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論文・セミナー

「信託法入門」

1 はじめに

できたばかりの新しい信託法について、そもそも信託とは何か、どんな法律なのか、というところを簡単に説明いたします。「信託」って聞いたことはあるけどそもそもどういう仕組みか分からないという方や、話題になっている新しい信託法について少しでも知っておきたいという方向けの、入門的な内容にしたつもりです。ところどころわかりにくいところがあるかもしれませんが、そういうところはとばして読んでください。

2 信託の歴史
  1. 信託の沿革→イギリスで発展
    信託とはそもそも、どんなものでしょうか。11世紀から13世紀ころの間、もともとイギリスで十字軍に従軍する騎士が、自分の持っている土地を、信頼している友人に移転して、妻子の生活をみてもらったり、自分が死んだら妻子に分けてもらうということをしていました。これが信託の始まりといわれています。
  2. 日本における信託制度
    日本では、明治時代にロンドン市場で、外資を導入しやすくするため、会社が発行する社債に担保設定できるようにしました。明治38年に担保付社債信託法ができましたが、これが日本での信託に関する最初の法律です。 そして、日本で、信託という制度が導入されると、高利貸しのようなものも含めて、「信託会社」と称する怪しげな会社が多数乱立されてしまいました。 そこでこのような信託会社を規制するため、大正11年、(旧)信託法と信託業法が制定されたのです。
3 新しい信託法とは?

このように(旧)信託法は、便利さよりも、規制するという性質が強く、実務では、使いにくいものでした。
しかし、英米では、信託というスキームは非常に広く、そして便利に使われていますので、我が国でも、もっと使い易い法律にしようということで、全面改正されました(平成18年12月15日公布、平成19年9月30日施行)。実に84年ぶりの抜本的改正です。
新しい信託法は、名前は「信託法」のまま変わっていませんが、カタカナからひらがなになりましたし、条文数も旧法が75しかなかったのに比較して、270もの多数の条文が制定されました。

4 信託の仕組み
  1. 他益信託
  2. 他益信託

    信託って、どんな仕組みなんでしょうか。
    ①委託者、②受託者、③信託財産、④受益者という言葉を、ごっちゃにせず、きっちりと区別することが大事です。 信託とは、委託者が受託者に対して、一定の目的に従って、信託財産を移転し、財産の管理等に必要な行為をすべきことを委託することです。
    そして、その信託財産から、一定の給付を受けるものが、受益者です。
    例えば、資産家の人が、ある不動産の運用を他人にまかせて、その中から子供の学費を支払うように指定する。資産家が委託者、まかされた人が受託者、子供が受益者ですね。これが基本形です。

  3. 自益信託
  4. 自益信託というのは、委託者と受益者が同じ人の場合

    自益信託

    です。
    自分も年をとってきたなあ、財産の運用が難しいという場合に、財産を信用できる会社や人に任せて、その中から自分の生活費を受け取るというものが典型です。

  5. 目的信託
  6. 目的信託

    目的信託。これは、今回の新しい信託法で初めて認められました。
    受益者がいないというのが特徴です。地域住民がお金を出し合って信託して、地域社会のパトロール等の費用に充てるような場合など、いろいろ使えそうです。

5 信託の特徴
  1. )「一定の財産の移転」
    信託財産信託の特徴ですが、まず、一定の財産を移すということ。信託財産というものがその中心にあるということです。
    これが、単なる委任や代理とは違います。
  2. 「目的による制約」
    それから、ある目的によって制約されます。完全に財産が受託者に移ったのであれば、自由にしていいはずですが、そうではなく、受託者は目的に拘束されます。
  3. 「信託財産の独立(倒産隔離機能)
    信託財産は、受託者自身がもともと持っている財産、これを固有財産といいますが、それから独立しています。
    つまり、受託者が破産しても、債権者は、信託財産から弁済を受けることはできません。これを倒産隔離機能といいます。
6 新しい信託法の改正点

