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クラシック音楽と法律家


chorus私は,小学生の頃からクラシック音楽が好きで,今でも,事務所で交響曲などのCDをよく聞きます。

写真は,大阪フィルハーモニー管弦楽団のホームページからコンサートの画像を引用いたしました。首席指揮者であった故・朝比奈隆さんの指揮するベートーヴェンやブルックナーは,本当にスケールが大きく,すばらしいものでした。

さて,訟務検事をしていた際,法務局内で回覧される冊子に,法律家とオーケストラとで似ている点について,軽いエッセイを書いたことがあります。その後,「法曹」という雑誌にも転載していただきました。

このブログでも,その文章の内容を簡単にご紹介いたします。現職時代に書いた内容を踏襲していますので,ちょっと検察官や訟務検事について,ひいき目になっております。

(1)裁判官について

裁判官をオーケストラでたとえるのであれば,「指揮者」でしょう。特に民事事件において,裁判官は,対立する当事者双方の主張を整理し,争点を明確にし,必要な立証を促すことにより,その事案にとって最も適切な解決を目指すという積極的な役割を担います。その姿は,オーケストラに楽曲の解釈を伝え,テンポや音の強弱を指示して,美しい音楽を作り出すという指揮者の姿に似ています。

指揮者が素晴らしければ,音楽は魅力的なものとなり,聴衆によるブラヴォーの嵐やスタンディング・オベーションによる賞賛,更には新聞や音楽雑誌による高い評価が得られます。同じように裁判官が優秀であれば,その判決理由には敗れた当事者ですら納得し,専門家は「素晴らしい判旨だ!!」と唸り,判例評釈でも貴重な裁判例として取り上げられます(ちょっと地味かな……)。

(2)検察官

検察官は,犯罪捜査と公判活動によって犯人の適正な処罰を求めるという役割を担います。その姿勢は常に攻めであり,また同僚の検察官,検察事務官のほか警察官とも協力しあって,組織的なプレーを行うという性格を持っています。

これは,オーケストラでたとえるならば,「コンサート・マスター」です。コンサート・マスターは,通常第1ヴァイオリンの首席奏者が務め,アンサンブルを揃えるなど,オーケストラ全体をまとめる役割を担っています。実際に音楽を奏でるのはオーケストラですから,いくら優秀な指揮者がいても,オーケストラがきちんと鳴らない限り,良い音楽は生まれません。

つまり,コンサート・マスター(検察官)は,(捜査・公判という)舞台で,オーケストラ(警察官など)をまとめて,良い音楽を奏で(適正な処罰を実現し),聴衆に感動(国民に安心)を与えるのです。

(3)訟務検事

訟務検事については,なかなかピタッと当てはまる役がありません。

組織の一員として,訟務官や行政庁と協力しあっているという点ではソリストではなく,オーケストラの一員でしょうが,コンサート・マスターほどの強い権限はないようです。また,本来の仕事の内容は国の正当な利益の擁護ですが,行政側の代理人という性格から,一部マスコミからは悪役のように言われることもあり,その立場はなかなか複雑です。

ここは,地味だけど音楽に深みをつくるためには不可欠な役割を持つ,第2ヴァイオリン又はヴィオラの首席奏者ということにしたいと思います(シブいっ!!)。

(4)弁護士

弁護士は,原則として組織に属さない一匹狼です。だから,オーケストラのメンバーではなく,ソリストに当たります。

中でも,1台ですべての音域をカヴァーできるピアノの演奏者「ピアニスト」がピッタリです。

たまに連弾やピアノ協奏曲のように弁護団を形成することもありますが,基本的には法廷という舞台にたった1人で登場し,時には,コンサートの成功・不成功(事件の勝敗)まで自分の腕1本にかかってくることがあるのも,弁護士とピアニストの共通点といえるでしょう。

参考:茂木大輔「オーケストラ楽器別人間学」新潮文庫