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論文・セミナー

「企業活動における刑事リスクについて(暴力団排除条例・暴排条項について)」

1 はじめに

最近、人気タレントの島田紳助氏が、暴力団幹部との密接な交友を理由として、芸能界を突如引退したという印象的な出来事がありました。
平成22年以降、全国で暴力団排除条例制定の動きが広まっており、大阪府でも、平成23年4月1日から、大阪府暴力団排除条例が施行されています。
そこで今回は、大阪府暴力団排除条例の解説を中心として、企業のコンプライアンスの観点から、反社会的勢力に対し、どのように対応すべきかという点について説明いたします。


2 大阪府暴力団排除条例について

大阪府暴力団排除条例では、主として、以下のようなことが定められています。


  1. 暴力団員等に利益の供与をすることの禁止
    これは、企業にとって非常に重要な規定です。
    1. 事業者は、その事業に関して、暴力団員等又は暴力団員等が指定した者に対し、次に掲げる行為をしてはならないこととされています(14条)。
      ①暴力団の威力を利用する目的による、又は暴力団の威力を利用したことに関する利益の供与
      ②暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することになる相当の対償のない利益の供与
      ③その他暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる利益の供与
    2. 具体的な例は次の通りです。
      前記①について、事業者が、暴力団員にトラブルの解決を依頼して、その謝礼を渡すような行為。
      前記②について、暴力団員に対して、自動車等の商品を安く売ったり、あるいは、おしぼりや備品類を不相当に高額に仕入れるような行為。
      前記③について、暴力団から依頼されて組関係の通知(破門状等)を印刷したり、あるいは、出所祝いのための宴会場を貸すような行為。
      これらのような行為をした場合には、以下のような不利益な処分が事業者に科されます。
      まず、大阪府公安委員会は、事業者に対して、上記規定の実施に必要な限度において、説明又は資料の提出を求めることができます(21条1項)。
      また、上記のうち、①、②に違反した場合には、公安委員会は、その違反をした者に対して必要な勧告をすることができるとされており(22条3項)、③に違反した場合には、同じく必要な指導をすることができ、その指導に従わないときには、勧告をすることができるとされています(22条4項、5項)。
      勧告の内容については、上記のような行為の中止等が考えられます。
      その上で、資料の提出に応じなかったり、公安委員会の勧告に従わない事業者は、その旨「公表」されることになります。
      いわば、当該事業者は、暴力団と関係のある企業であるということが公になってしまうことになり、そのダメージは図りしれません。
  2. 不動産の譲渡等をしようとする者の責務
    この規定も、企業活動をするに当たって、気を付けなければならない重要なものです。
    条例では、何人も、自己が譲渡等をしようとする不動産が暴力団事務所の用に供されることになることを知って、当該譲渡等に係る契約をしてはならないこととされています(19条1項)。
    そして、不動産の譲渡等をしようとする者は、当該譲渡等に係る契約の締結の前に、当該不動産を暴力団事務所の用に供するものではないことを確認するよう努めるものとされています(19条2項)。
    さらに、不動産の譲渡等をしようとする者は、当該譲渡等に係る契約において、当該不動産を暴力団事務所の用に供してはならないこと及び当該不動産が暴力事務所の用に供されることが判明したときは、催告をすることなく当該契約を解除し、又は当該不動産を買い戻すことができることを定めるように努めるとともに、当該不動産が暴力団事務所の用に供されることが判明した場合においては、速やかに当該譲渡等に係る契約を解除し、又は当該不動産を買い戻すよう努めることとされています(19条3項、4項)。
    これらの規定は努力規定とされており、違反に対して勧告や公表などの措置までは予定されていません。
    しかし、条例上、明文で定められていることですので、この規定の趣旨に反して、十分な調査を行わず、安易に暴力団事務所等に利用されることを知りながら不動産の譲渡等を行った人に対しては、強い社会的非難がなされるでしょうし、場合によっては、付近住民等から不法行為による損害賠償責任追及がなされることもあり得るので、注意をしなければなりません。
  3. 不動産の譲渡等の代理又は媒介をする者の措置等
    不動産の譲渡等の代理又は媒介をする者は、当該譲渡等に係り契約の当事者に対し、前記「不動産の譲渡等をしようとする者の責務」に記載された事項の遵守に関し、助言その他の必要な措置を講ずるとともに、当該代理人又は媒介に係る不動産が暴力団事務所の用に供されることとなることを知って、代理又は媒介をしてはならないこととされています(20条)。
    これに該当すれば、事実確認のための書面の提出や場合によっては、勧告、事実の公表が行われますので(22条2項、23条2項)、やはり企業としての信用が失墜しかねません。
  4. その他
    その他、条例では、①公共工事や、府の事務・事業からの暴力団排除、②青少年の対する指導等のための措置、③暴力団事務所の開設及び運営の禁止(学校、図書館等の施設の周囲200メートルの区域内における暴力団事務所の開設又は運営の禁止。違反には刑事罰が適用)が規定されています。

