに「延滞税」も発生します。
延滞税とは,期限までに納税しなかった場合に発生する遅延利息に相当するものです。
利率は年度によって変動があるのですが,例えば,今年であれば年8.9%です(ただし,納期限の翌日から2か月以内の部分は年2.6%)。
2 刑事事件になる場合
また,加算税が課されるような事案は,同時に刑事事件に発展することもあります。
①単純無申告犯
正当な理由なく,納税申告書をその提出期限までに提出しないことは,それだけで犯罪になりえます。
法定刑は,1年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
②申告書不提出犯
平成23年の法改正によって,単純無申告犯のうち違法性が強いものを,申告書不提出犯として処罰することとされました。これは,故意に申告書を期限までに提出しないことによって税金を免れるという犯罪です。
こちらの法定刑は,5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金またはその併科と規定されています。
③ほ脱犯(狭義の脱税犯)
「偽りその他不正の行為」によって,税金を免れた場合に成立する犯罪です。
法定刑は,10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金またはその併科です。また,脱税額が罰金刑の上限を超えるときは,罰金を脱税額以下にすることも法律上可能ですので,罰金が1000万円を超える場合もあります。
ここでいう「偽りその他不正の行為」とは,ほ脱の意思をもって,税の賦課徴収を不能もしくは著しく困難ならしめるような偽計・工作を行うこと,と考えられています。
例えば,帳簿書類への虚偽記入,二重帳簿の作成などの隠蔽工作がこれに該当します。
もちろん加算税が課された事案の全てが刑事事件になるわけではありませんが,例えば,もし国税局からの査察調査が入った場合には刑事事件となる可能性もありますので,早期に弁護士に相談されることをおすすめします。