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論文・セミナー

「企業活動における刑事リスクについて(談合、カルテルの規制)」

1 はじめに

近年、公正取引委員会による談合やカルテルの摘発が以前よりも盛んになり、マスコミをにぎわせています。独占禁止法の改正により、犯則手続という強い手段が導入されたことや、課徴金の範囲の拡大、リニエンシー制度の採用など、大きく制度が動いています。
談合、カルテルといった違法行為が行われた場合には、公正取引委員会による摘発のみならず、社会的にも大きな非難を受けるという強いリスクがあります。
したがって、これからの企業にとっては、談合、カルテルの予防と、万が一発生した場合のリスク管理が強く求められているのです。


2 カルテルがなぜ悪いか?

談合やカルテルがなぜいけないかということを、分かりやすい例えでいいますと、以下のようになります。
私の住む近所には、美味しいラーメン屋が何店舗かあります。値段はバラバラで、500円くらいから800円くらいですが、これは、店同士の競争が行われているからです。しかし、このラーメン屋さん達が集まって、「この地区では、ラーメンは1500円で売ることにしよう」と決めたとしましょう(これを「価格カルテル」といいます)。
そうすると、私や家族は、お休みの日に近所では、1500円でしかラーメンを食べることができません。こんなことでは、消費者である私達の大変な不利益になります。そこで、きちんとした競争がなされるように、こういったカルテルを禁止する必要があるのです。
また、談合とは、公共工事の入札に際して、入札参加業者同士の話し合いで、落札業者を決めてしまうことです。これも本来ならば自由に競争して価格を決めるはずなのに、そうしないことによって、我々の大事な税金が不正に多く支出されてしまいますから、禁止する必要があるのです。


3 刑法での談合罪処罰

刑法には、談合罪の処罰規定があります。
その内容は、「公正な価格を害し又は不正な利益を得る目的で、談合した者は、2年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処する。」(刑法96条の3代2項)というものです。
談合罪は、従来から、警察や検察によって、摘発が行われてきました。
以前は、企業相互の協調ということで、談合を容認する風土が日本にあり、それほど積極的に摘発がなされていなかったように感じます。しかし時代の流れとともに、従来の甘えの構造は厳しく非難され、公正な自由競争が行われることが強く求められています。
そのため、最近は、捜査当局も積極的に談合罪の摘発に乗り出しています。私も、検察官をしていた当時には、談合罪の捜査、公判に携わる機会がありましたが、やはり厳しい姿勢で臨んでおりました。


4 独占禁止法違反(不当な取引制限)による刑事告発

刑法の談合罪は、「公正な価格を害し又は不正な利益を得る目的」という要件が足かせとなっており、実は、捜査側としては、使いにくい規定です。
近年では、実際には、独占禁止法に基づくカルテルに該当するとして、公正取引委員会によって摘発される事例がほとんどです。
カルテルとは、先に挙げたラーメン店の事例のように、複数の事業者が競争を回避するために、取り決めないし申し合わせをして、互いに価格決定する等自らの行動を調整する行為を指します。
このようなカルテルが摘発されると、排除措置命令や課徴金納付命令といった行政処分がなされます。
また、特に悪質な事案については、検事総長に対する告発がなされ、その場合、ほぼ間違いなく、起訴されて刑事事件となります。
最近の例としては、平成17年度の鋼橋上部工事の入札談合事件、平成18年度のし尿処理施設建設工事の入札談合事件、名古屋市営地下鉄土木工事の入札談合事件、平成19年度の緑資源機構の地質調査等の受注に関する取引制限事件、平成20年度の溶融亜鉛めっき鋼板の価格カルテル事件がそれぞれ告発されて、刑事裁判となっています。


5 独占禁止法違反事件の流れについて

独占禁止法違反については、公正取引委員会に対する通報など、調査の端緒があり、その後、当該企業に立入調査がなされ、事情聴取がなされたり、証拠書類の提出が求められます。
そして、違反の事実が認められて、行政処分としての排除措置命令や課徴金が課されるというときには、企業の言い分を聞く事前手続を経て、それらの処分が課されます。
企業側に不服があるときには、審判請求をして公正取引委員会での審判を求めます。審判でも命令が取り消されなかったときには、企業側から訴訟を提起することになります。
また、公正取引委員会が、違反の事実が悪質と考えた場合には、上記で説明したとおり、告発を経て、刑事裁判になります。


