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論文・セミナー

「企業活動における刑事リスクについて(不当要求対策について)」

1 はじめに

最近、日本最大の暴力団である6代目山口組の組長が、刑務所から出所してきました。大きく報道されたので、ご存知の方も多いかと思います。
トップの復帰により、市民の敵である暴力団が活動を活発化させるのではないかとして、警察もかなり注目し、警戒しています。
最近では、いわゆる典型的な「ヤクザ」は比較的目立たなくなり、暴力団は、経済活動に進出し、経済ヤクザ、暴力団フロント企業として、巧みに社会の中で不正な利益を得ています。
しかしながら、他方では、やはり暴力的な要求や恐喝まがいの行為を行うことにより、企業活動を妨害しているという事態も決して少なくはありません。
また、暴力団員ではなくとも、いわゆる悪質クレーマーとして企業に対し、執拗に不当な要求を繰り返すという事例も増加しているように見受けられます。
このような「不当要求」に対しては、毅然とした対応をする必要がありますが、担当者にとっては、大きなプレッシャーになります。
そこで今回は、弁護士の目から見た不当要求に対する対応策のコツについて、説明いたします。


2 窓口での不当な要求について

暴力団員風の人物が、窓口にきて、担当者に対して大声で要求を繰り返すというような場合にはどうすればよいでしょうか。


  1. 要求の理由が単なる言いがかりの場合
    この場合は、相手のペースに乗せられないことことが大事です。
    あくまでも法や規則等、ルールに則って適切に処理すべきであり、そのことを相手に伝える必要があります。
    その上で、なおかつ執拗に要求行為を繰り返すような場合には、相手が暴力団関係者であれば暴力団対策法における暴力的要求行為に該当する場合がありますし、暴力団員であるかどうかが不明であっても刑法の強要罪、脅迫罪、不退去罪等に該当する可能性があります。
    ですから、速やかに警察に通報して取り締まりを要求すべきです。
    しかし、このようなときでも「警察を呼んだりして大事にすると、復讐されるのではないか」と思ってしまい、通報をためらうことが多いようです。
    しかしながら、不当要求への対策として一番知っておいてほしいことは、公のルート、つまり法律の手続に乗せることを実はものすごく嫌がるのが、暴力団関係者やそれに類する不当要求者の特徴であるということです。
    不当な要求に対して、話し合いの余地はありません。法律の力に頼らずにうまく話をつけようとしても、失敗に終わります。
    そういう公でない世界が彼らの得意とする場所ですから、こちらとしては、むしろ日の当たる表の世界、法律が支配する刑事事件や裁判の場へと引っ張り出すことが一番効果的なのです。
    それから、通報する前の段階でも気をつけてほしいことがあります。
    まず、1人ではなく、必ず複数人で対応してください。
    私が過去に経験した事例では、対応を担当者1人に任せてしまったために、その人が圧力に屈して不正な処理をしてしまい、結果として、組織に大きな迷惑がかかったということがありました。
    また、複数の担当者のうち、1人は記録係にして、応対の内容を記録に残して後日の証拠にすることも大切です。
    後に、刑事事件として被害届を出したり、たとえば面談禁止の仮処分を求めるなど、民事裁判として適切な対応をするためには確実な証拠が必要です。
    面会の際に、その都度つけていた記録というのは有力な証拠になります。
    そのほかにも、相手方からの電話を録音したり、交渉の様子を録音・録画しておくことはもっとも良い証拠となります。
    このような場合における録音・録画については、相手方の同意を得る必要はありませんので、遠慮なく証拠に残してください。
  2. 当方に何らかの落ち度がある場合
    この場合であっても、安易な謝罪や妥協は禁物です。
    たとえ相手側の要求に相応の理由があったとしても、要求の方法が暴力的であったり、脅迫まがいのものであれば、やはり不当要求になります。
    まずは現場の確認や関係者からの詳細な事情聴取など、事実確認が大事です。
    その上で落ち度が判明した場合は相手方への謝罪が必要ですが、次の点に注意してください。
    まず、謝罪の相手方は本人で足ります。代理人等に謝罪する必要はありません。
    また、謝罪する側の当事者も、落ち度のあった担当者個人ではなく組織としての謝罪で足ります。担当者を同席させなければならないというものではなく、むしろ同席させない方がよいでしょう。
    それから、相手方から謝罪文の作成を要求されたとしても、それに応じる義務はありません。
    仮に謝罪文、念書のようなものを書いてしまったとしても、それが致命的なものになるわけではありません。
    具体的な事実が大事であって、その具体的事実に法律を当てはめるとどうなるかが問題なのであり、念書があるから責任がないところに責任が発生するというものではありません。必要以上に気にしないでください。
    またマスコミ等に宣伝するとの脅しがなされる場合があります。
    しかし、企業の日常的な落ち度は記事にする価値はありませんので、おそれることはありません。それに、報道機関は、事実に反することは記事に書けません。必ず、反面調査、つまり当方側への取材がなされます。
    そのときにきちんと事実を説明すればよいのです。決して、相手方の一方的な言い分だけで記事になることはありません。
    むしろ、そのような脅しに屈して不当な要求に応じてしまい、不正な処理をする方が重大な不祥事となり、後で問題となる可能性があります。
    それから、要求を受け入れないと上司や行政機関等に通報するとの脅しがなされる場合も多いです。
    しかし、要求を受け入れれば通報しないという保証はどこにもありません。
    むしろ、一度でも不当な要求に応じてしまったことが弱みになり、ずっと要求に応じなければならないことになり、問題が大きくなってしまうのです。
    そのほか、過去に同様に不正な処理をしていることをとらえて、今回はなぜできないのかと執拗に食い下がってくる場合もあります。このような場合でも、過去は過去、今回からは正しい処理を行うとして毅然と対応する必要があります。
    相手方も恐喝に問われることはおそれていますので、露骨に金銭を要求することは少ないでしょう。
    よく使われるフレーズが、「誠意を見せろ」という表現です。その場合でも、具体的な要求の内容を確認してください。相手方が、具体的な要求をしない以上は、このように交渉に応じて説明をしていることをもって誠意は示しているとして、交渉を打ち切ってしまうのがよいでしょう。