今回の信託法の改正点で大きなものをまとめてみます。

  1. 受託者の義務の緩和
    まず、受託者の義務が緩和できるとされました。
    最初に言ったように、当初の信託法は非常に規制的・強行法的で、受託者の義務は重いものでした。 そこで、新しい信託法では、私的自治を重視して、信託行為で、受託者の義務を緩和することができるものとしました。
  2. 受益者の権利行使の実効性と機動性の向上
    次に受益者がたくさんいるような場合には、多数決の制度を導入できるようにして、意思決定が円滑に行われるようにしました。また、後で説明しますが、受益者の権利を守るため、受益者の差し止め請求や信託監督人などの制度ももうけています。
  3. 多用な利用形態への適応
    担保権を設定する信託や、自己信託、受益証券発行信託、限定責任信託、目的信託、受益者連続型の信託など、いろいろなパーツを用意しました。
7 信託の設定方法

このあたりから、信託について、具体的な説明をしていきます。
信託って、どうやって始めることができるんでしょうか。

  1. 信託契約による方法(3条1号)
    まず、委託者と受託者の契約によることができます。これは、一定の財産を処分することを内容とする契約です。財産が移っていない段階でも、それを移すということを内容とすることで、信託契約は成立します。
  2. 遺言による方法(3条2号)
    これは、遺言で一方的に受託者を指定して、財産の処分をして、目的達成のために必要な行為をするようにと決めるものです。受託者が知らない間に指定できますが、受託者が引き受けないと信託は始まりません。そこで、利害関係人は、受託者に、相当の期間を定めて引き受けるのかどうかを催告できます。引き受けない場合には、裁判所が新たな受託者を選任します
  3. 信託宣言による方法(3条3号)
    これは、自己信託といって、新しい信託法で初めて認められました。
    次の項で、詳しく説明します。

8 自己信託
    自己信託
  1. 自己信託の特徴
  2. これは、委託者と受託者が一緒の信託です。つまり、自分で、自分の財産のうち一部を信託財産ということにしてしまって、それを一定の目的のために使うことと決めます。これを、信託宣言といいます。 ただし、これは、強制執行をのがれるという弊害が指摘されており、施行からさらに1年の周知期間をへて、適用されることになっています。 自己信託について、分かりやすい例で説明します。たとえば、私は、以前検事をしていましたが、そのときには国が責任を負ってくれましたが、今は、弁護士ですので、もし何か仕事で大きな失敗をすると、多額の債務を負う可能性があります(縁起でもないですが・・・)。しかし、自分の子供の学費だけは何とか確保したいと考えています。そこで、財産の一部を自己信託して、子供の学費に充てるようにする仕組みをとれば、債権者に信託財産を差し押さえられることはなくなります。このように、倒産隔離機能が利用できるのです。ただし、税務面では、この場合、多額の贈与税がかかる可能性がありますので、注意が必要です。

  3. 自己信託の弊害と対処
  4. 自己信託のマイナス面は、すでに多額の債務を負っている人が、差し押さえ逃れのために使う可能性があるということです。 つまり、債権者が財産を差し押さえたときに、後になって、債務者から「いや、これは俺が自己信託したものだから、ダメだよ。」と言われてしまわないかということです。 その対応として、新法は、①信託宣言に一定の方式を要求しました。つまり、公正証書などを利用することによって、日付を遡らせないようにしたのです。 それから、②債権者を害する目的で自己信託をした場合には、いきなり、債権者は差し押さえをできることとし、差し押さえされた側の方で、第三者異議の訴えを提起して、これは「信託財産であって、詐害行為ではないんだ。」ということを言わなければならないこととしました。 もちろん、自己信託以外の信託でも、詐害信託は債権者が取消しができるんですが、しかし、その場合は、まずその信託が詐害行為だということで訴訟を起こして、それが認められてはじめて差し押さえできるものです。自己信託の場合は、いきなり差し押さえができるという点が違います。

