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退職後の競業禁止について

木曜日, 10月 10th, 2013

L11497会社によっては,退職した人に対して,退職後,その会社で行っていたのと同種の仕事に就くことを禁止する規定を置いている場合があります。これを競業禁止の特約といいます。

例えば,特殊な技術を使うメーカーや,特殊な顧客を相手にする会社でその顧客に対する情報が特別の価値を有する場合(糖尿病患者へ健康食品を売っているなど)には,従業員が独立して,これらの情報を不正に利用して同種のビジネスを行ったり,ライバル企業に就職してしまうと,会社の利益が著しく損なわれる可能性があります。

しかし,他方,取り決めさえすれば,禁止できるというものではありません。例えば寿司屋で修行をしていた者について,退職後は寿司屋をしてはいけないというのは,あまりにもおかしいでしょう。これは,憲法に定める職業選択の自由(22条1項)に反するおそれがあります。

私は過去にこの退職後の競業禁止を巡る裁判を担当したことがあり,また相談もよく受けますので,この機会に,退職後の競業禁止についての裁判例での考え方をご紹介します。

退職労働者についての競業禁止の特約は,経済的弱者である労働者から生計の道を奪い,その生存をおびやかすおそれがあると同時に労働者の職業選択の自由を制限し,また競争の制限による不当な独占の発生するおそれなどを伴います。

したがって,その特約締結につき合理的事情の存在することの立証がないときは営業の自由に対する干渉とみなされ,特にその特約が単に競争者の排除,抑制を目的とする場合には公序良俗に違反するものであることが明らかであるとされています(フィセコ・ジャパン・リミテッド事件・奈良地裁昭和45年10月23日判決など)。

また,特に退職後の競業避止義務に関しては,労働者の職業選択の自由(憲法22条1項)を重視し,その有効性を判断するについて特に厳しい態度でのぞんでいて,競業禁止の特約が無効と判断される例も多数あります(東京リーガルマインド事件・東京地裁平成7年10月16日決定,キヨウシステム事件・大阪地裁平成12年6月19日判決,ダイオーズサービシーズ事件・東京地裁平成14年8月30日判決,新日本科学事件・大阪地裁平成15年1月22日判決等)。

そこで,多くの裁判例では,退職後に競業避止義務を課すことの有効性の判断に当たって,

①使用者が労働者の競業を制限する目的,必要性とその程度(使用者に正当な利益があること)

②競業が制限される職種・期間・地域が限定されていること

③労働者の地位

④競業避止義務を課すことの代償措置の内容及びその程度

などの事情が考慮されなければならないとされているのです。

例えば,一定の守られるべき営業秘密があることを前提として,退職後3年間に限り,大阪府下で競業を禁止するというように地域や期間を狭くしておき,また,対象者も,管理職にあった者に限定し,退職時に代替措置として退職金を加算するなどの方法を検討しなければなりません。

退職後の競業避止禁止は,会社の利益・権利を確保するためには非常に有効ですが,一歩間違えると全部が無効になりかねませんので,専門家と相談して,慎重に定めていただく必要があるといえるでしょう。