3 大声で騒いで帰ろうとしない場合

不当要求者が、大声で騒いで帰ろうとしない場合があります。
このときには、管理権者、つまり責任者を決めておき、明確に相手方に退去を求める必要があります。
そして、退去に応じない場合には、不退去罪や業務妨害罪に該当することを警告します。
といっても、現場でその基準やタイミングを判断をすることは難しいので、事前にマニュアルを作っておく必要があります。
まず、店長や副店長、あるいは総務課長等が、当該施設、物件の管理者であるということを社内の規定で明確にしておきます。
そして、マニュアルで、たとえば最初に退去を警告してから、1時間以内に10分以上の時間をあけて3回退去を求め、それでも退去しない場合には警察に通報するといったように、基準を明確にしておけば現場での判断が容易になるでしょう。


4 政治団体や同和団体を標榜する者から、賛助金や機関誌等の購入を要求されて、応じないと街宣活動を行うなどと言われた場合

いわゆるエセ右翼、エセ同和といわれる問題です。
このような場合でも、担当者の安易な判断で寄付金を支出したり機関誌等を購入することは、背任に該当するなどして会社の経営者や株主との関係で問題が生ずるおそれがあります。
もとよりこのような要求に応じる義務がないということが当然の前提になりますので、いかなる不当要求についても拒絶するという姿勢を組織内において徹底しておく必要があります。
また、拒絶をしたことで街宣車が来て、嫌がらせをされるという事例は、実際には多くはありません。
それというのも、街宣車を利用するためには車の費用や人件費などでコストが高くかかり、費用対効果の問題があるからです。彼らもビジネスでやっているのです。金にならないと判断した場合は、それ以上の行動を取らないのが普通です。
ですから、何を要求しても無駄だと相手に思わせるような毅然とした対応こそが必要です。
それでも、実際に街宣活動などの妨害活動をされる懸念がある場合には、弁護士から内容証明郵便により明確な拒絶通知を送ったり、警察へ相談をするという措置が有効です。
また、実際に街宣活動が行われた場合には、街宣活動禁止の仮処分の申立てをすることも考えられます。
そのためには、街宣活動について、録音・録画、回数の記録等を記録して、証拠にしておく必要があります。


5 まとめ

いずれにしましても、不当要求に対しては、法律にのっとっり、毅然とした対応が必要です。しかし実際に矢面に立たされた人は、パニックになってしまって、どうしていいかわからないということが多いようです。
そのようなときこそ、是非、プロである我々弁護士を頼ってください。




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