9 禁止される信託

信託は、非常に便利な制度なんですけど、悪用されるおそれがありますから、一定の信託は禁止されています。

  1. もっぱら受託者の利益を図るもの
    これは、普通の所有権移転と区別がつかないので、信託の本質からダメとされています。しかし、1年間だけであれば、受託者=受益者となってもよいとされています。
  2. 公序良俗に違反するもの
    例えば、一定の財産で麻薬の取引をする信託とかですが、禁止は当たり前です。
  3. 脱法信託
    これは、例えば、鉱業、つまり金とか銀とか、鉱山を営む権利である鉱業権というのは日本人しかできません。それを脱法する目的で信託を利用して、日本人の受託者に形だけ鉱業を営ませて、実質は外国人である受益者が営んでいるのと同様の効果をねらうというのは禁止されます。もちろん、日本企業の受託者が実質的に鉱山を運用していて、お金だけを外国人がもらうというスキームなら、外国人が経営しているのと同じとまではいえないのでOKです。
  4. 訴訟信託
    訴訟をさせることを主たる目的とする場合ですが、これは、弁護士法を潜脱するものなのでできません。しかし、たとえば、不動産の運用を任されている受託者が、信託目的を達成するために訴訟をすることはかまいません。
  5. 詐害信託
    信託財産に委託者の債権者は差し押さえできないので、責任逃れに使われる可能性があります。そういう場合に、取消又は否認権の行使が認められています。ただし、信託をしたことで債務超過となった場合でも、委託者が受益者になっていれば、受益権の内容次第では必ずしも害することにはなりません。
10 信託財産の範囲
  1. 金銭的価値に見積もりうるものすべて
    旧法では、「財産権」と規定されていたが、単なる「財産」に改正されました。
    必ずしも権利として成熟している必要はないということです。ただ、名誉などの人格権は譲渡することができないので、信託の対象にはなりません。また、著作権は対象となりますが、著作者人格権はダメです。
  2. 担保権(セキュリティトラスト)
    担保権を設定するための信託もOKとされました。セキュリティトラストというのは、債務者その他の担保権設定者を委託者、担保権者を受託者、債権者を受益者とする担保権設定のことです。シンジケートローン、つまり、複数の金融機関が貸付を行って、その中の代表的なものが担保権の信託を受けて、総債権者のために管理するということも可能となりました。
  3. 債務?
    債務というマイナスの財産は信託財産には含まれないと考えられています。ただし、積極財産の信託をするのと同時に、その財産に関して生じている債務を信託財産責任負担債務とすることはできます。信託財産責任負担債務とは、信託財産が債務の引き当てとなっている場合をいいいます。これにより、債務も含めた一定の事業を信託財産として、切り離すことができるようになりました。
11 信託財産の公示
  1. 登記・登録が必要な場合
    信託財産というのは、先程言った倒産隔離ということがあるから、できれば、第三者に公示される必要があります。
    そこで、不動産のように、登記をしないと第三者に権利変動を対抗できない財産は、信託財産であることを第三者に対抗するためには、登記が要件となります。
  2. 登記・登録が不要な場合
    有価証券や、動産、金銭債権は公示が不要とされています。技術的に難しいということもあるし、他人のために有している財産なのだから、もともと債権者が当てにすべきものではないからだともいえます。なお、動産や金銭債権については、「動産及び債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律」で登記制度がありますが、これは、登記をすることもできるというもので、登記しなければ第三者に対抗できないというものではないので、やはり、登記がなくても信託財産であることを第三者に対抗できます。
12 限定責任信託
  1. 限定責任信託とは?
    限定責任信託
    信託財産について、何か債務を負担したときには、まず信託財産から弁済します。受託者が固有財産を用いて弁済したときは、その分について、補償を受けられるんですが、しかし、信託財産が十分でなく、補償も受けられないというときには、受託者が持ち出し負担になってしまいます。 そういうのを避けて、信託を利用しやすくしようということで、株式会社の有限責任のような感じで、限定責任信託というのができました。これは、信託財産責任負担債務については、信託財産だけが引き当てになるという制度です。
  2. 限定責任信託の規律
    これは、信託財産の有限責任ですから、取引の安全を守るために株式会社と同じような規律があります。
    1. 限定責任信託という名称付きの登記が必要です(216条)。
    2. 受益者への給付の制限(225条)。受益者に給付するときも、いわば会社 法でいう剰余金がある場合に限って、その分だけ配当できるとなっています。
    3. 詳細な計算書類の作成(222条以下)。受託者は一般に帳簿を付けなけ ればいけないんですけどが、限定責任信託については、更に詳細な計算書類の 作成が求められています。
    4. 受託者の対第三者責任(224条1項)。受託者が信託事務を行うについて、 悪意・重過失があった場合には、第三者に損害賠償責任を負います。これも会 社法の取締役の対第三者責任と同じような規定です。
13 受託者の報酬請求権

