PAGE TOP ▲

論文・セミナー

「俳句との出逢い」

1 知的でスリリング

昨年、司馬遼太郎の小説「坂の上の雲」がテレビドラマ化され、話題となりました。この作品は、明治時代に日露戦争で活躍した秋山好古、真之兄弟と、近代俳句の父といわれる正岡子規を主人公とする青春物語です。
ドラマをきっかけに、正岡子規や俳句に関係する書籍も多く出版されるなど、静かな俳句ブームが起きているようです。
私も、子規が俳句の革新に命を懸けて取り組んだことに興味を持ち、俳句を始めることにしました。始める前は、おじいさんの枯れた趣味ではないかと偏見を持っていましたが、実際は、かなり知的でスリリングな遊技なのです。


2 意外性たっぷりの句会

俳句では、「句会」という集まりがあり、そこに参加して作品を発表し合います。
句会では、匿名で俳句が発表されますので、始めは誰が作ったものか分かりません。その上で、それぞれが良いと思う句に投票をし、また、忌憚のない批評を述べ合います。
「主宰」と呼ばれる俳句の師匠が作った句でも、平等に評価の対象となります。ですから、主宰の句でもさんざんな悪口を言われてしまったり、初心者の作った句でも高い評価を受けるという逆転現象が起こり得るわけです。
そして最後に、誰が作った句か、本人が名乗りを挙げます。若々しい青春をテーマに詠んだ句が、実は80歳をとうに超えている方の作品であったりして、その意外性に驚くこともあります。


3 国際的にもブーム

俳句は、ご存じのように、五七五の定型と季語の使用をルールとする世界で最も短い詩です。
たとえば、庭に鶯がきて鳴いていたとか、キャンプに出かけたら蛍の光が綺麗であったというような小さな感動を、その短い詩形に託して詠みます。
けれども、誰もが考えつくような表現では面白みがありません。また、リズムが悪かったり、うまく季語と感動を組み合わせられないことも度々です。
俳句を作ること自体は、小学生でもできる簡単なことです。しかし、上手に俳句を作るには、季語や文法などへの深い見識と、言葉に対する鋭いセンスを必要とするため、奥の深い趣味だといえます。 
近年、海外でも俳句は高い評価を受けています。EUのヘルマン・ファン・ロンパウ大統領も大の俳句愛好家で、母国語のオランダ語で書かれた「HAIKU」を出版しているそうです。


4 俳句と弁護士業務

さて、ここからは、私が日々弁護士業務をしていく中で、座右の銘にしている句を紹介させていただきます。

冬菊の まとふはおのが ひかりのみ     水原秋櫻子

これは、私の一番好きな句です。意味は、冬の寒い日に一輪の菊があたかも輝くように美しく咲いているということです。しかし、私は、この句からは、「人は、お金や他人の評価などといった表面的なものではなく、己の内面にこそ光輝く価値を持って、生きていかなければいけない。」というメッセージを強く感じとっています。

白鳥の 胸を濡らさず 争へり        吉田鴻司

弁護士は、交渉や訴訟を通じて、依頼者のために相手方と争うことが仕事です。しかし、その場合でも、ここに詠まれた白鳥のように、決して卑俗になることなく、格調高く、正々堂々と戦うことが大切だと知らされる一句です。

冬の水 一枝の影も 欺かず         中村草田男

冬の川は透明で清澄であり、そこに写った木々の枝の一本たりとも、逃さずとらえています。私も、誰から見られても恥ずかしくない、清廉潔白な姿勢で仕事をしなければならないと改めて思います。

春風や 闘志いだきて 丘に立つ       高浜虚子

去年今年 貫く棒の 如きもの        高浜虚子

高浜虚子は、正岡子規の後継者で、俳句界の巨人といわれた人です。「春風」の句は、虚子が39歳のときに、当時の俳句界が季語や定型を無視するようになって混乱を極めていたことに心を痛め、一時的に離れていた俳句の世界に復帰する強い決意を詠んだものです。
「去年今年」は「こぞことし」と読みますが、上記の決意の後、85歳で亡くなるまで一貫して人生を俳句に捧げた虚子らしい句だと思います。
私も、法律家を目指した初志を大事にして、日々の仕事を将来につなげていきたいと考えています。

最後に、アメリカ留学中のA弁護士と、韓国での留学を開始したB弁護士へ向けて作った私の句を紹介いたします。

A弁護士のロースクール卒業を祝う

修士帽 はみだす髪に 青葉風

B弁護士の出国を激励す

熱血を 胸に留学 風青し





PAGE TOP