近年、公正取引委員会による談合やカルテルの摘発が以前よりも盛んになり、マスコミをにぎわせています。独占禁止法の改正により、犯則手続という強い手段が導入されたことや、課徴金の範囲の拡大、リニエンシー制度の採用など、大きく制度が動いています。
談合、カルテルといった違法行為が行われた場合には、公正取引委員会による摘発のみならず、社会的にも大きな非難を受けるという強いリスクがあります。
したがって、これからの企業にとっては、談合、カルテルの予防と、万が一発生した場合のリスク管理が強く求められているのです。
談合やカルテルがなぜいけないかということを、分かりやすい例えでいいますと、以下のようになります。
私の住む近所には、美味しいラーメン屋が何店舗かあります。値段はバラバラで、500円くらいから800円くらいですが、これは、店同士の競争が行われているからです。しかし、このラーメン屋さん達が集まって、「この地区では、ラーメンは1500円で売ることにしよう」と決めたとしましょう(これを「価格カルテル」といいます)。
そうすると、私や家族は、お休みの日に近所では、1500円でしかラーメンを食べることができません。こんなことでは、消費者である私達の大変な不利益になります。そこで、きちんとした競争がなされるように、こういったカルテルを禁止する必要があるのです。
また、談合とは、公共工事の入札に際して、入札参加業者同士の話し合いで、落札業者を決めてしまうことです。これも本来ならば自由に競争して価格を決めるはずなのに、そうしないことによって、我々の大事な税金が不正に多く支出されてしまいますから、禁止する必要があるのです。
刑法には、談合罪の処罰規定があります。
その内容は、「公正な価格を害し又は不正な利益を得る目的で、談合した者は、2年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処する。」(刑法96条の3代2項)というものです。
談合罪は、従来から、警察や検察によって、摘発が行われてきました。
以前は、企業相互の協調ということで、談合を容認する風土が日本にあり、それほど積極的に摘発がなされていなかったように感じます。しかし時代の流れとともに、従来の甘えの構造は厳しく非難され、公正な自由競争が行われることが強く求められています。
そのため、最近は、捜査当局も積極的に談合罪の摘発に乗り出しています。私も、検察官をしていた当時には、談合罪の捜査、公判に携わる機会がありましたが、やはり厳しい姿勢で臨んでおりました。
刑法の談合罪は、「公正な価格を害し又は不正な利益を得る目的」という要件が足かせとなっており、実は、捜査側としては、使いにくい規定です。
近年では、実際には、独占禁止法に基づくカルテルに該当するとして、公正取引委員会によって摘発される事例がほとんどです。
カルテルとは、先に挙げたラーメン店の事例のように、複数の事業者が競争を回避するために、取り決めないし申し合わせをして、互いに価格決定する等自らの行動を調整する行為を指します。
このようなカルテルが摘発されると、排除措置命令や課徴金納付命令といった行政処分がなされます。
また、特に悪質な事案については、検事総長に対する告発がなされ、その場合、ほぼ間違いなく、起訴されて刑事事件となります。
最近の例としては、平成17年度の鋼橋上部工事の入札談合事件、平成18年度のし尿処理施設建設工事の入札談合事件、名古屋市営地下鉄土木工事の入札談合事件、平成19年度の緑資源機構の地質調査等の受注に関する取引制限事件、平成20年度の溶融亜鉛めっき鋼板の価格カルテル事件がそれぞれ告発されて、刑事裁判となっています。
独占禁止法違反については、公正取引委員会に対する通報など、調査の端緒があり、その後、当該企業に立入調査がなされ、事情聴取がなされたり、証拠書類の提出が求められます。
そして、違反の事実が認められて、行政処分としての排除措置命令や課徴金が課されるというときには、企業の言い分を聞く事前手続を経て、それらの処分が課されます。
企業側に不服があるときには、審判請求をして公正取引委員会での審判を求めます。審判でも命令が取り消されなかったときには、企業側から訴訟を提起することになります。
また、公正取引委員会が、違反の事実が悪質と考えた場合には、上記で説明したとおり、告発を経て、刑事裁判になります。
カルテルに対する刑事告発は、実は、平成3年(1991年)にシール談合事件が摘発されるまで、約20年近くもの間、行われていませんでした。
日本の社会の風潮として、「シビアな競争をしたら、企業はつぶれてしまうので、談合やカルテルは必要悪だ」という考え方が長年あって、厳しい取締りはなされていなかったのです。
しかし、1980年代の日米構造協議で、米国側から、「日本では、広く談合が行われていて、競争を制限していて、不当だ。もっと厳しく取り締まれ」と激しい抗議がありました。そこで、それに答える形で、公正取引委員会は、カルテルに対して、強い姿勢でのぞむようになったのです。
「元寇」や「黒船」を例に挙げるまでもなく、何事も、日本で制度が動くときは、外圧が原因であることが、多いようです。
ただ、カルテルや談合が、社会にとって悪であることは間違いありませんので、そのようなことを容認する業界、企業の文化があるとすれば、それは改めなければいけないといえるでしょう。