受託者って報酬をもらえるんでしょうか。

  1. 原則もらえません
  2. しかし、商人が営業の範囲で信託を引き受けた場合や、信託行為に定めれば報酬もらえます。
    例えば、資産を運用して娘の学費にあてるということを友人に委託した場合、報酬を定めることもできますし、会社に不動産の信託を頼んだ場合には、報酬が発生します。
  3. 注意点は、信託の引き受けを業として行う場合には、免許がいります(信託業法)。これは、不特定多数の相手から、反復・継続して、信託の引き受けを行う場合です。 これまで、この免許は、金融機関にしか認められないことが多かったのですが、規制緩和ということで、弁護士やNPO法人にも信託業を開放するという報道がなされています。そういうことで、我々弁護士にとっても、これは一つのビジネスチャンスではないかと考えている次第です。
14 受託者の義務・責任

受託者は、人の財産の信託を受けて、それを目的のために使う、受益者に財産の一部を交付するなどの重要な役割を担っていますので、以下のような義務・責任が認められています。

  1. 善管注意義務
    これと反対の意味は自己の物に対するのと同一の注意義務です。その場合は、重大な過失があるときしか責任を負いません。善管注意義務は軽過失でも責任を負う。ただし、これは信託行為で、責任を軽くできます。たとえば、子供の教育のために親友に財産を委託する場合に、責任を軽減してあげることができるということです。
  2. 忠実義務
    これは後で説明します。
  3. その他の義務(公平義務、分別管理義務等)
    公平義務というのは、受益者が2人以上いるときには、同等に扱うということで、分別管理義務というのは、固有財産と信託財産をきちんと区別できる状態で管理するということです。
    そのほか、受託者は、委託者や受益者に事務処理状況の報告をしなければいけないし、また、帳簿等の書類を作成しておく必要があります。受益者や利害関係人は原則として書類の閲覧、謄写が可能です。
  4. 自己執行義務?
    受託者は、信託に必要な行為を他の人に頼んではいけないのかということですが、信託行為に定まっているときだけでなく、信託の目的に照らして相当とか、あるいは禁止されていてもやむを得ないときは、第三者に委託することも可能ですので、自己執行義務というのはほとんどないと考えてもいいでしょう。
15 受託者の忠実義務

忠実義務が明記されたというのは、今回の改正の目玉といわれています。 これは、信託財産で、受託者は自分の利益を図ってはならないという義務のことです。

  1. 利益相反の禁止(31条)
  2. 競合行為の禁止(32条)
    これらは、後で説明します。
  3. 一般的な忠実義務
    たとえば、信託事務処理にあたって、第三者からリベートをもらったりしてはいけません。なお、受益証券を発行する場合で、限定責任信託という場合には、受託者に対する贈収賄罪で、懲役3年以下というような重い刑事罰があります。
16 利益相反行為とは?

典型的には、信託財産に属している土地を、受託者が自分で勝手に固有財産にすることや、逆に売りつけることです。これは自分の利益を図って安く買ったり、高く売ったりするおそれがあるので禁止されています。
それから、受託者と第三者との間の取引でも、受託者がその代理人となっていたり、また、信託財産を受託者の個人的債務の担保とする場合もダメです。
このような利益相反行為は無効です。ただし、第三者がいる場合は、取引の安全のため、第三者が、悪意・重過失の場合のみ取消可能とされています。

17 利益相反が許される場合

利益相反の禁止といっても、受益者の利益を図るためのものですから、一定の場合には許されます。 例えば、(1)信託行為で許容されている場合、(2)受託者が受益者に重要な事実を開示して承認を得た場合、(3)相続等の包括承継で固有財産と信託財産が同一人に帰属した場合です。 また(4)として、信託目的達成のため合理的に必要で、受益者の利益に反しないことが明白又は正当な理由がある場合があります。例えば、株式の取引についての信託で、受託者が株式を所持している場合に、直接信託財産にそれを売るというとき、市場価値が明らかで、信託目的にかなうならOKです。

18 競合行為とは?