3 暴力団排除条項について

以上のように、企業活動を行うにあたっては、そもそも暴力団と取引をしないようにすることが重要です。
また、暴力団対策法の施行以来、近年では、暴力団が堂々と看板を掲げて活動を行うことが比較的少なくなり、エセ右翼、エセ同和、暴力団フロント企業等の反社会的勢力として活動を行うことが多くなりました。
そこで、企業のコンプライアンスの観点からは、広くこのような反社会的勢力一般との取引を排除しなければなりません。
具体的には、各種契約書に、いわゆる暴力団排除条項(暴排条項)を設けるべきです。
暴排条項の例を以下に参考として掲げておきます。なお、これはほんの一例で、実際には、具体的な契約内容等に応じて、規定の内容、表現等を工夫する必要があります。

  1. 反社会的勢力の定義
    甲及び乙は、相手方に対し、現在及び将来において、次の各号の一つにも該当しないことを表明し、保証する。
    1. 暴力団、暴力団員、暴力団関係企業・団体、総会屋、社会運動・政治活動標榜ゴロ、特殊知能暴力集団等、その他反社会的勢力(以下併せて「反社会的勢力」という。)
    2. 反社会的勢力でなくなった日から5年を経過しないもの(以下「元反社会的勢力」という。)
    3. 甲が法人の場合、その株主・役員その他実質的に法人の全部又は一部を支配する者が反社会的勢力ないしは元反社会的勢力である場合
    4. 自ら、または第三者を利用して、相手方に対し、暴力的行為、詐術・脅迫的行為、業務妨害行為、その他の違法行為を行うもの
    5. 反社会的勢力又は元反社会的勢力を、従業員ないしはこれに準じるものとして業務に従事させているもの
    6. 反社会的勢力又は元反社会的勢力が、その名目を問わず資金提供や出資を行い、又は、事業を実質的に援助している場合
    7. 暴力団員による不当な要求行為の防止等に関する法律(平成3年法律第77号)第2条1項に規定する暴力的不法行為等、又は同9条各号に定めるいわゆる暴力的要求行為を行っている場合
  2. 情報提供・報告義務
    甲及び乙は、互いに、相手方による反社会的勢力及び元反社会的勢力との関係の有無に関する調査に協力し、相手方から求められた事項については、客観的・合理的な範囲のものである限り、これに応じ報告するものとする。
  3. 甲又は乙は、相手方が、上記1の一にでも該当することが判明し、又は上記2による報告の求めに対して、合理的期間内に報告を行わなかったときは、何らの催告をせず、本契約を解除することができる。

4 反社会的勢力の調査方法について

取引をしようとする相手方、あるいは、既に取引関係にある相手方について、暴力団等、反社会的勢力に該当するかどうかを調査するにはどうすればよいでしょうか。
まず、そもそも取引をするに当たって、企業として、事前に暴力団排除条項を設けていることを明らかにして、反社会的勢力に該当しないことを相手方に確約してもらう必要があります。
これを確約しない相手方は、非常に怪しい相手方ということになりますので、取引をすべきではありません。仮に相手方が嘘を言って取引をした場合には、その相手方は詐欺罪に該当します。
その他には、インターネットを活用したり、大手新聞社の有料の記事検索サイトを利用して、広く情報を集めることも可能です。
さらには、所轄の警察署、暴力団追放センター、都道府県の警察本部を通じて情報を収集することができる場合があります。
ただし、警察等の公的機関は、暴力団情報については厳格に管理しているため、無条件に情報を提供してくれるわけではありません。
普段から、企業として暴力団排除の取り組みを積極的に行い、これら公的機関と連携をしておくことが必要ですし、また、民事介入暴力事案の経験を有する弁護士を通じることが有益な場合もあります。


5 まとめ

以上のように、暴力団等、反社会的勢力と関係しないための取り組みは、企業活動にとって、ますます重要なこととなってきています。
我々弁護士は、そのような企業の取り組みに対して積極的にサポートさせていただいておりますので、どうぞお気軽にご相談ください。




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