6 主な行政処分について
  1. 排除措置命令
    これは違反があっても必ず命じられるというものではなく、必要に応じて命令が出されます。
    例としては、①カルテル協定・合意の破棄、②カルテルを取りやめたことや今後は各事業者が自主的に事業活動を行うことの取引先・需要者・消費者への通知又は広告等の周知徹底措置、③社内法令遵守体制の整備などがあります。最近は、特に③のコンプライアンスの構築が命じられることが特徴です。
  2. 課徴金納付命令
    課徴金は、違反があると原則として必ず命じられるものです。
    この課徴金の額は、原則として、違反行為の対象となった商品役務の売上額×10%とされています。ラーメンの事例でいうと、カルテル期間中の売上が仮に1000万円であったとすれば、100万円の課徴金が課されることになります。
    また、この課徴金納付命令で特に重要なのは、課徴金減免制度(リニエンシー制度)です。これは「自首」のような制度で、公正取引委員会が把握していない違反の事実を進んで情報提供すれば、課徴金が減免されるというものです。
    具体的な内容は、以下のとおりです。
     ①調査開始日前に1番目に違反行為の報告・資料の提出をした事業者
      →課徴金免除。
     ②2番目→50%減額
     ③3番目~5番目→30%減額。
    5社に達していない場合には、調査開始後であっても、速やか(20日以内)に報告・資料の提出(公正取引委員会が把握している事実以外の事実)をした事業者は、課徴金が30%減額となります。

7 独占禁止法違反事件における弁護士の役割
  1. 普段の相談
    まず、普段の相談業務や事件処理を通じて、独占禁止法に違反する行為が存在していないかを早期に調査し発見する業務があります。これによって重大な違反となることを未然に防いだり、リニエンシー制度の活用につながります。
  2. リニエンシーの活用
    独占禁止法違反の事実を認識した場合に、早期に、この事実を公正取引委員会に申し出た上で、告発の回避と課徴金の減免を確保できるように必要な調査協力を行うとともに、公正取引委員会の課徴金減免管理官と交渉を行うことになります。
    この場合に、先のリニエンシー制度の利用が考えられます。
    もし、リニエンシー制度を活用せずに、適切に対応しないまま高額な課徴金が課されると、当該会社の役員が善管注意義務違反による損害賠償責任を負う可能性があります。
    そのため、限られた時間内での社内調査によって、弁護士の協力を受けながら、カルテルの有無について白か黒かの見極めをすることが非常に大事になります。
  3. 調査開始後の問題
    調査開始後でも、リニエンシー制度が使える場合もありますし、協力度合いによって、排除措置命令が出されるかどうかが変わってくる可能性がありますので、積極的な報告・資料の提出に努めるべきです。
    そして、立入検査直後に担当者に事実関係を至急確認し、公正取引委員会に提出する報告書の作成作業に取りかかる必要があります。
    また、課徴金の額を減額するために、取締役会の決議や同業者・取引先へ通知するなどして、カルテルからの離脱を行う必要もあるでしょう。
    もちろん、処分に不服を申し立てて、審判となった場合には、それに対応することになります。
  4. 刑事弁護活動
    立入検査から約6~9か月程度で告発されるケースが多いようです。
    ですから、その間に告発回避に向けた弁護活動を行う必要があります。
    企業側担当者に対しては事情聴取への対応についてアドバイスをしたり、また、公正取引委員会に対しては、カルテルによる悪影響が少ないことを説明したり、会社がコンプライアンス体制を確立して、是正措置が講じられていることなどを積極的にアピールすることになります。

8 最後に

カルテルに対する刑事告発は、実は、平成3年(1991年)にシール談合事件が摘発されるまで、約20年近くもの間、行われていませんでした。
日本の社会の風潮として、「シビアな競争をしたら、企業はつぶれてしまうので、談合やカルテルは必要悪だ」という考え方が長年あって、厳しい取締りはなされていなかったのです。
しかし、1980年代の日米構造協議で、米国側から、「日本では、広く談合が行われていて、競争を制限していて、不当だ。もっと厳しく取り締まれ」と激しい抗議がありました。そこで、それに答える形で、公正取引委員会は、カルテルに対して、強い姿勢でのぞむようになったのです。
「元寇」や「黒船」を例に挙げるまでもなく、何事も、日本で制度が動くときは、外圧が原因であることが、多いようです。
ただ、カルテルや談合が、社会にとって悪であることは間違いありませんので、そのようなことを容認する業界、企業の文化があるとすれば、それは改めなければいけないといえるでしょう。




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