これは、たとえば受託者が適当な不動産を購入する義務があるが、いい出物を見つけたので、自分のために購入してしまったという場合です。 このような場合、受益者に介入権、つまりその不動産が信託財産だと主張することが認められています。 しかし、全面的に禁止すると、およそ受託者が自分自身の経済活動はできないということにもなりかねないので、受益者の利益に反しない場合には許されています。

19 受託者が善管注意義務や忠実義務に違反した場合の効果

受託者の義務違反により、信託財産に損失が生じた場合には、受託者がてん補・原状回復しなければいけない責任があります。 また、受託者が義務に違反する行為をしようとしている場合で、信託財産に著しい損害が生ずるおそれがあるときに、受益者が、事前に差し止めを求めることもできます。

20 受益者について

続いて、受益者に関する規定について説明します。
受益者の定めに関連して、遺言代用信託や、後継ぎ遺贈型の受益者連続方の信託というのがあります。これらは、こういう言葉だけをとりあえず頭の片隅に置いて頂き、今回は説明を割愛します。
ここでは、受益者集会、信託管理人等の定め、受益証券発行信託というものについて、順次説明します。

  1. 受益者集会
    受益者が複数いる場合でも、何かを決めるときには、全員一致というのが原則です。ただ多数いる場合には、多数決でやった方が便利なので、信託行為で受益者集会というものを定めることができます。
  2. 信託管理人、信託監督人、受益者代理人
    受益者というのは、たとえば、後で生まれてくる孫とか、将来存在する人でもかまいません。だから一時的に受益者がいなかったり、あるいは高齢者・未成年者で十分受託者が監督できないときもあります。また、信託受益権を投資商品として仕組むような場合、不特定多数の受益者が存在するので、代わって監督する人が必要です。
    1. 信託管理人
      これは受益者がいない場合に、信託行為で指定するか、利害関係人の申立で裁判所が選任します。
    2. 信託監督人
      これは受益者が高齢者等の場合に、同じく信託行為によるか、裁判所が選任します。
    3. 受益者代理人
      これはたくさんの受益者に代わって権利を行使するもの。信託行為で定めます。裁判所が選任するという手段はありません。
21 受益証券発行信託

新法では、受益権の流動化のために、証券を発行することもできるようになりました。このような受益証券は、これまで特別法で一部認められていただけでした。

22 信託の終了原因(163条)

最後に信託の終了原因について説明します。

  1. 目的達成又は達成不能
  2. 受託者が唯一の受益者という状態が1年継続することが終了事由とされています。裏を返せば、1年以内ならOKということですね。
  3. 受託者不在が1年継続した場合。受託者が欠けた場合には、信託行為で次の人が定まっていれば、その人が引き受けをすれば新受託者となります。決まっていなかったり、引き受けしてくれないときは、委託者と受益者の合意で決めます。また、利害関係人が裁判所に申し立てて選任してもらうこともできます。これらがなされないまま1年継続した場合には、信託は終了します。なお、受託者が欠けた場合、新しい受託者が決まるまで、信託財産は法人になります。
  4. 信託財産の破産。信託財産にも、破産能力があるということで、破産法が改正されました。
  5. 委託者の破産による解除。これは、破産管財人による双方未履行双務契約の解除がなされた場合です。つまり、信託契約をしたけど、財産がまだ移転していないというときに、破産開始決定がなされた。そういうようなときは、管財人は解除ができる場合があるので、信託は終了します。
23 おわりに

信託法の入門としての説明は以上です。新しい法制度なので、これからの運用でいろいろな問題も生じてくるだろうし、具体的な事例を通じて、解釈も固まってくると思われます。
立法担当者は、新信託法は、世界的にも最先端を行く内容のものだと言っています。
これから、うまく長所をいかして、信託を使っていくことで、いろいろなビジネスチャンスも広がってきて、我々弁護士もそれをサポートできるのではないかと考えているところです。



◇参考文献
道垣内弘人「信託法入門」日経文庫
・寺本昌広「逐条解説 新しい信託法」商事法務
・高垣勲「よくわかる新信託法の実務」財経詳報社

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